ご無沙汰してます。お久しぶりのブログ更新です。表題の数学勉強会の準備に専念していて、ブログの方に手が回りませんでした。
一ヶ月ぶりの記事は 2015年3月27日に開催された「プログラマのための数学勉強会」のレポート記事です。tsujimotter の発表テーマは「整数論」でした。この記事では、主に私の発表についてご紹介したいと思います。特に、この整数論のテーマを伝えるにあたって、工夫した点がたくさんありましたので、その点にフィーチャーしてまとめたいと思います。
関連記事(前回のレポート):
「第1回プログラマのための数学勉強会」で素数の話をしてきました - tsujimotterのノートブック
第2回プログラマのための数学勉強会
今回も募集の段階から、非常に大人気でした。45名の参加枠に対して、なんと200名もの応募がありました。
全5つの発表がなされました。今回もなかなか濃いプレゼンがそろったと思います。全体像が知りたい方は、以下のページに関連リンクをまとめましたので、ご覧ください。
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佐野さんのレポート:
次回は5月の末頃開催の予定だそうです。今回は、金曜の夜の開催でしたが、次回は土曜の予定です。これなら東京以外の方も参加しやすいかもしれませんね。
時計の世界の整数論
YouTube の動画と発表のスライドはこちらです。
(動画を上げてくださった小川さんに感謝!)
内容はぜひ動画やスライドを見ていただきたいと思います。
簡単に言うと、「剰余類環」の中で起きる「フェルマーの小定理」「原始根定理」「オイラーの基準」「平方剰余の相互法則」といった一見小難しい定理群を、「時計の世界」という言葉を一貫して使って平易に解説することを目指した発表になっています。
実は、上の文面は、佐野さんのレポートのほぼ丸写しなのですが、改めて考えると上のように集約されるような内容の話をしていたのです。他の人にレポートをまとめてもらうと、気づかされることが多いので面白いですね。
あと、今回は新しい試みとして「配布資料」を作りました。スライド内の各時計の表をまとめたものですが、これを使ってみなさんに手を動かして法則を見つけてもらいました。「整数論は手を使って遊ぶのが楽しい」という、次の項で述べる主張に関連します。
写真:手を動かして法則を探している様子
写真:会場の後ろの方では、関連書籍をおいてみました
整数論を伝えるにあたっての工夫点
特に「整数論をいかに伝えるか」という部分に主眼をおいて、下に挙げるような工夫を凝らしてみました。今後忘れないようにまとめておこうと思います。
まず、プレゼンの目的は「整数論の楽しみ方を知ってもらうこと」でした。
私のターゲットとしたのは、これまで積極的に数学に触れてこなかった人たち、すなわち非専門家です。特に数学とは公式を当てはめて問題を解くもの、と教わってきた人にとっては「数学を楽しむ」という発想はありません。だから、そもそもどうやって楽しんでよいのかわからないと思います。「こんな風に考えると数学を楽しむことが出来ますよ」というように、具体的に楽しみ方を提示することが大事だと考えました。
具体的には、以下の2つの方法を提示しました。
- 美しさを鑑賞すること。
- 手を動かして遊ぶこと。
1. に関しては「平方剰余の相互法則」という美しい法則があったので、これをいかに理解してもらえるかを考えれば良いですね。
2. は私が特に重要視した部分で、まさに整数論ならでは楽しみ方だと思います。微積分や幾何学などのほかの分野だと、専門的になればなるほど計算がややこしくなって、素人には手がつけられなくなります。そもそも記号の意味がよくわからない、などよくあるでしょう。一方で、整数論は比較的専門的な話でも手を動かして計算することが出来てしまうのが特徴です。
「自分でも手を動かして遊ぶことが出来る」ということは「あなたでも楽しめますよ」というメッセージを発信することにつながります。たとえば、今回紹介した「フェルマーの小定理」は、聴衆に発見してもらうことを意図して一番最初にいれました。「自分が発見した定理」はやっぱり愛着が沸きますよね。
「日曜数学」を推進する立場としては「数学の非専門家でも楽しめるのですよ」ということを伝えていくことは使命であると思っています。整数論は、そのような意味で日曜数学に適した分野だと思います。
上に書いた思惑を実現するために話の構成を工夫しました。まずイントロダクションでは、数学の楽しみ方として 1. と 2. の2つがあることを説明しました。次に説明したプレゼンのアウトラインでは、どのステップにおいて 1. と 2. が体験できるかを明示しました。STEP2「手を動かしてもらう」STEP3「鑑賞してもらう」のように、聴衆がどこで手を動かしてどこで鑑賞するのかを予め説明しておけば、気持ちの切り替えができるようになります。最後のまとめでは、改めて2つの楽しみ方をおさらいして「ちゃんと2つの要素を体験できましたよね」と確認して、満足感を持ってもらえるようにしました。
これらの工夫を盛り込んで作った結果、発表の準備に二ヶ月ぐらいかかってしまいました。笑
他の方の発表について
佐野さんの線形代数のプレゼン は本当に感激しました。行列式を最小限の式で定義し「やりたいこと・実現したいこと」を「仕様」というプログラマに親しみやすい言葉で表現していたのが素晴らしいと思いました。このような形で数学を表現したプレゼンは、佐野さんのもの以外に見たことがありません。
他の方の発表もみなさんとても熱い内容だったので、また今後のブログで参照していきたいと思います。
「プログラマのための」とは?
「プログラマのための数学勉強会」の「プログラマのための」とは一体なんだろうか。ぱっと思いつくのは「プログラミングに役に立つ」というものでしょう。3Dを描くための線形代数のような役に立つ要素技術もありますが、それだけではないと私は思うのですね。ちょうど佐野さんのレポートにも問題提起がありましたので、私なりの考えを述べたいと思います。
私は「プログラマたちが、自分たちの文脈でプログラマならではのやり方で数学を楽しむ」というのが「プログラマのための数学勉強会」なのではないかと考えています。
その意味では、線形代数の発表はまさにプログラマのフォーマットで数学を理解する話だし、ほかの発表もプログラマの興味を引くテーマが多かったように思います。
私の整数論は、一見プログラマには関係ないように見えますが、具体的な値を扱いながら全体像を徐々に把握していく感じはプログラマの人にはおなじみだし、親しみやすいフォーマットなのではないかなと思っています。整数論の問題は、Interger 型で容易に扱えるので、プログラミングしやすかったりするのも魅力的です。
まとめ
今回もとても楽しい会でした。幹事の平松さんも話していましたが「脳に汗が出るような」感じがしますね。サウナに入ったような心地よさがある不思議な時間です。発表する側も聞いている側も、充実した時間になったように思います。機会があればまたぜひとも発表したいです。
そういえば休憩時間中に、参加者の方から「角の三等分とか円積問題とかそういう話が聴きたい」というリクエストをいただきました。発表者の1人の方から「次はガロア理論ですね」というようなリプライをいただいたりしました。次回はそっち方面で行くかもしれませんし、そうでないかもしれません。笑
今後とも全力で数学の面白さを語っていきたいと思います。
最後になりましたが、素晴らしい会を開いてくれた佐野さん他、幹事のみなさま、発表者のみなさま、参加者のみなさま、動画や発表資料を見てくれたみなさまに感謝!!
あとがき:整数論をもっと勉強したい方へ
整数論の面白い話は、もちろん今回の発表の話だけではありません。もっと先に、更なる面白い領域があります。実は、これまでもこのブログで「平方剰余の相互法則」を前提とした話をいくつも紹介してきたのですが、肝心の法則そのものを解説してこなかったのですね。そのことがずっと気になっていました。今回のスライドを作ったことで、今後説明しやすくなるのが嬉しいです。「まず前提知識として、この動画を30分視聴してください」みたいに紹介することができますね。
ところで、今回のプレゼンでは「数式を極力使わずに」説明しました。その弊害として、専門の数学書や関連記事を見る際は、数式が出てきて整合性がとれないと感じてしまうかもしれません。その辺りも考えて、スライドの一番最後には、数式的な表現に突いて補足資料が用意されていますので、そちらを参考にしてもらえると嬉しいです。
最後に、参考文献を紹介させてください。
まずは、tsujimotter が大ファンの 加藤和也 先生の本2冊です。この本は、この分野の面白い部分を凝縮したような話が詰まっています。良い言葉が見つかりませんが「夢を与えてくれるような本」です。
- 作者:加藤 和也
- 発売日: 2012/11/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 作者:加藤 和也
- 発売日: 2012/06/22
- メディア: 単行本
kamiyama2 さんのこちらの動画も超オススメです。全12回のシリーズ物で、平方剰余の相互法則を証明しようという意欲作です。この動画は tsujimotter が四六時中見ている動画で、この動画にインスパイアされて整数論の発表をしようと決めたのでした。
こちらの id:TSKi さんのブログもぜひ見てください。タイトル下に以下のような文章がある通り、今回の整数論の話の続きの面白いところを、具体的な例を元に解説してくれていて、勉強したい気持ちを刺激してくれます。
初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。
tsujimotter のブログの関連記事は、次の4つ辺りかと思います。こちらも気合いを入れて書きましたので、お時間あるときにご覧いただけると幸いです。
tsujimotter.hatenablog.com