tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

循環小数(2): Midyの定理(前編)

循環小数問題
1/12377の小数点以下6193桁目は何か?(問題編) - tsujimotterのノートブック
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解説編
第1回:循環小数(1): フェルマーの小定理 - tsujimotterのノートブック
第2回:循環小数(2): Midyの定理(前編) - tsujimotterのノートブック
第3回:循環小数(3): Midyの定理(後編) - tsujimotterのノートブック
第4回:循環小数(4): 平方剰余の相互法則 - tsujimotterのノートブック


本記事は、循環小数問題の解説編として書いています。


第2回、第3回と Midyの定理と呼ばれる定理を紹介します。


第2回の本記事では Midyの定理(前編)となっています。前編のこの記事では 《Midyの定理》 の証明を中心に、第3回では 《Midyの定理》 を使って循環小数の後半の値を推定する方法を紹介します。


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《Midyの定理》 とは

循環節を半分に分けることを考えます。


1/7 の場合、

 1/7 = 0.\dot{1}4285\dot{7}

となりますが、"142" と "857" の二つにわけて、それぞれの数を a, b とおきます。

 a = 142
 b = 857

次に、それらの和をとります。するとどうでしょう。

 a + b = 142 + 857 = 999

なんと、9 が並んでしまいました!これは驚きです。


もっと驚いたことに、これは p が素数で、かつ、循環節の長さが偶数のときには

必ず 9 のゾロ目

になるのです。


これが 《Midyの定理》 です。以下にまとめましょう。

《定理2(Midyの定理 [Midy, 1836])》
p を 2, 5 以外の素数とし、循環小数 1/p の循環節の長さが偶数になるとき、その循環節を前後で2分割した数の和は必ず 9999.....999 の形をした数となる。


ほかの数で試してみても同じです。

 1/11 = 0.\dot{0}\dot{9}
a = 0
b = 9
a + b = 0 + 9 = 9

1/11 の場合は循環節はずいぶん短くなりますが、たしかに成り立っています。


 1/17 = 0.\dot{0}58823529411764\dot{7}
a = 05882352
b = 94117647
a + b = 05882352 + 94117647 = 99999999

こんなに長くても、ちゃんと成り立っていることが確認できました。

証明の概略

証明はちょっと長いので、見通しを立てるためにアウトラインを説明しましょう。

まず、問題を定式化します。 9 k 個並ぶ数は 10 のべき乗を使って次のように表現できます。


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 a+b 10^k-1 と一致することを示すためには、次の 2点を示せばよいでしょう。

  1.  a+b 10^k-1 で割り切れる
  2.  a+b 2 \left(10^k-1\right) より小さい

以下、1. 2. の順に証明を進めていきます。

証明

1.  a+b 10^k-1 で割り切れる

を示す。

 1/p の循環節の長さを  2k とし、循環節の前半を  a, 後半を  b とすると、  1/p は次のようにかける。

 \displaystyle \frac{1}{p} = \frac{a}{10^k} + \frac{b}{10^{2k}} + \frac{a}{10^{3k}} + \frac{b}{10^{4k}} + \frac{a}{10^{5k}} + \frac{b}{10^{6k}} + \cdots

これを変形していく。

 \displaystyle \begin{eqnarray} \frac{1}{p} &=& \frac{10^ka+b}{10^{2k}} + \frac{10^ka+b}{10^{4k}} + \frac{10^ka+b}{10^{6k}} + \cdots \\
 &=& \frac{10^ka+b}{10^{2k}}\left(1 + \frac{1}{10^{2k}} + \left(\frac{1}{10^{2k}}\right)^2 + \cdots\right) \\
 &=& \frac{10^ka+b}{10^{2k}}\left(\frac{1}{1-1/10^{2k}}\right) \\
 &=& \frac{10^ka+b}{10^{2k}-1} \end{eqnarray}

よって、

 \displaystyle \begin{eqnarray} 10^{2k}-1 &=& p\left(10^ka+b\right) \\
\therefore 10^{2k}-1 &=& p\left\{\left(10^k-1\right)a + a+b\right\} \\
\therefore \left(10^{k}-1\right) \left(10^{k}+1\right) &=& \left(10^k-1\right)ap + (a+b)p \\
\therefore \left(10^{k}-1\right)\left(10^{k}+1-ap\right) &=& (a+b)p \end{eqnarray}


まず、右辺は  p の倍数である。したがって、左辺も  p の倍数であるが、  \left(10^k-1\right) は p の倍数ではない。なぜなら、  \left(10^k-1\right) が p の倍数であるとすると、

 10^{k}\equiv 1 \pmod p

となってしまい、これでは循環節の長さが  k となってしまう。これは循環節が  2k であるという最初の前提に矛盾する。


一方、左辺は  \left(10^k-1\right) の倍数である。よって、 (a+b) p のいずれかに、  \left(10^k-1\right) の約数が振り分けられるはずである。 p は素数であり、 \left(10^k-1\right) は 素数  p を約数に持たないから、 \left(10^k-1\right) の約数はすべて  (a+b) が持つことになる。

したがって、「1.  a+b 10^k-1 で割り切れる」が示された。

2.  a+b 2 \left(10^k-1\right) より小さい

を示す。

1. の証明から、 a+b  \left(10^k-1\right) の倍数であることが得られたので、整数  m を用いて次のようにおける。

 a+b = m\left(10^k-1\right)

ここで、 a,  b の定義から、取り得る最大値は、

 a = b = 99...99 = \left(10^k-1\right)

であるから、

 a+b \;\; \leq \;\; 2\;\;\left(10^k-1\right)

一方で、この最大値を取った場合、循環小数は

 \displaystyle \frac{1}{p} = 0.999... = 1

となってしまう。これは  \frac{1}{p} が 1より小さいことに矛盾する。

よって、a, b の取りうる範囲は、この最大値を含まないことがわかるから、結果的に、

 a+b \;\;\;\; < \;\;\;\; 2\;\;\left(10^k-1\right)

すなわち、「2.  a+b 2 \left(10^k-1\right) より小さい」が示された。


以上 1. 2. より、 a+b = 10^k-1 が示された。


まとめ

今回は循環小数の持つ

「循環節の前半と後半を分けたときに、和が 9 のゾロ目になる」

という面白い性質を紹介しました。この性質は、Midyさんが証明したので、《Midyの定理》 と呼ばれているのでした。

次回は後編として、《Midyの定理》を使った推定法を紹介します。

参考文献

証明は、次の記事の内容を参考にしました。

循環小数の一性質 - Midy の定理とその一般化 :
http://www.sci.u-toyama.ac.jp/topics/files/topics16.pdf

次回:
循環小数(3): Midyの定理(後編) - tsujimotterのノートブック