tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

合同ゼータ関数のリーマン予想

 2017年の2月ごろに「ゼータ関数 強化月間」と題して、ゼータ関数に関する記事を書いていたのを覚えている方はいますでしょうか。そのとき投稿できたのは結局2件だけでしたが、実はもう一つ温めていたテーマがありました。それは

合同ゼータ関数

についてです。2月の記事のひとつ「ゼータ関数の行列式表示」は、今回のテーマのために用意された布石だったのですが、一年越しでようやく回収できそうです。

 合同ゼータ関数の魅力の一つは リーマン予想が解決している ことです。一般に、ゼータ関数に対しては、リーマン予想を考えることができます *1。リーマン・ゼータ関数におけるリーマン予想は有名な未解決問題ですが、ゼータ関数によってはリーマン予想が解決されているものもあります。合同ゼータ関数が、まさにその代表例です*2

 私が合同ゼータ関数に興味をもったポイントは、もう一つあります。それは、合同ゼータ関数の証明に エタール・コホモロジー が用いられるという点です。20世紀に入ってグロタンディークらの数学者によって、数論の問題に対して、幾何的な道具を適用する「数論幾何」が発明されました。合同ゼータ関数のリーマン予想の証明は、数論幾何の最初の成功例といってよい成果だと言われています。

 ところで、数論の問題にエタール・コホモロジーが使えるということはどういうことか、という疑問はみなさんも気になることと思います。私にとっても長らく疑問でした *3 。最近、ようやくその疑問に答えられそうな気がしてきました。しかも、私が想像していたよりもずっと直接的に使うことができます。その点が非常に面白かったので、私の理解の確認も兼ねて、ぜひみなさんに紹介したいと思ったのでした。

 というわけで、今日のテーマは、

エタール・コホモロジーを使うと
合同ゼータのリーマン予想が証明できるのはなぜか?

としたいと思います。

 ただし、今回紹介したい内容は非常に高度なものです。前提とする知識は多岐にわたっており、私自身も基礎的な部分はまったく理解できていないに等しいです。今回の記事の目的は「証明の雰囲気を理解したい」という程度の内容で、tsujimotter が面白いと思う部分ができるだけ伝わるように、ポイントを絞って書きたいと思います。

免責事項:
本記事は、tsujimotter が勉強中のトピックを扱っており、完全には理解していないまま書いていることを白状いたします。そのため、ところどころ誤りを含んでいる可能性があり、内容の保証はできません。この記事の内容を正確に理解したい方は、ぜひ専門書を手に取ることを強くお勧めします。

*1:リーマン予想がないようなゼータ関数もあるみたいですが

*2:もう一つ、セルバーグ・ゼータというものもあって、こちらのリーマン予想も証明されています。

*3:一般向けの数学の啓蒙書では、お話だけは出てくることが多いですが、具体的にどのように解決したかに触れているものは少ないですね。

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カタラン予想とマチンの公式

カタラン予想は、次のような有名な数論の予想です。

 X^u - Y^v = 1 \tag{1}

を満たす正の整数  X, \; Y, \; u > 1, \; v > 1 の組は  (X, Y, u, v) = (3, 2, 2, 3) に限る.

「予想」とはいっても、実はもう既に解決されている問題です。

カタラン予想は、2002年にミハイレスクという数学者によって解決されました。このことについては、以前のブログ記事でも紹介したことがありました。

さて、今日お話したいのは

カタラン予想に「円周率の公式」が関係している

というお話です。円周率の公式に「マチンの公式」と呼ばれるものがあり、マチンの公式に関連する研究成果が、カタラン予想の部分的な問題の解決に貢献しているというのです。非常に興味深いお話なので、このブログの読者にも気に入ってもらえるのではないかと思います。

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2017を二つの平方数の和で表す方法 (2)

日曜数学 Advent Calendar 2017 の 25 日目(最終日!)の記事です。

数学大好き皆様こんにちは。今日は、日曜数学アドベンター2017 最終日です!

2017 年最後ということで 2017 に関するお話です。

 p 2017 のような奇数の素数を考えたとき

 p = X^2 + Y^2 なる整数  X, Y を具体的に計算する方法」

を紹介したいと思います。

実はこのブログでも、「数学とコンピュータ アドベントカレンダー」の記事として、ひとつの計算方法を紹介しています。
tsujimotter.hatenablog.com

今回は上記の記事とは異なる別の方法を紹介したいと思います。

「初等整数論」をある程度知っている方向けの記事になってしまいますが、面白い内容だと思いますのでよかったらご覧になってください。

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眠気と闘うあなたへ:素イデアル分解のすすめ

突然ですが、眠くて眠くてしょうがないときってありますよね。

スマホを開くことができれば、いろいろと目をさますコンテンツにアクセスすることができます。しかしながら、スマホを開くことができないときもありますよね*1

ここには紙とペンしかない。眠気には耐えなければならない。

そんなときには 「素イデアル分解」 してみるのはいかがでしょう。

*1:TPO的な意味で

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数学カフェ「素数!!」回を振り返る

この記事は 数学カフェ Advent Calendar 2017 の 17 日目の記事です。

 今日は数学カフェアドベントカレンダーとして

第13回 数学カフェ「素数!!」

の振り返り記事を書きたいと思います。

 実は、第13回数学カフェが開催されたのは、2016 年 5 月 7 日。なんと 1年半 も前の企画です。今更感はありますが、企画の内容を簡単に紹介しつつ、どんな回であったかを数学カフェ素数回の講演者である「私」の視点から振り返りたいと思います。

 この記事の主旨ですが 「私自身の思い出記録用」 ということにしたいと思います(アドベントカレンダーの貴重な場を使ってしまって申し訳ありません)。あとから思い出せるように記録を残しておこうという意図で書いています。今回の数学カフェは、準備の期間、本当にいろいろなことを考えて臨んだ会だったので、そのときの考え・思いを書きとどめておきたいのです。

 また講演では、上手くできた点もあれば失敗した点もありました。実は、終わってからだいぶ落ち込んでいたのです。普段はこうした「ネガティブなこと」は書かないようにしているのですが、今回はそういった部分にも触れています。失敗し、落ち込んだ過程があって、今の自分に繋がっている部分もあると強く感じたので、落ち込んだ事を正直に書くことにもいくらかの価値があると思ったのです。

 という感じで、取り留めのない記事になりますが、よろしければお付き合いください。

 そういえば、イベントが終わった後落ち込んでいたので、聴講者に数学カフェ素数回の感想を聞くのを忘れていました。。。今更ながら、もったいなかったなと感じています。よろしければ、参加された方で感想を覚えている方がおられましたら、こっそり教えていただけると凄く嬉しいです。

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