《定理》
素数は無限に存在する
上の定理は、数学を詳しくない人にも良く知られた事実です。
証明をしたのは「ユークリッド」という古代アレクサンドリアの数学者です*1。こちらは、数学をかじった人には比較的よく知られていることです。
オックスフォード大学自然史博物館にあるユークリッドの像 (Wikipediaより引用)
ユークリッドの証明には背理法を用います。この証明は、非常に簡潔であることで有名です。
《ユークリッドの証明?》(この証明には一か所誤りがあります)
背理法を用いて証明する。すなわち、素数が有限個であると仮定する。素数は有限個であるから、もっとも大きな素数が存在する。これを としよう。
より小さい自然数のすべてに対して積をとり、1を加えてこれを とする。
さてこの数 は、 から までのすべての自然数に対して割り切れない。したがって、 は より大きい素数である。これは がもっとも大きな素数であるという仮定に反する。
よって、背理法により「素数が有限個ではない」が証明された。
「素数は有限個ではない」ということは、当たり前ですが「素数は無限個存在する」ということです。
さて、《ユークリッドの証明?》を考えてみると1つの考えが浮かんできます。
素数を無限に生成する方法は知られていません*2から、これが見つかれば 大発見 です!
tsujimotter の考えた「すばらしい発明」は、つまりはこういうことです。
今知っている素数は だけであると仮定します。
まず、 以下のすべての自然数に対して積をとって を加えた数を、新たな素数とします。すなわち、
より が素数として得られます。
次に、新たに生成した素数(この場合は ) 以下のすべての自然数に対して積をとって を加えた数を、新たな素数とします。すなわち、
これを次々繰り返すことで、素数を無限に生成することができるはずです。
何せ《ユークリッドの証明?》にあるように、すべての素数の積をとって1を加えれば「新たな素数が生成される」のですから。
いやー、素晴らしい方法ですね。
「tsujimotter の素数生成術」とでも名付けましょうか。
このまま続けていくと、次のように無限に多くの素数列が生成されます。
ん?
ちょっとまてよ!
となって、明らかに素数じゃないじゃないか!!!
なんてこったい!!!
でもおかしいですね。
「素数以下のすべての自然数の積に を加えると、新たな素数が生成される」はずなのに。。。
何か間違っているのでしょうか。
(わからない人は、少し止まって考えてみましょう。)
種明かし
さて、茶番は終わりです。
何が間違っていたか、それは至ってシンプルです。
それは《ユークリッドの証明?》が間違っていたのです!
ばばーん!
世紀の大発見!ユークリッドの証明が間違っていた!!!
なんていうつもりはありません。笑
第一、ユークリッドの証明が間違っていたら「世紀の」大発見どころの騒ぎじゃないですからね。
ユークリッドは紀元前の人なわけですから…
…
…ここ、笑うところですよ?
さて、どこが間違いかというと、もちろん私の書いた《ユークリッドの証明?》が間違っているのです。
具体的には、この部分。
さてこの数 は、 から までのすべての自然数に対して割り切れない。したがって、 は より大きい素数である。
正しくは、こうなります。
さてこの数 は、 から までのすべての自然数に対して割り切れない。したがって、 は より大きい素数であるか、 より大きい素数 が存在し で割り切れる。
正しい《ユークリッドの証明》を書き下すとこうなります。
《ユークリッドの証明》
背理法を用いて証明する。すなわち、素数が有限個であると仮定する。素数は有限個であるから、もっとも大きな素数が存在する。これを としよう。
より小さい自然数のすべてに対して積をとり、1を加えてこれを とする。
さてこの数 は、 から までのすべての自然数に対して割り切れない。したがって、 は より大きい素数であるか、 より大きい素数 が存在し で割り切れる。これは がもっとも大きな素数であるという仮定に反する。
よって、背理法により「素数が有限個ではない」が証明された。
具体的に数値で考えましょう。
とします。
より小さい自然数のすべてに対して積をとり、1を加えてこれを を考えます。
この数 は、 から までのすべての自然数に対して割り切れません。
したがって、 より大きい素数であるか、 より大きい素数 が存在し で割り切れます。
より、たしかに は素数ではありません。より大きく、 より小さな素数 で割り切れるからです。
より大きく、 より小さな素数 。
この存在を忘れていました。
この こそ、 漏れた素数 だったわけです。
ここでわかったことは、《ユークリッドの証明》は背理法により「素数が無限にあること」を示しているが、具体的に素数を構成する「アルゴリズム」を示したものではない、という事実です。
いやはや、勘違いから始まった自由研究でしたが、非常に勉強になりました。
「tsujimotter の素数生成術」なんて名前つけなくて、ほんとによかった。笑
参考文献
1. 「オイラーによる素数生成多項式」についてまともに書かれた、私が知る限り唯一の本です。素数生成多項式に限らず、数論の幅広い分野を網羅しており、かつ、文章は魅力的に綴られています。かなり難しい本ですが、読む価値は十分すぎるほどあります。
- 作者: パウロリーベンボイム,Paulo Ribenboim,吾郷孝視
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2. 基本的には「数論」の本なのですが、この本は「暗号理論」や「楕円曲線」などの応用によった本です。脚注に書いたミラー・ラビン法も詳しく載っています。分厚い本ですが、なかなか丁寧に書いてくれているので、分野外でも比較的読みやすい本かと思います。「はじめての」といいつつ、内容は非常に濃いのでしっかり勉強したい人向けです。
はじめての数論 原著第3版 発見と証明の大航海‐ピタゴラスの定理から楕円曲線まで
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