tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

3は合同数ではない

前回は、楕円曲線の有理点のランクを計算する方法を勉強しました。例をいくつか計算しているうちに、これはさまざまな合同数問題に応用できそうだということに気づいて、計算してみようと思ったのが今回の記事になります。

そんなわけで、今回は 3が合同数ではないことの証明 に挑戦したいと思います。

今回の記事は、以下の記事の内容を前提としています:
tsujimotter.hatenablog.com

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楕円曲線の有理点のランクを計算しよう!(2-descentの具体的計算)

楕円曲線

 E\colon y^2 = x^3 - x

には、有理点が

 \newcommand{\qq}{\mathbb{Q}}E(\qq) = \{ \mathcal{O}, (0, 0), (1, 0), (-1, 0) \}

の4点しか存在しないことが知られています。特に、無限位数の点は存在しません。


今日考えたいのは 「無限位数の点が存在しないことを本当に証明できるのか?」 という問題です。実際、それは可能であるというのが、今日伝えたいことです。

2-descent という方法を用いると、無限位数の有理点のランクを決定できます。ランクとは無限位数の点を生成する点(生成点)の個数であり、これが 0 であることが示せれば無限位数の点がないこと意味します。


記事の最後でも触れたいと思いますが、上記の楕円曲線のランクを決定することで、「 1 は合同数でないこと」や「 n = 4 のフェルマーの最終定理」を証明することができてしまいます。こんな風に、応用の上でもとても楽しいトピックになっています。よろしければ最後までお付き合いください。

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テレビ番組「金曜日のソロたちへ」に出演しました! #金ソロ

こんにちは、日曜数学者のtsujmotterこと辻順平です。

10/16(金)に放送された NHK総合「金曜日のソロたちへ」 というテレビ番組に出演させていただきました。見てくださった皆様ありがとうございます!
www.nhk.jp

NHKオンデマンドで10/30(金)まで見られるそうなので、見逃してしまった方はぜひご覧ください。
www.nhk-ondemand.jp

今回は私が「数学を楽しんでいる様子」を伝える良い機会になったと思います。ご紹介くださったNHKの関係者のみなさまに御礼申し上げます。

何か仕事のご依頼(数学講演、テレビ出演、書籍執筆 etc)ありましたら、tsujimotter [at] gmail.com までご連絡ください!

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【宣伝】テレビ出演・出版・イベント出演について

こんにちは、日曜数学者のtsujimotterです! 趣味で数学を学び、楽しんでいる様子を講演やブログを通して発信しております。

ここ数日、ありがたいことにお知らせしたいことが一気に出てきまして、まとめてご紹介したいと思ってブログを書きました。5つ お知らせがありますので、よろしければ内容をチェックいただければと思います!

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有限体上の楕円曲線とヤコブスタール和

前回の記事から引き続き、代数曲線の \bmod{p} での解の個数 について思いを馳せたいと思います。

前回の記事はこちら:
tsujimotter.hatenablog.com

なお今回の内容は、前回の記事の内容をまったく読んでいなくても理解できる内容となっています。


今回は、 p を素数とし、有限体  \mathbb{F}_p = \{0, 1, 2, \ldots, p-1\} 上定義された楕円曲線

 E\colon  y^2 = f(x) ( f(x) は3次関数)

の解の個数  \#E(\mathbb{F}_p) について考えます。楕円曲線の仮定(非特異性)より  f(x) は重根を持たないとします。

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「tsujimotterの29予想」の初等的証明

今日のテーマはこちらです:

定理1(tsujimotterの29予想)
 p を任意の素数とする。このとき、次が成り立つ:
 X^4 + Y^4 + Z^4 \equiv 0 \pmod{p} (X, Y, Z) \not\equiv (0, 0, 0)  \pmod{p} なる整数解  X, Y, Z を持たない  \Longleftrightarrow \;  p = 5,  \; 29

合同式に解がないのは なぜか \bmod{5} \bmod{29} のときだけである という不思議な現象についての予想です。


この予想に関する経緯を少しだけ説明します。

元々、Wikipedia で(ほぼ)上記の主張が証明抜きで述べられているのを見つけたというのがはじまりです。この主張に興味をもって調べてみると、「数の事典」という本にも同様の記述が載っていて、そこには「3つの4乗数の和は,5でも29でもわりきれない(ただし, 5^4+5^4+5^4 29^4+29^4+29^4 の場合を除く).[Euler]」と書いてあります。Eulerの名前がありますね。殊更に  5, 29 と書かれていますが、他の数ではこのような現象は起きないのでしょうか。しかしながら、どの本やウェブサイトを探してみても証明は書いてありません。

この問題が気になった私は、一番最初に述べた問題を「tsujimotterの29予想」と名付け、数値的に確認した上でブログにまとめました:
tsujimotter.hatenablog.com

その後、nishimuraさんという方により、Twitter経由で「代数曲線のハッセ境界を用いた解法」を教えていただき、解決に至りました。
tsujimotter.hatenablog.com


しかしながら、上記の解法は「初等的な証明」とは言えず、オイラーの時代に実現出来たものとは思えません。


今回、Twitter経由で「原則として( @boxwhite1 )さん」より「初等的証明」を発見したとのご連絡いただきました。発見された証明は、まさにオイラーやガウスの時代にあった道具立てを用いた証明となっています。(実際、ガウスによる定理を用います)

@boxwhite1 さんより許可いただいて、今回の記事でこの証明を紹介したいと思います。興味深い証明を教えていただきましてありがとうございます。ここ数年の胸のつっかえが取れた気分で、とても嬉しいです。


念の為の補足なのですが、「初等的証明」だからといって「簡単な証明」というわけではありません。今回の証明は「4次剰余」に関するガウスの考察の一部分を利用するのですが、これがとても複雑です。かなり長いものになりますが、とても面白いのでよろしければお付き合いください。「ガウスすごいな」と感じると思います。

なお、@boxwhite1 さんが最初に思いついた証明は、実はもっと複雑で長かったのですが、私にご連絡いただいてから改めてより簡潔な証明を思いついたそうで、その方針に従って書き直したものとなります。その際のやりとりは、こちらのツイートのリプライの中で行われています。

 
 

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「1/6公式」とベータ関数・超幾何関数

前回のtsujimotterのノートブックでは ベータ関数 が登場しましたが、ベータ関数にはもう少し親しみやすい導入があります。それが高校数学でいわゆる 1/6公式 と呼ばれる積分の公式です。

このブログでも何度か登場した 超幾何関数 も関係します!お楽しみに!

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なお、今回の記事の内容は、すどさんと黒木玄さんの一連のツイートに影響を受けて書いたものです。ツイートのリンクは記事の最後にまとめて紹介しております。

本記事の内容は、お二方の元ツイートだけを読んでも十分理解できるものとなっております。しかしながら、自分で計算してみて面白くなり、やはり自分の言葉でもまとめてみたいと思うようになりました*1。とても楽しい話題を提供してくださったすどさん、黒木玄さんに感謝しつつ、執筆させていただきます。

tsujimotterのノートブックで「ベータ関数」の話題が登場したばかりですので、タイミング的にもちょうどよいかと思っています。ぜひ最後まで読んでいただければと思います。

*1:tsujimotterのノートブックへの記事投稿は、数学的トピックを自分の言葉でまとめ、アウトプットすることを通して「自身の数学的理解を深めること」を目的として行っております。そのため「他の方が既にどこかに公開しているかどうか」とは無関係に、tsujimotterが面白いと思ったこと書き連ねることにしております。 なお、参考にさせていただいた情報については、本であってもブログであっても、ブログ記事内で出典を明示することにしています。

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