本日は 8 月 9 日ということで,8 と 9 のペアで作られる数学のお話をしましょう。
という数は で3乗数, という数は だから平方数ですね。これらの数の差は なので
が成り立ちます。すなわち,「べき乗数 ひく べき乗数」が1となっているわけです。
ここで「このような数の組は,8 と 9 のほかにもあるか?」という疑問が湧いてきますが,
と主張するのが,今日紹介する「カタラン予想」です。つまり, と の組は,数ある自然数の組の中でも特別な,いわば「黄金ペア」だというわけです。
カタラン予想を,もう少し数学的に定式化すると以下のようになります。
ただし, とする.
この予想は,1844 年にベルギー人の数学者 カタラン によって提唱されました。
実際に試してみると,解となる組み合わせは と 以外に存在しないように思えます。しかしながら,解の候補は無数に存在するため,単に列挙しただけでは解決にはなりません。
カタラン以前にも,この問題はオイラー (1738 年) によって考えられていたようですし,ルベーグ(あの「ルベーグ積分」で有名なルベーグではない) (1850 年),ナゲル (1921 年),セルバーグ (1932 年) ら,数多くの数学者によって取り組まれてきました。しかしながら,彼らの結果は片方の指数(あるいは両方の指数)を小さい数に固定するなどの結果にとどまっていて,一般的な指数に対する解決には至っていませんでした。
そんなに難しい問題だったのですね!
最終的に解決したのは,カタランによる予想から実に 158 年後 の 2002 年,ミハイレスクによってでした。
ミハイレスクの解法のさわり
指数が一般的な整数となる整数問題は,非常に難しい問題であることが多いと言われます。そのあたりの事情は,あの「フェルマーの最終定理」にもいえることですね。
実際カタラン予想の解決にあたっては,フェルマーの最終定理の証明でも用いられた 「円分体の整数論」 が用いられたようなのです。
以下の PDF に解説記事が載っていたので,序盤だけ流れを追ってみたいと思います。
CATALAN’S CONJECTURE: ANOTHER OLD DIOPHANTINE PROBLEM SOLVED - http://www.ams.org/journals/bull/2004-41-01/S0273-0979-03-00993-5/home.html
ここでは, を相異なる奇素数として,
という式を考えます。
まず,式 を次のように変形しましょう。
(この変形をするに当たって としておいた方がよさそうですね。)
すると,左辺は と という2つの数の積の形になっていますね。一方で, は整数の 乗です。右辺の素因数を左辺の数でどう分け与えていくか,が問題になります。
ここで,
と変形しておくと, と の最大公約数は か のいずれかになり(この辺の議論がよくわからない)それぞれのケースで場合分けして考えるようです。
を二項展開すると
であり,最初と最後の1項を除くとすべて の倍数になります。
これを に代入すると
ここで, と の任意の公約数を とすると
は の倍数であり,よって も の倍数となります。
したがって は の約数であり, は素数より または となることがわかります。
最大公約数が の場合をケース1,最大公約数が の場合をケース2とします。
ケース1:最大公約数が
このケースにおいては, を互いに素な を割らない数として,
とおきます。すると, の 乗を 式の左辺が分け合うので,この場合は初等的に解けるようで,1960年にCasselsによって示されています。よって,問題は ケース2 となります。
ケース2:最大公約数が
と の最大公約数が となるわけですが, 式の右辺が 乗数なので,左辺を掛け合わせたときに が現れないといけません。
いろいろ考えると, の方が を持っているとよいそうので,以下のように置くことができます。
であると仮定します。 は で割り切れないとします。
を展開して上を代入すると,こうなります:
これは でちょうど1回割り切れます。
すると, は で2回しか割り切れないことになってしまいます。
一方で,右辺の は 乗数であるから矛盾します。よって, の方が で割り切れるほかないと結論づけられます。
ここで,問題を 円分体 に拡張して考えます。 は の原始 乗根のことで,この数を含んだ体まで広げて上式を「因数分解」していきます。
という円分多項式の に を代入すると,
と「 の(素)因数分解」が得られます。このように,円分体 に拡大すると において素数だった数 が分解してしまうのです。(こういう現象を「 は で完全分岐する」といいます。)
さらに, すると
も得られますね。したがって 式は
と変形できます。ここで, については,
という「うまい変形」ができます。 は で割れることと,式 (7) により は を因数に含むことを考えると, は,円分体の整数環 の数であると結論されます。
したがって,式 は円分体の整数環 における因数分解の式となっているわけです。円分体の整数論の議論にもっていけそうですね!
ただし,一般の円分体においては,素因数分解の一意性 が成り立たなかったり,単数の問題があったりするので,そう簡単にはいきませんというのがこの先の流れになります。
そのあたりの難しさについては,以下の記事でも触れましたので,読んでいただければイメージは伝わるかと思います。
tsujimotter.hatenablog.com
ここから先の証明の話は,技術的にだいぶややこしくなりそうなので,今日の記事ではやめておきましょう。
せっかくなので,カタラン予想に関連する ヴィーフェリッヒ素数 について触れておきたいと思います。
カタラン予想とヴィーフェリッヒペア
ヴィーフェリッヒ素数とは,
を満たす素数 のことです。
フェルマーの小定理により,mod において と互いに素な に対し
が成り立ちますので,さらに のときを考えたものがヴィーフェリッヒ素数といえます。mod を考えると,mod を考えたくなるのは,数論においてはよくあることなのだそうです。
ヴィーフェリッヒ素数は,フェルマーの最終定理に関連していることでもよく知られていますね。
integers.hatenablog.com
ヴィーフェリッヒ素数が,カタラン予想にどうつながるのかを,エッセンスだけお伝えしましょう。
ケース2の式 を以下のように変形します。
という項がみえますね。ここで, の合同式を考えると, は で割れるようで,いろいろ条件を考えると
という合同式に落とせるのだそうです。また を入れ替えた
も成り立つようです。
とすると, の立場を入れ替えることができるというのが上のロジックです。
これらの2つの合同式を満たす の対を ヴィーフェリッヒペア といって,これがカタラン予想の条件になるようですね。
ミハイレスクは,「カタラン予想を満たす の組がほかにも存在するとしたら,ヴィーフェリッヒペアでなければならない」ことを示しました。この事実を用いて の候補を絞っていったのですね。
Wikipedia によると,ヴィーフェリッヒペアは以下の7組が見つかっているようです。
(2, 1093), (3, 1006003), (5, 1645333507), (5, 188748146801), (83, 4871), (911, 318917), and (2903, 18787).
類題
カタラン予想とは直接関係ありませんが,「似たような式の形」をした類題を2つご紹介します。
平方数と立法数の差が となるような数の組
このような数の組は と だけであることが知られており,実際
が成り立ちます。証明は や における整数論を用います。
つい先日,以下のような記事をみつけました。こちらが参考になるかと思います。
corollary2525.hatenablog.com
京大の入試問題
を素数として の形で表せる素数は ただ1つであることが知られています。これは,2016 年の京大の入試問題にもなりましたので,覚えている方も多いかもしれません。
以下の2つの記事が面白くて参考になります。
motcho.hateblo.jp
おわりに
今日の日付 8 月 9 日に関連して,8 と 9 にちなんだ「カタラン予想」という問題をご紹介しました。
簡単に紹介して終わりにするつもりだったのですが,円分体の話が出てきたり,ヴィーフェリッヒ素数の話が出てきたり,なかなか面白くてつい語りたくなってしまいますね。
ずいぶん記事も長くなってきましたので,そろそろ筆をおきたいと思います。
最後に一言。
・・・
おあとがよろしいようで。笑
参考文献
以下の記事が大変参考になりました。
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http://ikuro-kotaro.sakura.ne.jp/koramu/473_c1.htm
以下が,ミハイレスク本人による「カタラン予想証明」の論文。私はまったく読めませんでした。
http://www.uni-math.gwdg.de/preda/mihailescu-papers/catber.pdf