tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

エルキースによるオイラー予想の反例:2682440^4 + 15365639^4 + 18796760^4 = 20615673^4

こちらの記事は今日投稿された下記の動画に関して、さらに深い解説をする記事となっています。

よろしければ、こちらの動画も合わせてご覧ください!

フェルマーの最終定理の  n = 3 のケース

 X^3 + Y^3 = Z^3 \tag{1}

に自然数解が存在しないことは、オイラーによって証明されていました。

オイラー自身は、この式の指数と変数の個数を1個ずつ増やした

 X^4 + Y^4 + Z^4 = W^4 \tag{2}

 X^5 + Y^5 + Z^5 + W^5 = V^5 \tag{3}

にも、同様に解がないことを予想しました(1769年)。以降もずっと指数と変数を増やして行っても同様に解がないと予想していたようです。割と自然な発想ですよね。


一見すると式  (2), (3) には自然数解がなさそうなので、長い間解がないと信じられていました。

ところが、1966年にレオン・J・ランダーとトーマス・R・パーキンによって、式  (3) の解が発見されたのです:

 27^5 + 84^5 + 110^5 + 133^5 = 144^5 \tag{4}

この発見によってオイラー予想は間違っていることが示されたわけです。

次がそのランダーとパーキンの論文なのですが、1ページで完結する論文 ということで有名です。

こうなってくると、式  (2) の方も怪しく見えてきます。実際、この  (2) の解の探索が多くの研究者によって試みられました。そして、ついに1988年に天才数学者、ノーム・エルキースによって解が発見されたのです。

それが次の解でした:

 2682440^4 + 15365639^4 + 18796760^4 = 20615673^4 \tag{5}

さらに言えばエルキースはこの解だけではなく、無限個の(互いに素な)解を見つける方法を得ています。


今日は、このエルキースの解がどうやって見つけられたのか、その手法を紹介したいと思います。たぶん、これについて詳しく書かれた日本語の記事はそう見つからないと思います。

実際、この解を発見するための方法は、楕円曲線とコンピュータを使ったかなり難解な方法でした。以前から興味を持っていたのですが、きっと僕にはわからないだろうと諦めていました。ですが、思い立って原論文に当たってみたところ、意外と読めてしまったのです。

そんなわけで今日はエルキースの方法について、その概要を紹介したいと思います。細かい部分は理解できているわけではないので、原論文をあたってください。

ぜひ最後までご覧ください。



参考文献

Elkies, Noam (1988). “On  A^4 + B^4 + C^4 = D^4
http://www.ams.org/journals/mcom/1988-51-184/S0025-5718-1988-0930224-9/S0025-5718-1988-0930224-9.pdf
↑ノーム・エルキース自身の論文です。本記事内で原論文といったらこれのこと。


ERIC S. ROWLAND, "ELLIPTIC CURVES AND INTEGRAL SOLUTIONS TO  A^4 +B^4+C^4 =D^4"
https://ericrowland.github.io/papers/Elliptic_curves_and_integral_solutions_to_A%5E4+B%5E4+C%5E4=D%5E4.pdf
↑こちらも一部参照しました。


最初の一手

まず

 A^4 + B^4 + C^4 = D^4 \tag{6}

の解が存在するとします。両辺を  D^4 で割ると

 \displaystyle \left(\frac{A}{D}\right)^4 + \left(\frac{B}{D}\right)^4 + \left(\frac{C}{D}\right)^4 = 1

となりますので

 r^4 + s^4 + t^4 = 1 \tag{7}

という方程式には

 \displaystyle (r, s, t) = \left(\pm \frac{A}{D}, \; \pm \frac{B}{D}, \; \pm \frac{C}{D}\right)

なる有理点があることになりますね。

逆に式  (7) に有理点  (r, s, t) があったとすると、式  (7) の左辺の分数を通分し、その共通の分母を両辺にかけることによって式  (6) の解が得られます。


したがって、オイラー予想の問題は、式  (7) の3変数の方程式の有理点を求める問題に帰着されました。



次のステップ:元の問題を解く代わりに・・・

最終的に見つけたいのは、下記の式の有理点です。

 r^4 + s^4 + t^4 = 1 \tag{7再掲}

しかし、このままでは少し難しいようです。


そこで、その前のステップとして、 t^4 のところを  t^2 に置き換えたものを考えましょう。

 r^4 + s^4 + t^2 = 1 \tag{8}

この解が見つかって、もし  \pm t が平方数であれば、式  (7) の解も得られるという寸法です。(その通りには行きませんが・・・。)


この緩和された問題については、ある程度調べられていまして、パラメータ  u を用いたパラメータ解が知られているようです。

その解は次のような関係式を満たします:

 r = x + y, \;\;\;\; s = x - y \tag{9a}

 (u^2 + 2)y^2 = -(3u^2 - 8u + 6)x^2 - 2(u^2 - 2)x - 2u \tag{9b}

 (u^2 + 2)t = 4(u^2 - 2)x^2 + 8ux + (2-u^2) \tag{9c}


いきなりたくさんの式を見せられて困惑したと思います。(私も初見では困惑しました。)

よく見るとだんだんと見えてきます。

たとえば、式  (9b) はパラメータ  u を定数だと思うと

 \text{◯}y^2 = \text{◯}x^2 - \text{◯}x - \text{◯}

という形になっています。これは  (x, y) についての 2次曲線 ですね。

同様に式  (9c)

 \text{◯}t = \text{◯}x^2 + \text{◯}x + \text{◯}

となっており、こちらは  (t, x) についての 放物線(やはり2次曲線) です。


意外と親しみが持てそうな対象でした。

パラメータ  u を動かすと、それぞれの式の係数が変化し、2次曲線の形が移り変わっていくことになります。つまり、パラメータ  u についての、2次曲線の「束」を考えていることになるわけです。
(原論文では、2次曲線=円錐曲線(conic)、束(pencil)なので、"pencil of conics" と書かれていました。)

次の動画でパラメータを動かしたときの様子をアニメーション表示しています:
www.youtube.com


パラメータ  u を固定すると、2次曲線  (9b), (9c) が1個ずつ定まります。その曲線の有理点の座標  (x, y, t) に対して、式  (9a) r = x + y, \; s = x - y を計算します。このようにして得られた  (r, s, t) が求めたかった式  (8) の有理点を与えるわけですね。
(ちなみに、動画で分かるように、 (9b), (9c) は円と放物線に対応しており、 (9b) の方はパラメータによっては実点が存在しない場合もあるようですね。)


ちなみになんですが、このパラメータ表示は下記の論文のp.135に書かれているそうなのですが、中身はロシア語だそうです・・・。

V. A. DEMJANENKO, "L. Euler's conjecture," Acta Arith., v. 25, 1973-74, pp. 127-135. (Russian)

同じことを調べている人がいたようで、国会図書館のレファレンス記録 に載っていました。笑



そんなわけで、パラメータ  u を与えると  (r, s, t) の組が2次曲線の解の組として得られることがわかりました。

逆に、 (r, s, t) を与えると  u が決まることが、式  (9b) から分かります。

 (u^2 + 2)y^2 = -(3u^2 - 8u + 6)x^2 - 2(u^2 - 2)x - 2u \tag{9b再掲}

 (9b) u についての式だと思って展開すると、2次方程式

 (3x^2+y^2 + 2x)u^2 + 2(1 - 4x^2) u + 2(3x^2 + y^2 - 2x) = 0

となります。

解の公式を使って2次方程式を解くと

 \displaystyle \begin{align} u &= \frac{1-4x^2 \pm \sqrt{(1 - 4x^2)^2 - 2(3x^2+y^2+2x)(3x^2+y^2−2x)}}{3x^2 + y^2 + 2x} \\
&= \frac{1-4x^2 \pm \sqrt{1 - (2x^4 + 12x^2y^2 + 2y^4)}}{3x^2 + y^2 + 2x} \\ 
&= \frac{1+(r+s)^2 \pm \sqrt{1 - r^4 - s^4}}{r^2 + rs + s^2 + r + s}  \;\;\; (\because \;\; x = \frac{r+s}{2}, \; y = \frac{r-s}{2}) \\
&= \frac{1+(r+s)^2 \pm t}{r^2 + rs + s^2 + r + s}  \;\;\;\;\;\;\;\;\; (\because \;\; t = \sqrt{1-r^4-s^4})\\
\end{align}

となります。

ここで、右辺の  \pm の符号は  + としてよいことが、式  (9c) から分かるそうですが、私はよく分かっていません。

 + ととると、左辺は  u で右辺は  r, s, t の有理式となっています。したがって、 r, s, t が有理数であれば、 u も有理数になるわけですね。


まとめると、有理数  u を与えると、対応する  r^4 + s^4 + t^2 = 1 の有理点  (r, s, t) の部分集合が得られて、逆に有理点  (r, s, t) に対しては有理数パラメータ  u が得られるという関係になっています。


さて、このパラメータ  u の代わりに  2/u を代入したものを考えてみましょう。

 u \longmapsto 2/u

この入れ替えは、2回実行すると元に戻ります。(こういう変換を「対合(involution)」といいます。)


このように変換しても、 r^4 + s^4 + t^2 = 1 の解が得られることは明らかですが、実際に代入してみましょう。

まずは式  (9b) から:

 \displaystyle \left(\left(\frac{2}{u}\right)^2 + 2\right)y^2 = -\left(3\left(\frac{2}{u}\right)^2 - 8\left(\frac{2}{u}\right) + 6\right)x^2 - 2\left(\left(\frac{2}{u}\right)^2 - 2\right)x - 2\left(\frac{2}{u}\right) \tag{10b}

この式の両辺に  u^2/2 をかけると

 \displaystyle \left(u^2 + 2\right)y^2 = -\left(3u^2 - 8u + 6\right)(\underline{-x})^2 - 2\left(u^2 - 2\right)(\underline{-x}) - 2u

となり、 (x, y) の代わりに  (-x, y) が解になることがわかります。

同様に、式  (9c) u \mapsto 2/u で移すと、 (t, x) の代わりに  (-t, -x) が解になります。

この変換によって

 (r, s, t, x, y) \mapsto (-s, -r, -t, -x, y)

のように解が移り変わることになりますが、このときの  (r, s, t) \mapsto (-s, -r, -t) と写したとしても方程式  (8) の解であることは変わりませんね。



したがって、我々は式  (9a), (9b), (9c) の解を考える代わりに、 u \mapsto 2/u に置き換えた方程式の解を考えることにします。ここで  u n/m と既約分数表示して、 u \mapsto 2m/n を代入し、両辺に  n^2/2 をかけて得られる次の方程式を考えます:

 (2m^2 + n^2)y^2 = -(6m^2 - 8mn + 3n^2)x^2 - 2(2m^2 - n^2)x - 2mn \tag{11b}

 (2m^2 + n^2)t = 4(2m^2 - n^2)x^2 + 8mnx + (n^2-2m^2) \tag{11c}

ただし、 m\geq 0 n は奇数とします。


ここで、 (9b), (9c)(あるいは  (11b), (11c))は、パラメータ  u(あるいはパラメータ  m, n)を一つ固定すると2次曲線になるのでした。2次曲線の有理点は、一般論として0個であるか無限個存在するかのいずれかです。

1個の有理点  P が存在したら、点  P を通る傾き  k の直線と2次曲線の交点  P' を取ります。直線の傾き  k が有理数であれば、交点  P' は有理点になることが言えるので、有理数  k に対応する無限個の有理点が得られるという寸法です。(いわゆるバシェの方法と呼ばれる方法です。)


パラメータによってそのどちらになるか決まるわけですが、その判定条件は得られるでしょうか。

実は、それが可能なのです。

補題1
2次曲線  (11b) が無限に解  (x, y) を持つのは
 R(2m^2 + n^2), \;\; R(2m^2 - 4mn + n^2) \tag{12}

が、どちらも  p \equiv 1 \pmod{8} なる素数  p の積であるときであり、それ以外のときは  (11b) は解を持たない。

関数  R は以下で定義する。


証明はまだ追えていないのでここでは書けないですが、とにかく上記の補題によって有理点が存在するか否かが判定できるわけですね。

 (11b) が有理数解を持てば、 t が1次なので、その  x について自動的に  (11c) は有理数解  (x, t) を持ちますので、 (11b) だけを考えれば十分です。


さて、関数  R を定義しましょう。

0ではない整数  a について  R(a) を次のように定義します。
 a を割り切る最大の正の平方数を  k^2 とするとき、 R(a) = a / k^2 とする。

  • 例: a = \pm 23 のときは  k = 1 なので  R(a) = \pm 23
  • 例: a = \pm 24 = \pm 2^3 \times 3 のときは  k = 2 なので  R(a) = \pm 6
  • 例: a = \pm 25 = \pm 5^2 のときは  k = 5 なので  R(a) = \pm 1


この判定を使うと、たとえば  (m, n) = (2, 1) とすれば条件を満たします。実際

  •  R(2m^2 + n^2) = R(9) = 1
  •  R(2m^2 - 4mn + n^2) = R(1) = 1

となり、 1 を割り切る素因数はありませんので、条件を満たします。(空虚な真)

したがって、 (m, n) = (2, 1)(すなわち、 u = 2m/n = 4)に対応する2次曲線

 9y^2 = -11x^2 - 14x - 4 \tag{13b}

 9t = 28x^2 + 16x - 7 \tag{13c}

が得られますが、これらは無限個の解を持つことになります。

実際、式  (13b) は有理点  P = (x, y) = (-\frac{1}{2}, \; \frac{1}{6}) を持ちます。

したがって、点  P を通る傾き  k/3 の直線を考えて、曲線  (13b) との交点をとることで、無限個の有理点についてのパラメータ表示

 \displaystyle (x, y) = \left(-\frac{k^2 + 2k + 17}{2k^2 + 22}, \;\; -\frac{k^2 + 6k - 11}{6k^2 + 66} \right) \tag{14}

を得ることができます。

あとは、式  (13c) によって  t が得られ、 r = x + y, \;\; s = x - y より  r, s が得られます。結局

 \displaystyle (r, s, t) = \left(\frac{2k^2 + 6k + 20}{3k^2 + 33}, \;\; \frac{k^2 + 31}{3k^2 + 33}, \;\; \frac{4(2k^4 - 3k^3 + 28k^2 - 75k + 80)}{(3k^2 + 33)^2} \right) \tag{15}

として、式  (8) の有理点、すなわち  r^4 + s^4 + t^2 = 1 の無限個の有理点が得られるというわけです。


エルキースの解の導出

上記の議論は大変惜しいところまで行っていて

 r^4 + s^4 + t^2 = 1 \tag{8再掲}

の無限個の有理点が得られたわけです。 \pm t が平方数であれば、目的の

 r^4 + s^4 + t^4 = 1 \tag{7再掲}

の有理点も得られるわけです。


これまでの議論が全く無駄になったというわけではなく、実は上の議論のアナロジーによって先に進めることができます。

 \pm t が平方数であればよいわけなので、式  (11b), (11c) において  t \pm t^2 に置き換えれば良いのです。すなわち、次の式を考えます:

 r = x + y, \;\;\;\; s = x - y \tag{16a}

 (2m^2 + n^2)y^2 = -(6m^2 - 8mn + 3n^2)x^2 - 2(2m^2 - n^2)x - 2mn \tag{16b}

 \pm (2m^2 + n^2)t^2 = 4(2m^2 - n^2)x^2 + 8mnx + (n^2-2m^2) \tag{16c}

ここで、 m, n は互いに素な整数であり、 n は奇数とします。


同様に、式  (16b), (16c) が有理点を持つ条件を考えたいわけですが、式  (16b) に関しては先ほどと全く同じですね。

一方で、式  (16c) に関しては、左辺に  t^2 が入っていますので、 x に対して自動的に  t が得られるわけではありません。したがって、今度は式  (16b), (16c) が同時に有理点を持つ条件を考える必要があります。


エルキースの論文でやっているように、試しに  (m, n) = (0, 1) を代入すると、式  (16b), (16c) から

 y^2 = -3x^2 + 2x  \tag{17b}

 \pm t^2 = -4x^2 + 1 \tag{17c}

を得ます。 (17b) に対して、 (x, y) = (0, 0) という有理点がありますので、これを使ってパラメータ表示

 \displaystyle x = \frac{2}{k^2 + 3}, \;\; y = kx

を得ます。この  x (17c) に代入すると

 \displaystyle \pm t^2 = \frac{k^4 + 6k^2 - 7}{(k^2+3)^2}

が得られますが、両辺  (k^2 + 3)^2 をかけて、新しい変数  z = (k^2 + 3)t を考えます。

 \displaystyle \pm z^2 = k^4 + 6k^2 - 7

実は  (k, z) についてのこの曲線が 楕円曲線 になっています。より分かりやすいように、ワイエルシュトラスの標準形に落とし込みます。 k = 1 - 4/(1 \mp X), \;\; z = 8Y/(1\mp X)^2 とおくと

 \displaystyle Y^2 = X^3 + X \mp 2

となり、確かに楕円曲線になっていますね!


あとはこの楕円曲線の有理点を計算すれば良いわけですが、ここは流石に計算機を使います。

Sagemathで計算したのが次の結果です。

  •  E_1 : Y^2 = X^3 + X - 2 の場合:

rankが0で(位数無限の点はない)、位数有限部分は  (X, Y) = (1, 0) によって生成される  2 個の有理点( \{(1, 0), \; \mathcal{O}\})があります

  •  E_2 : Y^2 = X^3 + X + 2 の場合:

rankが0で(位数無限の点はない)、位数有限部分は  (X, Y) = (1, 2) によって生成される  4 個の有理点( \{(1, 2), \; (-1, 0), \; (1, -2), \; \mathcal{O}\})があります


あとは、これらの点から  (r, s, t) を逆算すればよいわけですが・・・残念ながらこれらに対応する点は

 (r, s, t) = (\pm 1, 0, 0)

となります。残念ながら自明な解が得られてしまいました・・・。


長々と計算しておいて、自明な解かよと思ったかもしれません。

この例を通して言いたかったことは、 (m, n) を適切に選ばないと解が存在しないということ。そして、式  (16b), (16c) を同時に有理点を持つという条件からは、必然的に楕円曲線が現れるということです。



先ほどは  (m, n) = (0, 1) として失敗しましたが、他の  (m, n) を考えれば解があるかもしれません。

そこで、どんな  (m, n) ならば式  (16c) が解を持つのかという必要十分条件を与えるのが、次の補題です。

補題2
2次曲線  (16c) が無限に解  (x, t) を持つのは
 R(2m^2 + n^2), \; R(2m^2 - 2mn + n^2), \; R(2m^2 - 2mn + n^2) \tag{18}

が、いずれも  p \equiv 1 \pmod{8} なる素数  p の積であるときであり、それ以外のときは  (16c) は解を持たない。


補題1と補題2の条件をどちらも満たす  (m, n)

 (0, 1), \; (4, -7), \; (8, -5), \; (8, -15), \; (12, 5), \; (20, -1), \; (20, -9)

なのだそうなのですが、 (m, n) = (0, 1) は先ほどうまくいかなかったケースでした。

また、 (m, n) = (4, -7) も実はうまくいきません。


そこで、 (m, n) = (8, -5) を試してみたいと思います。式  (16b), (16c) に代入すると

 153y^2 = -779x^2 - 206x +80 \tag{19b}

 \pm 153t^2 = 412x^2 - 320x - 103 \tag{19c}

あとは、これらの曲線をパラメータ付けすればよいのですが、・・・ここからは力技です。

まず、式  (19b) の有理点をトライアンドエラーで見つけます。具体的には

 \displaystyle (x, y) = \left(\frac{3}{14}, \; \frac{1}{42}\right)

がそうです。ここから、上記の点を通る傾き  k/3 の直線と2次曲線の交点によって、式  (19b) のパラメータ解

 \displaystyle (x, y) = \left(\frac{51k^2 - 34k - 5221}{14(17k^2 + 779)}, \;\;  -\frac{17k^2 + 7558k - 779}{42(17k^2 + 779)}\right) \tag{20}

が得られます。

この  x を今度は式  (19c) に代入することで

 \displaystyle \pm 21^2 (17k^2 + 779)^2 t^2 = -4(31790k^4 - 4267 k^3 + 1963180k^2 - 974003 k - 63237532) \tag{21}

が得られるようです。(私は計算してません。。。)

 \bmod{3} の平方剰余を考えると、左辺の  \pm の符号は  + と取る必要があるようです。


ここで、 X = (k+2)/7, \;\; Y = 3(17k^2 + 779)t/14 とおくことで

 \displaystyle Y^2 = -31790X^4 + 36941X^3 - 56158X^2 + 28849X + 22030 \tag{22}

が得られます。これは楕円曲線であり、この有理点を探せば良いということになります。


これも最後は力技なのですが、計算機によって探すと、比較的高さが小さい有理点として

 \displaystyle (X, Y) = \left(-\frac{31}{467}, \; \frac{30731278}{467^2}\right) \tag{23}

が得られるとのことです。

実際、計算の方法としては、 X にひたすら有理数を代入し、式  (22) が平方数になるものが出てくるまで続けるというような方法だったみたいです。


対応する  (r, s, t) を計算すると

 \displaystyle (r, s, t) = \left(-\frac{18796760}{20615673}, \; \frac{2682440}{20615673}, \; \frac{15365639}{20615673}\right) \tag{24}

が得られます。これが  r^4 + s^4 + t^4 = 1 の有理点となります。

したがって、分母を払えばオイラー予想の反例

 2682440^4 + 15365639^4 + 18796760^4 = 20615673^4 \tag{5再掲}

が得られるというわけです。いやー、すばらしいですね!!!


無限個の反例

エルキース自身は、同じ論文で先程の有理点

 \displaystyle P_{\pm} = (X, Y) = \left(-\frac{31}{467}, \; \frac{30731278}{467^2}\right)

から点  Q = P_{+} - P_{-} を作り、この点が位数無限であることから、オイラー予想には無限個の反例がある ことを示しています!

なぜ  Q が無限位数なのかという点ですが、メイザーの定理 を使います。
tsujimotter.hatenablog.com

メイザーの定理は、有理数体上の楕円曲線の有理点の位数は  N = 1, 2, 3, ..., 10, 12 であるという定理です。元の楕円曲線は有理数体上の曲線なので、 2Q, 3Q, \ldots, 12Q がすべて単位元でないことが分かれば無限位数であることがわかるという論法です。
(実際は、もう少し簡略化することができるようです。)

面白いですね!



さらには、共同研究(?)のRoger Fryeが

 95800^4 + 217519^4 + 414560^4 = 422481^4

なる最小の解も発見していることを、同じ論文の最後に記載しています。