tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

続々・12 = 3×4, 56 = 7×8

前々回の記事 で、 ab = c\times d 型の問題に対して

 ab = d\times e \times f \tag{1}
 abc = d\times e \times f \tag{2}

という拡張が考えられるという話をしました。

 (2) の方は 前回の記事 で扱ったので、今回は式  (1) を解いてみたいと思います。


つまり、今回の問題はこれです。

正の整数  n, a a + 4 < n と、次の式を満たすとする:

 an + (a+1) = (a+2) (a+3) (a+4) \tag{3}

このとき、 n, a の組を求めよ。


今回の問題は比較的簡単で、 ab = c\times d 型の問題とほぼ同様の手順で計算することができます。やってみましょう。

f:id:tsujimotter:20190911185603p:plain:w300

おまけとして、後半では右辺が  k 個になったバージョンも考えたいと思います。


解答例

 (3) を変形します。

 \begin{align} an + a + 1 &= (a + 2)(a + 3)(a + 4) \\
 &= a^3 + 9a^2 + 26a + 24 \end{align}

右辺の計算をするときのコツなんですが、次の 対称式の基本定理 を使うと簡単に計算できます。(このやり方はunaoyaさんに教えていただきました)

 (x + \alpha)(x + \beta)(x + \gamma) = x^3 + (\alpha + \beta + \gamma)x^2 + (\alpha \beta + \beta \gamma + \gamma \alpha)x + \alpha \beta \gamma


さて、前々回の記事で行ったように、移項して右辺に定数項を持ってきて、左辺を  a で括ります。

 a(n+1-a^2-9a-26) = 23


ここでまた整数論的な考察を使います。

右辺の約数は  1 23 で、左辺も同様です。したがって、 a = 1 または  a = 23 となります。

あとは、それぞれの場合で計算すればOKです。


 a = 1 のとき、 n+1-a^2-9a-26 = 23 となりますが、 n について計算すると

 \begin{align} n &= 23 - 1 + a^2+9a+26 \\
&= 23 - 1 + 1+9+26 \\
&= 58 \end{align}

よって、 a = 1, \; n = 58 が1つめの整数解となります。


 a = 23 のとき、 n+1-a^2-9a-26 = 1 となりますが、 n について計算すると

 \begin{align} n &= 1 - 1 + a^2+9a+26 \\
&= 23^2+9\cdot 23+26 \\
&= 762 \end{align}

よって、 a = 23, \; n = 762 が1つめの整数解となります。


以上、2つの解

 a = 1, \; n = 58 \tag{4}
 a = 23, \; n = 762 \tag{5}

が求める整数解であることがわかりました。(終わり)

つまり、こういうこと

以上2つが求める整数解だったわけですが、これはどういうことでしょうか。

 (ab)_{n} = c\times d\times e の形に直すと、式  (4)

 (12)_{58} = 3\times 4\times 5

となります。これは、 58 進法で  12 と表される数は、 3\times 4\times 5 に一致するということですね。たしかに計算するとそうなっています。


もう一つの解  (5) (ab)_{n} = c\times d\times e の形に直したいのですが、各桁の数字が2桁以上になってしまいます。桁の区切りを ";" で無理やり表すと

 (23; 24)_{762} = 25\times26\times 27

というような書き方になりますが、 10 進法になれた我々にとってはやや難しいですね。 762 進法をうまく表現するためには、762種類の数字が必要です。

一方で、時間を表現するために、我々は60進法を使っています。時計のアナロジーで考えてみましょう。

1時間が  762 分で、1分が  762 秒であるような時計を考えます。そのような時計において、 23 24秒は一体何秒かという問題を考えると、その答えが  25\times 26\times 27 秒である、ということですね。図に表すとこんな感じです。

f:id:tsujimotter:20190911185459p:plain:w500


さらなる拡張

ここまでくると、右辺を  k 個の積にしたとしても、同様の計算ができることに気づきます。

 an + (a+1) = \underbrace{(a+2) (a+3) \cdots (a+k+1)}_{k \, \text{times}} \tag{6}

ここで、右辺は  \{2, 3, \ldots, k+1\} i 次基本対称式  \sigma_i を用いて

 a^k + \sigma_1 a^{k-1} + \cdots + \sigma_{k-1} a + \sigma_{k}

と表せます。定数項の  \sigma_k

 \sigma_k = 2\cdot 3\cdot \cdots \cdot (k+1) = (k+1)!

と表せることに注意すると、式  (6)

 a(n + 1 - a^{k-1} -  \sigma_1 a^{k-2} - \cdots - \sigma_{k-1}) = (k+1)! - 1

と表せます。

 k = 3 のときは、定数項が  (3+1)! - 1 = 23 だったわけですね。


上の問題と同じように、 (k+1)! - 1 の約数を考える必要があります。これについての一般論は難しいので、  (k+1)! - 1 の約数の一つを  d として考えましょう。

すると、 a = d と書くことができ

 \displaystyle n + 1 - a^{k-1} -  \sigma_1 a^{k-2} - \cdots - \sigma_{k-1} =  \frac{(k+1)! - 1}{d}

と表せます。

もちろん、ここから  n = \cdots のように整理してもいいですが、もう少し簡単に考えましょう。


元々は式  (6) からスタートしたわけなので、 (6) a = d を代入してもよいわけですね。よって

 dn + (d+1) = \underbrace{(d+2) (d+3) \cdots (d+k+1)}_{k \, \text{times}}

が成り立ちます。ここで、 n 以外の項を右辺に持っていき、 d で割ると

 \displaystyle n = \frac{\underbrace{(d+2) (d+3) \cdots (d+k+1)}_{k \, \text{times}} - (d+1)}{d}

となります。また、よくよく考えると

 \underbrace{(d+2) (d+3) \cdots (d+k+1)}_{k \, \text{times}} = (d+k+1)! / (d+1)!

とかけますから、よりすっきり

 \displaystyle n = \frac{(d+k+1)! / (d+1)! - (d+1)}{d}

と表すことができます。


よって一般解は、 (k+1)! - 1 の約数を  d として、次のように得られることがわかりました。

 \begin{cases} \displaystyle a = d \\ 
\displaystyle n = \frac{(d+k+1)! / (d+1)! - (d+1)}{d} \end{cases}

a = 1 のケース

 1 は必ず  (k+1)! - 1 の約数になりますので、次のタイプの式は、任意の  k に対して存在します。

 (12)_n = \underbrace{3 \times 4 \times \cdots \times (k+2)}_{k\, \text{times}}


このときの  n

 \displaystyle n = (k+2)! / 2 - 2

と表せます。せっかくなので、いくつかの  k について計算してみましょう。

 \begin{align} (12)_{58} &= 3 \times 4 \times 5 \\
(12)_{358} &= 3 \times 4 \times 5 \times 6 \\ 
(12)_{2518} &= 3 \times 4 \times 5 \times 6 \times 7 \\ 
(12)_{20158} &= 3 \times 4 \times 5 \times 6 \times 7\times 8 \\ 
(12)_{181438} &= 3 \times 4 \times 5 \times 6 \times 7\times 8\times 9 \end{align}

まとめ

これまでの結果をまとめておきましょう。

問題
 ab = c\times d \begin{align} (12)_{10} &=3\times 4, \\ (56)_{10} &=7\times 8 \end{align}
 ab = c\times d\times e \begin{align} (12)_{58} &=3\times 4\times 5, \\ (23; 24)_{762} &=25\times 26 \times 27 \end{align}
 a_1 a_2 = \underbrace{a_3 \times a_4 \times \cdots \times a_{k+2}}_{k\, \text{times}}  (k+1)!-1 の任意の約数  d に対して
 (d; d+1)_{n} = \prod_{i=2}^{k+1} (d+i)
(ただし、 n = \frac{(d+k+1)! / (d+1)! - (d+1)}{d}
 abc = d\times eなし
 abc = d\times e\times fなし

これで左辺3桁・右辺3つの積までの問題については一通り解決することができ、tsujimotterはだいぶ満足しています。

この先さらに左辺が4桁以上の場合などの拡張ができると思いますが、難しそうなのでこの辺で打ち止めにしておこうかなと思います。何か新しい発見がありましたら教えてください。

それでは、今日はこの辺で。

まだまだ続くみたいです

tsujimotter.hatenablog.com