読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

正十七角形は作れる

数学 アドベントカレンダー 幾何学 代数学 ガウス

この記事は 明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダー の 17 日目の記事です。( 16 日目:積と微分とデルタ関数


「かわいいは作れる」というような CM のキャッチコピーが一時期流行りました。それに合わせて「本当に化粧によってどこまで人は変れるのか」を検証するような YouTube の動画が、インターネット上で流行したことを覚えています。要するに化粧品によって「何が作れて、何が作れないのか」を調べたということですが、これらは数学ではなく美容に関する豆知識です。

同じような話は数学でもあって「何が作れて、何が作れないのか」という「できることとできないことの境界を示す」ようなことは、数学的にも非常に重要な考え方の1つです。

その最たる例は、以前「二次方程式の解の公式の別の見方」でお話したような方程式の解の公式でしょう。アドベントカレンダーで私と交互に書いている End01nojo 氏の言葉 を借りれば、これは「係数から代数的演算で解を求めるゲーム」です。彼は同時に「特に5次以上の方程式は基本的に解けないクソゲーである」とも言っていますが。


さて今日は、方程式の解の公式ではない、別の数学ゲームについてのお話です。方程式の解の公式はローマ時代に流行ったゲームですが、今回のゲームはそれより昔の古代ギリシャから存在するゲームです。古典中の古典。ゲームの中でも特に、いわゆる「縛りプレイ」に属するゲームといってよいでしょう。

そのゲームの名は

「定規とコンパスを使った作図」
です。

今回は、このゲームの中でも特に難易度の高い(ゆえに魅力的な) 「正十七角形の作図」 に挑みたいと思います。

ルール説明

「定規とコンパスを使った作図」は、以下の たった2つの道具だけ を使って、任意の図形を作図できるか、というゲームです。

1. 定規・・・ある2つの点が与えられたときに、その2点を通る直線を引くことができる
2. コンパス・・・与えられた2点間の長さを測り取って、その長さを半径とし、与えられた1点を中心とする円を描くことができる

一般に「作図」というと、文字通り図を描くこと、なので定規とコンパスに限らず分度器やコンピュータなど何でも使ってもいいはずです。一方「定規とコンパスを使った作図」は、これら2つしか使うことができないので、「縛りプレイ」というわけです。

細かいことを言うと、上のルールだけではまだ不十分で、使用可能な点についての 次の 2つのルールが加えられます。

3. 最初に 2 つの点が与えられる
4. 作図においては、上記の 2 点のほかに、定規とコンパスによって得られた直線や円の同士の交点を用いることができる。

以上、4つが「定規とコンパスを使った作図」のルールです。

「なぜ定規とコンパスだけなのか」という点は、一番疑問に思う部分だと思いますが、これには諸説あるようです。一番有名な話では、古代ギリシャ人はこれらの2つの道具は「神から賜った神器」と考えていたということが理由のようです。話を聞いてみると、これらの道具を使えばどんな図形をも描くことができると、少なくとも最初のうちは考えていたとか。

古代ギリシアの頃から知られていた、作図できる図形の例として「正五角形の作図」を紹介しましょう。次の GIF アニメの要領で作図することができます。

f:id:tsujimotter:20141218113339g:plain:w360


数学が発展するにしたがって、できることとできないことがだんだんとわかってきます。現代の数学においては、「定規とコンパスを使った作図で何ができて何ができないのか」という問題、すなわち「作図問題」は完全に解決したといっていいでしょう。

次の項では、ギリシャ時代から現代までタイムスリップして、作図問題について既にわかっていることを簡単に解説しましょう。

定規とコンパスで「計算」ができる

作図問題について、まずはじめに気になるのは、どんな「長さ」が作図できて、どんな「長さ」が作図できないのか、という点です。

今さらっと「長さ」と申し上げましたが、「長さ」というよりは、その「長さ」を作る「数」が作図できるかどうか、が重要です。したがって、作図問題の世界では「数」をいかに作図できるか、という風に考えます。

定規とコンパスで作図できる数のことを 「作図可能数」 といいます。この言葉を使えば、作図問題は「いかなる数が作図可能数であるか」という問題であると言い換えることができましょう。

このように言い換えて作図問題を考えると、図形の問題というよりは、数の性質の問題のように見えてきます。その直感は的を射ていて、作図問題とは、実のところ「数とその間の計算についての問題」なのです。「長さ」を「数」と置いたように、作図の手順そのものは「数と数の計算」に置き換えることができます。

たとえば、例として定規とコンパスを使った「足し算」を挙げましょう。以下の図では、  a b を与えられた数として、作図により  a+b=c が計算できることを表しています。

f:id:tsujimotter:20141217033720p:plain:w480

そして、次の点が最も重要なのですが、作図の手順でできる計算は 「四則演算」「ルート」 の 2 つに限られます。これらの計算の組み合わせ以外に、作図によって実現できる計算はありません。


「本当に四則演算とルートが計算できるの?」という疑問はあるかと思います。その疑問に答えると、さらに1つ記事ができてしまいますので、今回は止めておきます。どうしても知りたい方は、tsujimotter が作った次のスライドをご覧になってください。(100スライド以上あるので、この記事を読み終わってお時間あるときにどうぞ。)


今日一番話したいのは、「正十七角形」は作図可能である、という話です。

正十七角形は作れる

ようやくタイトルの話に戻ってきました。

「正十七角形が作れる」すなわち「正十七角形は作図可能である」ということをはじめて示したのは、19 世紀最大の数学者と謳われた「カール・フリードリヒ・ガウス」です。彼の発見までの間、つまり古代ギリシャ時代から始まって 19 世紀までの間、作図可能だと考えられていた「正素数角形」は、「正三角形」と「正五角形」のたった 2 つでした。それ以外の「正素数角形」は作図できないと思われていたのです。

ガウスは、彼が 19 歳を迎えた翌月のある朝、突然ふと「正十七角形が作図できる」というアイデアに到達したそうです。「正七角形」や「正十一角形」が作図できないのに、もっと角の数の多い「正十七角形」は作図できるというのだからとんでもない話です。彼はこの天啓をきっかけに、数学者を志すことを決めます。


次の数式は、ガウスが「正十七角形が作図できる」ことに気づく、きっかけとなる式です。

ガウス青年の導いた公式:


 \displaystyle \begin{eqnarray} \cos{\frac{2\pi}{17}} = &-&\frac{1}{16} + \frac{1}{16}\sqrt{17} + \frac{1}{16}\sqrt{2(17-\sqrt{17})} \\ &+& \frac{1}{8}\sqrt{17 + 3\sqrt{17} - \sqrt{2(17-\sqrt{17})} - 2\sqrt{2(17+\sqrt{17})}} \end{eqnarray}

どうです、美しいでしょう。この式は tsujimotter の中で「思わず黒板に書きたくなる数式ベスト5」に入る数式なのです。・・・といってもよくわからないかもしれません。式の意味するところが理解できれば、この美しさもより明らかになりましょう。

左辺が  \displaystyle \frac{2\pi}{17}、つまり、円を  17 等分した角のコサインを表していて、右辺はその数がどのような計算によって得られるかを表しています。

右辺の計算は、ルートが入れ子になって非常に複雑です。見るべきポイントは、この数が「四則演算とルートだけで表現されている」という点です。すなわち、 \displaystyle \cos{\frac{2\pi}{17}} は作図可能数です。重要なので、以下にまとめておきましょう。

1796年、ガウス青年の発見:

 \displaystyle \cos{\frac{2\pi}{17}} は作図可能数である。


この事実がなぜそんなにうれしいのか。
それを説明するために、 \displaystyle \cos{\frac{2\pi}{17}} を正十七角形の中に書き表してみましょう。ちょうど、★の部分に相当します。

f:id:tsujimotter:20141217201305p:plain:w380

この★の長さを作図できれば、その右端を通る垂線を描いてあげて、その垂線と円との交点をとることで、正十七角形の一辺が作図できます。あとは、その長さをとって、円周に等間隔に(17 回繰り返して)しるしをつけてあげれば、正十七角形の各点が作図可能になる、という寸法です。


実際に作図する手順は、これまた文章が長くなるので、今回は避けたいと思います。ともかくあの  \displaystyle \cos{\frac{2\pi}{17}} が「四則演算とルート」で表現可能であり、作図可能数であるから、作図できるかどうかは作図せずともわかるのです。

「どうしても手順が気になる」というあなたは、以下の tsujimotter の旧ブログ記事をご覧になってください。すべての手順を丁寧に解説してあります。この記事があるために、tsujimotter はいつまでも旧ブログを削除できないのです・・・。

関連する tsujimotter 旧ブログの記事:正十七角形の作図

作図ツールも作れる

ここまでは「正十七角形が作図可能かどうかは、作図するまでもなくわかるぜい」という話だったわけですが、せっかく勉強したのだから実際に作図してみたいと思うのが人情です。

ところが、作図を実際に試みると、これがなかなか困難な作業であることに気づきます。先に挙げたブログによれば、手順が 13 もあるわけですが、単に手順が多いだけが問題ではないようです。

どうも精度が非常にシビアなのです。これは、正十七角形の作図を紙の上でトライしたことがある方にしか、なかなかわからないことです。最初のほうに作図された数、その数を繰り返し使っていくわけですが、その繰り返しにより徐々に誤差が積み重なっていき、最後には発散してしまうのです。そうならないためには、点や線を機械のように正確に描く必要があります。でもそんなこと、人間にはなかなか難しいですね。


そこで、機械のように正確な作図を行うことができるよう、交点を自動で計算し、人の手による作図を支援するソフトウェアを tsujimotter が開発しました。

その名も 「Heptadecagon」 です!

「Heptadecagon」は、英語で「正十七角形」のことです。このツールは、私自身が正十七角形をきれいに書く、ただそれだけのために作ったツールです。私以外の人にはなかなか使いづらいかもしれませんが(そもそもニーズがあるのかわかりませんが)、何が起こるのかわからないのがインターネットなので、一応あげておきましょう。以下のリンクからダウンロードできます。

作図支援ソフトウェア「Heptadecagon」ダウンロードはこちら:
Heptadecagon.jar - Google ドライブ

ダウンロードされた「Heptadecagon.jar」というファイルをダブルクリックすると、ソフトウェアが起動します。Windows 8 以外で試していませんので、ほかのコンピュータでの動作は保証しません。


せっかくなので、このツールを使って「正十七角形を本当に作ってみた」というデモンストレーションを YouTube 上にあげてみました。使い方はこれを見て理解してもらえるとうれしいです。


ソースコードはこちらの Github にあげてあります。はじめに断わっておきますが、ソースコードは非常に醜いですよ。見てもいいですが、文句は厳禁です。笑

GitHub - junpeitsuji/Heptadecagon.java

おわりに

というわけで、今日のまとめは、冒頭のCMの真似するならば、

「正十七角形は作れる」
「作図ツールも作れる」
の2点でした。


今日も読んでくださってありがとうございます。感想がありましたら、ぜひ↓まで。

「明日話したくなる数学豆知識」は明日も続きます。tsujimotterの投稿は、明後日はお休みして、次回は21日ぐらいになる予定です。お楽しみに。

参考文献

作図についてはこの本がバイブルです。まずはここから始めましょう。ちなみに「定規」ではなく「定木」となっているのは、誤植ではありません。ちゃんと理由があるのだそうです。

定木とコンパスで挑む数学―四則演算から作図不能問題まで (ブルーバックス)

定木とコンパスで挑む数学―四則演算から作図不能問題まで (ブルーバックス)

関連記事

正十七角形が作図できるように、折り紙では正七角形がつくれるのです。