tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

S^1のド・ラームコホモロジーとフーリエ級数の定数項

数学ガールの第6巻「ポアンカレ予想」がついに発売されましたね。tsujimotterも夢中になって読んでいます*1

今回の数学ガールのテーマは「ポアンカレ予想」です。「位相空間」や「多様体」といった幾何学のトピックがたくさん登場して、普段は数論ばかりで幾何学に触れてこなかったtsujimotterにとっては、大変勉強になる本となっています。数学ガールを読んで、頭の中が幾何学モードになっています。

さて、本日のブログ記事の主役は 「ド・ラームコホモロジー」 です。ド・ラームコホモロジー、多様体という幾何学的な対象の上で考えられる「微分積分」に深く関連した重要な概念です。以前からブログに書きたいと思っていたのですが、なかなか取りかかれませんでした。せっかく頭が幾何学モードになっているので、熱があるうちにブログにまとめたくなったのです。

「ド・ラームコホモロジー」については、以下の本の3章が大変参考になります。今回の記事の元ネタでもあります。

コホモロジー

コホモロジー

  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 単行本

少し長い話になりますが、面白い内容だと思いますので、ぜひ最後まで読んでもらえると嬉しいです。

*1:tsujimotterは数学ガールの大ファンで、全巻持っています。札幌に住んでいた頃(ちょうど第5巻が発売された頃ですが)は、数学ガール読書会なるイベントを開いたこともありました

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ヘンゼルの補題と7進法人間

みなさん、ヘンゼルの補題 という定理をご存知でしょうか。

ヘンゼルの補題は、整数論についてのとても重要な定理の一つです。 p 進数 という、現代の整数論において必須とも言える概念とも深く関連します。

でも、ちょっとだけややこしい。今日はこの定理の紹介を試みようと思います。

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センター試験2018 数学Ⅰ・数学A 第4問

2018年のセンター試験の問題が気になって 数学Ⅰ・A だけ解いてみました。どれもなかなか面白い問題だったのですが、特に 第4問 が個人的に面白かったので、今日はその問題の解説をしたいと思います。

諸注意:
本ブログ記事は、日曜数学者 tsujimotter が趣味で勉強した内容を発表するブログ記事であり、受験生向けの解説記事ではありません。「センター試験の問題を遊びで解いてみた」という程度の内容となっておりますので、予めご了承ください。

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楕円曲線のハッセの定理

 今日は、前回紹介した「合同ゼータ関数のリーマン予想(ヴェイユ予想)」の応用を紹介したいと思います。
tsujimotter.hatenablog.com


 楕円曲線の  \newcommand{\f}{\mathbb{F}} \f_p 有理点の個数には面白い法則があります。

  \f_p 上定義された楕円曲線  E \f_p 有理点全体を  E(\f_p) としたとき、その位数は

 \left|(p+1) - \# E(\f_p)\right| \leq 2\sqrt{p} \tag{1}

の不等式によって評価できます。これが、楕円曲線の ハッセの定理 と呼ばれるものです。ハッセの定理によって、 \f_p 上の楕円曲線の有理点の個数を見積もることができます。

意味としては「 \f_p 上の有理点の個数と  p + 1 はかなり近くて、その誤差の大きさは  2 \sqrt{p} で抑えられる」ということです。

 実はこのハッセの定理は、合同ゼータ関数のリーマン予想の帰結となっていて、今日はこのことについて解説したいと思います。ハッセの定理の他に、ラマヌジャン予想にも少し触れたいと思います。

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合同ゼータ関数のリーマン予想

 2017年の2月ごろに「ゼータ関数 強化月間」と題して、ゼータ関数に関する記事を書いていたのを覚えている方はいますでしょうか。そのとき投稿できたのは結局2件だけでしたが、実はもう一つ温めていたテーマがありました。それは

合同ゼータ関数

についてです。2月の記事のひとつ「ゼータ関数の行列式表示」は、今回のテーマのために用意された布石だったのですが、一年越しでようやく回収できそうです。

 合同ゼータ関数の魅力の一つは リーマン予想が解決している ことです。一般に、ゼータ関数に対しては、リーマン予想を考えることができます *1。リーマン・ゼータ関数におけるリーマン予想は有名な未解決問題ですが、ゼータ関数によってはリーマン予想が解決されているものもあります。合同ゼータ関数が、まさにその代表例です*2

 私が合同ゼータ関数に興味をもったポイントは、もう一つあります。それは、合同ゼータ関数の証明に エタール・コホモロジー が用いられるという点です。20世紀に入ってグロタンディークらの数学者によって、数論の問題に対して、幾何的な道具を適用する「数論幾何」が発明されました。合同ゼータ関数のリーマン予想の証明は、数論幾何の最初の成功例といってよい成果だと言われています。

 ところで、数論の問題にエタール・コホモロジーが使えるということはどういうことか、という疑問はみなさんも気になることと思います。私にとっても長らく疑問でした *3 。最近、ようやくその疑問に答えられそうな気がしてきました。しかも、私が想像していたよりもずっと直接的に使うことができます。その点が非常に面白かったので、私の理解の確認も兼ねて、ぜひみなさんに紹介したいと思ったのでした。

 というわけで、今日のテーマは、

エタール・コホモロジーを使うと
合同ゼータのリーマン予想が証明できるのはなぜか?

としたいと思います。

 ただし、今回紹介したい内容は非常に高度なものです。前提とする知識は多岐にわたっており、私自身も基礎的な部分はまったく理解できていないに等しいです。今回の記事の目的は「証明の雰囲気を理解したい」という程度の内容で、tsujimotter が面白いと思う部分ができるだけ伝わるように、ポイントを絞って書きたいと思います。

免責事項:
本記事は、tsujimotter が勉強中のトピックを扱っており、完全には理解していないまま書いていることを白状いたします。そのため、ところどころ誤りを含んでいる可能性があり、内容の保証はできません。この記事の内容を正確に理解したい方は、ぜひ専門書を手に取ることを強くお勧めします。

*1:リーマン予想がないようなゼータ関数もあるみたいですが

*2:もう一つ、セルバーグ・ゼータというものもあって、こちらのリーマン予想も証明されています。

*3:一般向けの数学の啓蒙書では、お話だけは出てくることが多いですが、具体的にどのように解決したかに触れているものは少ないですね。

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