tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ディオファントスの数遊び

「ディオファントスの一生」って知っていますか?


ディオファントスという古代の数学者の墓石に、彼の一生を示した「謎めいた文章」が書かれている、という話なのですが、これがよく読むと数学の問題になっているのです。

NHK Eテレの2355という番組で、これをもとにした曲が流れていたりしましたから、ご覧になった方もいるかと思います。墓石に書かれた文章も、以下の Eテレ のサイトに書いてあります。

NHKオンライン | Eテレ 2355 | ディオファントスの一生


この問題の解法は比較的簡単で、年齢を  x とおいて、方程式を立てればいいわけです。これについては、上のサイトにわかりやすく解説がありますので、ここでわざわざ説明するのはやめておきましょう。

ディオファントスの一生 ジェネレータ

ディオファントスの一生の考え方は、いろいろ応用することができると思います。たとえば、自分の半生を文章と分数で語って、年齢当てクイズができるんです。

ツジファントスの半生
生まれて 1 年は札幌で暮らし・・・

のような感じです。


そんな需要を考えて、tsujimotter は以下のようなジェネレータ・アプリを作ってみたのですよ。

#ディオファントスの一生 ジェネレータ

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ぜひ、ディオファントスになりきったつもりで、ご自身の半生を埋めてみてください。

問題発生?

ただ、このジェネレータ、1つ大きな問題があります。プログラムのバグとか、そういう問題もあるかもしれませんが、もっと本質的な問題です。

実は、入力者の年齢が素数だと 何にも面白くない のです!


素数は 1 と自分自身以外のいかなる数でも割り切れないので、それぞれの分数が約分できません。だから、分母見れば答えがわかっちゃうんです。


残念なことに、tsujimotter の今の年齢は素数 です。


今年はまだ誕生日は来ていないのですが、誕生日が来れば合成数になります。しかも、2, 3, 5 と、約数のバリエーションが豊富な数になっています。こんなにバリエーションのある数は、この歳以下の数にはないでしょう。


これで年齢がばれたかな?笑


さて、ここで問題です。tsujimotter の年齢は、いったいいくつでしょうか?


結局この問題は、正の整数を  k としたとき、

 p + 1 = k\cdot 2\cdot 3\cdot 5

となるような、素数  p を求めよ、という問題に帰着できますね。


これは具体的に数を入れていけば手っ取り早くて、小さいほうから候補を挙げていくと、

29, 59, 89, ...

となります。常識的に考えて  29 が答えでしょう。


というような話を twitter でしていたら、フォロワーさんからこんな反応がありました。

「つじもったーさん現在59歳説が浮上しました。」
「つじもったーさん89歳ですか。思ってたよりお年を召しておられますね...」

・・・なんといいますか、みなさん本当にひねくれていますね。面白い反応をありがとうございました。笑

どこまで続く?

ところで、ここで1つ気になるのは、この年齢の候補リストは果たして有限なのか?、という問題です。

いつまでたっても続いていくかもしれませんし、十分大きな数までいったところで、この式を満たすような素数は現れなくなるかもしれません。


実はこの問題、既に解決されている「とある有名な定理」の特殊な系として示すことができます。
やってみましょう。


上の式を変形すると

 p = 30(k-1) + 29

になるので、

 a = 30,  b = 29,  n = k-1

とおくと、 p = an + b になります。


 a, b は互いに素なので、ディリクレの算術級数定理 により、この形の素数  p は無限に存在します。したがって、候補は無限に存在するのです。

ディリクレの算術級数定理:
 n を正の整数とし, a, b を互いに素な正の整数とするとき, an + b の形をした素数は無限に存在する.


もちろん人間の年齢を考えれば、「149 歳以上」はないだろう、と常識的に判断できますが、まぁ一つの数遊びということでw

もう少しだけ数遊び

ちなみに、正解である  29

 2n^2+29 という形の数は, 0\leq n \leq 28 においてすべて素数となる」

「3つの 4 乗数の和が  29 で割り切れるのは,
そのすべての 4 乗数が  29 で割り切れるときだけである」

というような面白い性質を持っている数です。

私の誕生日の 5/9 を順に並べて出来た数  59 は、100 以下にたった 3 つしかない「正則素数」という特徴を持っています。正則素数は「フェルマーの最終定理」を解く過程で、エルンスト・クンマーによって導入された数でした。


今回は「ディオファントスの一生」からはじまって、最終的に整数の数遊びになってしまいましたが、数遊びってやっぱり楽しいですね!
ぜひみなさんもやってみてください。思わぬ発見があるかもしれませんよ!

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ディリクレの算術級数定理の紹介はこちら。

 29 に関しての定理はこちらで紹介しています。

ディリクレの算術級数定理の証明はこちら NEW!!