tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

層の射は自然変換

先日、アフィンスキームについての3部記事を公開したところ、いろんな反応をいただきました。*1
tsujimotter.hatenablog.com

いただいたコメントの一つに、実は「層の射は、実は自然変換である」ということを教えてくれるものがありました。tsujimotterはこの事実を知らなかったのですが、勉強してみて面白いなと感じましたので、まとめてみたいと思います。

ちょうど今日がロマンティック数学ナイトプライム@圏論(略称:ロマ数プライム@圏論)というイベント開催日の前日ということで、圏論っぽい記事を書くにはちょうどよいタイミングかなと思いました。
romasucategorytheory.peatix.com

それではいってみましょう。

*1:私自身の理解不足だった部分も多々あり、現在修正を検討しているところです。いつになるかわかりませんが、できるだけ早いうちに更新できればと思っています。

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単項化定理と群コホモロジー

こんにちは。最近、群コホモロジーがマイブームのtsujimotterです。

群コホモロジーといえば、以前の記事で群コホモロジーに関する定理「ヒルベルトの定理90」を使って、クンマー理論を導く話を書いたことがありました。
tsujimotter.hatenablog.com

今回は ヒルベルトの定理94 という定理について紹介したいと思うのですが、実はこの証明にも群コホモロジーが登場し、クンマー理論のときとほとんど同じような流れで議論ができるのです。

なかなか面白いので、ぜひ最後までお付き合いください。

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ガロアに浸れる出版物・ウェブサイト紹介

今日は5/31というわけで、今年も「数学者エヴァリスト・ガロアの命日」がやってきました。

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「ガロアの命日」は私の携帯のカレンダーに登録されています。

毎年5/31には、京大の数学教室で「ガロア祭」なるイベントも開催されているようですね。今日の16:30から開催だそうです。
www.math.kyoto-u.ac.jp

ガロアは19世紀の数学者の一人で、「ガロア理論」と呼ばれる今日の数学においても重要とされる理論を提唱したことで知られています。20才という若さで亡くなった彼の壮絶な人生について語られることも多いですね。

そんなガロアの命日ですから、ガロアに関する著作物を読んで、その世界に浸りたいと思う人も多いかと思います。そこで、ガロアに浸れる出版物・ウェブサイトを7つ紹介したいと思います。よかったらご覧になってください。

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33 = X^3 + Y^3 + Z^3 の整数解

今回のテーマは 33 という整数についてです。今朝、アフィンスキームについての重い記事を投稿したばかりですが、この記事では軽い感じでいきましょう。

 k を固定した自然数として、

 k = X^3 + Y^3 + Z^3

なる方程式の整数解を考えたいと思います。

今回の内容を紹介する動画ができました!
よろしければこちらもご覧になってください!

www.youtube.com

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アフィンスキームとは何だろうか(3)

この記事は、シリーズ記事「アフィンスキームとは何だろうか」の第3回の記事です。

第1回の記事:
tsujimotter.hatenablog.com

第2回の記事:
tsujimotter.hatenablog.com


前回はついにアフィンスキームを定義しました。今日は、本シリーズの最後の記事として、アフィンスキームの間の射を定義したいと思います。

アフィンスキームの射を通して「 \text{Spec}(\mathbb{Z}) 上のスキーム」などの概念を考えることができ、これにより整数論についての面白い見方を得ることができます。

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アフィンスキームとは何だろうか(2)

この記事は、シリーズ記事「アフィンスキームとは何だろうか」の第2回の記事です。

第1回の記事はこちら:
tsujimotter.hatenablog.com

前回はアフィンスキームの定義に向けて、環のスペクトルとザリスキー位相という概念を紹介しました。位相が入ったので、環のスペクトルが位相空間になりました。

今日は、位相空間の上の 構造層 がテーマです。最終的には、アフィンスキームを定義するところまでいきたいと思います。

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アフィンスキームとは何だろうか(1)

数論の勉強をしていく中で、スキーム理論の言葉で書かれた文章をたびたび見かけるようになり、スキームの基礎的な事項について理解したいと思うようになりました。

代数幾何学の標準的な(?)教科書であるハーツホーン [文献1] などの本を読んで、基本的な部分についてはある程度理解してきた気がしているのですが、やはり自分の文章でまとめてみないとわかった気がしません。そこで、今まで理解した部分をブログでまとめてみようと思いました。

そこで今日は、スキーム理論の基本である「アフィンスキーム」について、解説を試みたいと思います。私の理解向上のためというのが目的なので、あくまで自分のために文章化し、それを人にも見てもらえるような場所に置いておくという程度のスタンスで書いています。「みんなにスキームについてわかりやすく教えてやるぜ」というつもりはまったくありません。勘違いしている記述もあると思っています。おかしなところがあれば(こっそりと*1)ご指摘いただければと思います。


「代数幾何学」という、図形を代数的に取り扱う学問があります。代数幾何的な手法を、数論的な対象に対してもより広く適用できるようにするためにスキームが導入されたという話を聞いたことがあります。スキームの発明者は、あの グロタンディーク だそうで、グロタンディークらが発展させたのが数論的な対象を幾何的な道具を使って理解する数論幾何という一分野です。

今回の記事では、①アフィンスキームを定義すること、②アフィンスキームを用いた整数論の見え方について紹介すること、を目的としたいと思います。

とはいえ、そもそもアフィンスキームは、定義するだけでも大変なものです。そこで、ブログ記事を3部構成に分けて、以下のような流れで順を追って説明していきたいと思います。

第1部(本記事):
1. 代数幾何の基本
2. 環のスペクトル
3. ザリスキー位相

第2部(5/7公開予定):
4. 構造層
5. アフィンスキームの定義

第3部(5/8公開予定):
6. アフィンスキームの射
7. アフィンスキームの射の具体例
8. まとめ

まずアフィンスキームの定義には、環のスペクトルという「環の素イデアルだけで構成された空間」を考える必要があります。一方で、初学者である私の率直な感想としては、なぜそんなものを考えるのかよくわかりませんでした。

そこで第1部では、代数幾何学の基本的なところを触れつつ、流れをざっと追うことで、なぜ環のスペクトルを考えるのかについて考察したいと思います。

その後、第1部の後半と第2部では、アフィンスキームの定義に必要な2つの概念「ザリスキー位相」「構造層」について説明します。これでようやくアフィンスキームが定義できるようになります。

第3部では、アフィンスキームの例をいくつか出した上で、アフィンスキームの間の射について触れたいと思います。これによって、アフィンスキームの言葉を使って、これまでブログでも扱ってきた整数論のいくつかの問題を、少し新しい見方で見ることができるという例を紹介したいと思います。


なお、一連の記事では、可換環と言ったら単位的可換環(単位元 1 を持つ可換環)を考えます。

*1:「こっそりと」の意味は「ブログのコメント欄ではなく、TwitterのDM等のクローズドな場所でご指摘下さい」という意味です。コメントで指摘されると、それを直ちに修正するという必要性が生じますが、一方で私の理解を超える高度な指摘は時に考える時間を要します。コメントが公開されたまま直ちに修正できない状況が続くと、私自身がプレッシャーに晒されることになります。趣味で数学の記事を書いている私としては、そのような状況はできるだけを避けたいというのが趣旨です。クローズドな場でご指摘いただくことは、私自身の成長にもつながりますので大歓迎です。ぜひ宜しくお願いします。

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