tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

FF5のレベル5デスと整数論 (2)

前回の「FF5のレベル5デスと整数論」の記事では、多くの方々に読んでいただくことになり、たくさんの反響がありました。

「コラッツ予想に似てる」
「数式部分はよくわからなかったけど面白い」
「数学的な考察の勉強になった」
「授業の教材としても使えるかも」
「算術士の考察もしてほしい」→そういうのがあるらしい!
などなど

普段は数学好きな人が読者の大半だと思いますが、前回の記事についてはFFファンやゲームファンの人にも届いたようで、想定外の反応があり面白かったです。

たとえばこんな感想。

なるほどなと思いました。青魔法の独特な効果は、こんな印象を与えるのか。

ほかにも。

FF5では、レベル系魔法など面白いシステムが搭載されていますが、これらを組み合わせた攻略はきっと開発スタッフも想定されていると思うのですよね。

ゲームバランスを考えると、普通だったらボスには効かないようにうまく調整したりするものですが、こうした穴をあえて残しているところにFFスタッフの遊び心が隠されているように思います。こうした余地があるからこそFF5は多くの人を惹きつけるのかもしれないなと思いました。


あらすじ

さて、今日は前回の続きです。
(記事の内容を前提に進めるので、読んでない人は先にどうぞ。)
tsujimotter.hatenablog.com

前回の記事では、ステップ数  S(n) という概念を導入して、 S(n) = \infty すなわちレベル5デス不可能なレベル  n を求めました。そのような  n は無数に存在することが示されて、大変興味深い結果となりました。


今日考えたいのは、 S(n) が有限、すなわちレベル5デス可能なケースについてです。

前回「 S(n) が最大となる  n はいくつか?」という問いを立てましたが、結論から言うと今回は以下を示すことができました。

任意の正整数  N に対して、 S(n) = \infty ではない正整数  n が存在して
 S(n) \geq N

が成り立つ。

つまり、 S(n) はいくらでも大きな値をとるということです。前回  S(n) = \infty なる正整数  n が無限に存在することは示していますので、それらをすべて除いたとしても、いくらでも大きな  S(n) を取れることをいっているわけです。

 S(n) が最大となる  n はいくつか?」 という問いに対して、
「最大は存在しない」 という結論が得られたわけですね。

証明

それでは、上の命題を証明しましょう。証明の方針は前回  S(n) = \infty なる正整数  n の無限性を示したときとほぼ同じです。

数列  (a_k)_{n=1}^{\infty} についての漸化式

 a_{k+1} = 2a_{k}+1

の一般項を求めます。両辺に  1 を加えると

 a_{k+1} + 1 = 2(a_{k}+1)

となり、数列  (a_k + 1) は公比  2、初項  a_1 + 1 の等比数列になります。したがって、

 a_{k} + 1 = (a_1 + 1)2^{k-1}

より一般項

 a_{k} = (a_1 + 1)2^{k-1} - 1

が得られます。


さて、 k \geq 1 に対してレベルの系列  (a_k) を考えたいと思います。この系列は、初項  a_1 を除いてすべて奇数となります。したがって、レベル2オールドは使えません。

もし任意の  k \geq 2 に対して  a_k が5の倍数でなければ、レベル  a_k の相手にレベル5デスは使えません。したがって、使用できるのは黒の衝撃だけとなります。

今、 a_1 がレベル5デス可能だと仮定すると、 S(a_1) が有限の値となります。 k \geq 1 に対して  a_{k+1} には黒の衝撃  K しか使えず

 K( (a_{k+1}, F) ) = (a_k, F)

が成り立つため

 S(a_{k}) = S(a_1) + k - 1

が得られます。

したがって、もし下線部「もし任意の  k \geq 2 に対して  a_k が5の倍数でなければ」が成り立つような初項  a_1 を見つければ、いくらでも  S(n) が大きな  n を作り出せます。


ここで  a_1 \equiv 4 \pmod{5} としましょう。すると

 a_k \equiv (4 + 1)2^{k-1} - 1 \equiv -1 \pmod{5}

となり、 k \geq 2 に対して  a_k は5の倍数ではありません。


したがって、 a_1 \equiv 4 \pmod{5} として、 S(a_1) = \infty ではないものを選べば良いでしょう。たとえば、 a_1 = 14 とします。すると、

 S(14) = 4
 S(29) = 5
 S(59) = 6
 S(119) = 7
 S(239) = 8
 \vdots

のようにいくらでも大きな  S(n) を作ることができます。

すなわち、任意の  4 以上の正整数  N に対して、

 n \geq a_{N + 1 - S(14)} = 15\cdot 2^{N-S(14)} - 1

なる正整数  n をとると、 S(n) \geq N を満たします。よって命題が示されました。

証明終わり!

おわりに

 S(n) の最大値が存在しない」という命題を、前回とほぼ同じ論理で示すことができました。面白いですね!レベル5デス可能性について、随分と理解が深まった気がします。

それでは今日はこの辺で。


おまけ:レベル5デス不可能なボスモンスター

 S(n) = \infty になるようなレベル  n を持つボスモンスターを @milkcan77777 さんという方が調べてくださいましたのでご紹介します。

レベル79のボスはいないのですね!

上のツイートからわかるように S(n) = \infty 該当するボスは少ないため、ほとんどのボスに「黒の衝撃」「レベル2オールド」「レベル5デス」のコンボは使えるようです。

ちなみに、FF5のラスボスのエクスデスですが、一度目に「エクスデス城」で登場するときはレベル66です。この場合は、「レベル2オールド」をかけて10フレーム待ってから「レベル5デス」で倒すことができます。この方法は、TAS(tool-assisted speedrun)の動画でも実際に使われているのを見ました。

二度目に「次元のはざま」で登場するエクスデスとネオエクスデスは、それぞれレベル77と81です。レベル77の方は、「黒の衝撃」「レベル2オールド(30フレーム)」「レベル5デス」で倒すことができます。レベル81の方は、レベル66のときと同様です。

なお、ボスのレベルやステータス一覧はこちらのページ等で調べることができます。今後、研究したい方はどうぞ。笑
omoteura.com

おまけ2:サムソンパワー

コメントがかなりあったので、もう一つ補足です。

FF5には「調合」というシステムがあって、アイテムを組み合わせて新しいアイテムを錬成することができます。その新しいアイテムに「サムソンパワー」「ドラゴンパワー」があります。それぞれ、対象のレベルを  +10, +20 させるアイテムです。

コメントで「サムソンパワーを使うとどうなるのか?」という質問がたくさんあったのですが、これを使うとなんと 任意のレベル の相手をレベル5デスによって倒すことができます。やってみましょう。

なお、前回注釈で書いた通り、FF5のレベルは255が最大値になるようなので、サムソンパワーを繰り返すといずれレベル255になり、任意の相手に対してレベル5デスが直接適用できます。

今回はレベルの上限がないと仮定して考えてみましょう。


そもそも、レベル5デス不可能なレベルは

 1, 2, 3, 4, 7, 9, 19, 39, 79, 159, \ldots

という系列なのでした。これらのレベルについて検証すれば十分です。

まず、 1, 2, 3, 7 +10 すると  11, 12, 13, 17 となりレベル5デス可能となるのでOK。

残りの  1, 2, 3, 7 を除く  4, 9, 19, 39, 79, 159, \ldots の系列は、すべて  a_k = 5\cdot 2^{k-1} - 1 という形をしていることに注意します。

 k \geq 3 では、階差は

 a_{k+1} - a_k = (10\cdot 2^{k-1} - 1) - (5\cdot 2^{k-1} - 1) = 5\cdot 2^{k-1}

となり、明らかに  10 を超えます。つまり、サムソンパワーを1回使えばレベル5デス可能なレベルにできます。

 k = 1, 2 のときは  a_1 = 4, a_2 = 9 ですが、それぞれ  a_1 + 10 = 14, \; a_2 + 20 = 29 とすればレベル5デス可能なレベルとなります。

以上で、サムソンパワーを使って任意のレベルに対してレベル5デス可能なレベルにできることが証明できました。