tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ペル方程式の連分数を用いた魔法の解法

今回の記事は「シリーズ:連分数とペル方程式」の2日目の記事となっています。関連する記事は こちら からご覧いただけます。

今日はこんな問題を考えてみましょう。

兵士たちが正方形に並んでいる。これを1軍団とする。その軍団が「61」ある。これに王様が一人加わって、大きな正方形に並び直した。王様を含め、全体で何人になるか?
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この問題は「コマネチ大学数学科」というテレビ番組で出題された問題の「改題 *1」となります。


自分で考えたいという方は、ここでストップしてぜひ一度考えてみてください。

ただし一点注意したいのですが、この問題は見かけ以上に いじわる な問題となっています。それでもよければ、という条件付きで挑戦してみてください。


「もういいや」「解説が知りたい」と言う方は、ぜひスクロールして以下の解説をみてください!

*1:変えたところは「61」というところで、元の問題は「60」となっていました。 こちらの記事で番組の内容の解説がされています。 gascon.cocolog-nifty.com

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連分数展開とその計算方法【連分数計算アプリの紹介付き】

今回の記事は「シリーズ:連分数とペル方程式」の1日目の記事となっています。関連する記事は こちら からご覧いただけます。

今日は、連分数展開 について紹介したいと思います。

3日連続「連分数」 に関連する記事を公開したいと思っています。明日以降の記事の準備として、以下の3つのトピックを紹介したいと思います:

  • 連分数展開を計算するためのウェブアプリの紹介
  • 連分数展開の計算方法の紹介(2通り)
  • 連分数を用いた無理数の近似


連分数とは

 \displaystyle a_0 + \cfrac{b_1}{a_1 + \cfrac{b_2}{a_2 + \cfrac{\ddots}{\ddots +  \cfrac{b_{n}}{a_n}}}} \tag{1}

という形に、分数が入れ子になった構造の分数のことを指します。

特に、各分子の数列  b_1, b_2, \ldots , b_n がすべて  1 であるものを正則連分数といいます。

 \displaystyle a_0 + \cfrac{1}{a_1 + \cfrac{1}{a_2 + \cfrac{\ddots}{\ddots +  \cfrac{1}{a_n}}}} \tag{2}

今回の記事では、正則連分数のみを扱いたいと思います。正則連分数は

 [a_0; a_1, a_2, a_3, \ldots, a_n ]

のように表すことができます。


また、分数の入れ子を無限に繰り返すことで

 \displaystyle a_0 + \cfrac{1}{a_1 + \cfrac{1}{a_2 + \cfrac{1}{a_3 +  \cfrac{1}{a_4 + \cfrac{1}{\ddots}}}}} \tag{3}

なるものを考えることができ、これも連分数ということにします。(特に、分子が  1 であるものを正則連分数といいます。)



与えられた数が連分数の形で表せるかどうかは気になるところですが、重要な事実として 任意の実数は必ず連分数の形で表すことができます

実数  \alpha を式  (3) の形で表すことを  \alpha連分数展開 といいます。


たとえば  \sqrt{3} の場合は

 \displaystyle  \sqrt{3} = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{\ddots}}}}} \tag{4}

のように正則連分数に展開できます。式  (3) の分母の数列がそれぞれ

 a_0 = 1, \; a_1 = 1, \; a_2 = 2, \; a_3 = 1, \; a_4 = 2, \; \ldots

というわけですね。


今日は、実数(特に  \sqrt{D} という形の無理数)の連分数展開を計算する方法を 2通り 紹介したいと思います。2通りといいつつ、基本的な考え方はどちらも同じです。

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「23」とフェルマーの最終定理

本日は 2/23 ということで、この日付にまつわる楽しい数学の話をしたいと思います!

お話したいのは、23 という数そのものが持つ性質についてです。

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 23 は素数なので、素数についての話かと思った方もいるかもしれません。

もちろん、素数であることは大事なのですが、それだけではありません。 23 は次のような特徴を持つ素晴らしい数でもあるのです。

 p を3以上の素数としたとき、
 p 次円分体類数 1 より大きくなる最小の  p 23 である


整数論を学んだ人にとっては、円分体や類数の意味が理解でき、 そこから23の性質に感動を覚える人も少なくないかと思います。

一方で、円分体や類数をまったく知らない人にとっては、上の説明だけでは何のことかわかりませんよね。私自身、何度か一般向けの講演で上の事実を紹介したことがあるのですが、難しくて理解できなかったという方も多いのではないかと思います。

そんな方でも、今回こそは23の魅力について理解できるようになる、そんな解説を目指したいと思います。


円分体や類数といった概念は、実は フェルマーの最終定理 という世紀の難問(現在は定理)と密接に結びついています。今日はこの関係について、できるだけわかりやすく解説することを目標にしたいと思います。


2/23という日に、今日の日付を、 23 という数を好きになってもらえたら嬉しいです!

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単連結ではない領域のド・ラームコホモロジー

こちらの記事の続きです。
tsujimotter.hatenablog.com


上の記事では、穴あき円板  D_2 上のド・ラームコホモロジー  H^1(D_2, \mathbb{R}) を計算しました。

 D_2 := \{ (x, y) \in \mathbb{R}^2 \mid 0 < x^2 + y^2 < 1 \} \tag{1}

ド・ラームコホモロジーを計算するには、 D_2 上の任意の閉1形式( Z^1_{\text{dR}}(D_2) := \operatorname{Ker}(d^1) の元)を計算し、それと完全1形式( B^1_{\text{dR}}(D_2) := \operatorname{Im}(d^0) の元)との「差」(実際は商ベクトル空間)を計算する必要があります。

このとき、非自明な元

 \displaystyle \omega_0 = \frac{-y}{x^2 + y^2}dx + \frac{x}{x^2 + y^2}dy \tag{2}

が存在して、 \omega_0 が閉1形式でありながら完全1形式ではないことを示しました。


前回の記事では、「ド・ラームの定理」という非常に大きな定理を使うことで、 H^1(D_2, \mathbb{R}) \mathbb{R} 上の次元が1であることを示し、結果として  \omega_0 が1次元の基底をなすことを示したのでした。


しかしながら、ド・ラームの定理を使うのはちょっと大掛かりすぎますね。もっと直接的に示す方法はないものかと思っていました。そんな折に、ラスクさん( @washoi4150 )という方からTwitterで「直接的に示す方法はあるよ」と教えていただけました。

そこで今回は、ラスクさんに許可をいただきまして、 D_2 上のド・ラームコホモロジーのより直接的な計算方法を紹介したいと思います。


常々思っているのですが、ブログを書いて公開することによって、自分自身が一番勉強になっています。


私自身は独学で数学を勉強しているので、本に書いてない内容についてはただただ自分の頭で考えるしかないのですが、どうしてもわからずに断念してしまうことが多々あります。なので、私の知らないアイデアをより詳しい人に提供いただけるのは、本当にありがたいことです。

独学で数学を勉強していて、私と同じように悩んでいる人はいるのかもしれません。私のケースがどれぐらい一般化できるのかは分かりませんが、「自分がここまで理解したぞ」という部分を、ブログなりSNSなりで(理解が完全でないことを承知の上で)アウトプットしてみるというのも悪くはないのではないかなと思っています。*1

今後もこういったコミュニケーションを大事にしながら、勉強を進めていきたいと思っています。


それでは内容に入っていきましょう!

*1:結城先生による質問回答の内容が大変共感できるものだったので、リンクを共有します。

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ナッシュの定理の証明:有限ゲームの混合戦略にはナッシュ均衡点が存在する

先日、予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」さん(以下、ヨビノリさん)のYouTubeチャンネルにて、ゲーム理論 に関する動画が公開されました。

www.youtube.com

ゲーム理論に関する基本的な用語について、大変わかりやすく紹介されているのでぜひご覧になってください。ゲーム理論において、重要な「解」概念である「ナッシュ均衡点」や「パレート効率」といった概念も紹介されていました。


さて、今回私の記事で紹介したいテーマは 「ナッシュ均衡点の存在性」 についてです。(混合戦略を考えない)純粋戦略のゲームにおいては、ナッシュ均衡点の存在しないゲームが存在します。具体的には、動画にも紹介された「じゃんけんゲーム」などがそうですね。

A\Bグーチョキパー
グー (0, 0) (1, -1) (-1,  1)
チョキ (-1, 1) (0, 0) (1,  -1)
パー (1, -1) (-1, 1) (0,  0)


一方で、(これもまた動画内で触れられていますが)混合戦略 という、各プレーヤーが戦略を確率的に選ぶような状況に ゲームを拡大 すると、なんと 必ずナッシュ均衡点が存在する ということが知られています。

これは大変興味深い定理かと思います。

定理(ナッシュの定理)
有限個の戦略を持つ任意のゲームは、混合戦略の範囲でナッシュ均衡点を持つ。


もちろん、ナッシュ自身が「ナッシュ均衡点」と呼んだわけではありません。ナッシュがこの定理を示したからナッシュ均衡点という名前がついたわけですね。そして今やゲーム理論における超重要概念になっています。


tsujimotterは、三年ぐらい前からこの定理の証明をブログに書きたいと思っていました。しかしながら、ゲーム理論の基本的な設定を説明するのが面倒で、断念しておりました。ヨビノリさんの動画をみて、これはすばらしい、ぜひ乗っからせていただこう!と思ったのが執筆の経緯です。笑

ヨビノリさんの素晴らしい動画に感謝しつつ、証明を紹介させていただきます。


なお「ナッシュの定理」の証明には、不動点定理 という定理が使われていまして、その定理の使いどころが今回の記事の一番のポイントになります。不動点定理自体の証明について今回はやりませんが、いったいどうやってナッシュ均衡点の存在を導くのかという点に着目して楽しんで頂ければと思います。


元々はヨビノリさんの動画からシームレスにつながるようなレベル感の記事にしようと思っていたのですが、どうもそれは難しそうです。内容が単純に難しいのです・・・。というわけで、それなりに数式も多くなってしまいますが、数学(特に集合と写像)にある程度慣れている人には読めるものにはなっているかと思います。

以前からゲーム理論を知っていた方でも、(ナッシュの定理の)証明は知らないという方も多いのではないでしょうか。有名な定理なので、一度はその証明に触れてみたいですよね。これを機にぜひ味わっていただきたいと思います。

最後まで通して読むのにはなかなか時間がかかると思いますので、読んでいる途中でも構いませんので

  • 「(途中までしか読んでないけど)面白い!」とか
  • 「ナッシュやばい!!」とか
  • 「ベイマックスwww」とか

呟いていただけると嬉しいです。

それでは、じっくりお楽しみください!

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完全微分方程式とド・ラームコホモロジー

微分方程式には色々な種類があって、それぞれ解き方が異なったり、そもそも解けなかったりします。

理系大学生であれば大学1・2年でさまざまな微分方程式の解き方を習うわけですが、これは微分方程式の中でもほんの一部である「うまく解ける微分方程式」の解き方を学んでいるにすぎません。タイトルにある 完全微分方程式 は、そのような常微分方程式の一種です。


 P(x, y), \;\; Q(x, y) C^1 級(1階偏微分可能かつ1階偏導関数が連続な)2変数実関数とします。このとき

 P(x, y) dx + Q(x, y) dy = 0 \tag{1}

の形の微分方程式を考えます。

加えて 完全微分形 という条件を考えます。この条件を満たすかどうかで、式  (1) の微分方程式の解き方が変わります:

(完全微分形) (x, y) \in \mathbb{R}^2 に対して  \displaystyle \frac{\partial P}{\partial y} = \frac{\partial Q}{\partial x} が成り立つ

微分方程式  (1) が完全微分形の条件を満たすとき、完全微分方程式 といいます。
(満たさない場合は「不完全微分方程式」といって、取り扱いが異なってきます。こちらについては今回は扱いません。)


完全微分形の条件を満たすとき、次が成り立つことが知られています:

ある  C^1 級関数  f(x, y) が存在して
 df = P(x, y) dx + Q(x, y) dy

が成り立つ。

また、このように書けるのは完全微分形のときに限られることもわかります。すなわち、式  (1) が完全微分形であるための必要十分条件というわけですね。この事実は超重要なので、次節で証明したいと思います。


実際、完全微分形の条件を満たすとき  df = P dx + Q dy であり、また式  (1) から  P dx + Q dy = 0 なので、合わせて

 df = 0

が言えます。よって、定数  c \in \mathbb{R} を用いて

 f(x, y) = c

が言えることになります。これは、元々の完全微分方程式  (1) を満たす  (x, y) の組を陰関数によって表現した方程式になっており、これが微分方程式の解と言えるわけです。

これが完全微分方程式  (1) の解法だったわけでした。


ここからが今日の本題です。完全微分方程式を解くために必要であった条件は、まさに  \mathbb{R}^2 上の ド・ラームコホモロジー を計算する際に必要な条件そのものであった、というのが今日話したい内容です。すなわち、完全微分形の必要十分条件は

閉1形式  \Longleftrightarrow 完全1形式

を表しているのです。

今回の記事では、前半で完全微分方程式の必要十分条件の証明を行います。後半では、この条件がまさに、ド・ラームコホモロジーにおける条件を表していることを具体的な例を元に説明したいと思います。

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