tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

近況報告(2018年4月)

しばらくブログの更新をしていなかったので、久しぶりに私の日曜数学に関する近況報告をしようと思います。

直近の目標

「エルブラン・リベの定理の証明を理解したい!」というのが直近の目標です。

2017年は「岩澤理論を理解する」を目標を掲げて、朝岩澤理論に取り組んできました。その成果として「岩澤類数公式」「p進L関数の存在定理」「岩澤主予想」についてブログ記事にまとめてきました。一方で、その証明については、まだ十分に理解しているとはいえず、ブログにまとめるには至っていません。

今特に、Wilesによる岩澤主予想の証明について理解したいと思っていて、その証明の理解のためには「エルブラン・リベの定理」の「リベによる証明」の理解は不可欠です。岩澤主予想の記事にも書いた通り、リベによる証明は、Wilesによる岩澤主予想の証明の雛形になっているためです。

エルブラン・リベの定理について、簡単に述べると「ゼータの特殊値を  p で割り切れるならば、イデアル類群(の対応する指標分解)の  p 部分が非自明になる」というものです。ゼータの特殊値とイデアル類群の間のp進的な関係は、まさに岩澤理論の扱うところです。これを \bmod{Np^{n+1}}に伸ばしたものが岩澤主予想に対応しているようです。

証明の流れをものすごくざっくり述べると次のようになります:

ゼータの特殊値を  p が割り切る
 \Longrightarrow 正規化されたカスプ形式が存在し、そのフーリエ係数が  \bmod{p} の合同式を満たす
 \Longrightarrow カスプ形式に対応した2次元ガロア表現  \rho : G_\mathbb{Q} \to \text{Aut}_{\mathcal{K}}(V) が存在し、先の合同式から  V \bmod{p} 表現についての半単純化の構造がわかる
 \Longrightarrow  \bmod{p} 表現にいい感じの  \mathcal{O}_{\mathcal{K}}[G_\mathbb{Q}] 加群としての性質がある
 \Longrightarrow 非自明な  G_\mathbb{Q(\zeta_p)} の1次元ガロア表現が構成できて、数論幾何的な考察によって、その表現が不分岐であることがわかる(不分岐拡大が作れる)
 \Longrightarrow 類体論から、イデアル類群の非自明性が得られる

上は覚えている範囲で、だいぶいい加減にかいています(あとで直すかも)。まだあまり理解できていません。。。

太字で書きましたが、ガロア表現というキーワードがたくさん出てきます。そのため、ガロア表現の基本的なところを押さえないと、きっと理解できないだろうと思いました。こんな経緯で、ガロア表現について勉強しています。

ガロア表現の勉強

証明に必要な内容の基礎を押さえた文献を知らないので、ひとまず落合先生の本(いつもの)に参考文献として載っていた「整数論サマースクール2009」の資料を読むことにしました。2009年のテーマは「l進ガロア表現とガロア変形の整数論」ということで、まさにガロア表現を扱っています。

整数論サマースクール2009「l進ガロア表現とガロア変形の整数論」 報告集の原稿ページ
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009proceeding.html

特に参考にしているのは、以下の3つです。

[1] 落合 理:プレサマースクール—数論的な体の絶対ガロア群の構造への道先案内—
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009preparation.pdf

[2] 山内 卓也:ガロア表現の基礎 I
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009yamauchi.2010-2-13.pdf

[3] 千田 雅隆:ガロア表現の基礎 II
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/summer-school.pdf

もともと [2] を読んでいたのですが、[1] の内容を前提にしているようなので、まず [1] を読むことに。なるほどたしかに、ガロア表現は「絶対ガロア群の線形表現」なわけですから、絶対ガロア群のことを知らないといけないわけですね。[1] を一通り読んでから、[2] の最初の方を読んでいるのですが、この辺の知識を理解した上でリベの証明を見ると、見え方がまるで違ってきますね。ちゃんと理解したい。

ガロア表現から素イデアル分解へ

こんな風に勉強しているうちに、ガロア表現を使って遊んでみたいと思うようになりました。

そういえば、伊藤先生の次の文献も、

[4] 伊藤 哲史:平方数の和で表される素数について
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/insei/proceeding/2010/ito.pdf

ガロア表現について書いていたなと思い出して、読み返してみることに。伊藤先生の記事は、以下の記事を書く際にかなり読み込んでいたはずでした。
tsujimotter.hatenablog.com

驚いたことに、素イデアル分解法則がまさにガロア表現の言葉を使って書かれているじゃあないですか。今までは、上の文献の表面的な部分しか汲み取れていなかったのわけですね。前提知識がついたことで、より理解が深まったと実感しました。

面白くなってきたので、自分の言葉で説明できるようになりたいと思いました。ちょうど、佐野さんが #mathmoring というイベントを企画していたので、このイベント登壇を申し込んで、勉強した成果を話すことに決めました。
connpass.com

前提知識が多く、かなり難しい内容であることは間違いないため、わかりやすく話せるかどうかは微妙です。その辺はご容赦ください。また、まだまだ理解の途中で、当日までにちゃんと理解できているか不安でもあります。

一方で、他人に話す前提でまとめてみることで、今まで見過ごしていた大事なポイントに気づいたりもしました。他人に説明することは、自分の理解度向上のための有効な手段となりますね。

より一層の理解を目指して、発表準備を頑張りたいと思います。


それでは今日はこの辺で。