tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

「π>3.05を凄すぎる方法で証明」を整数論的に考える

 \pi > 3.05」を示す問題が2003年の東大入試で出題されました。これは有名なのでみなさん良くご存じかと思いますが、一方で以下の動画のような解法はご存知でしょうか?

www.youtube.com

たいへん面白い解法なので、まずは一度ご覧いただきたいです。動画の解説もとても丁寧です。今回の記事はこの動画の内容を前提としてお話したいと思います。


動画の概要欄にもリンクが載っていますが、Yahoo知恵袋の以下の質問の「その他の回答」に載っていた回答が元ネタだそうです。
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

元ネタの人はどうやって発見したんでしょうね。いやー不思議です。


今回私が考えたいのは、いったいどうしてこんな解法が存在するのであろうかということです。登場するパラメータが絶妙なバランスで構成されていて、このような解法が存在すること自体が非自明です。


今回はその背景にある理屈を整数論的に分析してみたいと思います。最後まで読んでいただければ、実は動画で紹介された   17, 12 という数が、いかに特別な数であったか分かるかと思います。

それではぜひ最後までお付き合いください!

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(自由研究)面白い二重根号と「単数」を使った外し方

高校数学で習った「二重根号」を覚えていますでしょうか。たとえば

 \sqrt{4 + 2\sqrt{3}}

のように、根号の中に根号が入れ子になっている式を 二重根号 といいます。


上の二重根号は一見複雑な式に見えますが、実は次のように考えることで「ただの平方根」であることがわかります。

 \sqrt{4 + 2\sqrt{3}} =  \sqrt{(\sqrt{3} + 1)^2} = \sqrt{3} + 1 \tag{1}

不思議なことに、二重だった平方根が「解けてしまう」というのですね。


一般に

 (\sqrt{a} \pm \sqrt{b})^2 = a+b \pm 2\sqrt{ab} \tag{2}

が成り立つので

 \sqrt{(a+b) \pm 2\sqrt{ab}}

という形の二重根号はすべて解けてしまうわけですね。( a = 3, \; b = 1 とすれば、式  (1) が得られます。)



さて、今日紹介したい 面白い二重根号 は、三乗根が入った次の式です:

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7}

一見、複雑な二重根号なので、これ以上簡単になりそうにないのですが、実はこの二重根号も解けてしまうのです。一体どんな感じになるのでしょうか?

自分で考えたい人は少しストップして考えてみてください。

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(自由研究)49をmod 100でべき乗する話の一般化?

横山明日希さんのこちらのツイートの内容がとても興味深かったので、自分でもいろいろ一般化ができないかと考えてみました。

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箸袋で作った図形は正五角形か?

今日は 箸袋があるとつい作っちゃうこの図形 についての話です。

f:id:tsujimotter:20210328012856j:plain:w400

細長い紙を用意して、上の図をイメージしながら折り曲げて「ぎゅっと」すると、きれいに正五角形が作れてしまいます。

箸袋に限らず、お手元に紙テープなど「細長い帯状のもの」があれば簡単に折ることができます。よかったらぜひやってみてください。


ところで、上で作った図形はたしかに五角形ですが、本当に正五角形だろうか? というのが本日の問いです。つまり、辺の長さと角の大きさは、厳密にすべて等しいのでしょうか?

これまで漠然と正五角形だろうと思っていましたが、よくよく思い返してみると、それを証明したことはありませんでした。一見簡単にできそうな気がしたのですが、やってみたらなかなかチャレンジしがいのある問題でした。


というわけで、今日は「箸袋で作った図形が正五角形であること」を証明してみたいと思います!

tsujimotterは昨日の夜にこの問題について考えていたのですが、証明が完成できたときはとても爽快な気持ちになりました。この快感を味わってもらいたいので、お時間ある方は、ぜひ一度自分で証明を考えてみてください。


以下では、私の思いついた証明方法を紹介したいと思います!

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保型形式(モジュラー形式)を勉強するとこんなにも楽しい(応用編)

今回は「保型形式(モジュラー形式)を勉強するとこんなにも楽しい」シリーズの 応用編 です!

数学ガール等を読んで保型形式について知ったけど、さわりの部分だけでは物足りない、もっと保型形式のその先を勉強してみたい、そう思っていた「あなた」のためのシリーズ記事です。


前回の記事では、「導入編」と称してモジュラー形式に関する最低限の事項を紹介しました。導入編で手に入れた知識は、まさに今回の応用編を読むために用意したものです。
tsujimotter.hatenablog.com



今回は「モジュラー形式を勉強するとこんなにも楽しい」ということを紹介したいと思います。いよいよ本題ですね。

前回の記事を読んだ方もそうでない方も、必要に応じて前回の記事を参照しつつ、読んでいただけたらと思います。

みなさんにご紹介したいのは、次の 5つ の話です。

  • 応用①:「関数」の間の非自明な関係式が得られる(難易度:★★)
  • 応用②:「数列」の間の非自明な関係式が得られる(難易度:★★)
  • 応用③:ヘッケ作用素と2次のゼータ(難易度:★★★)
  • 応用④:素数を表現する2次形式(難易度:★★★★★)
  • 応用⑤:楕円曲線とフェルマーの最終定理(難易度:★★★★)

もちろんここにあげていないようなおもしろい話は、他にもたくさんあるかと思いますが、そういう話はまた別の本で読むときの楽しみにしてください。今回選んだ5つのテーマは、私が保型形式(モジュラー形式)を勉強する中で、本当に感動したものだけを厳選 して集めたものになっています。


中には相当難しい話も混ざっていますが、必ずしも全部理解できなくても大丈夫です。新しい世界のピクニックだと思って「散策してみよう」ぐらいの気軽な気持ちで読んでいただければと思います。

参考までに難易度を振っておきました。必要に応じて読めそうな部分だけを読んでいただいて大丈夫です。①と②以外は独立して読めるものとなっています。

それでは、順番に紹介していきましょう!

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保型形式(モジュラー形式)を勉強するとこんなにも楽しい(導入編)

保型形式 という数学用語を聞いたことはあるでしょうか?

数学好きの方の中には、フェルマーの最終定理の証明で楕円曲線と保型形式が役に立った、という話を聞いたことがある方もいるでしょう。


私が保型形式に出会ったのは、数学ガール「フェルマーの最終定理」という本でした。

この本の最終章では、保型形式の具体例を計算して、楕円曲線と保型形式の深い関係について、その入口の部分を体感できます。この本を読んで「なんだか面白そう」と思った方も多いのではないかと思います。私もその一人です。


一方で、さわりの部分だけでは物足りない、もっと保型形式のその先を勉強してみたい、と思う方も多いのではないかと思います。

今回の記事は、そんな「あなた」のための記事です。


この記事を通して詳しく解説しますが、保型形式とはたとえばこんな感じの関数です(現時点でこれが分からなくても大丈夫です)

 \displaystyle G_{2k}(z) = \sum_{(m, n) \in \mathbb{Z}^2\setminus \{(0, 0)\}} \frac{1}{(mz+n)^{2k}}
 \displaystyle \Delta(z) = e^{2\pi i z} \prod_{n=1}^{\infty}(1-e^{2\pi i n z})^{24}

保型形式は端的に言うと「きわめて多くの対称性を持った特殊な関数」です。対称性からさまざまな良い性質が導かれ、これにより数学の多様な分野と関わることができます。


また保型形式は(上にあげたものだけには留まらない)多様な関数が集まった、とても広いクラスを表す概念です。そのため、全容を学ぼうとするととても大変ですし、私自身もよくわかっていません。

そこで今回は、保型形式のあくまで一部分である モジュラー形式 を紹介したいと思います。保型形式とモジュラー形式は、以下のベン図に示すような包含関係にあります:


真面目にモジュラー形式を勉強しようとすると難しいですが、今回の記事の目的はあくまでその魅力を伝えることです。言いかえると モジュラー形式を勉強するとこんなにも楽しい ということを紹介したいと思います。


記事の構成ですが、前半の「導入編」と後半の「応用編」に分けたいと思います。別記事にして、後半の応用編は明日投稿したいと思います。

前半の「導入編」では、魅力をお伝えするのに必要な 最低限の知識だけを紹介 します。

後半の「応用編」では、導入編で得た知識を活用して、モジュラー形式の魅力的な応用事例を「これでもか」というぐらい紹介したいと思います。応用編が特におすすめです!

導入編の目次(この記事です!)

  • 導入①:三角関数のおさらい
  • 導入②:モジュラー形式とは?
  • 導入③:これだけは覚えて欲しい2つのモジュラー形式
  • 導入④:q-展開とカスプ形式
  • 次回予告!
  • 「応用編」公開しました!
  • 今回の分の参考文献


応用編の目次(次回の記事

  • 応用①:「関数」の間の非自明な関係式が得られる(難易度:★★)
  • 応用②:「数列」の間の非自明な関係式が得られる(難易度:★★)
  • 応用③:ヘッケ作用素と2次のゼータ(難易度:★★★)
  • 応用④:素数を表現する2次形式(難易度:★★★★★)
  • 応用⑤:楕円曲線とフェルマーの最終定理(難易度:★★★★)
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ラマヌジャンの円周率公式

今年も3月14日、3.14の日がやってきました。3.14といえば、もちろん円周率の近似値ですね!

円周率の近似値にちなんで、世界的には 円周率の日(英語圏だとPIの日)と呼ばれているそうです。


毎年、この日にブログに書きたいと思っていた(できずにいた)話があります。それが次の ラマヌジャンの円周率公式 です。

 \displaystyle \frac{1}{\pi} = \frac{2\sqrt{2}}{9801} \sum_{n = 0}^{\infty} \frac{(4n)! (1103+26390n)}{(n!)^4 \cdot 396^{4n}} \tag{1}


なんじゃこりゃ と思うような公式ですね。

9801、1103、26390 といった謎めいた整数を複雑に絡み合わせた無限級数を計算すると、なんと円周率の逆数が出てくるというのです。

ラマヌジャンはインドが生んだ著名な数学者で、数学者の中でも群を抜く奇才として知られています。上の公式は、まさにラマヌジャンの奇才っぷりを詰め込んだような式になっていますね。

しかもこの公式、こんな見た目をしておきながら めちゃくちゃ収束が早い そうで、一時期は円周率を世界最高の精度で計算するプログラムに使われていたそうです。

ラマヌジャン自身はこの公式の証明を残しておらず、後の数学者によって証明は与えられています。しかし、彼独自の考え方はあったにせよ、こんな複雑な式を予想したというのはかえって不思議さが増してしまいますね。


こんな魅力的な公式なので、いつかはブログ記事にまとめたいと考えていました。とはいえ、いつか書きたいと思っていても、何もしなければ一生書けないとも思いました。

円周率の日にかこつけて、行けるところまでこの公式についての解説を試みたいと思います*1

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*1:深夜の0時から書き始めて、そこから力尽きるまで書いてみます。

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