tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

有限多重ゼータ値②:有限多重ゼータ値とは何か

「有限多重ゼータ値」シリーズ2回目(最終回)の記事です。

前回の記事では  \mathcal{A} を導入して、そこで展開される数論の世界を紹介しました。今回は、環  \mathcal{A} を舞台として定義される 有限多重ゼータ値 の世界を紹介したいと思います。
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有限多重ゼータ値は、多重ゼータ値の後に提唱された概念で、ある種のミニチュア版を考えているような、そんな対象です。

ところが、有限多重ゼータ値を環  \mathcal{A} 上で考えることで、さまざまな素数に関する数論上の問題を考えることにつながるのです。


前回展開した環  \mathcal{A} 上の数論の話が、有限多重ゼータ値にも結びつきます。ぜひ最後までご覧ください!

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有限多重ゼータ値①:環Aとさまざまな素数の無限性

今回と次回の記事で2回にわたって、「有限多重ゼータ値」について紹介したいと思います。


前回の記事で「多重ゼータ値」にまつわる興味深い数学の世界を紹介しましたが、「有限多重ゼータ値」はその 有限版 にあたります。
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「有限多重ゼータ値」の方の定義や性質については次回の記事で紹介するとして、今回の記事のメインテーマは  \mathcal{A} です。

 \mathcal{A} は有限多重ゼータ値を定義する舞台として登場するものですが、環  \mathcal{A} そのものが非常に面白いです。特に、正則素数の無限性 といった超難問に関わる道具となります。

ぜひ最後までみてもらえると嬉しいです。


なお、今回の主役の環  \mathcal{A} の呼び方なのですが、特に決まった呼び方はないようです。
 \mathcal{A} をそのまま「かんエー」と呼ぶ人もいるそうなので、私も心の中でそのように読んでいます。

Kontsevichの環と呼ばれることもあるようです。講演の中で「柔らかいエー」と読んでいる人も見かけました。

金子先生の論文の中で “poor man’s adele ring”(貧者のアデール環)というような表現をされているのもみました。

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√41の概算 〜素朴な計算からニュートン法とヘンゼルの補題へ

突然ですが、みなさんは  \sqrt{41} の値がいくつかご存知ですか?

普段数学をやっていても、なかなかこの値の計算をすることはないですよね。


この問題を考えるきっかけとなったのは、三平方の定理です。

tsujimotterは、数学が苦手な学生向けの数学講義をしていて、三平方の定理の練習問題を作ろうと思っていたときのことです。下図左の斜辺の長さを求める問題を作ろうとして、間違えて右の方の問題を出してしまいました。


右側の問題について計算してみると、三平方の定理より斜辺  x

 x^2 = 4^2 + 5^2 = 16 + 25 = 41

を満たすので、 x = \sqrt{41} が得られます。


えっ、 \sqrt{41} ってなんだよ、いったいいくつになるんだよ、と学生からは非難轟々(?)でしたが、
その場で  \sqrt{41} を概算する方法を思いついて場を収めることができました(?)。


概算の方法がちょっと面白かったので、その紹介をしたいと思います。

また、この問題を考えていくうちに、もっと一般化 させたくなってきました。一般化していくと、意外なことに数論的にも少し面白いことが分かってきました。

なんと今回紹介する  \sqrt{41} の概算の方法を突き詰めていくと、先日記事としてまとめた「ニュートン法(前々回)」や「ヘンゼルの補題(前回)」が出てくるのです。

(実は、前回・前々回の記事は、今回のために準備した記事でした。)


ぜひ最後までご覧ください!


なお、今回の記事は、先日開催された日曜数学会ミニin北海道でtsujimotterが発表した内容をもとにしています。
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動画も撮影しているので、そのうち発表の様子もアップロードできたらと思っています。そちらもお楽しみに。

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ヘンゼルの補題の証明とニュートン法のp進類似

今日のテーマは ヘンゼルの補題 です。

ヘンゼルの補題は、 p 進数における方程式の解の存在に関わる定理で、このブログの過去の記事でも紹介したことがありました。
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「7進法人間」の記事では、定理の主張の紹介にとどめて、証明までは紹介していません。今回は証明まで踏み込んで紹介したいと思います。


ところで、前回の記事でニュートン法を用いた実数解の近似について紹介しました。
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方程式の実数解と、方程式の  p 進数解については、一見関連がなさそうに見えますが、実は両者が関係するのです。

ヘンゼルの補題の解を構成するのに、なんとニュートン法が関係するのです。ぜひ最後までご覧ください。

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平方根の近似とニュートン法

突然ですが、数列の問題について考えたいと思います。

数列の初項を

 x_0 = 2

として

 \displaystyle x_{n+1} = \frac{1}{2} \left(x_{n} + \frac{2}{x_n}\right) \tag{1}

という規則で  x_1, x_2, x_3, \ldots を順次計算していきます。

このとき、 x_n n\to \infty で、どのような値に収束するでしょうか。


実際、最初の方を数値計算してみると

 x_0 = 2
 x_1 = 1.5
 x_2 = 1.416666667
 x_3 = 1.414215686
 x_4 = 1.414213562
 x_5 = 1.414213562

というようになり、どこかで見たことのある数に収束します。

この漸化式の背景にある考え方について今日は議論したいと思います。

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最小二乗法の幾何学

「最小二乗法」とは、データ点をうまく表現するような直線を求めるための方法です。

統計学における一手法として計算的な側面が紹介されることが多いですが、その背景には実は幾何学的な面白い解釈があるという話を紹介したいと思います。


世の中には相関があるデータが山ほどあります。

ここで一つ、なにやら相関のありそうな変数  x, y について、 N 点データをとってみてグラフに表してみたときに、こんな関係があったとします。

このようなデータに対しては、データ点に近しいところを通る直線  y = ax + b を「えいっ」と引きたくなりますよね。


ところで、この直線  y = ax + b の係数  a, b としては、どのようなものを選ぶのが 妥当 なのでしょうか?


ちなみに、エクセルさんはとても賢くて、散布図のデータ点を右クリックして、「近似曲線を追加」を選ぶと一発で最適な直線を引いてくれます。

今回の話は、このエクセルさんの背景にある数学のお話しです。

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