tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

3次方程式の判別式

 n 次多項式

 f(X) = a_n X^n + a_{n-1} X^{n-1} + \cdots + a_2 X^2 + a_1 X + a_0

を考えるとき、方程式  f(X) = 0 の判別式とは、 n 個の解  \alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n を用いて

 \displaystyle \Delta = a_n^{2n-2} \prod_{i < j}(\alpha_i - \alpha_j)^2

と表せる量のことです。


たとえば、3次方程式  f(X) = X^3 + pX + q = 0 を考えて、その3つの解を  \alpha, \beta, \gamma とするとき

 \displaystyle \Delta = (\alpha - \beta)^2(\beta - \gamma)^2(\gamma - \alpha)^2

と表すことができますね。要するに、すべての解の差をとり、2乗して掛け合わせたものですね。

定義から明らかなように、 f(X) が重根を持つなら判別式は 0 となります。つまり、判別式は重根の存在の判定器になっているということですね。ほかにも判別式にはいろいろな面白いことがありますが、今日は深入りはしません。


さて、今日はこの3次方程式の判別式を計算したいと思います。

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モジュラー曲線(4):レベル構造付き楕円曲線とモジュライ空間

前回の記事では、モジュラー曲線  Y(1) と楕円曲線の同型類全体が全単射であることを示しました。すなわち、 Y(1) は楕円曲線の(同型類の)モジュライ空間になっているということでした。
tsujimotter.hatenablog.com


今回はレベル構造が入ったモジュラー曲線  Y_1(N) を考えたいと思います。このモジュラー曲線は一体何のモジュライ空間なのかというのが今回の主題です。

実は、上の話の類似で、 Y_1(N) はレベル構造が付いた楕円曲線のモジュライ空間になっています。今日はそれを示すのを目的とします。

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モジュラー曲線(3):複素トーラスとしての楕円曲線

今回の記事は、楕円曲線についての基礎的な事項についてのおさらいです。

これまでのtsujimotterのノートブックでは、色々な記事で楕円曲線について紹介してきました。しかしながら、どれも文字数や手間の関係で駆け足で紹介せざるを得ませんでした。ここで一度腰を据えて丁寧に解説したいと思います。

楕円曲線は、代数曲線としての側面を紹介することが多いですが、今回は複素トーラスとしての側面について中心に紹介します。これは、後でモジュラー曲線に関する記事で使うことを想定しています。

モジュラー曲線関連の情報は、以下のタグの一連の記事でまとめているところです。
tsujimotter.hatenablog.com

なお、今回の記事はモジュラー曲線に関するシリーズ記事の一環で書いていますが、今回の記事に関して言えば、これまでの知識なしで読めるものとなっています。

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曲線と関数体 (2):楕円曲線の加法はなぜ「あの」定義なのか?

今回のテーマは

楕円曲線の加法はなぜあの定義なのか?

です。前回に引き続き、楕円曲線の謎に迫っていきましょう。

前回の記事はこちら:
tsujimotter.hatenablog.com

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曲線と関数体 (1):楕円曲線はなぜ3次曲線で表せるのか?

楕円曲線とは(細かいことを抜きにして言えば *1

 Y^2 = X^3 + aX + b

という式で表される曲線のことです。上の方程式のことを、楕円曲線の定義方程式といいます。


時と場合によって微妙に定義式の書き方が異なったりますが、左辺の  y の指数はいつも 2乗 になっていて、右辺の式はいつも決まって 3乗 になっています。

なぜこんな形の式を考えるのでしょう。

楕円曲線について勉強した人は、一度くらい、このような疑問を持つのではないでしょうか。


ところで、楕円曲線の定義として、以下のものを思い浮かべた方もいるかもしれません。

種数1の非特異射影代数曲線を楕円曲線という

上記の定義には、定義方程式の形が一切出てきませんが、冒頭の定義と一致するのでしょうか。


ここでは、種数1 という情報がポイントです。ほぼこの情報だけから、楕円曲線の定義方程式の形状が決定されるのです。

代数曲線の理論には、リーマン・ロッホの定理 という重要な定理があって、楕円曲線の上で定義される関数の空間の次元を、種数を用いて特定することができます。特定した関数の空間における関係式を用いて、定義方程式を決定することができるのです。

ざっくりと流れを説明しましたが、以降で詳しく解説します。

*1:楕円曲線の定義としては、正確に言えば以下のものです。 楕円曲線とは、 ①非特異な射影曲線であって ②上の式に双有理同値な曲線のこと です。 さらに言えば、係数体の標数が2でも3でもない場合はこれでよいのですが、標数が2や3の場合には  Y^2 = X^3 + aX + b ではなく  Y^2 + aXY + bY  = X^3 + cX^2 + dX + e という式に双有理同値な曲線を楕円曲線といいます。 が、今回は細かいところを抜きにして、標数 0 のものだけを考えます。その上で、 Y^2 = X^3 + aX + b で表された曲線のことを楕円曲線ということにしましょう。

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1729とK3曲面

こんにちは。本日、東京にて 日曜数学会 というイベントが開催されますね。

日曜数学会は毎年1月・6月・10月の3回開催されていますから、実に5ヶ月ぶりとなります。

5ヶ月も経つと「発表したいネタ」が溜まるようで、毎年この時期は発表者がたくさん集まります。私も今回の開催に合わせて、とっておきのネタを準備していました。

それが

「1729とK3曲面」

のお話です。

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層の定義

最近、スキームの話をきっかけに、tsujimotterのノートブックにも「層」という概念が登場するようになりました。

ところが、これまでのブログ記事では、層の定義は頑なに避けられてきました。その理由は、私自身が理解できていなかったからです。

今回は、いよいよ層の定義をしてみたいと思います。今日のポイントは、具体例の計算です。具体例を通して、層の理解を目指しましょう。

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