tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

任意の素数はレピュニットの素因数に現れる(2, 5を除く)あとダイヤル数

Twitterって本当に面白いなと思うのですが、人々のいろんな発見が流れてくるのです。

私が最近面白いと思ったのは次のツイートです。


レピュニットについてはこれまでも何度か記事にまとめてきましたが、このツイートに書かれているような事実は知りませんでした。とても面白いと思いましたので、ぜひ紹介させてください。

レピュニット関連の記事はこちらから:
tsujimotter.hatenablog.com

今回の話はレピュニットだけでなく、「循環小数」や「ダイヤル数」という面白いテーマにも広がる話になっています。よろしければ最後までご覧になってください。

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リーマンの再配列定理を使って級数を「お望みの実数」に収束させよう

今日のテーマは 「リーマンの再配列定理」 です。「条件収束する実数列の級数は、再配列によって任意の実数に収束させることができる」という主張です。何を言っているかわからないという方にも、これから詳しくは説明していきますのでご安心ください。


無限級数

 \displaystyle \sum_{n = 1}^{\infty} a_n

絶対収束するとは、各数列に絶対値をつけた

 \displaystyle \sum_{n = 1}^{\infty} |a_n|

が収束するということです。名前の通りですね。

対する条件収束とは、無限級数が絶対収束はしないが収束はすることを言います。


たとえば、平方数の逆数の和

 \displaystyle \frac{1}{1^2} +  \frac{1}{2^2} +  \frac{1}{3^2} +  \frac{1}{4^2} +  \frac{1}{5^2} +  \cdots = \frac{\pi^2}{6} \tag{1}

は絶対収束しますが、自然数の逆数を足し引きする級数(交代級数)

 \displaystyle \frac{1}{1} -  \frac{1}{2} +  \frac{1}{3} -  \frac{1}{4} +  \frac{1}{5} -  \cdots = \log 2 \tag{2}
 
は条件収束します。
後者が条件収束であることは、たとえばこちらの記事の最後に紹介されています:
mathtrain.jp


「なぜ絶対収束か条件収束を気にするのか」と疑問に思った方もいるかもしれませんが、それにはワケがあります。

絶対収束する級数は、足し合わせる順番に関わらず同じ値に収束します。つまり、足し合わせる順番を気にする必要がないわけですね。

一方、条件収束する級数については、足し合わせる順番によって収束する先の値が変わってしまう のです。条件収束はとてもナイーブなのですね。


たとえば、 \log 2 に収束する式  (2) の級数ですが、足し合わせる順番を入れ替えて

 \displaystyle 1 + \frac{1}{3} - \frac{1}{2} + \frac{1}{5} + \frac{1}{7} - \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \frac{1}{11} - \frac{1}{6} + \cdots

のように和をとると、 \frac{3}{2}\log 2 に収束してしまいます。(計算は自分で確かめてみるといいでしょう。)



さらに面白いことに、冒頭の「リーマンの再配列定理」によれば、条件収束する級数は(足し合わせる順番を入れ替えることで)任意の実数値に収束させることができる というのです。

これはなんというか、とても非自明な感じがしますよね。なんたって任意の実数値ですから。

正確な主張と証明は、以下の記事にまとまっています。
integers.hatenablog.com


とにかく証明はできるわけです。tsujimotterはこれまで証明をきちんと追ったことがなく、なんとなくよくわからないな、難しそうだなとモヤモヤしていました。


そろそろちゃんと理解したいなと思い、つい先ほど証明を追いかけてみたのですが、思っていたよりスッキリ理解することができました。しかも、よくよく読んでみると、証明の中に任意の実数値に収束させる方法が載っていることに気づきました。


これは面白いかもしれない! なんたって、好きな実数に収束させることができるのですから!


そんなわけでイントロが長くなりましたが、本日の記事では 条件収束する級数をお望みの実数に収束させる手順 を紹介したいと思います。

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リーマンの素数公式の導出の概略(Enjoy Mathematics! 寄稿記事の公開)

ゼータ関数を通して素数のことが理解できてしまうという魔法の公式、これが今日のテーマです。

この公式はtsujimotterが素数に興味を持つきっかけとなったもので、これまでも様々な場所でこの公式の魅力について語ってきました。

たとえば、こちらの講演動画など:
www.youtube.com


 \pi(x) を「素数のときだけ一段上がる階段状の関数」とします。一般には素数計数関数と呼ばれるものです。

リーマンの素数公式(あるいはリーマンの明示公式) とは、この  \pi(x) の挙動を明示的に表す次の公式のことです: 

 \displaystyle \pi(x) =\sum_{1\leq m\leq \log_2(x)} \frac{\mu(m)}{m} \left( \operatorname{li}(x^{\frac{1}{m}}) - \sum_{\rho} \operatorname{li}(x^{\frac{\rho}{m}}) - \log 2 - \int_{x^{\frac{1}{m}}}^{\infty} \frac{dt}{t(t^2-1) \log t} \right) \tag{1}


詳しい式の意味は記事本体を読んでいただきたいと思います。ポイントだけ説明すると、 \rho についての和の項がゼータ関数の非自明な零点(れいてん・ぜろてん)に関連する項で、零点の寄与を順に足し合わせることで  \pi(x) の関数値が完全に再現できるということを表しています。

上の公式はとても面白いので、それなりに一般向けの解説もなされていると思います。しかしながら、式の導出まで踏み込んだものはあまりみかけません。

もちろん専門的な本、たとえば次の本の第1章ではこの公式の導出が丁寧に説明されています:
明解 ゼータ関数とリーマン予想 (KS理工学専門書)

明解 ゼータ関数とリーマン予想 (KS理工学専門書)

とはいえ、いきなりこの本を読んで勉強するというのも大変かと思います。

  • 概要程度でもいいから、リーマンの素数公式の導出の過程について知りたい。
  • 特に「ゼータ関数の非自明な零点が関わってくるのは一体何故なのか」がピンポイントで気になる。

そんな方のための記事となっています。よろしければぜひご覧になってください。

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『「にじたい」へのいざない』のYouTube動画を公開しました(インタビュー記事付き)

先ほど、YouTubeでtsujimotterのプレゼン動画が公開されました! ぜひみなさまにご覧いただきたくて、ブログでも紹介したいと思います。
記事の後半では、私のこだわりポイントも紹介したいと思いますので、ぜひ最後まで読んでください。ちょっと趣向を凝らしています。

www.youtube.com


「tsujimotterのYouTubeチャンネル」というところで公開しています。以前からこのYouTubeチャンネルは持っていたのですが、あまり力を入れていませんでした。これを機に本格的に稼働させていこうと思っていますので、チャンネル登録よろしくお願いします!

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虚数乗法の具体例をもっと計算してみよう(類数2の場合)

本記事は「具体例を通して学ぶ虚数乗法論」シリーズ
tsujimotter.hatenablog.com

の続きの記事となっています。よろしければ、上の過去の記事も一緒にご覧になってください。


さて、前回の記事では、 K類数1 の虚2次体であるとき、 \mathcal{O}_K に虚数乗法を持つ楕円曲線について計算しました。類数1のケースでは、具体的に楕円曲線のリストがあったので、比較的に容易に計算できたのでした。

一方、類数2以上 の場合はどうかというと、そのようなリストは見当たりません。どうやれば具体的な楕円曲線を構成できるかというのが今回のテーマです。

今回は、類数2の虚2次体の例として、 K = \mathbb{Q}(\sqrt{-5}) の場合について考察したいと思います。

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「√-2 × √-8 = √16?」の問題について

Twitterで数学に関するこんな話が話題になっていました。


もう少しツイートの内容を補足してみましょう。 \sqrt{-2}, \; \sqrt{-8} というのは、虚数単位  i を用いて

 \sqrt{-2} = i\sqrt{2}
 \sqrt{-8} = i\sqrt{8}

として定義されます。よって  i^2 = -1 を用いて

 \sqrt{-2}\sqrt{-8} = (i\sqrt{2})(i\sqrt{8}) = i^2 \sqrt{16} = -\sqrt{16}

が成り立ちます。


一方、 \sqrt{\;\;} には積に関して

 \sqrt{a} \sqrt{b} = \sqrt{ab}

なる法則が成り立つはずです。

ところが、この法則を適用すると

  \sqrt{-2} \sqrt{-8} = \sqrt{(-2)\cdot (-8)} = \sqrt{16}

となってしまいます。


すなわち、計算方法によって結果が  \sqrt{16} になったり  -\sqrt{16} になったり、異なってしまっています。これは何かがおかしい。一体、どこがおかしいのだ?


というのが、上のツイートが問題にしている点です。



私はこのツイートを見て、これは モノドロミー の問題だ!

と直感しました。これは面白そうだと。

そこで、以前書いたこの記事
tsujimotter.hatenablog.com

を思い出しながら、自分でも考えてみることにしました。


私の中ではかなり納得感のある結論にたどり着きましたのでまとめてみたいと思います。よかったら聞いてください。

注:
元々のツイートは高校生の方のものだと思われますが、本記事は「高校生に向けた解説記事」というわけではありません。
あくまで、趣味で数学を勉強する筆者(日曜数学者)が、自分で考えているうちに楽しくなってしまい、まとめてみたくなったというタイプの記事となっています。
この点にご留意して読んでいただければと思います。

注(2020.07.11 19:00追記)
色々検討した結果、第4パートと追記のところでリーマン面上の点に対して積をとっている箇所が怪しい議論をしていると感じています。記事修正が困難なためそのままになっていますが、鵜呑みにせず話半分に読んでいただければと思います。

第1〜第3パートについては、通常の複素関数論と同様の議論だと思いますので、今のところ問題ないと思います。

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虚数乗法の具体例をもっと計算してみよう(類数1の場合)

今週は、虚数乗法 をテーマとする記事を2本公開しました!
tsujimotter.hatenablog.com
tsujimotter.hatenablog.com

おかげさまでたくさんの方々に見ていただき、たくさん反響もありました。
虚数乗法は、tsujimotterがこれまで時間をかけて勉強してきたテーマの一つなので、その魅力を伝えることができて大変うれしく思います。


シリーズ前編・後編の記事を通して、

 E\colon y^2 = x^3 + x

というただ1つの楕円曲線の例を扱ってきましたが、書き終わってみて もっとたくさんの具体例で計算してみたい と思うようになりました。欲張りですね。笑

そんなわけで、今回はたくさんの具体例を計算してみようという記事にしようと思います。


ところで、前回の記事では言及し忘れていたのですが、そもそも 虚数乗法を持つ楕円曲線はレア なのです。適当にやっても簡単には見つからないわけですね。

そこで、探し方も含めて紹介し、ほかの楕円曲線を計算し、それぞれのray類体を計算するところをやってみたいと思います。


なお、今回は虚2次体の類数が1の場合に限定して紹介したいと思います。2以上の類数のケースについては、また今度にしたいと思います。

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