tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

リウヴィルの示した「初等整数論の」面白い定理について

今日は、次の等式

 (1 + 2 + 2 + 4)^2 = 81 = 1^3 + 2^3 + 2^3 + 4^3 \tag{1}

についてです。

こちらの記事は今日投稿された下記の動画に関して、さらに深い解説をする記事となっています。

よろしければ、こちらの動画も合わせてご覧ください!


この式だけ見せられても

「ほぉ、なるほど。足したものを2乗したものと、3乗してから足したものが【たまたま】一致する等式なんですね。面白いですね。」

となるわけですが・・・。


実はこの式、次のように一般的に求められる式なんです!


 n = 10 とします。
 10 のすべての約数:  1, \; 2, \; 5, \; 10
② ①のそれぞれについて約数の個数を数える:  1, \; 2, \; 2, \; 4
③ ②で得られた数列を足して2乗したもの(左辺)と、3乗してから足したもの(右辺)が一致する


なんと、これは任意の正の整数  n について成り立ってしまうのです!!



たとえば、こんなふうに。

  •  n = 5 のとき

 (1 + 2)^2 = 9 = 1^3 + 2^3

  •  n = 9 のとき:

 (1 + 2 + 3)^2 = 36 = 1^3 + 2^3 + 3^3

  •  n = 10 のとき:

 (1 + 2 + 2 + 4)^2 = 81 = 1^3 + 2^3 + 2^3 + 4^3

  •  n = 12 のとき:

 (1 + 2 + 2 + 3 + 4 + 6)^2 = 324 = 1^3 + 2^3 + 2^3 + 3^3 + 4^3 + 6^3


なんということでしょう!!!


この事実は一般に リウヴィル という数学者が示したそうです。


しかしながら、より詳しい話を調べようと思って「リウヴィル 定理」等で検索しても、この定理はぜーんぜん引っかかりません。

ちなみにWikipediaの「リウヴィルの定理」によれば、リウヴィルを関する定理はこれだけあるそうなのですが

  • リウヴィルの定理 (解析学) - 解析学においてジョゼフ・リウヴィルにちなんだ定理。
  • リウヴィルの定理 (物理学) - ハミルトン力学において位相空間の体積要素は時間変化しないという定理。
  • リウヴィル=アーノルドの定理 - ハミルトン力学における求積可能性と第一積分の存在の関係を述べた定理。
  • リウヴィルの定理 (数論) - 数論においてジョゼフ・リウヴィルによって発見された定理で、代数的数と超越数を識別する原理を提示した。

全部我々の求める定理とは違います。最後のは数論と思いきや、初等整数論ではなく超越数論に関する定理だったりするので、手に負えません。


唯一、私がネット上で見かけたのはこのツイートでした。


元々、私自身は以下の書籍を読んでこの事実を知りました。

そこには、 n = 10 の具体的な計算法と、リウヴィルがこの定理を証明した旨が記載されていました。しかし具体例の計算に留まっており、証明は載っていませんでした。



そんなわけで、全然情報がないこの定理なんですが、頑張って自力で証明できたので紹介したいと思います。

定理(Liouville)
 n を任意の正の整数とすると,次の等式が成り立つ:
 \displaystyle \left( \sum_{e\mid n} d(e) \right)^2 =  \sum_{e\mid n} d(e)^3 \tag{2}

ただし, d は約数の個数関数で, d(m) m の任意の正の約数の個数である.


この定理の式  (2) が、一般に上で述べた①〜③の手順を実行した結果であることは分かるでしょうか。

 e \mid n は「 e n を割り切る」の意味なので、両辺の和は「 n の約数  e 全体について和を取る」ということになります。

あとは、各  e について約数の個数  d(e) を取って、それを足し合わせて2乗を取ったのが左辺。3乗をとってから足し合わせたものが右辺ということです。


以下では、左辺・右辺をそれぞれ

 \displaystyle P(n) = \left( \sum_{e\mid n} d(e) \right)^2 \tag{3}
 \displaystyle Q(n) = \sum_{e\mid n} d(e)^3  \tag{4}

のように置いて、任意の  n に対して

 \displaystyle P(n) = Q(n) \tag{5}

の成立を示すことを目標としましょう。


特殊なケースの計算

その前に、まずは特殊なケースの計算から考えましょう。

 n = p(素数)のとき:

素数  p の約数は  1, p の2つだけです。

左辺は次のように計算できます:

 \displaystyle \begin{align} P(p) &= \left( d(1) + d(p) \right)^2 \\
&= \left( 1 + 2 \right)^2 \\
&= 3^2 \\
&= 9 \end{align}

右辺はこうなります:

 \displaystyle \begin{align} Q(p) &= d(1)^3 + d(p)^3 \\
&= 1^3 + 2^3 \\
&= 1 + 8 \\
&= 9 \end{align}

したがって

 P(p) = 9 = Q(p)

が成り立ちます。

すなわち

 (1 + 2)^2 = 9 = 1^3 + 2^3

ですね。


 n = p^k(素数のべき乗)のとき:

上記のように考えると、素数のべき乗でも同様に議論できそうだと分かります。

素数のべき乗  p^k の約数は  1, p, p^2, \ldots, p^k k+1 個です。

左辺は次のように計算できます:

 \displaystyle \begin{align} P(p^k) &= \left( d(1) + d(p) + d(p^2) + \cdots + d(p^k) \right)^2 \\
&= \left( 1 + 2 + 3 + \cdots + (k+1) \right)^2 \\
&= \left(\frac{(k+1)(k+2)}{2}\right)^2 \\
&= \frac{(k+1)^2(k+2)^2}{4}  \end{align}

右辺はこうなります:

 \displaystyle \begin{align} Q(p^k) &= d(1)^3 + d(p)^3 + d(p^2)^3 + \cdots + d(p^k)^3 \\
&= 1^3 + 2^3 + 3^3 + \cdots + (k+1)^3 \\
&= \frac{(k+1)^2(k+2)^2}{4} \end{align}

したがって

 \displaystyle P(p^k) = \frac{(k+1)^2(k+2)^2}{4} = Q(p^k)

が成り立ちます。

結論に改めて式番号を振っておきましょう:

 \displaystyle P(p^k) = Q(p^k) \tag{6}



これで証明できたというわけですが、上の式は

 \displaystyle \left( 1 + 2 + 3 + \cdots + (k+1) \right)^2 = \frac{(k+1)^2(k+2)^2}{4} = 1^3 + 2^3 + 3^3 + \cdots + (k+1)^3

ということですね。これは 3乗和 に関する公式そのものです。

リウヴィルの定理は、この3乗和の公式の一般化になっていたというわけですね。


なお、3乗和の公式といえば、こちらの記事の説明が大変分かりやすいです:
end01nojo.hatenablog.com


約数の個数関数の乗法性

一般の  P(n) = Q(n) を示すにあたって、約数の個数関数  d(n) についての 乗法性 という性質を使います。

乗法性とは、互いに素な整数  n, m に対して

 d(nm) = d(n)d(m) \tag{7}

が成り立つという性質のことです。


いろいろなところに証明は載っていますが、ここでも簡単に証明してみましょう。

まずは、素因数分解  n = p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r} が与えられたときに

 d(n) = (1 + e_1) (1 + e_2) \cdots (1 + e_r) \tag{8}

が成り立ちます。

これはすべての約数の和が

 (1 + p_1 + \cdots + p_1^{e_1})(1 + p_2 + \cdots + p_2^{e_2}) \cdots (1 + p_r + \cdots + p_r^{e_r})

を展開することで得られることから分かります。この  p_i をすべて  1 に置き換えると

 d(n) = (\underbrace{1 + 1 + \cdots + 1}_{1+e_1\text{個}})(\underbrace{1 + 1 + \cdots + 1}_{1+e_2\text{個}}) \cdots (\underbrace{1 + 1 + \cdots + 1}_{1+e_r\text{個}})

となり、これがまさに式  (8) となっていますね。


 (8) によって  d(n) n の素因数ごとの積で表すことができました。これを互いに素な  n, m に対して適用すれば乗法性の式  (7) が得られます。
 n, m は互いに素なので、共通の素因数を持ちません。よって、 d(nm) は単純に  d(n), d(m) を掛け合わせたものに一致するというわけですね。)



リウヴィルの定理の証明

実は、約数の個数関数の乗法性を使えば、リウヴィルの定理も証明できてしまいます。


証明の方針としては、 n = p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r} と素因数分解したときに、 P(n) Q(n) がそれぞれ次のように表せることを示すことです:

 P(n) = P(p_1^{e_1}) P(p_2^{e_2}) \cdots P(p_r^{e_r}) \tag{9}
 Q(n) = Q(p_1^{e_1}) Q(p_2^{e_2}) \cdots Q(p_r^{e_r}) \tag{10}


これが証明できると、次の議論でリウヴィルの定理が証明できます:

 \displaystyle \begin{align} P(n) &= P(p_1^{e_1}) P(p_r^{e_r}) \cdots P(p_r^{e_r}) \\
&= Q(p_1^{e_1}) Q(p_r^{e_r}) \cdots Q(p_r^{e_r}) \\
&= Q(n) \end{align}

途中で  P(p_i^{e_i}) = Q(p_i^{e_i}) を使っていますが、これは素数のべき乗の特殊ケースの計算  (6) で既に示していますね!

つまり、あのとき計算したのは単なる特殊ケースではなかったというわけです!! 面白いですね!!



あとは式  (9), (10) の確認ですが、個別に考えるのは少し面倒です。そこで、次のような抽象的な関数を考えて、まとめて議論したいと思います:

 \displaystyle A(n; \lambda) = \sum_{e \mid n} \lambda(e)

このとき  P(n), Q(n)

 P(n) = A(n; d)^2
 Q(n) = A(n; d^3)

と表せます。上で示したように  d, \; d^3 は乗法的な関数です。

したがって  \lambda が乗法的な関数のときに

 A(n; \lambda) = A(p_1^{e_1}; \lambda)A(p_2^{e_2}; \lambda)\cdots A(p_r^{e_r}; \lambda) \tag{11}

が示せれば、証明完了ですね。



 n = p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r} と素因数分解すると、 n の任意の約数は

 p_1^{b_1} p_2^{b_2} \cdots p_r^{b_2} 0 \leq b_i \leq e_i

と表せます。したがって、 n のすべての約数の和は

 \displaystyle \sum_{b_1 = 0}^{e_1} \sum_{b_2 = 0}^{e_2} \cdots \sum_{b_r = 0}^{e_r} p_1^{b_1} p_2^{b_2} \cdots p_r^{b_2}

と表せることを使います。

 \displaystyle \begin{align} A(n; \lambda) &=  \sum_{e \mid n} \lambda(e)  \\
&=  \sum_{b_1 = 0}^{e_1} \sum_{b_2 = 0}^{e_2} \cdots \sum_{b_r = 0}^{e_r}  \lambda(p_1^{b_1} \cdots p_r^{b_r}) \;\;\;\; (\because \;\; \text{上より})  \\
&=  \sum_{b_1 = 0}^{e_1} \sum_{b_2 = 0}^{e_2} \cdots \sum_{b_r = 0}^{e_r}  \lambda(p_1^{b_1}) \cdots \lambda(p_r^{b_r}) \;\;\;\; (\because \;\; \lambda \text{ は乗法的関数より})  \\
&=  \left(\sum_{b_1 = 0}^{e_1} \lambda(p_1^{b_1}) \right)\left(\sum_{b_2 = 0}^{e_2} \lambda(p_2^{b_2}) \right) \cdots \left(\sum_{b_r = 0}^{e_r} \lambda(p_r^{b_r}) \right)   \;\;\;\; (\because \;\; \text{分配法則より})  \\
&=  A(p_1^{e_1}; \lambda)A(p_2^{e_2}; \lambda)\cdots A(p_r^{e_r}; \lambda) \end{align}


これで式  (11) が示せましたので、リウヴィルの定理の証明が完了しました!

最後まで読んでくださりありがとうございました!


参考文献

約数の和に関する証明は、こちらの記事を参考にさせていただきました。
mathlandscape.com


追記(2022.11.04)

@Chinsan_GRF さんという方から教えていただいたのですが、雪江先生の整数論1「初等整数論からp進数へ」という教科書に、こちらの定理が演習問題として記載されていました。3章「数論的関数」の演習問題3.1.5がまさにこの問題になっていますね。

方針としては、私の記事と同様に「両辺の乗法性を示し  p^k のケースに帰着する」というものでした。方針が間違っていなかったことにほっとしましたが、まさか定番の教科書に載っていた話だったなんて・・・。教えてくださってありがとうございます。