tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

格子 Z[√-1] に対応する楕円曲線

突然ですが、格子  \Lambda = \mathbb{Z}[\sqrt{-1}] に対応する楕円曲線の定義方程式を計算したくなってきました *1

参考記事はこちら:
tsujimotter.hatenablog.com



上の記事で書いた通り、格子  \Lambda に対する  \mathbb{C} 上の楕円曲線  E_{\Lambda} の定義方程式は、一般に

 E_{\Lambda} : y^2 = 4x^3 - g_2(\Lambda)x - g_3(\Lambda)

と表せます。これをワイエルシュトラスの標準形と呼ぶのでした。 g_2(\Lambda), \; g_3(\Lambda) は楕円曲線のパラメータで、アイゼンシュタイン級数のような式で定義されます。このパラメータ  g_2, g_3 を具体的に計算してみましょう。


まず、 g_3 から計算します。定義より

 \displaystyle g_3(\Lambda) = 140\sum_{\lambda \in \Lambda\backslash \{0\} }\frac{1}{\lambda^6}

です。 \sqrt{-1}\Lambda に対応する  g_3 を計算すると

 \displaystyle \begin{align} g_3(\sqrt{-1}\Lambda) &= 140\sum_{\lambda \in \Lambda\backslash \{0\} }\frac{1}{(\sqrt{-1}\lambda)^6} \\ 
&= \frac{1}{(\sqrt{-1})^6}g_3(\Lambda) \\
&= -g_3(\Lambda) \end{align}

となります。

一方で  \sqrt{-1} \Lambda については、 \sqrt{-1}  \mathbb{Z}[\sqrt{-1}] =  \mathbb{Z}[\sqrt{-1}] より

 \sqrt{-1} \Lambda = \Lambda

を満たすことがわかります。したがって、

 g_3(\Lambda) = - g_3(\Lambda)

を得ます。よって、 g_3(\Lambda) = 0 です。


したがって、楕円曲線の定義方程式は

 y^2 = 4x^3 - g_2(\Lambda)x

と表すことができます。実は、上の太枠内の式

 \sqrt{-1} \Lambda = \Lambda

を満たす格子については、すべてこの形で書くことができます。

上の太枠内の式は、次の図のような関係を表していると言えます。

この話は次回の内容と深く関係しています。乞うご期待。


 g_2(\Lambda) の値も具体的に特定したいところですが、 g_2 の方は  g_3 のように簡単にはいきません。ここでは、有名な公式を用います。

 \displaystyle g_2(\Lambda) = 64\left(\int_{0}^{1} \frac{dx}{\sqrt{1-x^4}}\right)^4

右辺の積分は、レムニスケート周率  \varpi の半分  \varpi/2 となっていて

 \displaystyle 2\int_{0}^{1} \frac{dx}{\sqrt{1-x^4}} = \varpi = 2.62205755429\ldots

となります。これを代入すると

 \displaystyle g_2(\Lambda) = 64\left( \frac{2.62205755429\ldots}{2} \right)^4 \approx 189.07


以上より、楕円曲線の定義方程式は

 y^2 = 4x^3 - 189.07x

と得ることができました。


グラフに表すと以下のようになります。

f:id:tsujimotter:20180522002721p:plain:w400

よくみる楕円曲線の図を、縦に引き伸ばしたような格好をしていますね。


ちなみに、上のレムニスケート周率の値は、たまたまうちの本棚にあった暗黒通信団さんの「レムニスケート周率1,000,000桁表」を参考にしました。まさかこの本が役に立つ日が来るとは思いませんでした。笑

レムニスケート周率1,000,000桁表

レムニスケート周率1,000,000桁表

それでは、短いですが今日はこの辺で。

*1:本当は次回紹介予定の「虚数乗法」シリーズの記事に挿入しようと思っていたのですが、あまり本題と関係なかったので別記事になりました。