tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

4n+1型の素数とディリクレの算術級数定理

5, 13, 17, 29, 37, 41, 53, 57, ...

これらはすべて、4で割ると1余る数です。しかも、自分自身と1以外の数で割ることが出来ないので素数です。このような数を4n+1型の素数と呼びます。

このような素数に対しては、次のような疑問が沸いてくるでしょう。

果たして4n+1型の素数は、無数に存在するのか。
無数に存在したとして、どの程度の頻度で分布するのか。

表題であるディリクレの算術級数定理は、上記のような疑問に応える素数に関する定理です。


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図1:ペーター・グスタフ・ディリクレ(1805-1859)



ディリクレ(図1)は4n+1型の素数を、より一般的に an+b の形で考えました。
ここでaとbは互いに素であるとします。互いに素という条件を付けたのは、互いに素ではないa, bを使って an+b としたとき、そのような形をした素数は(bが素数の場合のbそのものを除けば)存在しないからです。

たとえば6n+4の場合(a=6, b=4 となり互いに素ではない)、

4, 10, 16, 22, 28, 34, ...

となりいつまでたっても素数が現れません。すべての数が、a, bの最大公約数である2で割り切れてしまいます。

ところで算術級数とは等差数列の和ことで、すなわち an+b という形で書ける数の和のことを算術級数と呼んでいます。ディリクレの算術級数定理はこのような和に関する定理です。

算術級数定理に行く前に、一般の素数に関する定理についてお話ししておきましょう。

一般の素数に関する定理

一般の素数については、たとえば次のような定理が知られています。

素数の逆数の和 [オイラー]:

 \displaystyle \sum \frac{1}{p}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}+\cdots \sim \log(\log(x))
ただし左辺は、 x以下のすべての素数 pに対して和をとる。

この式は、 x以下のすべての素数の逆数の和が、右辺の式で評価できるということを主張しています。右辺の式は十分大きな xに対して発散するため、素数の逆数の和も発散級数となります。

素数定理 [ガウスにより予想]:
 x以下の素数の個数 \pi(x)は次の式で表せる。

 \displaystyle \pi(x) \sim {\rm Li}(x)

 {\rm Li}(x)は対数積分と呼ばれていて、次のような関数として定義されます。

 \displaystyle {\rm Li}(x)=\int_2^x \frac{{\rm d}x}{\log(x)}
意味としては、それほど難しくありません。要は x以下の適当な数を取ってきたとき、その数が素数である確率が、およそ \frac{1}{\log(x)}で表されるということです。

補足:近似の意味

双方の公式に出てくる「 \sim」は、左右の関数が十分大きい  x に対して近似される、という意味を表す数学記号です。

ところで、近似というと数学らしくないと思うかもしれません。実際、数学における「近似」は、もっと厳密に定義されています。たとえば、先ほどの例で言うと、

 \displaystyle \pi(x)\sim {\rm Li}(x)
という式は次の式と等価です。
 \displaystyle \lim_{x\rightarrow \infty}\frac{\pi(x)}{{\rm Li}(x)}=1

ディリクレの算術級数定理

ディリクレの算術級数定理は、上記の素数に関する定理とほぼぴったり対応しています。
ただし、対象とする素数が、an+b型の素数である、という点が異なります。もちろん、冒頭で述べたとおりaとbは互いに素です。

算術級数定理:

 \displaystyle \sum\frac{1}{p}=\frac{1}{5}+\frac{1}{13}+\frac{1}{17}+\frac{1}{29}+\cdots \sim \frac{\log(\log(x))}{\varphi(a)}
ただし左辺は、 x以下で  an+b と表せるすべての素数 pに対して和をとる。
 a,  b は互いに素)

算術級数の素数定理:
 a,  b を互いに素な整数としたとき、 x以下で  an+b と表せる素数の個数 \pi_{a,b}(x)は次の式で表せる。

 \displaystyle \pi_{a,b}(x) \sim \frac{{\rm Li}(x)}{\varphi(a)}

双方の式で出てくる  \varphi(a)オイラーのトーシェント関数と呼ばれていて、次のように定義される関数です。

オイラーのトーシェント関数:


 \varphi(a)= ( 1 以上  a-1 以下の整数で  a と互いに素な整数の個数)

ガウスやオイラーの式と比較してみると、ディリクレの式は単純に  \varphi(a) で割っただけであることがわかります。

このようにディリクレの算術級数定理は、 \varphi(a) で割った点を除けば、ガウスやオイラーの一般の素数に関する定理に対して、非常に美しい対応関係を持っています。
まさに一般化になっているわけです。

an+b型の素数が無数に存在することの証明

上記の式を認めれば、この証明は簡単です。
算術級数定理の右辺は  x\rightarrow \infty で発散します。したがって、左辺も発散するわけですが、そのためには an+b 素数の個数が無数に存在しなければなりません。
これであっさり最初の疑問に答えることができました。

補足:トーシェント関数で割るということの意味

オイラーのトーシェント関数  \varphi(a) で割るということの意味は、直感的にわかりにくいかもしれません。細かい証明が要らないのであれば、具体例を考えることで理解できます。

たとえば、 a を 4 としてみましょう。
図2のように、  b のパターンとしては 0, 1, 2, 3 の 4 パターンですね。


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図2:a=4の場合の an+b 型の素数

ここで、an+b が 「  a = 4 と互いに素な b の場合だけ素数になり得る」と考えると、「an+b が素数になり得る  b のパターン」は 1, 3 の 2 通りです。

またすべての素数は、この 2 通りのパターンのいずれかで分け合うことになりますから、図のような式が成り立つわけです。

ところでディリクレの主張は、十分大きな  x を取ったときには、  x 以下の素数は、それぞれのパターンのどれかに偏ったりせずに、均等に分配されるということです。つまり、4n+1, 4n+3 のそれぞれのパターンにおける素数の個数は、全体の素数の個数を 2 で割ればよいのです。

ここで、「an+bが素数になり得る  b 」のパターン数である 2 は、「aと互いに素なbのパターン数」でもありますから、これはトーシェント関数  \varphi(4)=2 にほかなりません。
よって一般的には、「an+b 型の素数の個数は、全体の個数をトーシェント関数  \varphi(a)で割ったものである」ということが言えるわけです。


まとめ

以上をまとめると次の表になります。


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図3:一般の素数定理と算術級数定理の対応

以上を用いて、冒頭の質問に答えるとしたら、次のようになるでしょう。

4n+1型の素数は無数に存在する。
その分布は一般的な素数のちょうど半分  \displaystyle \left(\frac{1}{\varphi(4)}=\frac{1}{2}\right) 程度である。


算術級数定理には、歴史的にはもう少しだけ重要な意義があります。

ディリクレはたくさんの業績を出した、言わば超一流の数学者の一人ですが、とりわけ「L関数」と呼ばれる道具の発明は後世に影響を与えました。L関数は、算術級数定理を解決するために導入されたのですが、素数の理論と複素解析をつないだ最初の道具でした。
この影響をもろに受けた人物が、リーマン予想で有名なあのベルンハルト・リーマンです。リーマンは、もともと幾何学や複素解析に興味があったそうなのですが、ディリクレのL関数による素数へのアプローチに影響を受けて、素数の理論に興味を持つようになったそうなのです。L関数はゼータ関数のちょうど一般化になっているのですが、具体的な定義を紹介するのは今日はやめときましょう。
このあたりの歴史的な背景は、次の書籍が詳しいです。興味がある方はぜひ読んでみてください。

素数の音楽 (新潮文庫)

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今回は、算術級数定理への興味から始まって、その位置付けを数式的な対応関係から追ってきたわけですが、まとめてみてやっぱり美しいなと感じるに至りました。
なんだか数学って芸術みたいだなと思いませんか。


それでは、今日はこの辺で。