tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

シリーズ「連分数とペル方程式」:エピローグ

3/1〜3/3の3日間で「連分数とペル方程式」のシリーズを行ってきたのですが、ご覧いただけましたでしょうか。

それなりにたくさんの人にみていただいて、嬉しい限りです。また、これがきっかけで連分数に興味を持ってくださったであろう方をTwitter上で何人か見つけて、嬉しくなったりしました。


今回テーマとして扱った「連分数とペル方程式」については、実は結構前から(私が日曜数学者を名乗る前から)興味を持っていたトピックでした。そのため、それなりに思い入れのあるテーマとなっています。

せっかく連載的な記事を書いたばかりですので、エピローグとして執筆の思いや裏話などを書いていきたいと思います。
(数学的内容はほとんどない記事なので、気楽に読んでいただければと思います。)

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マチンの公式と14個のペル方程式

今回の記事は「シリーズ:連分数とペル方程式」の3日目(最終日)の記事となっています。関連する記事は こちら からご覧いただけます。

今日のテーマは、円周率の マチンの公式 です:

 \displaystyle 4\arctan\frac{1}{5} - \arctan\frac{1}{239} = \frac{\pi}{4} \tag{1}

この公式を使うと、円周率を高精度で計算できることが知られています。具体的には、左辺の  \arctan のテイラー展開

 \displaystyle \arctan\frac{1}{5} = \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n \frac{\left(\frac{1}{5}\right)^{2n+1}}{2n+1}
 \displaystyle \arctan\frac{1}{239} = \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n \frac{\left(\frac{1}{239}\right)^{2n+1}}{2n+1}

を用いて、この級数の有限項を計算することで、高速に  \frac{\pi}{4} の値を計算できるのだそうです。


今日考えたいのは、マチンの公式はいったいどうやったら求められるのか? ということについてです。

マチンの公式の求め方については、以下の記事で紹介したことがありました。
tsujimotter.hatenablog.com

上の記事の議論はずいぶんと難解なものでしたが、今回はもう少し易しく紹介できるかと思います。

そして、そこには 239 という数の、ある興味深い性質が関わっていたのでした。

実際にマチンの公式の候補を求めるにあたっては、なんと一つ前の記事で投稿した ペル方程式 が関わってきます。いったいどこにペル方程式が出てくるというのでしょうか?


参考記事
今回の記事を執筆するにあたって、山田智宏さんの次の記事を参考にしています。
http://www41.tok2.com/home/tyamada1093/Stormer-j.htmlwww41.tok2.com

以前からマチンの公式に関心を持って勉強しておりましたが、特にStørmerの1897年論文の詳細が理解できませんでした。こちらの解説を読んでようやく理解することができました。山田さんありがとうございます。

山田さんの記事と重複する部分は多いかと思いますが、大変面白い内容なのでぜひ私の言葉でも紹介したいと思い、今回の記事を執筆しています。

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ペル方程式の連分数を用いた魔法の解法

今回の記事は「シリーズ:連分数とペル方程式」の2日目の記事となっています。関連する記事は こちら からご覧いただけます。

今日はこんな問題を考えてみましょう。

兵士たちが正方形に並んでいる。これを1軍団とする。その軍団が「61」ある。これに王様が一人加わって、大きな正方形に並び直した。王様を含め、全体で何人になるか?
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この問題は「コマネチ大学数学科」というテレビ番組で出題された問題の「改題 *1」となります。


自分で考えたいという方は、ここでストップしてぜひ一度考えてみてください。

ただし一点注意したいのですが、この問題は見かけ以上に いじわる な問題となっています。それでもよければ、という条件付きで挑戦してみてください。


「もういいや」「解説が知りたい」と言う方は、ぜひスクロールして以下の解説をみてください!

*1:変えたところは「61」というところで、元の問題は「60」となっていました。 こちらの記事で番組の内容の解説がされています。 gascon.cocolog-nifty.com

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連分数展開とその計算方法【連分数計算アプリの紹介付き】

今回の記事は「シリーズ:連分数とペル方程式」の1日目の記事となっています。関連する記事は こちら からご覧いただけます。

今日は、連分数展開 について紹介したいと思います。

3日連続「連分数」 に関連する記事を公開したいと思っています。明日以降の記事の準備として、以下の3つのトピックを紹介したいと思います:

  • 連分数展開を計算するためのウェブアプリの紹介
  • 連分数展開の計算方法の紹介(2通り)
  • 連分数を用いた無理数の近似


連分数とは

 \displaystyle a_0 + \cfrac{b_1}{a_1 + \cfrac{b_2}{a_2 + \cfrac{\ddots}{\ddots +  \cfrac{b_{n}}{a_n}}}} \tag{1}

という形に、分数が入れ子になった構造の分数のことを指します。

特に、各分子の数列  b_1, b_2, \ldots , b_n がすべて  1 であるものを正則連分数といいます。

 \displaystyle a_0 + \cfrac{1}{a_1 + \cfrac{1}{a_2 + \cfrac{\ddots}{\ddots +  \cfrac{1}{a_n}}}} \tag{2}

今回の記事では、正則連分数のみを扱いたいと思います。正則連分数は

 [a_0; a_1, a_2, a_3, \ldots, a_n ]

のように表すことができます。


また、分数の入れ子を無限に繰り返すことで

 \displaystyle a_0 + \cfrac{1}{a_1 + \cfrac{1}{a_2 + \cfrac{1}{a_3 +  \cfrac{1}{a_4 + \cfrac{1}{\ddots}}}}} \tag{3}

なるものを考えることができ、これも連分数ということにします。(特に、分子が  1 であるものを正則連分数といいます。)



与えられた数が連分数の形で表せるかどうかは気になるところですが、重要な事実として 任意の実数は必ず連分数の形で表すことができます

実数  \alpha を式  (3) の形で表すことを  \alpha連分数展開 といいます。


たとえば  \sqrt{3} の場合は

 \displaystyle  \sqrt{3} = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{\ddots}}}}} \tag{4}

のように正則連分数に展開できます。式  (3) の分母の数列がそれぞれ

 a_0 = 1, \; a_1 = 1, \; a_2 = 2, \; a_3 = 1, \; a_4 = 2, \; \ldots

というわけですね。


今日は、実数(特に  \sqrt{D} という形の無理数)の連分数展開を計算する方法を 2通り 紹介したいと思います。2通りといいつつ、基本的な考え方はどちらも同じです。

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「23」とフェルマーの最終定理

本日は 2/23 ということで、この日付にまつわる楽しい数学の話をしたいと思います!

お話したいのは、23 という数そのものが持つ性質についてです。

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 23 は素数なので、素数についての話かと思った方もいるかもしれません。

もちろん、素数であることは大事なのですが、それだけではありません。 23 は次のような特徴を持つ素晴らしい数でもあるのです。

 p を3以上の素数としたとき、
 p 次円分体類数 1 より大きくなる最小の  p 23 である


整数論を学んだ人にとっては、円分体や類数の意味が理解でき、 そこから23の性質に感動を覚える人も少なくないかと思います。

一方で、円分体や類数をまったく知らない人にとっては、上の説明だけでは何のことかわかりませんよね。私自身、何度か一般向けの講演で上の事実を紹介したことがあるのですが、難しくて理解できなかったという方も多いのではないかと思います。

そんな方でも、今回こそは23の魅力について理解できるようになる、そんな解説を目指したいと思います。


円分体や類数といった概念は、実は フェルマーの最終定理 という世紀の難問(現在は定理)と密接に結びついています。今日はこの関係について、できるだけわかりやすく解説することを目標にしたいと思います。


2/23という日に、今日の日付を、 23 という数を好きになってもらえたら嬉しいです!

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単連結ではない領域のド・ラームコホモロジー

こちらの記事の続きです。
tsujimotter.hatenablog.com


上の記事では、穴あき円板  D_2 上のド・ラームコホモロジー  H^1(D_2, \mathbb{R}) を計算しました。

 D_2 := \{ (x, y) \in \mathbb{R}^2 \mid 0 < x^2 + y^2 < 1 \} \tag{1}

ド・ラームコホモロジーを計算するには、 D_2 上の任意の閉1形式( Z^1_{\text{dR}}(D_2) := \operatorname{Ker}(d^1) の元)を計算し、それと完全1形式( B^1_{\text{dR}}(D_2) := \operatorname{Im}(d^0) の元)との「差」(実際は商ベクトル空間)を計算する必要があります。

このとき、非自明な元

 \displaystyle \omega_0 = \frac{-y}{x^2 + y^2}dx + \frac{x}{x^2 + y^2}dy \tag{2}

が存在して、 \omega_0 が閉1形式でありながら完全1形式ではないことを示しました。


前回の記事では、「ド・ラームの定理」という非常に大きな定理を使うことで、 H^1(D_2, \mathbb{R}) \mathbb{R} 上の次元が1であることを示し、結果として  \omega_0 が1次元の基底をなすことを示したのでした。


しかしながら、ド・ラームの定理を使うのはちょっと大掛かりすぎますね。もっと直接的に示す方法はないものかと思っていました。そんな折に、ラスクさん( @washoi4150 )という方からTwitterで「直接的に示す方法はあるよ」と教えていただけました。

そこで今回は、ラスクさんに許可をいただきまして、 D_2 上のド・ラームコホモロジーのより直接的な計算方法を紹介したいと思います。


常々思っているのですが、ブログを書いて公開することによって、自分自身が一番勉強になっています。


私自身は独学で数学を勉強しているので、本に書いてない内容についてはただただ自分の頭で考えるしかないのですが、どうしてもわからずに断念してしまうことが多々あります。なので、私の知らないアイデアをより詳しい人に提供いただけるのは、本当にありがたいことです。

独学で数学を勉強していて、私と同じように悩んでいる人はいるのかもしれません。私のケースがどれぐらい一般化できるのかは分かりませんが、「自分がここまで理解したぞ」という部分を、ブログなりSNSなりで(理解が完全でないことを承知の上で)アウトプットしてみるというのも悪くはないのではないかなと思っています。*1

今後もこういったコミュニケーションを大事にしながら、勉強を進めていきたいと思っています。


それでは内容に入っていきましょう!

*1:結城先生による質問回答の内容が大変共感できるものだったので、リンクを共有します。

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