以下の記事でも告知していましたが、ニコニコ学会 第8回シンポジウム の数学セッションからオファーをいただいて講演をしてきました。無事終了しましたので、レポートとしてまとめたいと思います。
tsujimotter.hatenablog.com
はじめに断っておきますが、このレポート記事はとても長いです。書きたいことが溢れてしまって、しかも削れなかったので長々と書いています。よろしくお付き合いください。
1. はじめに
ニコニコ学会は、学会とはいえ、かなり興行的といいますか「人に見せること」に主眼をおいた会です。そのため「講演した」というよりは「出演した」という印象が強かった会でした。
写真:発表の様子
数学セッションの全体のテーマは「数のお遊戯・上級編 ~高校数学からリーマン予想まで」で、私はその中で 「リーマン予想」 を担当しました。
この様子はニコニコ生放送でもリアルタイムで放送されました。プレミアム会員であれば後からでもタイムシフトで視聴できるので、ぜひご覧ください。
ニコニコ生放送URL(数学セッションから):
第8回ニコニコ学会βシンポジウム~現実性を超えて~@ニコニコ超会議2015[DAY2] - 2015/04/26(日) 10:00開始 - ニコニコ生放送
発表後には、こんなコメント弾幕をいただきました。嬉しいですねえ!
残念ながら一般会員の方は、タイムシフト予約していなければ観られないようです。事前に知っていればよかったです。。。
早くニコニコ動画でアーカイブされないかなぁ・・・。|ω・)チラッ
追記:上に書いた部分は私の勘違いで「ニコニコ学会βのアーカイブは一般会員でもタイムシフト予約してなくても無期限視聴できる」そうです。一般会員の方で現在観れない場合も、また後ほどアクセスすれば観れるようになるそうです。お楽しみに。
スライドだけで観たい方は、こちらの SlideShare でご覧ください。
twitterでの様子は togetterにてまとめていただきました。これで盛り上がっている様子は伝わると思います。
togetter.com
2. 講演した内容
タイトルは「リーマン予想の遊び方」でした。「リーマン予想」と「遊び方」という2つの言葉を合わせたのは私が初めてではないでしょうか。笑
前半では「リーマン予想」をテーマに素数階段との関係を紹介しつつ、後半では関連する辻の作品を怒濤のように紹介する、という構成にしました。
以前から作っていたものが「リーマンの素数公式可視化アプリ」です。これについては、以前にもブログで紹介していましたね。
tsujimotter.hatenablog.com
発表のために作った新作は以下の3点です。
最初の作品は、ゼータ関数の3Dデータを出力するシステム「Zetaviz」です。
このデータを作るベースとなるコードは、以下の記事でも以前紹介しました。
tsujimotter.hatenablog.com
今回は「グラフを覆い尽くすポリゴンの座標と法線ベクトルを計算し、STLデータを生成するコード」を新たに加えました。
2つ目の作品は 「触れるゼータ関数」 です。わざわざ STL データを容易したのは、これがやりたかったからです。発表でも強調しましたが、おそらくゼータ関数を3D出力したのは、私が世界初でしょう。
最後の作品は 「素数階段(物理)」 です。これは「素数階段という概念上のものを物理空間に召還するための魔法」です。発表でも触れた通り、触っていることが実感できます。
この画像にある通り、作り方はのちほどブログでご紹介予定ですが、何を買ったらよいかだけ紹介しましょう。11 まで並べる場合は、このセットを3つ買えば十分です。ちょっと余りますが。
www.muji.net
かなりたくさんのものを作ったので、座長の方から「これだけで "研究してみたマッドネス" 出れるんじゃないの?」とも言われました。笑
来年はそっちでも出してみようかしら。
3. プレゼンのねらいと達成度
ここでは、プレゼンのねらいとその評価についてまとめてみたいと思います。
まず、発表時間はたった 10 分しかありませんので「うまく説明して分かってもらう」という点は早々に諦めました。「どんなメッセージに絞って伝えるか」が問題であり、これがプレゼンの成否を左右します。
今回与えられたテーマである「リーマン予想」は非常に専門的なトピックです。したがって、本来はなかなか 10 分で簡単に理解してもらえるようなものではありません。
一方で、リーマン予想は「ミレニアム問題」の1つでもあるので、こうしたエピソードから「表層的な部分をさらうだけ」であれば容易に話すことはできます。しかし、そんな話をしても、内容がよくわからないままでは面白くありません。私自身もきっと熱を込めて語れないでしょう。やはり、数学的に踏み込んだ議論は必要だと思いました。
とはいえ、聴講者には数学が得意でない人もいるので、そういった方に配慮しつつ最低限の数式を使って、逆に専門家の人にも面白いと思ってもらえるような、そんな絶妙なラインを目指してプレゼン作りに挑みました。
そこで考えたのが「私がなぜリーマン予想やゼータ関数をこんなにも愛していて、語りたがっているのかを伝える」ということです。その動機となる部分、すなわち「リーマンの素数公式」の魅力を伝えることを念頭に置きました。
肝心なのは、私の熱をありのままに伝えることです。ありのままに伝えるといっても、もちろん勢いに任せてしゃべるだけでは空回りしてしまいます。かといってまとめすぎると熱が冷めてしまう。重要な部分だけを残し、それ以外を削ぎ落として、熱い部分を浮き立たせる工夫が必要で、これがなかなか難しかったです。
以上をふまえて、以下のような「プレゼン達成目標」を考えました。
この目標に対する評価はなかなか難しいですが、ひとまず数学のそれほど得意でない知人に感想を聞いてみました。私の「異様なまでの数学愛」は伝わっていたようで、この辺は成功だったのかなと。
「予想される客層」の一番最後に挙げた「数学のガチ勢」に関してですが、実は想定していたターゲットが一人います。
私が普段からウォッチしている「素数Tシャツさん @shinchan_prime」という素数やゼータ関数の専門家の方です。実際、彼も観てくれて、しかもかなり興奮したツイートをしてくれました。彼の興奮っぷりは、こちらのまとめを見ていただければ分かるかと思います。
これほど満足してもらえたというのは、単純に嬉しかったですし、それにほっとしました。「いや、そんなの常識だし」みたいに言われたらどうしようかと思っていましたからね。笑
4. コメントに対する返答
たくさんいただいたコメントの中から、いくつか拾ってお返事したいと思います。
遊び相手がラスボスじゃねーか
まさに。笑
終わった後に座長の綾塚さんと一緒に笑っていました。
「うちでも講師やってほしい」
ぜひぜひ!!!「数学の話をしてくれ」と言われれば,だいたいどこへでも飛んでいきます!ブログコメントでも twitter でもメールアドレスでも,どの方法でも構いませんのでご連絡くださいませ。2015/05/02追記しました。
「ゼータツリー」
ゼータ関数の図の中心にあるトンガリのことですよね!いやぁ、良いところに気づきましたね!実は、本当は話したかったのですが、尺の都合でなくなくカットした部分でした。
あの部分は、ゼータ関数が「唯一無限大に発散する点(これを「極」といいます)」なのです。実はなんと、あの点が極であることと、素数が無限に存在することは、数学的に同値なのです!実はなんと,「ゼータ関数が 1 に極をもつこと」は,素数の無限性を含んでいるのですよ!面白いですよね!
近いうちにこの件に関して補足の記事を書きたいと思います。
(2015/05/01夜 修正)上記部分に誤りがあったので,表現を修正しました。
「Rubyは甘え」
このコメントは、実は想定していたコメントでした。もちろん、Rubyを使った理由はあります。
自分で実装するだけであれば他の言語(たとえば C++)でもいいのです。github 等であげたときにほかの人が使いやすいように Ruby を選択しました。あと、解説するときにコードが短い方が説明しやすいというのも利点です。
今回の場合 Mathematica を使うという手もあるのですが、値段が高く、数学を専門としない人にとって手が出しづらいだろうという理由で止めました。これについてはこちらの記事で熱く語っていますので省略。
「おいくらですか?」
というコメントに、とっさに「無印で2万円」と答えてしまいましたが、おそらく質問の意図は「ゼータ関数の3Dプリント」に関してですよね。上記の答えは素数階段(物理)に関してでした。
実は、ゼータ関数の3Dプリント(触れるゼータ関数)は、販売を考えています。近々ご案内できるかと思います。
「声がムリ」
ごめんなさい。実は前日の懇親会で、数学勢で大変に盛り上がってしまい、ものすごい勢いで語り倒した結果、声が枯れてしまいました。笑
超会議で周りがうるさいので負けないように声を張った結果、お聞き苦しい声になってしまったのかと思います。普段は美声ですので、脳内補完して聞いていただければと思います。
余談ですが、この懇親会で動画制作者の「はむくん」にお会いすることが出来ました。はむくんは「ライフゲームの世界」の動画で知ったのですが、それ以外にもRTSを作ったり複雑系のコミュニティを作ったり多彩な方なんですよね。ぜひ一度お会いしたいと思っていたので、私にとっては大収穫でした。こんな風に、クリエイター同士の横のつながりが出来るのもニコニコ学会の魅力ですよね。
5. 他の人の講演について
私の講演のほかに、3人の方が登壇されました。ほかの方の講演も超楽しかったですよ!
「登壇者のチョイスが凄い」
というコメントもありました。座長のキグロさん(数学大好き)が「自分が話を聞きたい人を選んだ」というだけあって、みなさんほんとに面白い話をされていました。まさに俺得でした!
文系Pさん
メネラウスの定理を使う、高校でよく見かけた幾何学の問題をテーマにしたプレゼンです。「固定観念に縛られない」という数学における普遍的な楽しみ方を、熱く紹介されている素敵なプレゼンでした。高校の授業で仕方なく数学を習っている人にとっては、1つでも解法があれば十分なわけです。でも、実はいろんな解法を知ることで数学を楽しむことができるんだよ、という数学への新しいアプローチを与えてくれました。まさに、野生の数学研究者セッションのトップバッターにぴったりの講演でしたね。
Aetonさん,小林銅蟲さん
お二人で「巨大数」とその大きさの比較法について発表されていました。
この話の一番興味深いところは、数に対する認識が大きく改まる点だと思っています。
みんな数を数えるときに と書いて、安易に自然数がすべて分かったような気になってしまいます。でも実は、この には、巨大数のようなとんでもない数も含んでいるんです。
あと、小林銅蟲先生の補足が絶妙で、非常にわかりやすかったです!
この発表や、その後の発表で、
8↑8
というコメントが流れていましたが、これは "88888888" というニコニコでよく見かけるコメントを、巨大数の発表に出てきた「タワー表記」で書き表したものだと思われます。
いやー、短時間でよく思いつきますね!こういう発想力というか瞬発力には、本当に頭が下がります。
クリスカさん
フィボナッチ数列の亜種である「ニコニコフィボナッチ数列」を提案し、それを生成関数 を使って一般解を求める、という熱い発表でした。私が感動したのは の意味合いについて。 を代入すると、小数展開に数列が現れるんですね!これ面白かった!
生成関数は、数列計算の途中式として出てくるけど、それ自体は便宜的なもの、という印象が合ったのですが、こんな風に意味を持たせることが出来るんですね。
実は、当日は次に自分が発表するということも合ってあんまりちゃんと聞けてなかったのですが、タイムシフトで観て感激していました。いやー、あとで何度も観れるってのはすばらしいですね!
6. 全体を通して
今回の数学セッションにおいて強調しておきたいことが一点あります。
実は、数学セッションは「登壇者全員が在野の数学者」という異色セッションだったのです。
ニコニコ学会って、もともと野生の研究者が発表する会、というコンセプトがありましたが、その割に実は大多数のセッションが本業の研究者で構成されているんですね。
もちろん、本業の研究者は発表慣れもしていて、業績もあるので安定しています。興行的にはそっちの方がうけるんでしょうが。
でも、数学セッションは、そうでない「在野で活動している人だけ」であえて構成しています。その意味で、このセッションは 最もニコニコ学会的 だったと私は思います。
私の言葉で言うなら「日曜数学者」です。彼らの活動がニコニコ動画やそれを超えた世界でこれだけ盛り上がっていて、そして熱い、ということを、生放送を通じて全国に発信できたというのは、とても価値があるように思います。
お客さんも満席でしたし、コメントもほかのセッションに負けないぐらいに飛び交っていましたね。
今回、登壇者同士横のつながりもできましたし、この分野をさらに盛り上げて行きたいですね。
一方で、運営のみなさんは「本当に企画として成り立つのか」と不安だったかと思うのです。座長のお二方、そして、それにゴーサインを出した江渡さん・くとのさんには頭が下がります。お疲れさまでした。
7. おわりに
最後になりましたが、講演者として選んでいただいてありがとうございました。座長のお二人には本当に感謝です。「リーマン予想」という、私がもっとも熱く語ることの出来るテーマを与えてくれたことも嬉しかったです。
発表練習に付き合ってくれた科学勉強会のみなさま、特に、石原さんという方にはアメリカから的確なアドバイスとエールをいただきました。秀明大学の寺前先生、中川君には3Dプリンタの造形や関連するアドバイスのご協力をいただきました。プログラマのための数学勉強会のみなさまは、今回のニコニコ学会に選ばれるきっかけを与えてくれました。
ネット越しに応援してくださったみなさまもありがとうございました。
本当に感謝です!!
長文につきあっていただき、ありがとうございました。これにて失礼します。
8. 参考文献
コメントにも流れていましたが、今回のないように非常に関連するのが、マーカス・デュ・ソートイというオックスフォードの数学者が書いた「素数の音楽」という著書です。非常に分かりやすく、しかも、内容は濃いという素晴らしい本です。私自身も、彼の著書と講演によって素数の世界に魅了された一人です。
- 作者:マーカス・デュ・ソートイ
- 発売日: 2005/08/30
- メディア: 単行本
座長の1人、キグロさんによるブログ記事です。キグロさんと綾塚さんは、一日目のプレオープンにて「数学に関連する小説」を紹介されたのですが、そこで紹介された小説が(より詳しい解説付きで)まとめてある素敵な記事です。
ch.nicovideo.jp