tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

セルマー群と2-descent法

 K を代数体として  K 上定義された楕円曲線の  K-有理点の群をモーデル・ヴェイユ群  E(K) といいます。モーデル・ヴェイユの定理によって、 E(K) が有限生成であることが示されていますが、その自由部分の生成元の個数、すなわちランクを決定するのは一筋縄ではありません。

今日は、セルマー群 という道具を使ってランクを計算するための 2-descent法 を私の理解できた範囲で紹介します。なかなか難しい内容なので、私の理解もまだ十分ではありません。誤りがあった際は、ご指摘頂けると嬉しいです。

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Knightの問題

2021.04.22 お知らせ:こちらの記事につきまして、本質的な内容の誤りがありましたので修正させていただきました。元の記事の記述を赤字で残しつつ、訂正した個所を青字で記しております。以前のバージョンの記事をご覧になったことにより、誤解を与えてしまった方が居たとしたら申し訳ありません。今一度内容のご確認をいただければ幸いです。また、ご指摘いただきました、Hisayasu Nakao様には感謝申し上げます。

今日は Knightの問題 を紹介します。Knightの問題は、ぱっと見はただの初等的な整数問題に見えるのですが、実は楕円曲線と関連する面白い問題です。

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不思議な法則

ここに二つの2次無理数があります。

 \displaystyle \alpha_1 = \sqrt{-5}, \;\; \alpha_2 = \frac{1+\sqrt{-5}}{2}

 \alpha_1, \alpha_2 は、どちらも判別式が  D = -20 となる2次無理数となっています。

 \alpha が2次無理数であるとは、 \alpha が既約な2次方程式

 a\alpha^2 + b\alpha + c = 0

の解であるということです。このとき、 D(\alpha) = b^2 - 4ac \alpha判別式と言います。判別式が負であるような2次無理数を虚2次無理数と言います。今回は虚2次無理数を扱います。

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モジュラー曲線(2):合同部分群とモジュラー方程式

今日は、モジュラー曲線の話の続きを書きます。前回の記事 では、フルモジュラー群  \Gamma の定めるモジュラー曲線  X(1) を考えましたが、今回は 合同部分群 に対応するものを考えたいと思います。

tsujimotterは、この合同部分群の定めるモジュラー曲線の話がしたくてこのシリーズを書き始めました。かなり難しいテーマだとは思いますが、面白い内容だと思いますので、よろしければぜひご覧ください。

諸注意:
今回の記事は、著者のtsujimotterが最近勉強したばかりのトピックです。とても面白い内容で、話したいという気持ちが抑えられなくなって本記事を書いています。
一方で、まだ理解していないことだらけで、ところどころ自信がありません。誤り等が含まれる可能性もありますが、その際はどうかご容赦ください。

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モジュラー曲線(1):モジュラー曲線の導入

今日から3回にわたって モジュラー曲線 をテーマとしたお話をしたいと思います。「モジュラー曲線?ああ、あれね」といった具合に、頭の中でイメージできるようになることを目標としたいと思います。

以前から気になっていたトピックなのですが、先日日曜数学仲間の方と一緒に計算してみて、ようやく理解した気になれました。tsujimotterにとってもホットなトピックで、ぜひ自分の言葉で記事にまとめたいと思ったのがこの記事の動機です。

まずは基本的なモジュラー曲線  X(1) について紹介します。実は、次の記事で  X_0(N), X_1(N) という、より高度なモジュラー曲線について紹介したいと思っています。最終的に話したいのは、 X_0(N), X_1(N) の方なのですが、今回はそのための準備の回と位置付けています。

それでは、よろしければお付き合いください。

諸注意:
今回の記事は、著者のtsujimotterが最近勉強したばかりのトピックです。とても面白い内容で、話したいという気持ちが抑えられなくなって本記事を書いています。
一方で、まだ理解していないことだらけで、ところどころ自信がありません。誤り等が含まれる可能性もありますが、その際はどうかご容赦ください。

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虚数乗法論 (3):だから「虚数」「乗法」だったのか

虚数乗法シリーズ、第3回目です。

今回は「虚数乗法」という呼び名に納得してもらえるような話をしたいと思います。記事を読み終わったみなさんが、タイトルのような感想を持つことを期待しています。

シリーズの記事は、こちらのタグから検索ください。
tsujimotter.hatenablog.com

簡単にあらすじをお話しましょう。

前回、「 \mathbb{C} 上の楕円曲線の  \mathbb{C}-有理点  E(\mathbb{C})」と「格子で割った複素数平面  \mathbb{C}/\Lambda」が対応していることを学びました。

楕円曲線 E(\mathbb{C})代数側、複素数平面  \mathbb{C}/\Lambda解析側と呼ぶことにします。両者をつなぐ写像を解析的同型写像と呼びます。

虚数乗法とは、解析側で考えると単に「(整数でない)複素数(=虚数)を掛けること(=乗法)」だと思うことができます。まさに「虚数」「乗法」です。

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格子 Z[√-1] に対応する楕円曲線

突然ですが、格子  \Lambda = \mathbb{Z}[\sqrt{-1}] に対応する楕円曲線の定義方程式を計算したくなってきました *1

参考記事はこちら:
tsujimotter.hatenablog.com

*1:本当は次回紹介予定の「虚数乗法」シリーズの記事に挿入しようと思っていたのですが、あまり本題と関係なかったので別記事になりました。

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