tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

モジュラー曲線(5):メイザーの定理

モジュラー曲線というのは、上半平面  H \Gamma = \operatorname{SL(2, \mathbb{Z})} の合同部分群で割ったものとして定義されます。

定義からは、明らかに複素解析的な対象に見えると思います。ところが、実はモジュラー曲線は数論的な対象でもあるのです。

わかりやすい応用として、楕円曲線の位数有限な点に関する メイザーの定理 があります。

定理(メイザーの定理)
 E \mathbb{Q} 上の楕円曲線とする。このとき、 E の位数有限の有理点の位数  N は、 N = 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,12 のいずれかである。

これは楕円曲線の有理点の構造を決定するために大変有用な定理です。数論における大定理といってよいと思うのですが、この定理を証明するのにモジュラー曲線が用いられるのです。

メイザーの定理の証明自体は私は理解できていないので、ここでは解説はできません。今回は、位数有限の有理点とモジュラー曲線の関係に限って紹介したいという記事です。

話のキーとなるのは、モジュラー曲線の一点一点が楕円曲線の同型類に対応する という事実です。つまり、モジュラー曲線は楕円曲線の モジュライ空間 であるのです。

また、モジュラー曲線のもう一つの側面として、代数曲線としての性質があります。具体的に、方程式のなす点集合として表すことができるのです。この曲線としての性質から、たとえば位数Nの有理点を持つ楕円曲線が存在しないことが言えてしまうのです。


そんなわけでモジュラー曲線のすごさをお伝えしたいと思います。

今回の記事はtsujimotterがまさに勉強中の「理解の最前線」を書いている記事となっています。私の理解不足により誤りを含んでいる可能性があります。
勉強する際は、私の記述をうのみにせず参考文献をご参照いただければと思います。参考文献は一番下に書いています。

また「モジュラー曲線」シリーズの過去記事はこちらで読むことができます:
tsujimotter.hatenablog.com

今回の記事はシリーズ記事ですが、前回(モジュラー曲線(4))からずいぶんと時間が経ってしまいましたので、この記事単体で読めるような記事にしたいと思います。そのため、過去の記事と重複する部分もかなりあるかと思います。必要に応じて過去の記事を参照してみてください。

 

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正十二面体群とPSL(2,5):国際数学者会議PR企画の宣伝動画について

4年に一度、国際数学者会議(ICM: International Congress of Mathematicians)と呼ばれる大きな催しが行われます。フィールズ賞という、数学界の最高峰の賞が発表される会としても知られていますね。

次回、2022年にはロシアのサンクトペテルブルグにてICM 2022が開催されるようです。私がこの情報を知ったのは、ICM 2022の公式が出しているプロモーション企画の情報を、Springerさんのツイート経由で見たのがきっかけでした。

プロモーション企画のタイトルは "Surprising math user video contest" です。いかにも楽しそうなタイトルですね!

企画のページはこちらです:
icm2022.org

要するに、数学に関する面白い動画を投稿するコンテストのようですね。我こそはという方は挑戦してみてはいかがでしょうか。


特に見ていただきたいのは、ICM 2022公式が出している宣伝動画です。
www.youtube.com

動画を見てまず感じるのは、映像に登場する図がとてもきれいだということですね。それだけでもそそられますが、内容も大変面白く、私の心に深く刺さりました。

とはいえ、企画のプロモーション動画ということもあり、時間は短めで、かつ音声による説明はまったくありません。内容自体も結構高度なので、背景知識がないとなかなか理解するのは難しいかと思います。

そこで今回は、あくまで私の理解できた範囲で、このICMの動画の内容の解説を試みたいと思います。もちろん、私も100%理解できているわけではないので、あやふやな点も多々あるかと思います。その点をご了承の上、見ていただけると嬉しいです。


テーマは

正十二面体群と  \operatorname{PSL}(2, \mathbb{F}_5) の不思議な同型について

です。大変面白いトピックなので、ぜひ最後まで読んでいただきたいです!

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「π>3.05を凄すぎる方法で証明」を整数論的に考える

 \pi > 3.05」を示す問題が2003年の東大入試で出題されました。これは有名なのでみなさん良くご存じかと思いますが、一方で以下の動画のような解法はご存知でしょうか?

www.youtube.com

たいへん面白い解法なので、まずは一度ご覧いただきたいです。動画の解説もとても丁寧です。今回の記事はこの動画の内容を前提としてお話したいと思います。


動画の概要欄にもリンクが載っていますが、Yahoo知恵袋の以下の質問の「その他の回答」に載っていた回答が元ネタだそうです。
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

元ネタの人はどうやって発見したんでしょうね。いやー不思議です。


今回私が考えたいのは、いったいどうしてこんな解法が存在するのであろうかということです。登場するパラメータが絶妙なバランスで構成されていて、このような解法が存在すること自体が非自明です。


今回はその背景にある理屈を整数論的に分析してみたいと思います。最後まで読んでいただければ、実は動画で紹介された   17, 12 という数が、いかに特別な数であったか分かるかと思います。

それではぜひ最後までお付き合いください!

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(自由研究)面白い二重根号と「単数」を使った外し方

高校数学で習った「二重根号」を覚えていますでしょうか。たとえば

 \sqrt{4 + 2\sqrt{3}}

のように、根号の中に根号が入れ子になっている式を 二重根号 といいます。


上の二重根号は一見複雑な式に見えますが、実は次のように考えることで「ただの平方根」であることがわかります。

 \sqrt{4 + 2\sqrt{3}} =  \sqrt{(\sqrt{3} + 1)^2} = \sqrt{3} + 1 \tag{1}

不思議なことに、二重だった平方根が「解けてしまう」というのですね。


一般に

 (\sqrt{a} \pm \sqrt{b})^2 = a+b \pm 2\sqrt{ab} \tag{2}

が成り立つので

 \sqrt{(a+b) \pm 2\sqrt{ab}}

という形の二重根号はすべて解けてしまうわけですね。( a = 3, \; b = 1 とすれば、式  (1) が得られます。)



さて、今日紹介したい 面白い二重根号 は、三乗根が入った次の式です:

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7}

一見、複雑な二重根号なので、これ以上簡単になりそうにないのですが、実はこの二重根号も解けてしまうのです。一体どんな感じになるのでしょうか?

自分で考えたい人は少しストップして考えてみてください。

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(自由研究)49をmod 100でべき乗する話の一般化?

横山明日希さんのこちらのツイートの内容がとても興味深かったので、自分でもいろいろ一般化ができないかと考えてみました。

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箸袋で作った図形は正五角形か?

今日は 箸袋があるとつい作っちゃうこの図形 についての話です。

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細長い紙を用意して、上の図をイメージしながら折り曲げて「ぎゅっと」すると、きれいに正五角形が作れてしまいます。

箸袋に限らず、お手元に紙テープなど「細長い帯状のもの」があれば簡単に折ることができます。よかったらぜひやってみてください。


ところで、上で作った図形はたしかに五角形ですが、本当に正五角形だろうか? というのが本日の問いです。つまり、辺の長さと角の大きさは、厳密にすべて等しいのでしょうか?

これまで漠然と正五角形だろうと思っていましたが、よくよく思い返してみると、それを証明したことはありませんでした。一見簡単にできそうな気がしたのですが、やってみたらなかなかチャレンジしがいのある問題でした。


というわけで、今日は「箸袋で作った図形が正五角形であること」を証明してみたいと思います!

tsujimotterは昨日の夜にこの問題について考えていたのですが、証明が完成できたときはとても爽快な気持ちになりました。この快感を味わってもらいたいので、お時間ある方は、ぜひ一度自分で証明を考えてみてください。


以下では、私の思いついた証明方法を紹介したいと思います!

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保型形式(モジュラー形式)を勉強するとこんなにも楽しい(応用編)

今回は「保型形式(モジュラー形式)を勉強するとこんなにも楽しい」シリーズの 応用編 です!

数学ガール等を読んで保型形式について知ったけど、さわりの部分だけでは物足りない、もっと保型形式のその先を勉強してみたい、そう思っていた「あなた」のためのシリーズ記事です。


前回の記事では、「導入編」と称してモジュラー形式に関する最低限の事項を紹介しました。導入編で手に入れた知識は、まさに今回の応用編を読むために用意したものです。
tsujimotter.hatenablog.com



今回は「モジュラー形式を勉強するとこんなにも楽しい」ということを紹介したいと思います。いよいよ本題ですね。

前回の記事を読んだ方もそうでない方も、必要に応じて前回の記事を参照しつつ、読んでいただけたらと思います。

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みなさんにご紹介したいのは、次の 5つ の話です。

  • 応用①:「関数」の間の非自明な関係式が得られる(難易度:★★)
  • 応用②:「数列」の間の非自明な関係式が得られる(難易度:★★)
  • 応用③:ヘッケ作用素と2次のゼータ(難易度:★★★)
  • 応用④:素数を表現する2次形式(難易度:★★★★★)
  • 応用⑤:楕円曲線とフェルマーの最終定理(難易度:★★★★)

もちろんここにあげていないようなおもしろい話は、他にもたくさんあるかと思いますが、そういう話はまた別の本で読むときの楽しみにしてください。今回選んだ5つのテーマは、私が保型形式(モジュラー形式)を勉強する中で、本当に感動したものだけを厳選 して集めたものになっています。


中には相当難しい話も混ざっていますが、必ずしも全部理解できなくても大丈夫です。新しい世界のピクニックだと思って「散策してみよう」ぐらいの気軽な気持ちで読んでいただければと思います。

参考までに難易度を振っておきました。必要に応じて読めそうな部分だけを読んでいただいて大丈夫です。①と②以外は独立して読めるものとなっています。

それでは、順番に紹介していきましょう!

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