tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

グロタンディーク素数

この記事は 明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダー の 1日目の記事です。


アドベントカレンダーの季節がやって参りました。
今年は「明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダー」というものを立ち上げてみました。よろしければ1ヶ月お付き合いくださいませ。

明日話したくなる数学豆知識 Advent Calendar 2014 - Adventar

まだ空きはありますので、記事を書いてみたい方も募集中です♪
このイベントをきっかけに、数学好きの皆様で交流ができたらなと思っています。


第1日目の本日は「グロタンディーク素数」についてです。


グロタンディーク素数の話をする前に、アレクサンドル・グロタンディークという数学者についてお話ししないといけません。

Wikipediaを見ていただくと分かりますがスキンヘッドの怖いおじさんです。

アレクサンドル・グロタンディーク - Wikipedia

冗談です。20世紀の偉大な数学者です。スキームの考案による代数幾何学の大幅な書き直し、エタール・コホモロジー理論の提唱等々、(私には説明できませんが)多大な功績を残しました。1966年には、数学のノーベル賞とも言われる「フィールズ賞」にも輝きました。

彼はまた、ブルバキという団体の中心メンバーでもありました。
ブルバキは、微分積分学をはじめとしたすべての数学を、現代の抽象的な記述によって書き直してしまおう、という野心的な数学グループで、7000ページを超える「数学原論」を出版しています。その完璧な厳密性と一般性を求める叙述はブルバキスタイルと呼ばれ、今なお影響を与えています。

そのブルバキで中心的な働きをしたグロタンディークですから、例に漏れず抽象的な数学を好んでいました。


こんな面白いエピソードがあります。

グロタンディークがある数学の内容について講義をしていたときのことです。
彼の講義は、非常に抽象的なことで有名で、具体例が一つも出てきませんでした。

あまりに抽象的で生徒が理解できないものですから、ついに生徒の一人が手を挙げて
「すみません、先生。何か一つだけでいいから具体例を出してもらえませんか?」
と聞いたそうです。

それに対し、グロタンディーク先生は、
「仕方ないですねぇ・・・それでは」
と具体例を出そうとします。

「ここで書いてある p は素数なのですが、これをそうですね・・・ p = 57 としましょう。」
と講義を続けたのです。

するどい方は、お気づきかと思いますが、この 57 という数字、3 で割り切れます。笑

57 = 3 x 19


現在では、この57という数字は「グロタンディーク素数」と呼ばれています。グロタンディーク先生が素数というのだから、それは素数なのでしょう。笑


そんなお茶目なグロタンディーク先生ですが、晩年は数学の世界からはなれ、ピレネー山脈に隠居することになります。

ほとんど、下界に連絡をよこさなかったので、彼が今どういう状態なのか知る人は多くありませんでした。

そのため、彼の名は話題に上がることはなかったのですが、つい先日、11月15日にグロタンディークについての大きな(?)ニュースが流れました。

http://www.sankei.com/world/news/141115/wor1411150014-n1.html


そう、2014年11月13日に86歳でお亡くなりになったのです。直接会ったことがある訳でもありませんし、それほど詳しく知っているわけでもありませんが、偉大な数学者が亡くなるというのは、何やら寂しい気持ちになりますね。

それでは、今日はこの辺で。

参考文献?

彼が書いた唯一の自伝があります。

グロタンディークの訃報を聞いて、私も買ってしまいました。
この本すごい点が2つあります。

まず1つめは、なんと日本語訳の方がフランス語版より先に出版されているのです。
もともと、少数部の暫定版(200部)の印刷に留めるつもりだったそうです。それを読んだ日本人の辻雄一さんが熱烈な感想を寄越したのがきっかけだったそうで、辻さんは出版社が見つかる前から、進んで日本語への翻訳を開始したのだそうですよ。

もう1つは、数学者の自伝なのに「キムチについてのエッセイ」があります。笑
これがなかなか面白くて、一部引用するとこんな感じです。

作り方を学んで以来、キムチは私の食事の日々の要素となりました。
(中略)
キムチのすぐれた点は数多くあり、しかも明らかです。入念につくると、すばらしい味になり、夏にはさわやかで、季節を通じて刺激を与えてくれます。発酵によって、地の野菜のものに加えて、新しい質が加わり、消化を容易にし、他にかえられない腸の調節機能を持ちます。

これは一読の価値ありですね。



明日は「遠藤 逸ノ城」さんの「統計学における自由度」のお話です。楽しみですね!