お久しぶりです。日曜数学者の tsujimotter です。
みなさん数学してますか?
tsujimotterの近況ですが、最近は Wikipedia で 数の性質を調べるのにはまっております。
WikipediaのURL
の末尾に半角英数で「好きな数」を加えると、その数の性質がまとまっているんですね。見たこともない性質がいくつも箇条書きしてあって、いつも新鮮な発見を楽しんでいます。
今回のテーマは、 tsujimotter が "29" について調べている中で発見した、次のような興味深い性質についてのお話です。
「3つの4乗数の和は を除いて 29 では割り切れない。」
ほう、これは面白い!
だれがこんな性質を見つけたのでしょうか。
調べてみると、次のようなブログの記述を発見しました。
「29についてはオイラーが述べた「3つの4乗数の和の性質」が面白い.
それは,と を除くと,3つの4乗数の和は,5でも29でも割り切れないということである.」
どうやらあのオイラーさんだったようですね。
レオンハルト・オイラー(1707-1783)
という声が聞こえてきそうです。
ただ「オイラーが発見した」という点に関するソースは、残念ながらこのブログだけしか見つけていません。
ご存知の方がいればコメント等でぜひ教えてもらえると嬉しいです。
それってほんとに正しいの?
さて、この 4 乗数と 29 という数字の興味深い関係ですが、実をいうとこのままでは正しくありません。
すぐにわかるように、たとえば次のような数が 29 で割り切れてしまうからです。
つまり、4乗数が 「すべて 29 の倍数」 だったとしても 29 で割り切れてしまうのです。
では、オイラーのこの定理は誤りなのか。
おそらくですが、Wikipediaを書いた人の単なる写し間違いでしょう。
その証拠に、上記の 29 の倍数を考慮して、次のように命題を修正することができます。
《定理》
「3つの 4 乗数の和が 29 で割り切れるのは、そのすべての 4 乗数が 29 で割り切れるときだけである」
こっちなら合っていそうな気がしませんか。
証明してみよう
あまりスマートな方法ではありませんが、tsujimotter流の方法で証明はできそうだということがわかりました。
比較的簡単な次の方法です。
mod 29 で考えます。
すべての4乗数を 29 通り計算して、和が 29の倍数 になるような組は 0 を 3回 使うほかには存在しないことを示します。
それでは、やってみましょう。
mod 29 で平方数、3乗数、4乗数を計算したものを次のように表に示します。
さあ、ここで4乗数の列(一番右の列)に注目してください。
mod 29 で4乗数としてとりうる値は、
この組み合わせをつかって、29の倍数を作ることを考えましょう。
ただし、元の条件にあったように、0 を 3回 使うことは禁止です。
えっと・・・
無理ですよね。笑
というわけで、
「3つの 4 乗数の和が 29 で割り切れるのは、そのすべての 4 乗数が 29 で割り切れるときだけである」
が証明(?)されました。
(適当過ぎましたか?笑)
ちょっとだけ、まじめに証明すると・・・
地味な作業になりますが、丁寧に場合分けして考えます。
(あまりに地味なので、以下の枠内は読み飛ばしてしまってもかまいません。)
25 を 3 回使うと 75 となり、これが和の最大値ですから、
和が 29 の倍数になるパターンは、和が 0, 29, 58 の いずれかに一致するパターンだけ考えれば良いことがわかります。
和が 0 に一致するパターンを考えます。明らかに 0 を 3 回使ったときだけですね。
和が 29 に一致するパターンを場合分けで考えます。
・25 を 1回 使う場合は、残り 4 を {0, 1, 7, 16, 20, 23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、明らかに 4 は作れません。
・24 を 1回 使う場合は、残り 5 を {0, 1, 7, 16, 20, 23, 24} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に 5 は作れません。
・23 を 1回 使う場合は、残り 6 を {0, 1, 7, 16, 20, 23} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に 6 は作れません。
・20 を 1回 使う場合は、残り 9 を {0, 1, 7, 16, 20} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に 9 は作れません。
・16 を 1回 使う場合は、残り 13 を {0, 1, 7, 16} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に 13 は作れません。
・7 を 1回 使う場合は、残り 22 を {0, 1, 7} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、無理ですね。
・1 を 1回 使う場合は、残り 28 を {0, 1} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、無理ですね。
・0 を 3回 使っても無理ですね。
以上より、和が 29 に一致するパターンは存在しません。
和が 58 に一致するパターンも、同様に場合分けで考えます。
・0 を 1回 使う場合は、残り 58 を {0, 1, 7, 16, 20, 23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、最大で 50 しか作れないため明らかに無理です。
・1 を 1回 使う場合は、残り 57 を {1, 7, 16, 20, 23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に無理です。
・7 を 1回 使う場合は、残り 51 を {7, 16, 20, 23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に無理です。
・16 を 1回 使う場合は、残り 42 を {16, 20, 23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要があります。
25 を 1回使った場合は、残り 17 は存在しないので無理。
24 を 1回使った場合は、残り 18 は存在しないので無理。
23 を 1回使った場合は、残り 19 は存在しないので無理。
20 を 1回使った場合は、残り 22 は存在しないので無理。
16 を 2回使った場合は、残り 26 は存在しないので無理。
よって、16 を 1回 使うパターンは存在しない。
・20 を 1回 使う場合は、残り 38 を {20, 23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、同様に無理ですね。
・23 を 1回 使う場合は、残り 35 を {23, 24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、明らかに無理ですね。
・24 を 1回 使う場合は、残り 34 を {24, 25} の中の 2 つの和で作る必要がありますが、明らかに無理ですね。
・25 を 3回 使っても無理ですね。
以上より、和が 58 に一致するパターンは存在しません。
よって、和が 29 の倍数になるのは、4乗数がすべて 29 の倍数であるとき、であることが示されました。
(なかなか面倒でしたね・・・)
29 は特殊な数なのか?
ここで気になってくるのは、"29" ははたして特殊な数なのか?ということです。
もう少し具体的に言うために、次のような数を定義します。
《定義》
「3つの 4 乗数の和が で割り切れるのは、そのすべての 4 乗数が で割り切れるときだけである」
を満たすような数 を 《tsujimotter 数》と呼ぶ。
《tsujimotter 数》というのは 私が勝手につけた名前です。
(ほかでは誰もそう呼んでいませんので、気をつけてください。笑)
さて、定義から明らかに 29 は tsujimotter 数です。
はたして、 29 以外に tsujimotter 数は存在するのでしょうか。
私、調べましたよ。
1 から 29 までがんばって表を作って調べてみると、tsujimotter 数になるのは、
一部誤りがあったため修正しました。
残念ながら、29 だけが tsujimotter 数、というわけにはいきませんでした。
4の倍数は tsujimotter 数になりやすいようですが、24 のように例外もあります。
先ほどの数列をよくよく観察すると、興味深い事実に気づきます。
5, 29 というのは、最初に紹介した津山高専のリンクで挙げられている2つの数ですね。
もしかすると、素数で tsujimotter 数になるのは、この2つだけなのではないでしょうか。
だとすると非常に興味深いですね!
果たして、これ以降の素数は tsujimotter 数になるのでしょうか。
残念ながら私には、これ以上検証する気力もすべもありませんでした。
計算器を使ってがんばる方法は思いつきそうですが、証明となるとなかなか大変そうです。
というわけで、何か面白い方法、や、冒頭のオイラーのソースなど見つかりましたらぜひ tsujimotter までお声がけ下さいませ♪
それでは、今日はこの辺で。
参考文献というか・・・
Euler の文献はすべてこちらのサイトで読むことが出来ます。
たとえば「数論」に関する論文は、左のタブの「Subject」をクリックして、
ページ内の「Mathematics:」の「Number Theory」を選択します。
すると、数論に関する論文のタイトルが出てくるので、あとは番号をクリックすると詳細に飛びます。
論文の原文は、開いたページの下部に「Original publication:」のような記述があるので、その付近のリンクをクリックすれば良いです。
PDFで論文が表示されます。
tsujimotter は「Number Theory」に記載されている 96件 すべてのリンクについて開いて調べてみたのですが、残念ながら該当の論文は見つかりませんでした。。。
(見落としがないとは言い切れません・・・)
それにしても、300年前の論文に簡単にアクセスできるなんて!
情報社会、すごいですねえ!