tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ヴェイユ予想ってなんだろう

こんにちは、日曜数学者のtsujimotterです。

今日は ヴェイユ予想 と呼ばれる大定理を紹介します。


ヴェイユ予想は、一見すると抽象的な代数幾何の定理ですが、その出発点は「mod p での解の個数」という素朴な問いです。
ところが答えを追ううちに、複素数上での方程式の「形」が関わってくる、というまさに壮大な物語です。

最終的には、具体的に方程式の解の個数を評価する不等式にまでたどり着きます。
ぜひ最後までお付き合いください!


目次:


 

宣伝:数学セミナー2025年10月号に記事が掲載されます

縁あって、数学セミナーの2025年10月号(9月12日発売)に私の記事が掲載されることになりました。

特集の全体テーマは

これが私の「推し不等式」

です。

tsujimotterは、数論に関する推し不等式として

『「29 予想」と代数曲線のハッセ-ヴェイユ境界』

というタイトルの記事を書いています。


実は、数学セミナーの記事中にも「ヴェイユ予想」というワードが登場し、内容も今回の記事とも深く関係します。

そのため、今回の記事と合わせて読んでいただけると、とても楽しいかと思います。ぜひ読んでいただけると嬉しいです。


1. ヴェイユ予想のモチベーション

ヴェイユ予想は、アンドレ・ヴェイユという数学者によって1949年に提唱された予想です。

タイトルは "Numbers of solutions of equations in finite fields" で、原論文は以下のリンク先から読むことができます:

André Weil: Numbers of solutions of equations in finite fields


ヴェイユ予想は、その後ドリーニュによって1974年に完全に解決しています。そのため現在では定理なのですが、ヴェイユ「予想」と呼ばれることが多いです。
(詳細な経緯は後ほど紹介します。)


ヴェイユの原論文のモチベーションは

「有限体上の方程式の解の個数を数えたい」
というものです。


たとえば

 x^n + y^n = 1

の方程式の解の集合はフェルマー曲線と呼ばれます。この方程式の有理点を求める問題は

 x^n + y^n = z^n

の整数解を求める問題と等価です。これに非自明な整数解がないことは証明されており、フェルマーの最終定理というのでした。


ここで整数解ではなく、有限体上の点(方程式の解)を考えたい と思います。

整数解は無限に候補がありますので、一筋縄ではいきません。そこで、解の候補を有限に絞ったミニチュア版の整数論を展開したいというわけです。


少しだけ有限体についての復習をしたいと思います。

有限体は、有限個の要素を持つ集合がなす体のことです。要するに有限個の要素だけでうまいこと四則演算が成り立っている構造だと思ってもらえれば十分です。

一番分かりやすい有限体の例として、 p を素数として、 p 個の元からなる集合

 \mathbb{F}_p = \{0, 1, 2, \ldots, p-1 \}

がなす体があります。四則演算は \bmod{p} での計算を行えばよく、たとえば  p = 5 のときは

 3 + 4 = 2
 2 \cdot 3 = 1

のような加法と乗法が定義されます(減法と除法は、加法と乗法の逆元によって定義されます)。


実は有限体はこれだけではなく、 \mathbb{F}_p の有限次拡大体も有限体となります。

任意の有限体の位数は  q = p^n という「素数のべき乗」の形で表され、位数  q の有限体を  \mathbb{F}_q と表すのが一般的です。

また、 \mathbb{F}_q n 次拡大体は  \mathbb{F}_{q^n} と表されます。

有限体についての準備はこれで終わりです。

少し難しいなと感じた方は、以降の記事をすべて  q = p を素数だと思っていただいて大丈夫です。そうすれば、 \mathbb{F}_p は素数  p の有限体、すなわち \mod{p} の世界だと思えます。


さて、曲線  C の方程式が有限体  \mathbb{F}_q 上で計算されていると考えて、その方程式の解である点の座標  (x, y) がどちらも  \mathbb{F}_q の元であるとします。この点を  C \mathbb{F}_q 有理点といいます。 \mathbb{F}_q 有理点のなす集合を  C(\mathbb{F}_q) で表します。


数学者ガウスは、 n = 3 のときのフェルマー曲線

 x^3 + y^3 = 1

について、 \bmod{p} での有理点の個数  \# C(\mathbb{F}_p) を厳密に計算しています(ガウスすごいですね!)。

この  n = 3 のフェルマー曲線は、実は楕円曲線と呼ばれる曲線になっています。


また、一般に楕円曲線  C については、ハッセの定理という定理が知られており、有限体上の有理点の個数  \# C(\mathbb{F}_q) が式(1)のような不等式の範囲内に存在することが示されています:

 \left| q + 1 - \# C(\mathbb{F}_q)\right| \leq 2\sqrt{q} \tag{1}


さて、楕円曲線やフェルマー曲線に限らない一般の代数曲線

 C\colon f(x, y) = 0

について、その  \mathbb{F}_q 有理点の個数  \# C(\mathbb{F}_q) に何か法則はないでしょうか。


さらに変数を  d+1 個に増やした代数多様体

 V\colon f(x_1, x_2, x_3, \ldots, x_{d+1}) = 0

を考えて、その  \mathbb{F}_q 有理点の個数  \# V(\mathbb{F}_q) についてはどうでしょうか。


このような疑問に答えるのがヴェイユの論文のモチベーションです。


2. 母関数の復習

今回の問題は、有限体  \mathbb{F}_{q} 上の代数多様体  V \mathbb{F}_{q} 有理点の個数

 \# V(\mathbb{F}_{q})

を求めるのが目的です。


この問題に対して  \mathbb{F}_{q} だけでなく、その  n 次拡大体である  \mathbb{F}_{q^n} もまとめて考えるのがポイントです。

 q を固定すると、 \# V(\mathbb{F}_{q^n}) n を添字とする数列

 \# V(\mathbb{F}_{q^1}), \; \# V(\mathbb{F}_{q^2}), \; \# V(\mathbb{F}_{q^3}), \; \#V(\mathbb{F}_{q^4}), \; \# V(\mathbb{F}_{q^5}), \; \ldots

だと思うことができます。


数列を一気に扱う方法の一般論として、母関数 という強力な手法があります。

数列  a_n に対して、この数列を  T^n の係数としてまとめた

 \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} a_n T^n

という関数を母関数といいます。

たとえば、フィボナッチ数列

 F_1 = 0, \; F_2 = 1, \; F_3 = 1, \; F_4 = 2, \; F_5 = 3, \; \ldots

については、母関数

 \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} F_n T^n = \frac{T}{1 - T - T^2}

を調べることで一般項の明示的な式を得ることができます。

具体的には、右辺の分母を

 1 - T - T^2 = (1 - \alpha T)(1 - \beta T)

のように因数分解することで、部分分数分解に持ち込みます。すなわち

 \displaystyle \begin{align*} \sum_{n=0}^{\infty} F_n T^n &= \frac{T}{1 - T - T^2} \\
&= \frac{T}{(1 - \alpha T)(1 - \beta T)} \\
&= \frac{1}{\alpha - \beta}\left(\frac{1}{1 - \alpha T} - \frac{1}{1 - \beta T} \right) \\
&= \frac{1}{\alpha - \beta} \left(\sum_{n=0}^{\infty} \alpha^{n} T^n - \sum_{n=0}^{\infty} \beta^{n} T^n \right)
\end{align*}

となります。最後の等式は、無限等比級数の和公式を用いました。

 T^n の係数を比較することで、一般項

 \displaystyle F_n = \frac{1}{\alpha - \beta} (\alpha^{n} - \beta^{n})

を得ることができます。


このフィボナッチ数列の例は初等的ですが、意外と馬鹿にできません。
実は、この後紹介する合同ゼータ関数の計算でもやっていることは ほとんどこれと同じ なのです。

私はここに気付いたとき「複雑そうに見えるヴェイユ予想の議論も、実はフィボナッチ母関数の延長線にあるんだ!」と、とてもワクワクしました。


3. 合同ゼータ関数

同様の手法を方程式の解の個数についても行いたいと思います。今回は

 \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \frac{\# V(\mathbb{F}_{q^n})}{n} T^n

という形の母関数を考えます。

 \frac{1}{n} が掛かっているのが先ほど若干気になりますが、あまり気にしないでください。
後で見るように、母関数を  T で微分すると
 \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \# V(\mathbb{F}_{q^n}) T^{n-1}

となり、 \frac{1}{n} はきれいに消えます。



 V に具体的な代数多様体を入れて、あれこれ計算していくと、どの場合も

 \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \frac{\# V(\mathbb{F}_{q^n})}{n} T^n = \log(\text{きれいな式})

のように表せます。

この「きれいな式」の具体的な形はヴェイユ予想の根幹に関わってくる部分なので、後でじっくり説明するとして、とにかく  \log の部分がなければとてもきれいな式になることが分かります。


そこで、両辺にあらかじめ指数関数  \exp を適用しておけば

 \displaystyle \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\# V(\mathbb{F}_{q^n})}{n} T^n\right) = \text{きれいな式}

となり、 \log を打ち消すことができます。

左辺の関数を、 \mathbb{F}_q 上の代数多様体  V合同ゼータ関数 といい、 Z(V, T) で表します。改めて書くと式(2)のようになります。

 \displaystyle Z(V, T) = \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\# V(\mathbb{F}_{q^n})}{n} T^n\right) \tag{2}

ということですね。


ヴェイユ予想はこの合同ゼータ関数の美しい法則性についてまとめたものとなっています。もちろん、この法則から有理点の個数についての情報も得られます。


なぜ「ゼータ関数」と呼ばれるの?

ところで、この  Z(V, T) ですが、単なる形式的冪級数のように見えるので、あまり「ゼータ関数」 っぽさがないかもしれません。

もう少しゼータ関数に寄せるために、 T = q^{-s} を代入して

 \displaystyle Z(V, q^{-s}) = \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\# V(\mathbb{F}_{q^n})}{n} q^{-ns}\right)

という形のものを考えることもあります。これは  s についての関数となっています。

もっと分かりやすく

 \displaystyle \zeta_V(s) = Z(V, q^{-s})

という関数を定義してしまってもいいでしょう。


関数  \zeta_V(s) が「ゼータ関数」だと思ってもらうために、1点からなる  \mathbb{F}_q 上の代数多様体  V = \{ \text{1点} \} を用いて、 \zeta_V(s) を計算してみます。

 \# V(\mathbb{F}_{q^n}) = 1 なので

 \displaystyle Z(\{ \text{1点} \}, T) = \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} T^n \right)

と表せますが、この右辺を計算してきれいな形に持っていきましょう。


 \log T のテイラー展開

 \displaystyle  \log(1 - T) = -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} T^n

を用いると

 \displaystyle \begin{align*} Z(\{ \text{1点} \}, T) &= \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} T^n \right) \\
&= \exp( - \log(1 - T)) \\
&= \frac{1}{1 - T}
\end{align*}

と計算できます。

 T = q^{-s} を代入して

 \displaystyle  \zeta_{\{ \text{1点} \}\;}(s) = Z(\{ \text{1点} \}, q^{-s}) = \frac{1}{1 - q^{-s}}

が得られました。


これは  q = p(素数)とすれば、リーマン・ゼータ関数のオイラー積表示

 \displaystyle  \zeta(s) = \prod_p \frac{1}{1 - p^{-s}}

の因子1つ(これを「オイラー因子」といいます)に一致しますね。



4. 複素数体上の代数多様体の「形」

そろそろヴェイユ予想に行きたいところなのですが、もう一つだけ準備をしたいと思います。

今回の問題は有限体上の代数多様体の点の個数を考えているわけですが、ここで あえて複素数体上でも考えたい と思います。

「どうしてそんなことを?」と思うかもしれませんが、有限体上の方程式の解の個数を考えるのに、なぜか複素数で考えた方程式の解の「形」が役に立つ というのがヴェイユ予想の面白いところなのです。


たとえば、楕円曲線に関して考えてみましょう。方程式の係数を複素数だと思って、複素数の座標を考えることによって、その解全体はリーマン面の構造を持ちます。解の「形」はトーラスに一致することはよく知られていますね。

楕円曲線がトーラスに対応するように、一般の代数多様体の場合も複素多様体に対応します。

代数多様体の次元が  d のとき、複素多様体も  d 次となります。多様体の「形」というのは要するに位相多様体を考えることに相当しますが、複素多様体は位相多様体だと思うことができ、その(実)次元はちょうど2倍の  2d となります。


以上のように代数多様体  V を位相多様体とみなすと、 i 次のホモロジー群

 H_i(V, \mathbb{Z})

を定義することができます。これは  \mathbb{Z} 加群の構造を持ちますが、 \mathbb{Z} 上の階数

 b_i = \operatorname{rank}_{\mathbb{\mathbb{Z}}} H_i(V, \mathbb{Z}) \tag{3}

ベッチ数といいます。


このベッチ数に対して、順にプラスマイナスの符号を付けて足し合わせます(「交代和」といいます):

 \chi = b_0 - b_1 + b_2 - b_3 + b_4 - b_5 + \cdots \tag{4}

このようにして得られる量  \chiオイラー標数といいます。


例:楕円曲線の場合

楕円曲線はトーラスに対応するので、そのホモロジー群は

 H_0(V, \mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}
 H_1(V, \mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}^2
 H_2(V, \mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}

となります。

ベッチ数は  \mathbb{Z} 上の階数なので、

 b_0 = 1, \;\; b_1 = 2, \;\; b_2 = 1

となります( b_3 以降はすべて  0)。


ベッチ数は、いわば複素数を座標に考えたときの代数多様体の表す図形の「形」に関わる量です。

たとえば、トーラスの  b_1 = 2 については、独立な2つのサイクル(穴をまわるサイクルと輪をまわるサイクル)があるという、トーラスの幾何的な性質に対応していますね。



例:一般の代数曲線の場合

この例はあとで具体的に計算する際に使用します。

(非特異射影)代数曲線は、複素数体上で考えることによりコンパクトリーマン面の構造を持つことが知られています。コンパクトリーマン面は、位相多様体としては2次元の閉多様体、すなわち「閉曲面」に対応します。

一般に閉曲面は「穴の数」によって分類されます。これを種数といい  g で表します。「 g 個の穴のある浮き輪」のような図形を考えてもらえたらと思います。

また、ベッチ数を考える上では、位相多様体としての次元が2なので、ホモロジー群は2次まで見れば十分です(3次以上のホモロジーは0になります)。


実際、代数曲線  V に対応するホモロジー群は

 H_0(V, \mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}
 H_1(V, \mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}^{2g}
 H_2(V, \mathbb{Z}) \simeq \mathbb{Z}

したがって、ベッチ数は

 b_0 = 1, \;\; b_1 = 2g, \;\; b_2 = 1

となります。

 b_1 = 2g というのは、 g 個の穴の空いた図形の上の独立なサイクルの個数に対応しています。


また、オイラー標数はベッチ数の交代和をとって

 \chi = b_0 - b_1 + b_2 = 1 - 2g +1 = 2 - 2g

と計算できます。

右辺が  2 - 2g なので、まさにオイラーの多面体定理と同じものが出てきていますね。


5. ヴェイユ予想とは

準備が整いましたので、いよいよヴェイユ予想の主張を紹介したいと思います。

ヴェイユ予想とは、代数多様体の合同ゼータ関数に関する 4つの性質群 からなる予想(定理)です。

以下では、 V d 次元の非特異射影多様体とします。


ヴェイユ予想1:有理性

合同ゼータ関数  Z(V, T) は、 T についての有理関数である。

特に、整数係数の多項式  P_0(T), P_1(T), P_2(T), \ldots, P_{2d-1}(T), P_{2d}(T) を用いて

 \displaystyle Z(V, T) = \frac{P_1(T) \cdots P_{2d-1}(T)}{P_0(T) P_2(T) \cdots P_{2d}(T)} \tag{5}

のように表せる(添字は奇数のものが分子、偶数のものが分母)。 d は代数多様体の次元を表す。

また、 P_0(T) = 1 - T, \;\; P_{2d}(T) = 1 - q^d T である。


有理関数とは、次数が有限の多項式を用いて  \displaystyle \frac{多項式}{多項式} で表せる関数のことをいいます。有理関数で表されることをもって「有理性」と呼んでいるわけです。前節で「きれいな式」と書いたのはこのことです。


フィボナッチ数列の母関数の場合も、形式的冪級数で表された母関数が

 \displaystyle \frac{T}{1 - T - T^2}

のように有理関数で表されました。このように「閉じた式」で表せることで、一般項の計算が実行できたのでした。


合同ゼータ関数の母関数自体は形式的冪級数(さらに指数関数がついた形)として定義されていますので、きれいになる必然性はないわけですが、これが有理性を持つというのは不思議ですね。

これを整数係数の範囲で分解して得られる多項式が  P_0(T), P_1(T), \ldots, P_{2d}(T) というわけです。

多項式の添字は奇数のものを分子に、偶数のものを分母に配置しています。以降で説明するように、実はこれらの多項式は(ある程度)具体的に記述できるのです。


ヴェイユ予想2:リーマン予想の類似

 P_i(T) 1 \leq i \leq 2d-1)を複素係数の範囲で1次の積に分解して
 \displaystyle P_i(T) = \prod_{j=1}^{\operatorname{deg} P_i(T)}(1 - \alpha_{i, j} T) \tag{6}

とすると

 \displaystyle |\alpha_{i, j}| = q^{i / 2} \tag{7}

が成り立つ。


 \alpha_{i, j} の絶対値が  q^{i / 2} になることを主張していますが、これがなぜ「リーマン予想の類似」と呼ばれるのかについて説明が必要でしょう。


まず、 P_i(T) = \prod_{j} (1 - \alpha_{i, j} T) より、 \alpha_{i, j}^{-1} P_i(T) の根です。

 T = \alpha_{i, j}^{-1} を代入すると  P_i(T) は0になるため、 \alpha_{i, j}^{-1} は合同ゼータ関数  Z(V, T) の零点または極になります。

本来のリーマン予想とは、リーマン・ゼータ関数の零点の位置が「特定の範囲内にある」という形の予想だったことを思い出すと、その類似であると思えます。



とはいえ、現状の  Z(V, T) の定義からは「ゼータ関数」感が感じられませんので、 T = q^{-s} を代入し、ゼータ関数らしさを全面に出した表記

 \zeta_V(s) = Z(V, q^{-s})

を用いて議論します。

ここで、 q^{-s} = \alpha_{i, j}^{-1} すると、リーマン予想の類似は

 \displaystyle |q^{-s}| = |\alpha_{i, j}^{-1}| = q^{-i / 2}

と表されますが、 q^{-s} の絶対値は

 |q^{-s}| = q^{-\operatorname{Re}(s)}

となることと合わせて

 \displaystyle \operatorname{Re}(s) = \frac{i}{2}

と言い換えられます。これは、 \zeta_V(s) の零点や極の実部が  \displaystyle \frac{i}{2} 0 \leq i \leq 2d)であることを意味します。


「零点(や極)の実部が  \displaystyle \frac{i}{2} である」・・・とまで来れば、リーマン予想の類似と呼ぶにふさわしいと言えそうですね。



ヴェイユ予想3:ベッチ数の一致

多項式  P_i(T) の次数  \operatorname{deg} P_i(T) は、
 V を前節の方法で複素多様体→位相多様体とみなしたときの) V のベッチ数  b_i に等しい


これによって多項式  P_i(T) の次数が決定できるわけですが、それだけの話に留まらないとんでもないことを言っていますね。

元々の合同ゼータ関数の定義は、有限体上の点の個数を数えていただけなのに、なぜか座標を複素数としたときに得られる図形の「形」が関わっているという、非常に不思議なことを言っています。


ヴェイユ予想4:関数等式

関数等式
 \displaystyle Z\left(V, \frac{1}{q^d T}\right) = \pm \,q^{\frac{d \,\chi}{2}} \,T^{\chi} \; Z(V, T) \tag{8}

が成り立つ。ただし

 \chi = \operatorname{deg} P_0(T) -  \operatorname{deg} P_1(T) + \operatorname{deg} P_2(T) - \cdots + \operatorname{deg} P_{2d}(T) \tag{9}

である。


ここで、 \chi の定義である式  (9) は、多項式の次数の交代和となっています。ヴェイユ予想2(多項式の次数がベッチ数に一致する)を思い出すと

 \chi = b_0 - b_1 + b_2 - \cdots + b_{2d}

と置き換えられますので、これは幾何的にはオイラー標数の定義そのものだとわかりますね。

変数  T q^{-d} T^{-1} に変換した式を考えると、(少しの係数がついて)元の合同ゼータ関数  Z(V, T) に戻るという等式になっています。このような関数等式は、一般に「ゼータ関数」と呼ばれる関数が持つべき条件として知られています。


 T = q^{-s} を代入して変数  s についての関数  Z(V, q^{-s}) とみなし、関数等式を考えると

 \displaystyle Z(V, q^{-(d-s)}) = \pm q^{\chi\left(\frac{d}{2} - s\right)} Z(V, q^{-s})

となります。さらに  \zeta_V(s) = Z(V, q^{-s}) の表記を用いると、

 \displaystyle \zeta_V(d-s) = \pm q^{\chi\left(\frac{d}{2} - s\right)} \zeta_V(s)

となります。これをみると

 s \;\; \longleftrightarrow \;\; d-s

という変数間に関数等式による対応が成り立っています。これは  \displaystyle \frac{d}{2} を中心として関数  \zeta_V(s) が点対称的であるという、本来のゼータ関数の関数等式そのものですね。



以上が、ヴェイユ予想の主張の全容です。


6. 代数曲線の場合:ハッセ・ヴェイユ境界

ここまでヴェイユ予想の主張を概観してきました。一方で、ヴェイユ予想の主張はあくまで合同ゼータ関数の性質として述べられていたので、解の個数とどのように結びつくかは今ひとつ分かりませんね。


そこでより具体的に、代数曲線を例にして考えましょう。ヴェイユ予想が解の個数の評価にどのように役に立つのかを見ていきたいと思います。


以下では、 \mathbb{F}_q 上の非特異射影曲線  C について考えたいと思います。

 C を複素数体上で考えると、これはコンパクトリーマン面に対応し、位相的には種数  g の閉曲面なのでした。

また、上で計算したように、ベッチ数は

 b_0 = 1, \;\; b_1 = 2g, \;\; b_2 = 1

であり、オイラー標数は

 \chi = b_0 - b_1 + b_2 = 2 - 2g

です。


以上の準備のもと、ヴェイユ予想が成り立つと仮定すると、次のようなことが言えます。

まず、代数曲線の(代数多様体としての)次元  d = 1ヴェイユ予想1(有理性)から、合同ゼータ関数が

 \displaystyle Z(C, T) = \frac{P_1(T)}{P_0(T) P_2(T)}

と表せることが分かります。分母については、 P_0(T) = 1 - T, \;\; P_2(T) = 1 - qT と具体的に表せます。

残りは分子の  P_1(T) だけです。ヴェイユ予想3(ベッチ数の一致)から多項式  P_1(T) の次数が  b_1 = 2g に一致することも分かります。

よって  P_1(T) を1次の積に分解すると、 2g 個の複素数  \alpha_i を用いて

 \displaystyle P_1(T) = \prod_{i=1}^{2g} (1 - \alpha_i T)

と表せることが分かります。


以上の議論により、ヴェイユ予想1・3を仮定することで、代数曲線  C の合同ゼータ関数の具体的な表示

 \displaystyle Z(C, T) = \frac{\prod_{i=1}^{2g} (1 - \alpha_i T)}{(1 - T) (1 - qT)} \tag{10}

が得られることが分かりました。



ここから合同ゼータ関数の定義に戻って、解の個数を評価できる形に式変形していきましょう。

合同ゼータ関数  Z(C, T) の定義より

 \displaystyle \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\# C(\mathbb{F}_{q^n})}{n} T^n \right) = \frac{\prod_{i=1}^{2g} (1 - \alpha_i T)}{(1 - T) (1 - qT)}

が成り立ちます。両辺の  \log をとると

 \displaystyle \begin{align*} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{\# C(\mathbb{F}_{q^n})}{n} T^n &=  \log \left(\frac{\prod_{i=1}^{2g} (1 - \alpha_i T)}{(1 - T) (1 - qT)} \right) \\
&= - \log(1 - T) \\
&\;\;\;\; + \sum_{i=1}^{2g} \log(1 - \alpha_i T) \\
&\;\;\;\; - \log(1 - qT)
\end{align*}

となります。ここで、両辺を  T で微分してみましょう。すると

 \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \# C(\mathbb{F}_{q^n}) T^{n-1} =  \frac{1}{1 - T} - \sum_{i=1}^{2g} \frac{\alpha_i}{1 - \alpha_i T} + \frac{q}{1 - qT}

が得られます。ここで右辺を無限等比級数だと思うと、和公式より

 \displaystyle \begin{align*} \frac{1}{1 - T} &= 1 + T + T^2 + \cdots \\
 \frac{\alpha_i}{1 - \alpha_i T} &= \alpha_i + \alpha_i^2 T + \alpha_i^3 T^2 + \cdots \\
 \frac{q}{1 - qT} &= q + q^2T + q^3 T^2 + \cdots \end{align*}

となります。両辺の  T^{n-1} の係数を比較することで

 \displaystyle \# C(\mathbb{F}_{q^n}) = q^n + 1 - \sum_{i=1}^{2g} \alpha_i^n \tag{11}

が成り立ちます。

これで  P_1(T) 2g 個の根(の逆数)  \alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_{2g} を用いて、 \mathbb{F}_{q^n} 有理点の個数を評価する公式  (11) が得られました。


まだ使っていないのが、 i = 1 に関するヴェイユ予想2(リーマン予想の類似)

 \displaystyle |\alpha_i| = q^{1/2} \tag{12}

です。式  (11)

 \displaystyle q^n + 1 - \# C(\mathbb{F}_{q^n}) = \sum_{i=1}^{2g} \alpha_i^n

と変形してから、絶対値の評価をします。

 \displaystyle \begin{align*} \left|q^n + 1 - \# C(\mathbb{F}_{q^n})\right| &= \left|\sum_{i=1}^{2g} \alpha_i^n\right| \\
&\leq \sum_{i=1}^{2g} \left|\alpha_i\right|^n \\
&= \sum_{i=1}^{2g} q^{n/2} \\
&= 2g\, q^{n/2} \end{align*}

2番目の不等号は三角不等式から、3番目の等式は  i = 1 についてのリーマン予想の類似  (12) から得られます。

よって

 \displaystyle \left|q^n + 1 - \# C(\mathbb{F}_{q^n})\right| \leq 2g\, q^{n/2} \tag{13}

が得られます。

最後の不等式  (13) は、解の個数を右辺の式で上から評価するような不等式になっており、右辺の式をハッセ・ヴェイユ境界といいます。

 C を楕円曲線とすると  g = 1 よりハッセの定理  (1) も得られます。


ヴェイユ予想のリーマン予想の類似部分から、解の個数を評価する具体的な不等式が得られるのは、大変興味深いですね。


7. ヴェイユ予想の証明の歴史とその先

ヴェイユ(下写真)は、さまざまな代数曲線や代数多様体の具体的な計算を実行し、特にフェルマー多様体の解の個数を計算することで、ヴェイユ予想を予想しました。それが1949年の論文です。

また、ヴェイユは別の論文で代数曲線(やアーベル多様体)に関するヴェイユ予想については証明しています。したがって、代数曲線に限定すれば、ヴェイユの時点で定理だったというわけですね。
(だから「ハッセ・ヴェイユ境界」のように、ヴェイユの名前が冠されているというわけですね。)

一般の代数多様体に関しては、有理性についての個別の証明は1960年にドゥオーク(Dwork)によってなされましたが、全面的な解決には至りませんでした。


アレクサンドル・グロタンディーク(下写真)という数学者は、ヴェイユ予想の特に「リーマン予想の類似」部分を証明するために、代数幾何をさらに抽象化、洗練させていきます。

グロタンディークは、複素数体上の曲線には(コ)ホモロジーがあるように、有限体においてもコホモロジーに相当するものが存在するのではないかと考えました。そこで導入されたのがエタール・コホモロジーです。

実際、エタール・コホモロジーがレフシェッツ不動点定理や比較定理、ポアンカレ双対定理などの性質を満たすことから、リーマン予想の類似以外のヴェイユ予想1・3・4が自動的に成立することが示されたのです。

残るはリーマン予想の類似だけだったわけですが、これはなかなか証明されませんでした。グロタンディーク自身は、一層抽象化された「スタンダード予想」を解くことで、ヴェイユ予想が示される方向性で進めていたようですが、この方向性での証明は現在も実現されていません。


実際は、グロタンディークの弟子のピエール・ドリーニュ(下写真)によって、グロタンディークとは異なる方針でリーマン予想の類似が証明されました。1974年のことでした。これによって全面解決となったわけです。

以上がヴェイユ予想の歴史です。



ヴェイユ予想の面白さは、複素数体上の多様体と有限体上の多様体が関わっている点にあると思います。

コホモロジーの比較定理のように、有限体上のコホモロジー(エタール・コホモロジー)と複素数体上のコホモロジーが直接対応するような定理も知られています。このような同型が存在するのは、その元になっている「コホモロジーの心を表す何か抽象的な概念」があるのではないか?そう考えて、こうした方向性で今も数論幾何の研究が進んでいっているそうです。この理論は「モチーフ」と呼ばれているそうです。


いずれにしても、このような深い問いを呼び起こすヴェイユ予想は、本当に面白い予想(定理)ですね。



8. まとめ

ここまで見てきたように、ヴェイユ予想は有限体上の解の個数と複素幾何の形を結びつける壮大な物語です。

個人的にとても面白いと思ったのは、合同ゼータ関数の複雑な計算も、突き詰めれば フィボナッチ数列の母関数の議論とほとんど同じ構造 になっている ということに気付いた点です。
大定理の背後に、あのシンプルな数列と同じアイデアが流れていると知ったとき、強いワクワクを感じました。

この「シンプルと壮大のつながり」こそ、数学の醍醐味だと思います。


それでは今日はこの辺で!
最後まで読んでくださってありがとうございました!


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エタール・コホモロジーが「よい」性質を持っていることから、ヴェイユ予想のいくつかが示されるということについては、実は以前にも以下の記事で書いたことがありました。
tsujimotter.hatenablog.com


楕円曲線のハッセの定理についても以下の記事でまとめています。
tsujimotter.hatenablog.com


ヴェイユ予想の系として、ラマヌジャンのデルタについての「ラマヌジャン予想」が導かれることが知られています。関連記事としてこちらもご覧ください。
tsujimotter.hatenablog.com



参考文献

より発展的なことを学びたい方は、ぜひ伊藤哲史先生の「コホモロジー論とモチーフ」という講義資料をご覧になってください。
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/~tetsushi/files/hokudai200609.pdf


三枝先生の「数論幾何入門」という本の11章のテーマがまさにヴェイユ予想となっています。ブログを書くにあたり、こちらの内容も参照させていただきました。