tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

解析学

複素射影直線 ℙ¹ はコンパクトリーマン面

以下の記事でリーマン面の定義をまとめたことがありました。 tsujimotter.hatenablog.com これまでtsujimotterのブログではリーマン面の具体例を挙げたことがありませんでした。今日は、リーマン面(特にコンパクトリーマン面)の代表例である複素射影直線 …

単連結ではない領域のド・ラームコホモロジー

こちらの記事の続きです。 tsujimotter.hatenablog.com 上の記事では、穴あき円板 上のド・ラームコホモロジー を計算しました。 ド・ラームコホモロジーを計算するには、 上の任意の閉1形式( の元)を計算し、それと完全1形式( の元)との「差」(実際は…

完全微分方程式とド・ラームコホモロジー

微分方程式には色々な種類があって、それぞれ解き方が異なったり、そもそも解けなかったりします。理系大学生であれば大学1・2年でさまざまな微分方程式の解き方を習うわけですが、これは微分方程式の中でもほんの一部である「うまく解ける微分方程式」の…

2変数2次関数の極値問題(平方完成と主軸変換の図形的な意味)

前回の記事の続きです(前回の記事を読まなくても、今回の内容は読むことができます): tsujimotter.hatenablog.com 前回の内容を簡単に振り返ります。「空間内の与えられた2直線 に対して、その距離を求めることはできるか?」という問題について考えまし…

「1/6公式」とベータ関数・超幾何関数

前回のtsujimotterのノートブックでは ベータ関数 が登場しましたが、ベータ関数にはもう少し親しみやすい導入があります。それが高校数学でいわゆる 1/6公式 と呼ばれる積分の公式です。このブログでも何度か登場した 超幾何関数 も関係します!お楽しみに…

リーマンの再配列定理を使って級数を「お望みの実数」に収束させよう

今日のテーマは 「リーマンの再配列定理」 です。「条件収束する実数列の級数は、再配列によって任意の実数に収束させることができる」という主張です。何を言っているかわからないという方にも、これから詳しくは説明していきますのでご安心ください。 無限…

リーマン面の定義

最近、寺杣先生の「リーマン面の理論」という本を勉強しています。リーマン面の理論作者:寺杣友秀発売日: 2019/11/29メディア: 単行本(ソフトカバー) 「リーマン面」についての勉強を始めたのは、「幾何が専門の人の話についていけるようになりたい」とい…

指数層系列(3): 層係数コホモロジー

今回は「指数層系列」シリーズの最終回の記事です。これまでシリーズを通してという層の短完全列について議論してきました。指数層系列シリーズの記事は、こちらのタグから読むことができます: tsujimotter.hatenablog.com 前回の記事の最後では、指数層系…

指数層系列(2):層の短完全列

前回、指数関数の3つの素朴な性質からなる2つの短完全列が得られることを紹介しました。指数層系列シリーズの記事は、こちらのタグから読むことができます: tsujimotter.hatenablog.com 本シリーズタイトルの指数層系列とは、上の短完全列を層の間の短完…

指数層系列(1):指数関数の性質から得られる短完全列

今日の記事は3回に渡るシリーズ記事の第1回です。シリーズを通して、複素数の変数を持つ指数関数に関連する「指数層系列」と呼ばれる概念について紹介したいと思います。指数層系列シリーズの記事は、こちらのタグから読むことができます: tsujimotter.ha…

iのi乗はそこに至る経路で決まる

みなさん、 がどんな値になるか考えたことはありますか?「複素数のべき乗ってなんだよ」と思う方もいるかもしれません。素朴に「 を 回かける」なんて考えたら、意味がわからないですよね。この問題について一度考えたことがある方の中には「 だよ」と答え…

超幾何関数の積分表示と接続問題

日曜数学 Advent Calendar 2019 の1日目の記事です。 アドベントカレンダーの季節がやってまいりました。今年も日曜数学アドベントカレンダーを立てまして、この記事はその1日目の記事となっています。 adventar.org実は、日曜数学アドベントカレンダーは、…

補足:微分形式は2回外微分すると0になる

tsujimotter.hatenablog.comの記事の補足として、3次元閉多様体上の微分形式 に対して 回外微分を作用させると 0 になること、すなわちを示したいと思います。記号の使い方は、前の記事に準じます。綺麗に項が消えていく、気持ちの良い計算でした。その微分…

ストークスの定理

電磁気学やベクトル解析の講義で「ガウスの定理」や「ストークスの定理」「グリーンの定理」という法則を習ったと思います。これらの法則は一見別々のものに見えますが、微分形式を用いるとこれらの法則を統一的に扱えるという素敵なお話を紹介したいと思い…

積分定数とは何だったのか

数学ガール「ポアンカレ予想」を読んでいて(あまり本題に関係なく)感動したのが、不定積分 についてです。 の不定積分は、原始関数 を用いて以下のように表せます。ここで、 は積分定数です。高校の時からずっと機械的に(もしくはおまじない的に)「 は積…

自由研究:有理数に収束する級数を探せ!(超幾何級数の面白い応用)

突然ですが「無理数」って面白いですね!この分野には未解決問題もたくさんあり、魅力的なトピックがたくさん詰まっています。今日はその無理数をきっかけに tsujimotter が考えることになった、ちょっと変わった興味深い問題についてご紹介します。

「基本領域ゲーム」を作った

保型形式の理論を勉強していると基本領域(Fundamental Domain)という概念が出てきます。これ非常に重要な概念だと思うのですが、専門書を読んでも何を書いてあるかサッパリ分からないのですよね。これ以上考えていても埒があかないので、図示してみようと…

自由研究:楕円モジュラー関数がモジュラー関数であること

最近は,長い間持っていた疑問の解消をきっかけとして,勉強がはかどって仕方ない tsujimotter です。1つの理解から数珠つなぎ的に,新たな疑問が沸いてきて,それを調べて理解する。するとまた次の疑問が沸いてきて・・・といった感じです。 こういう状態…

ラマヌジャンの L 関数 と 二次のオイラー積

このところ暗号系の記事が続きましたが、今回は暗号とはまったくありません。この記事では、次のオイラー積を求めたいと思います。 左辺の級数は「ラマヌジャンの L関数*1」と呼ばれています。ラマヌジャンとはもちろん、インドが産んだ奇才、シュリニバーサ…

リーマンの素数公式の可視化アプリがパワーアップしました

「花の金曜日」ということで、前々から懸案事項だった数学アプリの整備を再開しました。言わば、「一人数学ハッカソン」です。今回のテーマは「リーマンの素数公式」について。

ガウスの素数定理

ガウスの素数定理とは、ある数が 素数である確率 についての定理です。その定理は、自然対数を使って次のように表せます。 ガウスの素数定理: 十分大きな整数 が素数である確率 は次のように近似できる。 今回の記事では、この素数定理とその証明の概略を解…

ディリクレ級数のオイラー積

前作:ゼータ関数のオイラー積 - tsujimotterのノートブック ディリクレ級数とは、 という数論的関数を用いて、次のように定義されます。 数論的関数という言葉は、なじみが薄いかもしれません。数論的関数とは引数に整数をとる関数のことです。関数が整数で…

ゼータ関数のオイラー積

図:レオンハルト・オイラー(1707 - 1783) オイラー積とは レオンハルト・オイラーといえば世界一美しい公式と呼ばれる「オイラーの公式」が有名ですが、私が一番好きなのは次のオイラー積と呼ばれる公式です。 オイラー積(完全版) ただし、右辺の積記号…

4n+1型の素数とディリクレの算術級数定理

5, 13, 17, 29, 37, 41, 53, 57, ... これらはすべて、4で割ると1余る数です。しかも、自分自身と1以外の数で割ることが出来ないので素数です。このような数を4n+1型の素数と呼びます。このような素数に対しては、次のような疑問が沸いてくるでしょう。 果た…

指数関数とは何者か?

指数関数って、高校数学で習う時、何やら突然出てきた気がしませんか?私はそんな風に思ってました。そして、ちゃっかり初等関数の一員として、対数関数と共に並んでいます。何が気になるって、必然性が感じられないのです。指数関数じゃなきゃいけない理由…