tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

具体例を通して学ぶ虚数乗法論(前編)

こんにちは! 日曜数学者のtsujimotterです!

早いもので、日曜数学者と名乗り始めてから5年半が経ちました。その間、色々な数学を勉強して、成長もしてきたと思います。昔憧れた、名前しかしらなかった高度な理論も、だんだんと理解できるようになってきました。このことは、最近特に実感しています。

今回のテーマである 虚数乗法論 も、初期の頃から興味を憧れを抱いてきました。

最初に気になったきっかけは、この記事でした。今から6年も前の記事ですね(日曜数学者と名乗り始めるより前の記事です)。
tsujimotter.hatenablog.com

あれから勉強が進んできて、理論についてまとめようと試みた記事もありました:
tsujimotter.hatenablog.com


しかしながら、上の虚数乗法論シリーズは未完のままです。当分続きは書けそうにありません。

大きな理論をまとめるのは大変だというのが理由の一つです。もう一つの理由は、そもそも楕円曲線の一般的な定義など、下準備をするのが大変だったというところにあります。


そこで考えたのですが、理論を体系的にまとめるのではなく、何か具体例を決めて、それを紹介するというのもよいのではと思いました。

題して 「具体例を通して学ぶ虚数乗法論」 です。

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また、虚数乗法論は ガロア理論・類体論・楕円曲線論 を前提とした高度な理論なので、一般論を展開していくと難しくなりがちです。

難しい話は読者を選ぶのも事実です。けれども、やっぱり理論の内容は面白いので、もっと多くの人に知ってもらいたい。その面白さ・美しさを伝えられるようになりたい。その意味でも、具体例があった方が読んでもらいやすいはずだと思いました。


今回の記事は、以下のような構成で進めたいと思います。コンピュータの手を借りて 具体例 を計算しつつ、虚数乗法論のある意味「花形」の一つである クロネッカーの青春の夢 に向かう話を展開したいと思います。

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たけちゃん先生の問題の裏に潜む「未解決問題」

先日、ロマンティック数学ナイトオンライン(以下、ロマ数)というイベントに出演しました。
wakara.co.jp


そのイベントの報告はまたいずれしたいと思いますが、今日はそのイベントで竹内英人先生(以下、たけちゃん先生)がされた発表についてのお話です。

たけちゃん先生の話を聞いているうちに、問題を拡張したら面白くなるのでは、というアイデアが浮かんできて、それについて考えているうちに面白くなってしまいました。今日はそのことについて紹介したいと思います。


実は、今回の内容は、本日まさに今開催の 第18回日曜数学会 で発表する内容となっています。よろしければ、発表と一緒にお楽しみください。
live2.nicovideo.jp

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分数の足し算で「約分」が発生する条件(3)

最近、頭の中が「分数の足し算」でいっぱいなtsujimotterです。こんにちは。

前回・前々回の記事から引き続き、分数の足し算の話題です。過去記事はこちらをご覧ください:
tsujimotter.hatenablog.com
tsujimotter.hatenablog.com


さて、これまで分数の足し算  \frac{a}{b} + \frac{c}{d} において、素数  p で約分できる条件について考えてきました。前回はp進展開を用いた見方を与えました。

今回はより簡潔に判定できる考え方を教えていただきましたので、それを紹介したいと思います。といっても、原理はp進展開の場合と同じです。

さらに考えを推し進めると「 p で割れるか」だけでなく「 p^k で割れるか」についても議論できることに気づきましたので、それについて紹介します!

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分数の足し算で「約分」が発生する条件(2)

早速ですが、昨日の記事の続きです。
tsujimotter.hatenablog.com


前回の記事では、分数の足し算

 \displaystyle \frac{a}{b} + \frac{c}{d}

の計算で約分が発生する条件について考えました。特に、結果の分母・分子が素数  p で約分されるならば、 b, d p で割り切れる回数  v_p(b), v_p(d)

 \displaystyle v_p(b) = v_p(d) > 0

であることを示しました。


今回はもう一歩踏み込んで、 p 進数的な視点を取り入れて、約分できる条件について考えたいと思います。

今回の記事の内容は、前回の記事公開後に nishimura さんという方から教えていただいた内容になります。いつも面白い話を教えていただいてありがとうございます!

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分数の足し算で「約分」が発生する条件

こんにちは! 日曜数学者のtsujimotterです!
今日は 分数の足し算 について考えたいと思います。

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きっかけは学生のプログラミング課題でした。

tsujimotterは大学でPythonとC言語を教えているのですが、ある日の課題で「分数の足し算を計算する関数を作れ」というものがありました。時間差はありましたが、PythonとC言語の両方で似たような課題が出たのです。

実際、分数の足し算を一般に計算してみると

 \displaystyle \frac{a}{b} + \frac{c}{d} = \frac{ad + bc}{bd} \tag{1}

なので、あとは結果として得られた分数を約分してあげればよいわけです。

無事、関数を作ることはできたのですが、問題なのはその関数のテストです。関数がうまく動作することをテストするためには、分数の結果が約分されるような例を作らなければなりません。


ところがです。適当なテストケースを考えたのですが、どのケースもなぜか約分されない。。。tsujimotterはこの手の計算が大の苦手で、約分が発生するケースを作ることができませんでした。



良い方法がないかと考えているうちに、「約分が発生する必要十分条件を数学的に与えればよい」ということに気づきました。


そこで、今日は 分数の足し算の計算において約分が発生する条件 について考えてみたいと思います。

今回の知識は、小学校の先生の作問にも役に立つかもしれません。

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13, 613, 20200613は合同数

こんにちは! 今日の日付は 2020/06/13 ですが、20200613 は素数 ですね!

さらにいうと、20200613は「4で割って1あまる素数」でもあるわけですね。いやーじつにめでたい!

上記の事実は、大人のための数学教室を経営している「和から株式会社さん」のTwitterアカウントで知りました。


せっかくなので、今日の日付に関して、自分でも何か発見をしたいなと思って考えてみると……

  • 13
  • 613
  • 20200613

のいずれも、合同数 であることがわかりました!


個人的には、この事実はとても面白いと思っています!

とはいえ、この話の面白さは合同数というものを知らない方には、なかなか伝わらないかと思います。

そこで今日は、その辺の背景も含めて解説していきたいと思います。よかったら最後までお付き合いください!

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