tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ヘロンの三角形と連分数

今日の話題は、数学のお兄さんこと横山明日希さんによるこちらのツイートから。


辺の長さが整数723、724、725で構成される正三角形に近い三角形の面積は、なんと整数226974になる

三角形の3辺 723, 724, 725はすべて整数で、かつ、面積も整数です。

「こんな三角形どうやって見つけるの?」

というのが今日のテーマです。


実は、連分数 を使うと見つけることができます。これが今日一番の面白ポイントです。

tsujimotterはちょうど最近、連分数にはまっていまして、その意味でもグッドなタイミングでこのお話を知ることができました。

よろしければお付き合いください。


ヘロンの公式とヘロンの三角形

三角形の3辺の長さがわかっているとき、面積を求めることのできる公式が ヘロンの公式 です。

3辺の長さを  a, b, c とします。ここで

 \displaystyle s = \frac{a + b + c}{2}

とおきます。すると面積  S

 \displaystyle S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}

と表せます。これがヘロンの公式でした。


ここで、すべての辺の長さが整数で、かつ、面積も整数であるような三角形、すなわち

 a, b, c, S \in \mathbb{Z}

であるような三角形のことを ヘロンの三角形 といいます。

問題設定

今回考えたいのは一般のヘロンの三角形ではなく、3辺の長さが長さの差がそれぞれ 1 ずつ離れているような三角形です。

つまり、 n を自然数として

 a = n-1, \; b = n, \; c = n+1

としたときの面積  S、すなわち

 \displaystyle S = \sqrt{s(s-(n-1))(s-n)(s-(n+1))} \tag{1}

が整数であるような条件を求めよ、という問題です。

式を計算して、同値な条件を見つけていきましょう。


 s = \{(n-1) + n + (n+1)\}/2 = 3n/2 を代入すると

 \displaystyle S = \sqrt{\frac{3n}{2}\left(\frac{3n}{2}-(n-1)\right)\left(\frac{3n}{2}-n\right)\left(\frac{3n}{2}-(n+1)\right)}

となります。

これを変形していきましょう。

 \displaystyle \begin{align} S &= \sqrt{\frac{3n}{2}\cdot \left(\frac{n}{2}-1\right)\cdot \frac{n}{2}\cdot \left(\frac{n}{2}+1\right)} \\
&= \sqrt{\frac{3n^2}{4} \cdot \left(\frac{n}{2}-1\right) \cdot \left(\frac{n}{2}+1\right)} \\
&= \sqrt{\frac{3n^2}{4} \cdot \left(\frac{n^2}{4}-1\right)} \\
&= \frac{n}{4}\sqrt{ 3 (n^2-4)}  \end{align}


ヘロンの三角形である条件は、 S \in \mathbb{Z} でした。 S \in \mathbb{Z} は、以下の条件と同値であることがわかります。

 3 (n^2-4) \; は平方数,かつ, n\sqrt{3 (n^2-4)} が 4 の倍数


 S \in \mathbb{Z} のとき、 3 (n^2-4) が平方数であることから、 m \in \mathbb{Z} を用いて

 3 (n^2-4) = m^2 \tag{2}

とおくことができます。

 (2) の左辺は3の倍数なので、 m^2 は3の倍数であり、 m も3の倍数になります。したがって、 m = 3k とおくことができます。

 3 n^2- 12 = (3k)^2

両辺3で割って

 n^2- 4 = 3k^2

が得られます。

また、次の議論により  n, k は偶数になります。

もし  n が奇数だと
 1 \equiv 3k^2 \pmod{4}

となり両辺に3をかけて

 3 \equiv k^2 \pmod{4}

となりますが、このような  k は存在しません。

よって、 n が偶数になりますが、 n が偶数のとき  k も偶数であるため、 n, k はともに偶数であることがわかります。

これにより、 n\sqrt{3(n^2 - 4)} = nm = 3nk は 4 の倍数になります。

すなわち、「 3 (n^2-4) は平方数」であるとき、自動的に「 n\sqrt{3 (n^2-4)} が 4 の倍数」が成り立つことがわかります。


 n, k は偶数より  n = 2x, \; k = 2y とおくと

 4x^2 - 4 = 12y^2

となります。整理すると

 x^2 - 3y^2 = 1 \tag{3}

が得られますが、これは ペル方程式 と呼ばれる方程式です。


以上の議論をまとめるとこうなります。

 \begin{align} S \in \mathbb{Z} \;\; & \Longleftrightarrow \;\; 3 (n^2-4) \; \text{は平方数,かつ,}\; n\sqrt{3 (n^2-4)} \; \text{が 4 の倍数} \\
&\Longleftrightarrow \;\; 3 (n^2-4) = m^2 \; \text{なる整数}\; m \; \text{が存在する} \\
&\Longleftrightarrow \;\; x^2 - 3y^2 = 1 \; \text{なる整数}\; x, y \; \text{が存在する} 
\end{align}


辺の長さを  n-1, n, n+1 とするヘロンの三角形を求める問題を、ペル方程式

 x^2 - 3y^2 = 1 \tag{3}

の整数解  x, y を求める問題に帰着することができました。

連分数を用いた解法

上で得たようなペル方程式の整数解は、連分数を用いて計算することができることが知られています。

ペル方程式の一般論はとても面白いので、そのうちこのブログでも書きたいと思うのですが、今回の話に限っていえば以下が成り立ちます。


まず、 \sqrt{3} の連分数展開を考えます。

 \sqrt{3} = 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{\ddots}}}}}}} \tag{4}


この連分数は、分数の中に分数が無限に入れ子になった構造になっています。これを途中で打ち切ったものを考えます。

すると次のような分数の列が得られます。

 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1} = \frac{2}{1}
 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2}} = \frac{5}{3}
 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{1}}} = \frac{7}{4}
 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2}}}} = \frac{19}{11}
 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1}}}}} = \frac{26}{15}

このようにして得られた分数の列

 \displaystyle \frac{2}{1}, \frac{5}{3}, \frac{7}{4}, \frac{19}{11}, \frac{26}{15}, \ldots

は、 \sqrt{3} に収束します。これが式  (4) の意味するところです。


さて、上の分数列の各項を  \cfrac{x}{y} と表したとき、 x^2 - 3y^2 を計算してみましょう。

 2^2 - 3\cdot 1^2 = {\bf 1}
 5^2 - 3\cdot 3^2 = -2
 7^2 - 3\cdot 4^2 = {\bf 1}
 19^2 - 3\cdot 11^2 = -2
 26^2 - 3\cdot 15^2 = {\bf 1}

1つおきに  x^2 - 3y^2 = 1 が成り立っていることがわかります! このようにしてペル方程式の整数解が得られるのです。

今回の記事では示しませんが、上のようにしてペル方程式  x^2 - 3y^2 = 1すべての整数解 が得られることが知られています。すごいですね。


得られた解  x, y に対して先ほどの議論を逆に辿ることで、式  (2) の解  n, m を得ることができます。

 n = 2x, \;\; m = 6y

ここから、面積  S

 \displaystyle S = \frac{nm}{4}

として得ることができます。


なお、連分数展開を続けることで、ペル方程式の無数の解を得ることができるため、目的の条件を持つ三角形は無数に存在する ことが示せます。面白いですね。

ヘロンの三角形 (723, 724, 725) を求めよう

上記のペル方程式の解から、3辺の長さが  (n-1, n, n+1) という形になるヘロンの三角形を求めていきましょう。


 (x, y) = (2, 1) のとき、 (n, m) = (4, 6) です。このとき、3辺の長さは  (3, 4, 5) となり、面積は  S = 6 となります。たしかにヘロンの三角形になっています。

ちなみに、この場合の三角形はいわゆるピタゴラスの三角形になっていますね。

 (x, y) = (7, 4) のとき、 (n, m) = (14, 24) です。このとき、3辺の長さは  (13, 14, 15) となり、面積は  S = 84 となります。

 (x, y) = (26, 15) のとき、 (n, m) = (52, 90) です。このとき、3辺の長さは  (51, 52, 53) となり、面積は  S = 1170 となります。


さて、ここまで3つのヘロンの三角形を見つけてきましたが、まだ冒頭に挙げたものは出てきていませんね。実は、次の次の連分数が、目的の三角形になります。

もう少しだけ連分数の計算を頑張ってみましょう。

 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1}}}}}}} = \frac{97}{56}

 97^2 - 3\cdot 56^2 = 1 となり、 (x, y) = (97, 56) としてペル方程式の整数解が得られます。

このとき、 (n, m) = (194, 336) です。3辺の長さは  (193, 194, 195) となり、面積は  S = 16296 となります。


最後にもう一つ計算しましょう。

 \displaystyle 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1}}}}}}}}} = \frac{362}{209}

 362^2 - 3\cdot 209^2 = 1 となり、 (x, y) = (362, 209) としてペル方程式の整数解が得られます。

このとき、 (n, m) = (724, 1254) です。3辺の長さは  (723, 724, 725) となり、面積は  S = 226974 となります。


ようやく、目的の三角形が得られましたね! お疲れ様でした!

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まとめ

今日は、3辺の長さがそれぞれ整数  n-1, n, n+1 であり、面積も整数であるような三角形を求める問題を考えました。

ヘロンの公式と整数論的な考察によって、目的の三角形の条件が

 3(n^2 - 4) が平方数

という条件と同値であることがわかりました。この式を変形することで、ペル方程式

 x^2 - 3y^2 = 1

の整数解  x, y を求める問題に帰着できました。

上記のペル方程式の整数解は  \sqrt{3} の連分数

 \sqrt{3} = 1 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{\ddots}}}}}}}

に対する近似分数の計算によって得られます。

結果として、目的の三角形が得られるというお話でした。


今回のような初等幾何的な問題に連分数が使えるというのは、とても面白いなと思いました。

それでは、今日はこの辺で。

参考

ja.wikipedia.org

「問題設定」の節の計算については、Tomohiro Yamada さんのツイート を参考にさせていただきました。