tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

独習ノート「素数と2次体の整数論」#3:Z のイデアル (2/2)

今日は「 \mathbb{Z} のイデアルは、常に単項イデアルである」を証明します。その過程で「割り算の原理」という非常に重要な定理が登場します。該当箇所は前回に引き続き「1.3  \mathbb{Z} のイデアル」です。
今回の文章は、ちょっと長いかもしれません。なかなかすんなりとは行かせてくれないようです。

教科書を1つ決めて、それに沿って tsujimotter が勉強した過程をまとめていく連載シリーズです。
本シリーズの教科書はこちら。
素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

  • 作者: 青木昇,飯高茂,中村滋,岡部恒治,桑田孝泰
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初回(#0):動機・諸注意
補足回(#1.5):集合の包含関係
前回(#2):Z のイデアル (1/2)
補足回(#3.5):単項イデアルの性質
次回(#4):まだ

シリーズ全記事の一覧はこちら


今日の目標は、前回ちらっと予告した「 \mathbb{Z} のイデアルは、常に単項イデアルである」を証明することです。これを証明するためには、「割り算原理」という定理が必要です。「なぜ割り算が必要か」はやっていけばわかるでしょう。

割り算原理

定理 1.15(割り算原理)
整数  a, b \;(a\neq 0) に対し,

 b = aq + r, \;\;\; 0 \leq r < |a| \tag{1.2}
をみたす整数  q, r が存在し,一意に定まる.

簡単に言えば「どんな整数も、 0 でない数で割ったら  q r が得られる」ってことです。重要なのは、これらの数が一意に定まるということ。

一意に定まるからこそ  q r には名前があるのです。それが次の 定義 1.16 です。

定義 1.16
定理 1.15 における,整数  q r をそれぞれ, b a で割ったときの (quotient), 余り (remainder) と呼ぶ.


では、定理 1.15 の証明をしましょう。

(証明)
ここでは  a>0 の場合を証明する.

存在性の証明:
まず, b 以下の  a の倍数の中で最大のものを  aq  (q\in \mathbb{Z}) とする.

 aq \leq b < a(q+1). \tag{1.3}

このとき, r = b - aq \in \mathbb{Z} とおけば,(1.3) より

 r = b - aq \geq 0
かつ,
 r = b - aq < a
より,
 b = aq + r, \;\;\; 0 \leq r < a

が成り立つ.
したがって,(1.2) をみたす整数  q, r が存在する.

一意性の証明:
整数  q, q', r, r' を,

 b = aq + r = aq' + r', \;\;\; 0 \leq r < a, \;\; 0 \leq r' < a

をみたすようにとる.
もし, q > q' ならば, q - q' \geq 1 であるから,

 r' - r = a(q - q') \geq a \tag{1.4}

ところが, r' - r \leq r' < a であるから,これは不可能である.

まったく同様に, q < q' の場合も不可能であるから( q q',  r r' を入れ替えて議論すればいい),結局  q = q' でなければならない.

したがって,(1.4) より  r' - r = 0 でもある.すなわち,(1.2) をみたす  q, r は一意に定まる.

 a < 0 の場合も同様に示せる.

(証明終わり)

可能な限り、証明は端折らない方針だったのですが、 a < 0 の場合はいいですよね・・・?


これで道具が得られました。いよいよ、主題の定理の証明に向かいましょう。

 \mathbb{Z} のイデアルは単項イデアルである

それでは、本丸に攻め込みます。表題の定理を、もう少し具体的に記述するとこうなります。

定理 1.13
 \mathbb{Z} の任意のイデアル  A に対して,ある整数  m \geq 0 が存在して, A = m\mathbb{Z} が成り立つ.


 \mathbb{Z} のイデアルについての定義も再掲しておきましょう。

定義 1.10(再掲)
以下の (1), (2) の条件をみたす  \mathbb{Z} の部分集合  A \mathbb{Z}イデアルと呼ぶ.
 (1)  a, b \in A \Longrightarrow a - b \in A
 (2)  a \in A, z \in \mathbb{Z} \Longrightarrow az \in A


特に,イデアル  A = a\mathbb{Z} a で生成される単項イデアルと呼ぶ.


それでは行きましょう。定理 1.13 の証明です。

(証明)
 A \mathbb{Z} の任意のイデアルとする.

もし, A = \{0\} であれば, m = 0 とすれば成立.
よって以降では, A\neq \{0\} の場合を考える.

 A の定義により, 0 を要素として含むので,それを除いた集合  A - \{0\} を考える.このとき, A-\{0\} に含まれる整数の中で,最小の自然数(正の整数)をとることができる.これを  m としよう.

この  m に対して, A = m\mathbb{Z} であることを以下に示す.
 A の定義により, m\in A であれば  (-m)\in A となることに注意.)

(i)  A \supset m\mathbb{Z} であることを示す.
 m はもともと  A の要素であるから,定義 1.10 の (2) より,任意の  k\in \mathbb{Z} に対して, mk\in A.したがって, m\mathbb{Z} \subset A である.

(ii)  A \subset m\mathbb{Z} であることを示す.
任意の  a\in A をとり, a m で割った商を  q,余りを  r とすると,

 a = mq + r, \;\;\; 0 \leq r < m

このとき,定義 1.10 の (2) を使うと, m\in A だから  mq\in A
また,定義 1.10 の (1) を使うと, a, (mq)\in A から  r = a - (mq) \in A である.

ここでもし, r > 0 であれば,

 0 < r < m, \;\;\; r\in A

となって, m よりも小さくて  0 でない自然数  r A の要素として存在することになってしまう.これは, m の取り方に矛盾するから, r = 0 でなければならない.

したがって, a = mq \in m\mathbb{Z} である.すなわち, A\subset m\mathbb{Z}

以上 (i), (ii) より A\supset m\mathbb{Z} かつ  A\subset m\mathbb{Z}.よって, A = m\mathbb{Z} であることが示せた.

(証明終わり)

重要なところに下線を引いておきました。

下線部では「割り算原理」、「 \mathbb{Z} のイデアルの定義 (2)」、「 \mathbb{Z} のイデアルの定義 (1)」が、それぞれ使われていることを確認してみてください。やはりキーポイントは「割り算原理」でしたね。

以上のように、抽象的な定義だけを使って、(具体的なイデアルを想定しなくても)証明ができてしまうのです。面白いですね。

ユークリッド整域(ED)と単項イデアル整域(PID)

せっかくここまで説明したので、ちょっと先の内容につながる話をしましょう。

今回キーポイントであった「割り算原理」ですが、成立は自明ではありません。これは証明が必要だったことから分かると思います。

結局、「 \mathbb{Z} においては」割り算原理が成り立つわけですが、このことを「環論」の言葉で「整数  \mathbb{Z}ユークリッド整域(Euclidean Domain)である」と表現します。環論については、まだいっさい触れていないので、流し読みしてもらえればと思いますが、とにかく整数  \mathbb{Z} はユークリッド整域である、特殊な例であると言えます。

一方、今回証明したように、イデアルが単項イデアルと一致するような環のことを「単項イデアル整域(Principal Ideal Domain)」と呼びます。もちろん、整数  \mathbb{Z} は単項イデアル整域です。

ここで、重要なのは次の事実です。

ユークリッド整域は,単項イデアル整域である.

今回、「割り算原理」を使って「 \mathbb{Z} のイデアルが常に単項イデアルと一致すること」を証明したわけですから、考えてみれば納得できそうな話ですね。逆は、一般には成り立ちません。

もちろん、今後はユークリッド整域でないような環が登場します。むしろ、ユークリッド整域であるような環はだいぶ特殊な環なのだそうです。

次回予告

いかがだったでしょうか。今日の証明によって、イデアルの使いどころが少しは見えてきたのではないでしょうか。イデアルの条件は、一見当たり前のようでいて、実は結構きつい縛りだったわけですね。

次回は、第1章のもう1つの山場である「算術の基本定理」についてです。これによって、私たちは一意な素因数分解ができるようになります。