「ヒルベルトの定理90」という有名な定理があります。
今日はこの定理について紹介します。
が成り立つ。
定理のステートメントには「群コホモロジー」という概念が登場します。-加群 に対して,群コホモロジー は定義されます。
一方で,群コホモロジーの定義は,少々厄介です。正直なところをいうと,私もあまりよくわかっていません。群コホモロジーは抽象的な概念なので,意味を捉えづらいと感じているのですが,きっと重要な(そして面白い)概念なんだと思って勉強しています。
そんな中で「ヒルベルトの定理90があるとどう嬉しいか」について,少しだけわかった気がしたので紹介したいと思います。
1次の群コホモロジーの定義とヒルベルトの定理90の証明については,せきゅーんさんの以下の記事が大変参考になります:
integers.hatenablog.com
今日は,ヒルベルトの定理90の使い道として「クンマー理論への応用」を紹介します。実は,前回紹介した「クンマー理論」は,ヒルベルトの定理90を用いて導くことができます。
途中で難しい式変形もしますが,わからなければ「へぇ,こんな風に変形していくんだ」と読み飛ばして楽しんでいただければと思います。
(ところどころ自信のない箇所もありますので,勉強なさる際は鵜呑みにせずに専門書を当たってください。)
クンマー理論を導く
まず,クンマー理論の前提として, を1の 乗根 を含む標数 の体とし, を有限次ガロア拡大とする。
このとき,以下の完全系列が得られる(これをクンマー完全系列という)。
真ん中の は の元を 乗する写像である。
式 の系列に対して,ガロア群 に対するガロアコホモロジーの長完全列をとると,
を得る。 は蛇の補題によって得られる連結準同型である。
に対して,ガロア群 に対するガロアコホモロジーの長完全列をとると
が得られるそうです(たぶん)。
ガロア群 の作用は,
であるから,
が得られる。
ヒルベルトの定理90より, であるから
が得られる。
完全系列 の完全性から
がいえる。
が得られる。ここで,
である。
また, についての準同型定理より
である。
よって
が得られる。
また, より は に自明に作用するので,
が得られる。
したがって,式 と合わせて
が得られる。
一旦まとめよう。
このとき,
が成り立つ.
上の命題において, を指数 のアーベル拡大とすると(この場合,ガロア群 の任意の元の位数が を割り切る), が成り立って
が言えることになる。
も言えるらしい。
よって, として,クンマー理論の結論が復元できた。
やった!!
短いですが,今日はこの辺で。
補足
を の代数閉体として,
としたバージョンのものも見かけるので,関連について述べておきたい。 は の絶対ガロア群といって である。
とできるみたいである。よって, として同様に議論を進めていくと
が得られる。 より( のすべての元に対する 乗根は に含まれる)
として式 が得られる。
また, より は に自明に作用するので,
もいえる。
参考にしたもの
[1] http://www.math.uchicago.edu/~may/VIGRE/VIGRE2010/REUPapers/Harper.pdf
[2] https://www.cck.dendai.ac.jp/math/~t-hara/ss2014/pdf/fujii.pdf
[3] http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009-report.pdf
[4]
以下は,ガロアコホモロジーの長完全列の箇所についてだけ,一瞬参照しました(ほぼ読んでません)。
[5]
Galois Cohomology (Springer Monographs in Mathematics)
- 作者:Serre, Jean-Pierre
- 発売日: 2001/11/28
- メディア: ハードカバー