tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

センター試験2018 数学Ⅰ・数学A 第4問

2018年のセンター試験の問題が気になって 数学Ⅰ・A だけ解いてみました。どれもなかなか面白い問題だったのですが、特に 第4問 が個人的に面白かったので、今日はその問題の解説をしたいと思います。

諸注意:
本ブログ記事は、日曜数学者 tsujimotter が趣味で勉強した内容を発表するブログ記事であり、受験生向けの解説記事ではありません。「センター試験の問題を遊びで解いてみた」という程度の内容となっておりますので、予めご了承ください。

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楕円曲線のハッセの定理

 今日は、前回紹介した「合同ゼータ関数のリーマン予想(ヴェイユ予想)」の応用を紹介したいと思います。
tsujimotter.hatenablog.com


 楕円曲線の  \newcommand{\f}{\mathbb{F}} \f_p 有理点の個数には面白い法則があります。

  \f_p 上定義された楕円曲線  E \f_p 有理点全体を  E(\f_p) としたとき、その位数は

 \left|(p+1) - \# E(\f_p)\right| \leq 2\sqrt{p} \tag{1}

の不等式によって評価できます。これが、楕円曲線の ハッセの定理 と呼ばれるものです。ハッセの定理によって、 \f_p 上の楕円曲線の有理点の個数を見積もることができます。

意味としては「 \f_p 上の有理点の個数と  p + 1 はかなり近くて、その誤差の大きさは  2 \sqrt{p} で抑えられる」ということです。

 実はこのハッセの定理は、合同ゼータ関数のリーマン予想の帰結となっていて、今日はこのことについて解説したいと思います。ハッセの定理の他に、ラマヌジャン予想にも少し触れたいと思います。

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合同ゼータ関数のリーマン予想

 2017年の2月ごろに「ゼータ関数 強化月間」と題して、ゼータ関数に関する記事を書いていたのを覚えている方はいますでしょうか。そのとき投稿できたのは結局2件だけでしたが、実はもう一つ温めていたテーマがありました。それは

合同ゼータ関数

についてです。2月の記事のひとつ「ゼータ関数の行列式表示」は、今回のテーマのために用意された布石だったのですが、一年越しでようやく回収できそうです。

 合同ゼータ関数の魅力の一つは リーマン予想が解決している ことです。一般に、ゼータ関数に対しては、リーマン予想を考えることができます *1。リーマン・ゼータ関数におけるリーマン予想は有名な未解決問題ですが、ゼータ関数によってはリーマン予想が解決されているものもあります。合同ゼータ関数が、まさにその代表例です*2

 私が合同ゼータ関数に興味をもったポイントは、もう一つあります。それは、合同ゼータ関数の証明に エタール・コホモロジー が用いられるという点です。20世紀に入ってグロタンディークらの数学者によって、数論の問題に対して、幾何的な道具を適用する「数論幾何」が発明されました。合同ゼータ関数のリーマン予想の証明は、数論幾何の最初の成功例といってよい成果だと言われています。

 ところで、数論の問題にエタール・コホモロジーが使えるということはどういうことか、という疑問はみなさんも気になることと思います。私にとっても長らく疑問でした *3 。最近、ようやくその疑問に答えられそうな気がしてきました。しかも、私が想像していたよりもずっと直接的に使うことができます。その点が非常に面白かったので、私の理解の確認も兼ねて、ぜひみなさんに紹介したいと思ったのでした。

 というわけで、今日のテーマは、

エタール・コホモロジーを使うと
合同ゼータのリーマン予想が証明できるのはなぜか?

としたいと思います。

 ただし、今回紹介したい内容は非常に高度なものです。前提とする知識は多岐にわたっており、私自身も基礎的な部分はまったく理解できていないに等しいです。今回の記事の目的は「証明の雰囲気を理解したい」という程度の内容で、tsujimotter が面白いと思う部分ができるだけ伝わるように、ポイントを絞って書きたいと思います。

免責事項:
本記事は、tsujimotter が勉強中のトピックを扱っており、完全には理解していないまま書いていることを白状いたします。そのため、ところどころ誤りを含んでいる可能性があり、内容の保証はできません。この記事の内容を正確に理解したい方は、ぜひ専門書を手に取ることを強くお勧めします。

*1:リーマン予想がないようなゼータ関数もあるみたいですが

*2:もう一つ、セルバーグ・ゼータというものもあって、こちらのリーマン予想も証明されています。

*3:一般向けの数学の啓蒙書では、お話だけは出てくることが多いですが、具体的にどのように解決したかに触れているものは少ないですね。

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カタラン予想とマチンの公式

カタラン予想は、次のような有名な数論の予想です。

 X^u - Y^v = 1 \tag{1}

を満たす正の整数  X, \; Y, \; u > 1, \; v > 1 の組は  (X, Y, u, v) = (3, 2, 2, 3) に限る.

「予想」とはいっても、実はもう既に解決されている問題です。

カタラン予想は、2002年にミハイレスクという数学者によって解決されました。このことについては、以前のブログ記事でも紹介したことがありました。

さて、今日お話したいのは

カタラン予想に「円周率の公式」が関係している

というお話です。円周率の公式に「マチンの公式」と呼ばれるものがあり、マチンの公式に関連する研究成果が、カタラン予想の部分的な問題の解決に貢献しているというのです。非常に興味深いお話なので、このブログの読者にも気に入ってもらえるのではないかと思います。

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