tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ガロア表現から作るいろいろなゼータ関数

ゼータ Advent Calendar 2019 の5日目の記事です。

世の中には、色々なゼータ関数があります。

・リーマンゼータ関数
・ディリクレゼータ関数
・ハッセ・ヴェイユゼータ関数
・アルティンゼータ関数
・合同ゼータ関数
・セルバーグゼータ関数

tsujimotterのノートブックでもこれまでいくつかのゼータ関数を取り扱ってきました。その中の多くは、実は「ガロア表現」と呼ばれるものから作ることができます。そういうお話をしたいと思います。今日の記事では、上のリストのうち、上から4つが登場します。


今回の記事は以前から温めていた内容なのですが、マスパーティというイベントの「ロマンティック数学ナイトプライム@ゼータ」という企画で、ゼータ熱が再燃しました。その後、ゼータアドベントカレンダーが企画されたことで「このタイミングで公開しないでいつ公開するんだ」と思い公開に至ったという経緯です。

ロマ数プライムゼータは、次のURLから見れますので、お時間のあるときにぜひみてください。

Part 3: 数学の楽しみ方の見本市「マスパーティ」(10/20 10:45 ~ 19:30)
https://www.youtube.com/watch?v=75dVmSWxXeE&t=17025s


内容はとても難しいですが、ガロア表現からゼータ関数がバンバンできあがる様子が楽しい記事になったと思います。よろしければお付き合いください。

f:id:tsujimotter:20190915233043p:plain:w300

注意:
前回同様、今回の内容も非常に難しい内容となっております。
tsujimotterがまさに勉強中の「理解の最前線」を書いている記事となっていますので、内容も誤り等含んでいる可能性があります。

そのため、勉強する際は、私の記述をうのみにしないようお願いします。

なお、今回の記事は以下の伊藤先生のPDF「コホモロジー論とモチーフ」
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/~tetsushi/files/hokudai200609.pdf

や、整数論サマースクール「l進ガロア表現とガロア変形の整数論」
http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009proceeding.html

の内容を参考にしています。

続きを読む

ガロア表現の基本的なところ(準備編)

明日、ガロア表現を使った記事を書きたいと思うのですが、その内容を理解するための準備編として、今日はガロア表現の基本的なところをまとめたいと思います。

注意:
「基本的なところ」と銘打っておきながら申し訳ないのですが、今回の内容は非常に難しい内容となっております。
tsujimotterがまさに勉強中の「理解の最前線」を書いている記事となっていますので、内容も誤り等含んでいる可能性があります。

そのため、勉強する際は、私の記述をうのみにしないようお願いします。

なお、今回の記事は以下の伊藤先生のPDF「コホモロジー論とモチーフ」
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/~tetsushi/files/hokudai200609.pdf

や、整数論サマースクール「l進ガロア表現とガロア変形の整数論」
http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009proceeding.html

の内容を参考にしています。


ガロア表現とは、一言でいうなら「ガロア群の行列による表現」です。その言葉の意味するところについてまずはざっくりしたイメージを説明します。

あるベクトル空間  V を考えて、その元  v \in V がガロア群  G によって  v' に動かされるとします。

f:id:tsujimotter:20190915230907p:plain:w400

この  v から  v' への移動がもし「線形変換」によって表せるとき、つまり行列によって表せるとき、 G を行列そのものだと思うことができますね。これが要するにガロア表現です。

以下では、より詳しく説明していきたいと思います。

続きを読む

iのi乗はそこに至る経路で決まる

みなさん、 i^i がどんな値になるか考えたことはありますか?

「複素数のべき乗ってなんだよ」と思う方もいるかもしれません。素朴に「 i i 回かける」なんて考えたら、意味がわからないですよね。

この問題について一度考えたことがある方の中には「 e^{-\pi/2} だよ」と答える方もいるかもしれません。たしかに、 i^i としては  e^{-\pi/2} を取ることもあります。しかしながら、本当に  e^{-\pi/2} だと言い切ってしまってよいでしょうか?


一般に、一つの  x に対して  f(x) が複数の値をとるような関数のことを 多価関数 といいます。

f:id:tsujimotter:20191203090334p:plain:w300

複素数を変数に持つような関数を考えるにあたっては、このような性質を慎重に検討する必要があります。実際、 i^i を議論する際は、こうした多価関数の値として考える必要があり、単純に  e^{-\pi/2} だとは言い切れなくなってしまうのです。


最近tsujimotterは、こうした多価関数の基本的な性質について勉強していまして、そのノートを以下に公開していました。本記事では、そのノートの内容を丁寧にまとめてみたいと思います。


前日に公開した「超幾何級数に関する記事」でも、今回の結論の一つを使っています。前日の記事でわからなかった方は、今回の記事を参考にしていただけると幸いです。
tsujimotter.hatenablog.com

続きを読む

超幾何関数の積分表示と接続問題

日曜数学 Advent Calendar 2019 の1日目の記事です。


アドベントカレンダーの季節がやってまいりました。今年も日曜数学アドベントカレンダーを立てまして、この記事はその1日目の記事となっています。
adventar.org

実は、日曜数学アドベントカレンダーは、今年で 5年目 になります。なかなか続いていますね。

今年も既に22件が埋まっていまして、たくさんの方が思い思いの数学について熱く語ってくださいます。とても楽しみです。


トップバッターのこの記事は 超幾何関数 をテーマにお話したいと思います。

もともとこのtsujimotterのノートブックは、私の日曜数学の成果を発表する場として書いていて、今勉強している最前線をその熱が冷めないうちに書くのが特徴です。その意味で、今回の話は私がまさに今勉強中の内容であり、tsujimotterのノートブックらしい記事かと思っています。

ちょっと難しい内容になるかと思いますが(そしていつも通りとても文章が長いのですが)、よろしければお付き合いいただけますと幸いです。

続きを読む

レピュニットと円分体の分解法則

本日 11/11 はレピュニット(1が続く数)の日ですね。毎年この日が来るとtsujimotterはこちらの記事をTwitterに投稿しています。
tsujimotter.hatenablog.com


この日は数学が好きな人たちの間でも、レピュニット関連の話題がたくさん投稿されるのですが、特に鯵坂もっちょさんのこちらの投稿が気になりました。


レピュニットは

 \underbrace{111\ldots111}_{k \text{ times}}

とかける数のことですが

 F_{k}(X) = X^{k-1} + X^{k-2} + \cdots + X^2 + X + 1

という多項式を考えて、 X = 10 を代入したもの、だと考えてもいいわけです。


このように考えると、多項式  F_k(X) の既約分解を考えることで、レピュニットの因数分解を得ることができます。たとえば

 F_4(X) = X^3 + X^2 + X + 1 = (X + 1)(X^2 + 1)

という多項式の既約分解を考えることで、 X = 10 と代入してレピュニットの因数分解

 1111 = F_4(10) = 11 \cdot 101

が得られるというわけですね。


これは面白い見方だと思いました。


一方で、 F_7(X) = X^6 + X^5 + X^4 + X^3 + X^2 + X + 1 を考えると、これはよく知られているように  \mathbb{Q} 上既約な多項式です。たとえば、証明はこちらに載っています。
biteki-math.hatenablog.com

一般に、素数を  q として、 F_q(X) = X^{q-1} + X^{q-2} + \cdots + X^2 + X + 1 は既約であることが示せます。


ところで、この  F_7(X) X = 10 を代入したレピュニットは、素数にはならず、以下のように素因数分解されます。

 F_7(10) = 1111111 = 239 \times 4649

すなわち、 F_k(X) が既約だからといって、 F_k(10) が素数であるとは限らないというわけですね。


それはたしかにそうなのですが、もう少し踏み込んだ議論ができないかと思いました。そこでこんなツイートをしたわけです。


このツイートに対して、梅崎さんと山田さんのお二方から、円分体の分解法則と関連づけられそうだという情報をいただきました。今回は、それをまとめて見たいと思います。

f:id:tsujimotter:20191112010830p:plain:w400

続きを読む

等比数列の和と望遠鏡和

横山明日希さんのこのツイートを受けて、面白い(と僕が思った)計算法を考えたので紹介します。

考えたといっても、横山さんのツイートのリプライについている解法と考え方はほぼ同じです。

 \displaystyle \frac{1}{2} = 1 - \frac{1}{2}
 \displaystyle \frac{1}{4} = \frac{1}{2} - \frac{1}{4}
 \displaystyle \frac{1}{8}  = \frac{1}{4} - \frac{1}{8}
 \displaystyle \frac{1}{16}  = \frac{1}{8} - \frac{1}{16}
 \displaystyle \frac{1}{32}  = \frac{1}{16} - \frac{1}{32}

と置き換えるのがポイントです。

計算するとこうなります。

 \require{cancel}\begin{align} &\frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \frac{1}{8} + \frac{1}{16} + \frac{1}{32} \\
&= \left(1 - \frac{1}{2}\right) + \left(\frac{1}{2} - \frac{1}{4}\right) + \left(\frac{1}{4} - \frac{1}{8}\right) + \left(\frac{1}{8} - \frac{1}{16}\right) + \left(\frac{1}{16} - \frac{1}{32}\right)  \\ 
&= 1 + \cancel{\left(- \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\right)} + \cancel{\left( - \frac{1}{4} + \frac{1}{4}\right)} + \cancel{\left( - \frac{1}{8} + \frac{1}{8}\right)} + \cancel{\left(- \frac{1}{16} + \frac{1}{16}\right)} - \frac{1}{32} \\ 
& = 1 - \frac{1}{32} \\
& = \frac{31}{32}\end{align}


間の項がバサバサと打ち消しあうようにするおなじみの計算を、INTEGERSのせきゅーんさんは「望遠鏡和」と呼んでいます。
integers.hatenablog.com



一般の等比数列の和の公式も、望遠鏡和で計算できることがわかりましたので、最後にやってみましょう。

ポイントは

 \displaystyle r^k = \frac{r^k}{1-r} - \frac{r^{k+1}}{1-r}

という置き換えです。

 \require{cancel}\begin{align} &1 + r + r^2 + \cdots + r^{n} \\
&= \left(\frac{1}{1-r} - \frac{r}{1-r}\right) + \left(\frac{r}{1-r} - \frac{r^2}{1-r}\right) + \left(\frac{r^2}{1-r} - \frac{r^3}{1-r}\right) + \cdots + \left(\frac{r^n}{1-r} - \frac{r^{n+1}}{1-r}\right)  \\ 
&= \frac{1}{1-r} + \cancel{\left(- \frac{r}{1-r} + \frac{r}{1-r}\right)} + \cancel{\left( - \frac{r^2}{1-r} + \frac{r^2}{1-r}\right)} + \cdots + \cancel{\left(- \frac{r^n}{1-r} + \frac{r^{n}}{1-r}\right)} - \frac{r^{n+1}}{1-r} \\ 
& = \frac{1}{1-r} - \frac{r^{n+1}}{1-r} \\
& = \frac{1-r^{n+1}}{1-r}\end{align}

このように考えると

 \displaystyle -\frac{r^{n+1}}{1-r}

という項が残るのは当たり前という感じがしますし、 n+1 乗になることを間違えることはありませんね。

 n\to \infty の極限をとると

 \displaystyle \frac{1}{1-r}

になることも明らかです。


簡単ですが、今日はこの辺で。

「増税問題」が解決しました

増税問題は「消費税の増税に伴って総額表示に現れるようになった新しい数はどのような数か?」という数学の問題のことで、次の記事で問題提起しました。
tsujimotter.hatenablog.com

記事を公開してみると、早速 id:asangi_a4ac さんによる鮮やかな解答が寄せられ、 S_{0.1}\setminus S_{0.08} の数が  \bmod{11\times 27} で特徴づけられることが明らかになりました。id:asangi_a4ac さんありがとうございます。
asangi-a4ac.hateblo.jp


まずは上記の記事を読んでいただきたいです。本記事では、上記の記事の証明のキーポイントを振り返りつつ、さらなる一般化をはかりたいと思います。実は、上記のアイデアはそのまま一般化できる素晴らしいものだからです。

消費税10%の場合

 \alpha = 0.10 とします。

任意の自然数は、 n = 10k + k' k' = 0, \ldots, 9)と、一意的に表すことができます。

これを使って  \lfloor (1+\alpha)n\rfloor を計算しましょう。

 \lfloor (1+\alpha)n\rfloor = \lfloor 11k + 1.1k'\rfloor = 11k + \lfloor 1.1k'\rfloor

ここで、ガウス記号の性質  \lfloor N + x \rfloor = N + \lfloor x \rfloor を用いました( N は整数とします)。

最右辺は  11 の倍数と  \lfloor 1.1k'\rfloor の和になっています。取りうる  k' の値は  10 通りであり、よってこの式によってすべての自然数を表すことができません。具体的には  11k + 10 型の自然数が表せないことになります。

消費税8%の場合

 \alpha = 0.08 とします。

任意の自然数は、 n = 25k + k' k' = 0, \ldots, 24)と、一意的に表すことができます。
 25 をなぜチョイスしたかについては、後で述べます。)

これを使って  \lfloor (1+\alpha)n\rfloor を計算しましょう。

 \lfloor (1+\alpha)n\rfloor = \lfloor 27k + 1.08k'\rfloor = 27k + \lfloor 1.08k'\rfloor

最右辺は  27 の倍数と  \lfloor 1.08k'\rfloor の和になっています。取りうる  k' の値は  25 通りであり、よってこの式によってすべての自然数を表すことができません。具体的には  27k + 13, \; 27k + 26 型の自然数が表せないことになります。

一般化

あとは上記の集合を適当に考えればめでたく元々の増税問題は解決するわけです。

この方針をさらに推し進めると、一般の  \alpha \in \mathbb{Q} について  S_{\alpha} を特徴づけることができることに気づきます。


 \alpha は有理数なので、互いに素な  P, Q を用いて  \alpha = \frac{P}{Q} と表すことができます。たとえば、 \alpha = 0.08 であれば、 P = 2, \; Q = 25 ですね。

ここで、 n = Q k + k' k' = 0, \ldots, Q - 1)と一意的に表せることに気づくと、

 \lfloor (1+\alpha)n\rfloor = \lfloor (Q + P)k + (1+\alpha)k'\rfloor = (P+Q)k + \lfloor (1+\alpha)k'\rfloor

とできます。最右辺は  P + Q の倍数と  \lfloor (1+\alpha)k'\rfloor の和となっており、取りうる値は  Q 通りです。したがって、 \bmod{P+Q} の数のうち  P 個の数を表すことができません。


 \alpha = 0.08 のときに  \bmod{27} を考えたのは、 P + Q = 2 + 25 = 27 ということだったというわけですね。

次の問題へ

このように一般化できたので、@toku51nさんによる次の問題に進みましょう。


問題:消費税は3%,5%,8%,10%と上がっていきましたが、この4種どれでも存在しない最小の税込価格はいくらでしょう?


 \alpha = 0.03, \; 0.05 についても同様に考えればよいでしょう。

 \alpha = 0.03 のとき、 P = 3, \; Q = 100 と書けるので、 {P+Q} = 103 で割ったあまりで  S_{0.03} は決まる。実際、

 103k + 34, \; 103k + 68, \; 103k + 102

と表せる数が総額表示に存在しない数である。

 \alpha = 0.05 のとき、 P = 1, \; Q = 20 と書けるので、 {P+Q} = 21 で割ったあまりで  S_{0.05} は決まる。実際、

 21k + 20

と表せる数が総額表示に存在しない数である。


よって、@toku51nさんの問題の解は、連立一次合同式

 \begin{cases} n \equiv 34, \; 68, \; 102 \pmod{103} \\
n \equiv 20 \pmod{21} \\
n \equiv 13, \; 26 \pmod{27} \\
n \equiv 10 \pmod{11} \end{cases}

を解けばよいとわかります。


ここで、気にしなければならないのは、2番目と3番目です。 21 = 3\cdot 7, \; 27 = 3^3 であり、 3 を共通因数に持つため、単純に中国剰余定理が使えません。

最小公倍数  \operatorname{lcm}(21, 27) = 189 で割ったあまりを考えると、 n\equiv 20 \pmod{21} の方は

 n \equiv 20, 41, 62, 83, 104, 125, 146, 167, 188 \pmod{189}

となり、 n \equiv 13, \; 26 \pmod{27} の方は

 n \equiv 13, 26, 40, 53, 67, 80, 94, 107, 121, 134, 148, 161, 175, 188 \pmod{189}

となります。両者の共通部分をとると  n \equiv 188 \pmod{189} となります。


結局、連立一次合同式が

 \begin{cases} n \equiv 34, \; 68, \; 102 \pmod{103} \\
n \equiv 188 \pmod{189} \\
n \equiv 10 \pmod{11} \end{cases}

に帰着できました。


 103, \; 189, \; 11 はすべて互いに素なので、中国剰余定理より

 103 \times 189 \times 11 = 214137

を法として3つの解が定まります。


実際計算してみると

 n \equiv 97712, 195425, 214136 \pmod{214137}

が得られます。これが、3%, 5%, 8%, 10% の総額表示で存在しない数の条件になります。


最小の数は  n = 97712 ですね!


すっきり解決ということで、それでは今日はこの辺で!


最後になりましたが、問題の解答を寄せてくださった id:asangi_a4ac さん、拡張問題を考えてくださった @toku51nさん ありがとうございました。