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tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

自由研究:楕円モジュラー関数がモジュラー関数であること

数学 解析学 自由研究 保型形式

最近は,長い間持っていた疑問の解消をきっかけとして,勉強がはかどって仕方ない tsujimotter です。1つの理解から数珠つなぎ的に,新たな疑問が沸いてきて,それを調べて理解する。するとまた次の疑問が沸いてきて・・・といった感じです。
こういう状態って一番楽しいですよね。

さて今日は,ブログでもたびたび登場する楕円モジュラー関数  j(\tau) についてのお話です。この関数について,以前より抱いていた疑問が解決しましたので,その話をしたいと思います。

注意:
今回のように「自由研究」とタイトルに付けられた記事は,tsujimotter がまさに勉強中の内容を「自信がないながらも」公開している記事となっています。
内容の正確性を保証しきれない点をご了承の上,必要があれば専門書をご参照ください。

楕円モジュラー関数  j(\tau) の定義

楕円モジュラー関数は,このブログの記事「ラマヌジャンの定数」や「モンストラス・ムーンシャイン」に登場しています。

これらの記事では, j(\tau) を定義せず  q-展開の式だけを紹介していました。 j(\tau) の本来の定義は,以下の式で与えられます。

 \displaystyle j(\tau) = 1728 \frac{g_2(\tau)^3}{g_2(\tau)^3 - 27 g_3(\tau)^2}


係数は置いておいて, \displaystyle g_2(\tau), g_3(\tau) という式によって構成されています。これらはワイエルシュトラスの楕円関数の「不変量」と呼ばれますが,次のように定義されます。

 \displaystyle g_{2}(\tau) = 60 \sum_{(m, n)\in \mathbb{Z}^2\backslash (0,0)}\frac{1}{(m+n\tau)^{4}}
 \displaystyle g_{3}(\tau) = 140 \sum_{(m, n)\in \mathbb{Z}^2\backslash (0,0)}\frac{1}{(m+n\tau)^{6}}

重要なのは後ろの級数の和の方で,これらは「アイゼンシュタイン級数」と呼ばれています。

アイゼンシュタイン級数は,複素数  \tau に対して定まる級数です。 G_{2k}(\tau) のように表記され,次の式で定義されます。

 \displaystyle G_{2k}(\tau) = \sum_{(m, n)\in \mathbb{Z}^2\backslash (0,0)}\frac{1}{(m+n\tau)^{2k}}

シグマ記号は「 (0, 0) を除くすべてのガウス整数に対して和をとること」を意味しています。

この級数が収束するのは  k \geq 2 に対してなので, G_4 が最初のアイゼンシュタイン級数となります。


この書き方をすると,不変量  g_2, g_3 を以下のように表すこともできるでしょう。

 \displaystyle g_2(\tau) = 60 \cdot G_4(\tau)
 \displaystyle g_3(\tau) = 140 \cdot G_6(\tau)


アイゼンシュタイン級数はモジュラーである

さて,このアイゼンシュタイン級数は「モジュラー形式」という際立った特徴を持っています。

モジュラー形式の定義は,難しくて私には説明できません。
簡単にかいつまんで述べると,アイゼンシュタイン級数は次のような性質を持っています。

 a, b, c, d\in \mathbb{Z} としたとき  ad-bc = 1 を満たすような一次分数変換

 \displaystyle \tau \to \frac{a\tau + b}{c\tau + d}

に対して  f(\tau) が以下の関数等式を満たす.

 \displaystyle f\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = (c\tau + d)^{2k} f(\tau)

べき乗の肩に乗っている  2k を,モジュラー形式の「重さ」と言います。

要するに,上に挙げたようなさまざまな変換に対して「似たような形を保つ」ぐらい「対称性をもった関数」であるということなのでしょう。


さて,アイゼンシュタイン級数  G_{2k} は,重さ  2k のモジュラー形式となります。したがって,このように表せます。

 \displaystyle G_{4}\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = (c\tau + d)^4 G_{4}(\tau)

 \displaystyle G_{6}\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = (c\tau + d)^6 G_{6}(\tau)


「アイゼンシュタイン級数がモジュラー形式であること」の説明は,以下のサイトの記事が詳しいので,ここで私がやるのはやめておきましょう。というか説明が大変そう。。。-数学- アイゼンシュタイン級数がモジュラー形式であること - Maxima で綴る数学の旅


当然ですが,最初の不変量も定数倍しただけなのでモジュラー形式ですね。一応書いておくと,こうなります。

 \displaystyle g_{2}\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = (c\tau + d)^4 g_{2}(\tau)

 \displaystyle g_{3}\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = (c\tau + d)^6 g_{3}(\tau)

 j(\tau) はモジュラー関数である

上の事実を使うと,楕円モジュラー関数  j(\tau) が「モジュラー関数」であることを説明できます。これまた,モジュラー関数という新しい単語が出てきましたが,例によって定義の紹介は省かせてください。

ここで言いたいことは,楕円モジュラー関数  j(\tau) は以下の性質を持っているということです。

先ほどの一次分数変換に対して,不変である.すなわち,以下の関数等式を満たす。

 \displaystyle f\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = f(\tau)

さっきより,係数が飛び出ない分,きれいな形になっていますね。今日示したいのは, j(\tau) がこの性質を満たすという点です。


何はともあれ, j(\tau) に変換をかけて,実際に計算してみましょう。

 \displaystyle j\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = 1728 \frac{g_2\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right)^3}{g_2\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right)^3 - 27g_3\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right)^2}

アイゼンシュタイン級数の性質も使っていきます。

 \displaystyle j\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = 1728 \frac{\left((c\tau + d)^4 g_2(\tau)\right)^3 }{ \left((c\tau + d)^4 g_2(\tau)\right)^3 - 27 \left((c\tau + d)^6 g_3(\tau)\right)^2 }

分母分子に  (c\tau + d)^{12} が現れるので,これをくくり出すと,

 \displaystyle j\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = 1728 \frac{(c\tau + d)^{12} g_2(\tau)^3 }{ (c\tau + d)^{12} \left( g_2(\tau)^3 - 27 g_3(\tau)^2 \right) }

これが打ち消し合うので,結局,

 \displaystyle j\left( \frac{a\tau + b}{c\tau + d} \right) = 1728 \frac{\cancel{(c\tau + d)^{12}} g_2(\tau)^3 }{ \cancel{(c\tau + d)^{12}} \left( g_2(\tau)^3 - 27 g_3(\tau)^2\right) } = j(\tau)

となり,求める関係が得られました。

きれいに打ち消しましたね!
 (c\tau+d) があまりにきれいに消えていくので,「まるではじめから狙っていたような不自然さ」さえ感じさせます。

なぜモジュラー関数なのか

「まるではじめから狙っていたような不自然さ」と言いましたが,これはどういうことでしょうか。その秘密は, (c\tau+d) のべき乗数を計算する過程にあります。

分母の  G_4 の関数等式から  4 乗が出てきて,それがさらに  3 乗されて  12 乗となりました。また, G_6 の関数等式から  6 乗が出てきて,それがさらに  2 乗されて  12 乗となります。
一方,分子も同様に, G_4 4 乗がさらに  3 乗されて,計  12 乗になっています。
これらがちょうど打ち消し合っているということです。

つまり,変換を適用したときにうまく打ち消し合うように,べき乗の数を調整して定義していたというわけですね。実際,うまく打ち消し合うような関数の作り方は,アイゼンシュタイン級数の組み合わせによっていくらでも作れそうです。

しかし, G_4,  G_6 4 6 の最小公倍数は  12 ですから,これがもっともシンプルな作り方だと言えましょう。 12 = 4\times 3 = 6\times 2 のように2通りの積が出来ることがポイントだったわけです。

楕円モジュラー関数  j(\tau) は,以下の文献によると,モジュラー関数の中で最も基本的な関数なのだそうです。たしかに,これを考えると非常に基本的な気がしてきますね。

楕円モジュラー関数 j(τ) のフーリエ係数
http://www.math.kobe-u.ac.jp/publications/rlm10.pdf

ちなみに上の文献によると,任意のモジュラー関数は  j(\tau) の有理式で表せるのだとか。面白いですね。

ラマヌジャンのデルタ

ところで, j(\tau) の定義における「分母」の式ですが,これもモジュラー形式となります。

具体的には,

 \displaystyle \Delta(\tau) = \frac{g_2(\tau)^3 - 27g_3(\tau)^2}{1728}

 \Delta(\tau) が,重さ  12 のモジュラー形式です。

この  \Delta(\tau) は,ラマヌジャンのデルタと呼ばれています。これはこれで,なかなか興味深い関数で, q-展開すると,そのフーリエ係数がラマヌジャンの  \tau 関数になります。 \tau 関数については,こちらの記事で述べましたので覚えている方もおられるかもしれません。

ラマヌジャンの L 関数 と 二次のオイラー積 - tsujimotterのノートブック


ラマヌジャンの  \tau は,乗法性を持っていたり,それを利用してオイラー積が作れたりと,非常に面白いですね。

こういったきれいな性質を持つのも,ある意味,モジュラー形式という対称性に裏打ちされた結果なのかもしれません。


ところで,なんで唐突に  27 が出てきたのか,と思った方もおられるかもしれません。その点について少し触れておきましょう。

 g_2^3 - 27 g_3^2 というこの数は,判別式ともよばれています。
その名の通り, g_2,  g_3 を使った次の3次方程式の判別式となっています。

 4s^3 - g_2 s - g_3 = 0

この式は,ワイエルシュトラス型の楕円曲線とも関係した重要な式なのですが,また別の機会にお話ししたいと思います。

とにかく, 27 という数は,適当に出てきた数ではなかったということですね。

まとめ

今日の記事では,タイトルの通り,楕円モジュラー関数  j(\tau) が「モジュラー関数」であることを示しました。

終わってみると,アイゼンシュタイン級数がモジュラー形式であること,が本質的でした。これをうまく人工的に組み合わせて出来たのが楕円モジュラー関数であると見ることが出来そうですね。人工的にといっても,もっとも簡単な方法で組み合わせたので,ある意味モジュラー関数の中で基本的であると言えるかもしれません。

次に気になるのは,この関数がなぜあのような  q-展開で表せるのか,という疑問ですね。これはまただいぶ勉強が必要な気もしますので,気長にやっていこうと思います。

ところで,後半にちらっと登場しましたが,今回の勉強がきっかけで,ワイエルシュトラスの楕円関数や楕円曲線の理論に興味がわいてきました。むしろ,先にそちらの話を書いてみたいなと思っています。

参考文献

モジュラー形式,モジュラー関数の話はこの本を参考にしました。

フェルマーの大定理が解けた!―オイラーからワイルズの証明まで (ブルーバックス)

フェルマーの大定理が解けた!―オイラーからワイルズの証明まで (ブルーバックス)

楕円モジュラー関数について,最初に雰囲気を理解できたのはこのPDFのおかげです。
ただし「正規化されたアイゼンシュタイン級数」を使っているので,若干式の形が違うことに注意。

楕円モジュラー関数 j(τ) のフーリエ係数
http://www.math.kobe-u.ac.jp/publications/rlm10.pdf

この本の9章・11章にわたって保型形式についてまとまっています。が,tsujimotter はまったく理解できていません。。。

数論〈2〉岩沢理論と保型形式

数論〈2〉岩沢理論と保型形式