tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

循環小数(1): フェルマーの小定理

循環小数問題
1/12377の小数点以下6193桁目は何か?(問題編) - tsujimotterのノートブック
1/12377の小数点以下6193桁目は何か?(解答編) - tsujimotterのノートブック


解説編
第1回:循環小数(1): フェルマーの小定理 - tsujimotterのノートブック
第2回:循環小数(2): Midyの定理(前編) - tsujimotterのノートブック
第3回:循環小数(3): Midyの定理(後編) - tsujimotterのノートブック
第4回:循環小数(4): 平方剰余の相互法則 - tsujimotterのノートブック


本記事は、循環小数問題の解説編として書いています。


解説編の第1回では

循環小数は (p-1) 桁で循環する

という基本的な事実について紹介します。




具体例と用語の確認

たとえば、1/7 を考えてみましょう。


1/7 は計算すると次のようになります。

1/7 = 0.142857142857142857...


いつまでたっても続いていきますが、よくみると "142857" が繰り返し並んでいることがわかります。

すなわち、1/7 は 循環小数 です。

循環する繰り返しのパターン "142857" を循環節と呼びます。

この場合の循環節の長さは 6 です。


循環小数をすべて書くことは出来ないため、次のように最初と最後にドットをつけた1つの循環節によって表記されることが多いです。

 1/7 = 0.\dot{1}4285\dot{7}

一方、1/2, 1/5 では、循環しないで途中で止まってしまいます。これを有限小数と呼んだりするそうです。

1/2 = 0.5
1/5 = 0.2

一般に、2, 5 以外のすべての素数に対して、1/p は循環小数となることが知られています。

1/p の循環小数は (p-1) 桁目で必ず循環する(本題)

ところで、循環節の長さは、計算してみるとわかりますが長くなったり短くなったりしますね。

たとえば、

 1/11 = 0.\dot{0}\dot{9}
のように短くなることもあれば、

 1/17 = 0.\dot{0}58823529411764\dot{7}
のように非常に長くなることもあります。


一見すると循環のパターンは一般性がないように見えます。


しかしながら、pが素数の場合、p=2, 5 以外のどんな 1/p をとっても、小数点以下 (p-1) 桁で必ず循環することが示せます。


次の図は、2, 5 以外の素数 p に対して、循環節と循環のパターンを示したものです。

f:id:tsujimotter:20140405195035p:plain


下線部は循環節ですが、循環節の長さに関わらず 小数点以下 (p-1) 桁目 でたしかに循環していることがわかります。


循環節の定義から、循環節の長さの倍数の桁で繰り返しがおきます。したがって、循環節の長さが (p-1) の約数であることもわかってしまいます。


このことは、2, 5 以外の素数すべてで一般に成り立ちます!

《定理1》
 p 2,  5 以外の素数としたとき、循環小数  1/p (p-1) 桁で循環する。また、その循環節の長さは  (p-1) の約数となる。


面白いですね。でも、本当にちゃんと (p-1)桁で循環は起きるのでしょうか。


以降で、《定理1》を証明することにしましょう。

フェルマーの小定理

まず、この証明で使う 《フェルマーの小定理》 について紹介します。
非常に重要な公式で、整数論で頻発する式なので、知らない方はこれを機に覚えるとよいかと思います。

《フェルマーの小定理》

 p を素数とし、 a p と互いに素な整数としたとき、次の合同式が成り立つ。


 a^{p-1} \equiv 1 \pmod p


 a=10,  p=7 として考えてみましょう。

 10^{1} \equiv 3 \pmod 7
 10^{2} \equiv 2 \pmod 7
 10^{3} \equiv 6 \pmod 7
 10^{4} \equiv 4 \pmod 7
 10^{5} \equiv 5 \pmod 7
 10^{6} \equiv 1 \pmod 7

実際に、 10^{6} \equiv 1 \pmod 7 となることがわかります。

証明

p を素数としたとき、循環小数 1/p は (p-1) 桁で循環することを証明する。


まず循環小数  1/p を次のように表し、 e 桁で循環するとします。小数点以下  e 桁までの循環パターンの数を  c とします。

 \displaystyle \frac{1}{p} = \frac{c}{10^e}+\frac{c}{10^{2e}}+\frac{c}{10^{3e}}+\cdots

これを以下のように変形していきます。

 \displaystyle \begin{eqnarray} \frac{1}{p} &=& \frac{c}{10^e}+\frac{c}{10^{2e}}+\frac{c}{10^{3e}}+\cdots \\
 &=& \frac{c}{10^e}\left(1+\frac{1}{10^{e}}+\frac{1}{10^{2e}}+\cdots\right) \\
 &=& \frac{c/10^e}{1-1/10^e} \\
 &=& \frac{c}{10^e-1} \end{eqnarray}

したがって、

 10^e-1 = cp

つまり、

 10^e \equiv 1 \pmod p


以上より、循環小数 1/p が  e 桁で循環するときの、 e の満たす必要条件を表しています。

この証明の流れを逆にたどると、十分条件、すなわち「 p, e が上の式を満たすならば、循環小数  1/p e 桁で循環する」を示すことができます。


まとめると次のようになります。

循環小数  1/p e 桁で循環するならば、 e は次の式を満たす。

 10^e \equiv 1 \pmod p

逆に、 p, e が上の式を満たすならば、循環小数  1/p e 桁で循環する。

この関係は、次以降も使うので覚えておいてください。


さて、《フェルマーの小定理》 より、

 10^{p-1} \equiv 1 \pmod p

ですから、先の十分条件を用いて、 1/p e=(p-1) 桁のときに循環することが示せました。

まとめ

第1回は、循環小数の基本的な性質である 《定理1》 を紹介しました。

《定理1》
p を2, 5 以外の素数としたとき、循環小数 1/p は (p-1) 桁で循環する。また、その循環節の長さは(p-1) の約数となる。


次回は

「循環小数を2分割するとどうなるか」

についてお話しします。

参考文献

以下の本の第一章に「循環小数」の項があります。今回の証明はこちらを参考にしました。

初等整数論講義 第2版

初等整数論講義 第2版


次回:
循環小数(2): Midyの定理(前編) - tsujimotterのノートブック