tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

クロネッカー・ウェーバーの定理と証明のあらすじ(その1)

今日は,私の大好きな数式から話を始めたいと思います。

 \displaystyle \sqrt{5} = e^{\frac{2\pi i}{5}} - e^{\frac{4\pi i}{5}} - e^{\frac{6\pi i}{5}} + e^{\frac{8\pi i}{5}} \tag{1}


 (1) 式の左辺は平方根,右辺は円の5等分点  e^{\frac{2\pi i}{5}}, \; e^{\frac{4\pi i}{5}}, \; e^{\frac{6\pi i}{5}}, \; e^{\frac{8\pi i}{5}} となっていて,両者が一次結合の等式で結ばれるという非常に不思議な式なのです。


この式は図形的に解釈してみても面白いです。複素数平面に  e^{\frac{2\pi i}{5}}, \; e^{\frac{4\pi i}{5}}, \; e^{\frac{6\pi i}{5}}, \; e^{\frac{8\pi i}{5}} をおきましょう。 e^{\frac{2\pi i}{5}} e^{\frac{8\pi i}{5}} のベクトル, e^{\frac{4\pi i}{5}} e^{\frac{6\pi i}{5}} のベクトルをそれぞれ加えて,両者の差をとるとその長さが  \sqrt{5} となるのです。

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面白いでしょう?


代数的に考えてみるとまた新しい視点が得られます。 a, b\in \mathbb{Q} として, a + b\sqrt{5} \mathbb{Q}(\sqrt{5}) という代数体(いわゆる二次体)の任意の元を表しますが, (1) 式を使うと,

 a+b\sqrt{5} = a+be^{\frac{2\pi i}{5}} - be^{\frac{4\pi i}{5}} - be^{\frac{6\pi i}{5}} + be^{\frac{8\pi i}{5}}

となって,二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{5}) の任意の元が円分体の元として表せます。すなわち, \zeta_5 := e^{\frac{2\pi i}{5}} として

 \displaystyle \mathbb{Q}(\sqrt{5}) \subset \mathbb{Q}(\zeta_5) \tag{2}

がいえます。これは二次体が円分体に包含されることを意味しますね。

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さて,ここからが本題です。話を少し飛躍させましょう。

先ほどの法則は「 \mathbb{Q} の二次拡大が円分体に包含される」というものでした。逆に「円分体に包含されるような  \mathbb{Q} の拡大」はいったいどのような法則を満たす拡大体なのでしょうか。

すぐにわかることは, \mathbb{Q} 上の非可換な拡大体は,円分体の部分体とはなりません。円分体は  \mathbb{Q} 上のアーベル体だからです。なので,たとえば  \alpha, \beta, \gamma を三次方程式  X^3 - X^2 + 1 = 0 の解として  \mathbb{Q}(\alpha, \beta, \gamma) のような拡大体は円分体には包含されません(ガロア群  {\rm Gal}(\mathbb{Q}(\alpha, \beta, \gamma)/\mathbb{Q}) は非可換な群(3次の対称群  S_3)と同型になり, \mathbb{Q}(\alpha, \beta, \gamma)/\mathbb{Q} は非可換拡大となります)。


では, \mathbb{Q} 上の非可換ではない拡大体,すなわち  \mathbb{Q} 上のアーベル拡大体ではどうでしょうか。すなわち, \mathbb{Q} 上のアーベル拡大は,すべて円分体に含まれるでしょうか?

この問いに対し Yes!! と答えてくれるのが,

クロネッカー・ウェーバーの定理

です。

クロネッカー・ウェーバーの定理
 K \mathbb{Q} 上の有限次アーベル拡大としたとき,正の整数  N が存在して以下が成り立つ.

 \displaystyle K \subset \mathbb{Q}(\zeta_N) \tag{3}

ただし, \zeta_N は1の原始  N 乗根の一つで  \zeta_N := e^{\frac{2\pi i}{N}} とする.


今日から数回にわたって,このクロネッカー・ウェーバーの定理の証明のあらすじを紹介したいと思います。

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「あらすじ」と書いている通り,完全な証明には至ることができません。私の理解不足もあって,重要な箇所であっても詳細に踏み込んでいないところがいくつかあるかと思います。どうぞご了承ください。それでもどうしても書きたいくらい感動したのです。


この記事は,現代数学で尾崎学先生が連載されている「ガロア理論からみた現代数学」で紹介された内容を参考に書いています。該当回は2015年の6月から8月あたりです。

連載の中で紹介された証明は,Neumann による証明をベースにしているそうです。非常に面白いトピックを扱った連載なので,詳しい内容を知りたい方はぜひ購入して読んでみてください。

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ガウス和

まずは,冒頭で述べたような2次拡大のケースを考えましょう。

ガウス和と呼ばれる重要な式を定義します。 l を奇素数としたとき, \newcommand{\qr}[2]{\left(\frac{#1}{#2}\right)}

 \displaystyle G(l) := \sum_{a=1}^{l-1}\qr{a}{l}\zeta_{l}^{a}

と定義します。式をみれば明らかですが, G(l) \mathbb{Q}(\zeta_{l}) の元です。


ガウス和には,以下のような法則があって,二次体と関係するのです。

命題 1.1
奇素数  l に対応するガウス和  G(l) について以下が成り立つ:
 G(l)^2 = \pm l

ただし,右辺の符号は  l が 4n+1 型のとき正, l が 4n+3 型のとき負となる。

大事な定理なので証明もやりましょう。

(証明)ガウス和の定義を2乗する.
 \displaystyle G(l)^2 = \left( \sum_{a=1}^{l-1}\qr{a}{l}\zeta_{l}^{a} \right)\left( \sum_{b=1}^{l-1}\qr{b}{l}\zeta_{l}^{b} \right)

 b \to -b と置き換えても, 1 \leqq b \leqq l-1 の和のとり方は変わらないので,以下のように変形できる.

 \displaystyle \begin{align}(左辺) &= \left( \sum_{a=1}^{l-1}\qr{a}{l}\zeta_{l}^{a} \right)\left( \sum_{b=1}^{l-1}\qr{-b}{l}\zeta_{l}^{-b} \right) \\
&= \sum_{a=1}^{l-1}\sum_{b=1}^{l-1} \qr{-1}{l}\qr{ab}{l} \zeta_{l}^{a-b} \\
&= \sum_{a=1}^{l-1}\sum_{b=1}^{l-1} \qr{-1}{l}\qr{ab}{l} \zeta_{l}^{a(1-a^{-1}b)}
\end{align}

ただし, a^{-1} a^{-1} a \equiv 1 \pmod{l} なる  1 \leqq a \leqq l - 1 の元とする.

 z \equiv a^{-1}b \pmod{l} すると, 1 \leqq b \leqq l-1 に対して, 1 \leqq z \leqq l-1 を漏れなくダブりなく渡る.

 \qr{a^{-1}}{l} = \qr{a}{l} より

 \displaystyle (左辺)= \sum_{a=1}^{l-1}\sum_{z=1}^{l-1} \qr{-1}{l}\qr{z}{l} \zeta_{l}^{a(1-z)}

が成り立つので,和記号の順番を入れ替えて

 \displaystyle (左辺)= \qr{-1}{l} \sum_{z=1}^{l-1} \qr{z}{l} \sum_{a=1}^{l-1} \zeta_{l}^{a(1-z)}

とする.ここで, a に関する和に  a = 0 のときを加えた

 \displaystyle 1 + \sum_{a=0}^{l-1} \zeta_{l}^{a(1-z)}

は, 1 - z \equiv 0 \pmod{l} のときに0乗になって,それ以外は  l 乗根全体の和(すなわち,0)となるから

 \displaystyle 1 + \sum_{a=1}^{l-1} \zeta_{l}^{a(1-z)} = \begin{cases}
l & ( z \equiv 1 \pmod{l}) \\
0 & ( z \not\equiv 1 \pmod{l})
\end{cases}

これを代入すると

 \displaystyle (左辺)= \qr{-1}{l}\qr{1}{l}(l - 1) - \qr{-1}{l} \sum_{z=2}^{l-1} \qr{z}{l}

が得られる.ここで  l の平方剰余と平方非剰余の個数が一致するから

 \displaystyle \sum_{z=1}^{l-1} \qr{z}{l} = 0

が成り立つ.したがって

 \displaystyle (左辺)= \qr{-1}{l}\qr{1}{l}(l - 1) - \qr{-1}{l}(-1)

計算すると

 \displaystyle (左辺)= \qr{-1}{l}l

が得られる.すなわち

 \displaystyle G(l)^2 = \qr{-1}{l}l

となる.

ここで,平方剰余の第一補充則より

 \displaystyle \qr{-1}{l} = \begin{cases} +1 & (l \equiv 1 \pmod{4}) \\ -1 & (l \equiv 3\pmod{4}) \end{cases}

であるから,定理の主張が得られた.

本記事を書くにあたって,改めて上記の証明を書き下してみたのですが,絶妙に平方剰余についての法則を利用していることがわかります。ガウス和がうまく定義されていることがよくわかって面白いですね。


さて,以上のガウス和の定理を使うと,冒頭に述べた式  (1) を(ほぼ)示すことができます。 l = 5 とすると, l \equiv 1 \pmod{4} より

 G(l)^2 = l = 5

が得られます。よって,平方根をとって  G(l) の定義を書き下すと

 \displaystyle \qr{1}{5}\zeta_5 + \qr{2}{5}\zeta_5^2 + \qr{3}{5}\zeta_5^3 + \qr{4}{5}\zeta_5^4  = \pm \sqrt{5}

となります。 1, 4 5 の平方剰余, 2, 3 5 の平方非剰余であるから

 \zeta_5 - \zeta_5^2 - \zeta_5^3 + \zeta_5^4  = \pm \sqrt{5}

が得られます。右辺の  \pm の符号の決定以外は,式  (1) と完全に一致していますね。符号の決定はガウスを手こずらせた問題として有名ですが,今回は触れないでおきましょう。

今回考えたいのは上記の数を  \mathbb{Q} に添加した代数体についてです。その意味で,符号がどちらであっても変わりありません。また,式  (1) だけを考えたいのであれば,幾何学的に考えれば正であることは明らかです。


さて,奇素数を  l として, \sqrt{\pm l} という元はガウス和を用いて円分体の元として表せることがわかりました。

また, \sqrt{-1} = \zeta_4 より,上の符号が逆転していても

 \sqrt{\mp l} = \sqrt{-1}\sqrt{\pm l} \in \mathbb{Q}(\zeta_4, \; \zeta_l) = \mathbb{Q}(\zeta_{2^2 l})

として,円分体の元として表現できます。唯一の偶素数  2 であっても

 \sqrt{2} = \zeta_8 + \zeta_8^{-1}

がいえますから,素数の平方根についてはすべて円分体の元で表すことができます。


さらに,ルートの中身が素数でない場合,すなわち  \sqrt{\alpha} についても同様に考えることができます。 \alpha を平方因子を持たない整数としたとき

 \alpha = 2^d l_1 l_2 \cdots l_r

と素因数分解できます。このとき  l_i は奇素数で, d = 0, 1 です。

先ほどの議論により,

 \displaystyle \alpha = \pm \left( (\zeta_8 + \zeta_8^{-1})^{d} \prod_{i=1}^{r} G(l_i) \right)^2

と表すことができて

 \displaystyle \sqrt{\alpha} = \sqrt{\pm 1} (\zeta_8 + \zeta_8^{-1})^{d} \prod_{i=1}^{r} G(l_i)

とすることができますね。 \sqrt{\pm 1} については,正であればそのまま,負であれば  \zeta_4 に置き換えてあげればよいですね。これにより, \sqrt{\alpha} が円分体  \mathbb{Q}(\zeta_{2^{d'} l_1 \cdots l_r}) の元であることがわかりました。(ここで, d' d' = 0, 2, 3 のいずれかの値をとる整数です。)


 \mathbb{Q} 上の任意の2次拡大  K/\mathbb{Q} は,平方因子を持たない整数  \alpha を用いて  K = \mathbb{Q}(\sqrt{\alpha}) と表せるので,以上の議論により  K/\mathbb{Q} が2次拡大のケースにおいてはクロネッカー・ウェーバーの定理が成り立っていることが確認できました。


クロネッカー・ウェーバーの定理の証明は,この事実を遠く一般化していくことになります。しかしながら,この2次拡大のケースの方法は一般化においても大変役に立つのです。ガウス和の類似物はまた登場します。

具体例の計算

せっかくなので,少しだけ具体例の計算をしましょう。冒頭の  \sqrt{5} のケース以外にも,一般に  \sqrt{\alpha} に対して計算することができます。

 \sqrt{-7} の場合:

 7 4n+3 型の素数より

 \displaystyle G(7)^2 = -7

が成り立つ.左辺のガウス和を展開すると

 \displaystyle \left(\qr{1}{7}\zeta_7 + \qr{2}{7}\zeta_7^2 + \qr{3}{7}\zeta_7^3 + \qr{4}{7}\zeta_7^4 + \qr{5}{7}\zeta_7^5 + \qr{6}{7}\zeta_7^6\right)^2 = -7

となる。 1, 2, 4 7 の平方剰余, 3, 5, 6 7 の平方非剰余より

 \left(\zeta_7 + \zeta_7^2 - \zeta_7^3 + \zeta_7^4 - \zeta_7^5 - \zeta_7^6\right)^2 = -7

符号を確認することにより,

 \zeta_7 + \zeta_7^2 - \zeta_7^3 + \zeta_7^4 - \zeta_7^5 - \zeta_7^6 = \sqrt{-7}

が得られる。これは  \mathbb{Q}(\zeta_7) の元である。

 \sqrt{70} の場合:

 \begin{align} \sqrt{70} &= \sqrt{(-1)\cdot 2\cdot 5\cdot (-7)} \\
&= \zeta_4 \times (\zeta_8 + \zeta_8^7) \times G(5) \times G(7) \\
&= \zeta_4 \times (\zeta_8 + \zeta_8^7) \times (\zeta_5 - \zeta_5^2 - \zeta_5^3 + \zeta_5^4) \times (\zeta_7 + \zeta_7^2 - \zeta_7^3 + \zeta_7^4 - \zeta_7^5 - \zeta_7^6) \end{align}

 {\rm lcm}(4, 8, 5, 7) = 280 より

 \begin{align} \sqrt{70} = &\zeta_{280}^{70} 
  \times (\zeta_{280}^{35} + \zeta_{280}^{245}) \\
  &\times (\zeta_{280}^{56} - \zeta_{280}^{112} - \zeta_{280}^{168} + \zeta_{280}^{224})  \\
  &\times (\zeta_{280}^{40} + \zeta_{280}^{80} - \zeta_{280}^{120} + \zeta_{280}^{160} - \zeta_{280}^{200} - \zeta_{280}^{240}) \end{align}

あとはこれを展開すればよいから

 \begin{align} \sqrt{70} &=\zeta_{280}^{1}+\zeta_{280}^{3}+\zeta_{280}^{9}+\zeta_{280}^{11}+\zeta_{280}^{17}-\zeta_{280}^{19}+\zeta_{280}^{27}+\zeta_{280}^{33}-\zeta_{280}^{41}-\zeta_{280}^{43}\\
&+\zeta_{280}^{51}-\zeta_{280}^{57}-\zeta_{280}^{59}-\zeta_{280}^{67}+\zeta_{280}^{73}+\zeta_{280}^{81}+\zeta_{280}^{83}-\zeta_{280}^{89}+\zeta_{280}^{97}+\zeta_{280}^{99}\\
&-\zeta_{280}^{107}-\zeta_{280}^{113}+\zeta_{280}^{121}-\zeta_{280}^{123}-\zeta_{280}^{129}-\zeta_{280}^{131}-\zeta_{280}^{137}-\zeta_{280}^{139}+\zeta_{280}^{153}-\zeta_{280}^{163}\\
&+\zeta_{280}^{169}-\zeta_{280}^{171}-\zeta_{280}^{177}+\zeta_{280}^{179}+\zeta_{280}^{187}-\zeta_{280}^{193}-\zeta_{280}^{201}-\zeta_{280}^{209}+\zeta_{280}^{211}+\zeta_{280}^{219}\\
&+\zeta_{280}^{227}-\zeta_{280}^{233}-\zeta_{280}^{241}+\zeta_{280}^{243}+\zeta_{280}^{249}-\zeta_{280}^{251}+\zeta_{280}^{257}-\zeta_{280}^{267}\end{align}

よって,これは  \mathbb{Q}(\zeta_{280}) の元である。

「アーベル拡大」にどのように一般化するか

さて,ここからは一般の「アーベル拡大」を扱いたいのですが,これはどうすればよいでしょうか。

2次拡大の場合は, \mathbb{Q} 上の拡大を作るための具体的な元  \alpha が存在したので,これをとっかかりに話を進めることができました。しかしながら,一般のアーベル拡大に対して対応するアーベル拡大を作る元  \alpha を用意することができません。


この問題に対しては鮮やかな解決策が存在します。群論を使うのです。

 K/\mathbb{Q} が有限次アーベル拡大ということは,そのガロア群  \newcommand{\Gal}{{\rm Gal}} G := \Gal(K/\mathbb{Q}) は有限アーベル群になります。有限アーベル群には「有限アーベル群の基本定理」があって,実はその素性がよくわかっているというのがミソです。

有限アーベル群の基本定理
 G を有限アーベル群としたとき,素数  p_1, \ldots, p_r と正の整数  e_1, \ldots, e_r が存在して,以下のような同型が成り立つ.

 G \simeq (\mathbb{Z}/p_1^{e_1}\mathbb{Z}) \times \cdots \times (\mathbb{Z}/p_r^{e_r}\mathbb{Z})

上とガロア理論の基本定理を使うと,一般のアーベル拡大をガロア群が  G \simeq \mathbb{Z}/p^e \mathbb{Z} となる  p^e 次巡回拡大のケースに帰着することができます。やってみましょう。


アーベル拡大  K/\mathbb{Q} のガロア群を  G とします。 G は有限アーベル群なので,有限アーベル群の基本定理より

 G = H_1 \times H_2 \times \cdots \times H_r

とかけます。ここで, H_i p_i^{e_i} 次の巡回群です。

このとき, G から  i 番目の  H_i を抜いた群  G_i を考えます。

 G_i := H_1 \times \cdots \times H_{i-1}\times H_{i+1} \times \cdots \times H_r

これはもちろん  G の部分群になります。

 K/\mathbb{Q} の部分体で  G_i によって固定される体を  K_i := K^{G_i} とおくと, K_i/\mathbb{Q} はガロア拡大で

 \Gal(K_i/\mathbb{Q}) \simeq G/G_i \simeq H_i

となることがわかります。すなわち, K_i/\mathbb{Q} \mathbb{Q} p_i^{e_i} 次巡回拡大となります。

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また,合成体  K_1 K_2 \cdots K_r K に一致することもわかります。

 r = 2 の場合で示しましょう。以下のような図を考えます。
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ガロア理論の推進定理と  K_1 \cap K_2 = \mathbb{Q} を使って

 \Gal(K_1/\mathbb{Q}) = \Gal(K_1/K_1 \cap K_2) \simeq \Gal(K_1 K_2/K_2)

が成り立ちます。また, \Gal(K_2/\mathbb{Q}) \simeq H_2 で, H_1 \cap H_2 = \emptyset です。したがって,

 \Gal(K_1 K_2 /\mathbb{Q}) \simeq H_1 \times H_2

です。

また, K_1 \subset K かつ  K_2 \subset K より  K_1 K_2 \subset K です。

 \Gal(K_1 K_2 /\mathbb{Q}) \simeq \Gal(K /\mathbb{Q}) \simeq H_1 \times H_2

より, K_1 K_2 = K が得られます。( r > 2 のときも同様)


したがって,仮に  K_i \subset \mathbb{Q}(\zeta_{N_i}) が示されれば,

 K = K_1 K_2 \cdots K_r \subset \mathbb{Q}(\zeta_{N_1}, \; \zeta_{N_2}, \; \ldots, \; \zeta_{N_r}) \subset \mathbb{Q}(\zeta_{N_1 N_2 \cdots N_r})

となって( \mathbb{Q}(\zeta_{N_1}, \; \zeta_{N_2}, \; \ldots, \; \zeta_{N_r}) \mathbb{Q}(\zeta_{N_i}) たちの合成体),クロネッカー・ウェーバーの定理が証明されます。


したがって,以下の命題を示せば十分です。

命題 1.2
 K \mathbb{Q} 上の  p^e 次の巡回拡大としたとき,正の整数  N が存在して以下が成り立つ.

 \displaystyle K \subset \mathbb{Q}(\zeta_N)

ただし, \zeta_N は1の原始  N 乗根の一つで  \zeta_N := e^{\frac{2\pi i}{N}} とする.

以上の議論によって「一般のアーベル拡大」の問題が「 p^e 次の巡回拡大」に帰着されました。

予告

あとは, p^e 次の巡回拡大のケースを解くだけです。

実はここから先がもっと面白い・・・のですが,そろそろ10000字を超えてきましたので,続きはその2に任せたいと思います。


今日は簡単にこの先の予告をして終わりましょう。以下の2点を示すことになります:

  1.  K/\mathbb{Q} p^e 次巡回拡大としたとき, K(\zeta_{p^e}) = \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})(\sqrt[p^e]{\alpha}) を満たす  \alpha \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})^\times が存在することを示します。
  2. さらに,その  \alpha がある種のガウス和  G_i \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e l_i}) と1の  p^e 乗根  \zeta を使って  \alpha = \zeta(G_1 G_2 \cdots G_r)^{p^e} と書けることを示します。

以上の2つによって,

 \begin{align} K & \subset K(\zeta_{p^e}) \\ &= \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}, \; \sqrt[p^e]{\alpha}) \\ &\subset \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}, \; G_1 G_2 \cdots G_r, \; \sqrt[p^e]{\zeta}) \\ &\subset \mathbb{Q}(\zeta_{p^{2e}l_1 \cdots l_r}) \end{align}

が言えて,巡回拡大  K/\mathbb{Q} が円分拡大に含まれることが示されます。

すなわち,1. 2. が示されればクロネッカー・ウェーバーの定理の証明が完結します。


1. については,ラグランジュ・リゾルベントのようなものを使って代数的に証明します。2次拡大のときは, \sqrt{\alpha} を添加して  K/\mathbb{Q} が作れましたが, p^e 次拡大のときは単に  \sqrt[p^e]{\alpha} を添加するだけではうまくいきません。 \mathbb{Q} に1の  p^e 乗根すべてが入った体  \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}) を考えて,その上の拡大を考えることになります。このような拡大をクンマー拡大と言います。

2. については,非常に奥深い証明になります。おそらくこの部分がもっとも本質的な証明になるはずです。ガロア群を  G として群環  \mathbb{Z}[G] を考えます。この群環の元である Stickelberger元 と呼ばれる重要な対象が登場します。2. の証明には「Stickelberger元が素イデアルに作用するとガウス和が現れる」という性質を用いることになります。この辺りには「クンマー・ペアリング」という道具や「円分体の素イデアル分解法則」といった代数的整数論の知識をフルに活用します。ほぼすべてのパートにクンマーの名前が登場してきて「クンマーすげえ!!!」と思うことでしょう。


というわけで,非常に良いところで終わってしまいますが,今日はこのへんで。

そのうち続きを書きたいと思いますのでお楽しみに!