tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

33 = X^3 + Y^3 + Z^3 の整数解

今回のテーマは 33 という整数についてです。今朝、アフィンスキームについての重い記事を投稿したばかりですが、この記事では軽い感じでいきましょう。

 k を固定した自然数として、

 k = X^3 + Y^3 + Z^3

なる方程式の整数解を考えたいと思います。

今回の内容を紹介する動画ができました!
よろしければこちらもご覧になってください!

www.youtube.com


たとえば、 k = 1 の場合は

 1 = 1^3 + 0^3 + 0^3

という自明な解があります。ほかにも

 1 = 10^3 + 9^3 + (-12)^3

という解もあります。これはまさにラマヌジャンの見つけたタクシー数

 12^3 + 1 = 10^3 + 9^3 = 1729

のケースですね。


 k = 20 の場合は

 20 = 3^3 + (-2)^3 + 1^3

となります。整数解なので、マイナスでもいいわけですね。


 k = 29 のときは

 29 = 3^3 + 1^3 + 1^3

と表せます。

このように、さまざまな  k が3つの三乗数の和や差によって表せます。


上記のケースでは解が比較的簡単に求まりましたが、 X, Y, Z がもっと大きな値になることもあります。 X, Y, Z の組み合わせが見つかっていないような  k も存在します。


今回の主題は、 k = 33 のケース、すなわち  33 = X^3 + Y^3 + Z^3 の解が見つかったというお話です。


しかもこの解は、ちょっとやそっとで見つかるようなものではありません。見つかった解の  X, Y, Z はそれぞれ「とてつもなく大きな数」になります。実際に式を見ると、そのあまりの大きさに驚くことでしょう。


ちょっともったいぶりました。それでは  k = 33 の解をご覧ください。


 \begin{align} 33 = \; &8866128975287528^3 \\
& + (-8778405442862239)^3  \\ 
& + (-2736111468807040)^3 \end{align}


すごくないですか?

どうやってこんな解を見つけるのでしょう。


この発見について書かれたプレプリントが以下のリンク先で公開されています。第1版の日付が2019年3月11日になっていますので、まさに最近の出来事であるとわかりますね。

プレプリントへのリンク:
[1903.04284] Cracking the problem with 33

せっかくなので、tsujimotterはこのプレプリントの内容を少し読んでみました。今回のブログ記事では、プレプリントに記載の内容を元に、33の問題についての背景について少しまとめてみたいと思います。

問題の背景と顛末

まず、問題の発端は1992年に遡ります。ヒース=ブラウンという数学者によって次のような予想が提出されました。

予想(Roger Heath-Brown, 1992)
 k \not\equiv \pm 4 \pmod{9} のとき,
 k = X^3 + Y^3 + Z^3

は整数解  (X, Y, Z) を無数に持つ.


この予想に対しては、いくつかの数値計算によるアプローチがなされています。一つの方法として、フェルマー曲線  X^3 + Y^3 = 1 に類する曲線の有理点を lattice reduction という方法を用いて効率的に探索する、エルキース(2000年)によるアルゴリズムが知られています。

エルキースのアルゴリズムをベースとして、Huisman(2016年)は

 \max\{|X|, |Y|, |Z|\} \leq 10^{15}

の範囲内を探索しました。その結果、 k < 1000 においては【以下の13個の数を除いて】すべてに解があることが示されました。

 33, 42, 114, 165, 390, 579, 627, 633, 732, 795, 906, 921, 975

この中で最小のものが  33 で、その次が  42 というわけですね。


要するに、32 以下の  k \not \equiv \pm 4 \pmod{9} に対しては、少なくとも解が見つかっているということです。33 には解があると予想されているものの、2016年の段階ではまだ解が見つかっていませんでした。

また、解があるとすれば、 X, Y, Z のいずれか一つは、絶対値が少なくとも  10^{15} より大きくなければならないこともわかっていました。従来の手法では、 |X|, |Y|, |Z| の最大値が  10^{15} 以下、のように「絶対値の最大値に対する上限のついた領域」でしか探索ができなかったのですね(それでも十分凄いですが)。


 10^{15} 以上みたいな馬鹿でかい整数解を見つけるなんて、絶対できないだろう」と素人目には思ってしまうのですが、それができてしまったというのが冒頭のプレプリントです。効率的に計算する方法が見つかったということですね。

プレプリントの主題は、エルキースの方法とは異なるアプローチによって( k が固定されている場合に)効率的な探索ができる方法を発見したということのようです。Bookerさんらの手法は

 \min\{|X|, |Y|, |Z|\} \leq 10^{16}

のように、絶対値の 最小値 がある一定の範囲内にある点を探索できるのだそうです。

つまり、Bookerさんらの方法は、 |X|, |Y|, |Z| のいずれか1つがある範囲内に収まっていさえすれば、残りの2つがたとえ大きかったとしても、その解を見つけることができるというのです。これは従来手法との大きな違いですね。


この新手法によって、 k = 33, 42 を固定して  \min\{|X|, |Y|, |Z|\} \leq 10^{16} の範囲で探索したところ、 k = 33 において冒頭で書いた解が1つ見つかったとのことです。すごいですね。

また、プレプリントでは同様の手法で  k = 3 のケースも計算していました。 k = 3 のときは、

 3 = 1^3 + 1^3 + 1^3
 3 = (-5)^3 + 4^3 + 4^3
 3 = 4^3 + (-5)^3 + 4^3
 3 = 4^3 + 4^3 + (-5)^3

という1桁の解があるわけですが、それ以外にも解があるか調べたようですね。同様に  \min\{|X|, |Y|, |Z|\} \leq 10^{16} の範囲で調べたところ、他の解は見つからなかったようです。


Bookerさんらは探索プログラムをC言語で実装し、すべての計算を実行するのに1ヶ月ほどかかったそうです。1コアだけで計算すると約23年かかるような計算だったとのこと。


以上が、上記のプレプリントの研究成果の概要でした。いつかアルゴリズムの内容にも踏み込んで理解したいですね。

発見に至る経緯

発見そのものも面白かったのですが、発見の経緯自体もなかなか面白いものでした。

NumberphileさんというYouTubeチャンネルをご存知でしょうか。
www.youtube.com

Numberphileの訳は「数を愛する者」だと思いますが、その名の通り、数についての面白い性質をたくさん紹介しているYouTubeチャンネルです。何より動画の数がものすごくて、しかもどれもクオリティが高い。tsujimotterも時々閲覧して勉強させてもらっています。

Numberphileさんの動画の一つに、2015年11月6日に投稿された「33 = X^3 + Y^3 + Z^3 の整数解は見つかっていない」ことについての動画があります。リンクはこちらです。
www.youtube.com

ノリノリで具体例をたくさん計算していて、楽しい動画です。ぜひ一度ご覧になってください。

実は、Bookerさんの研究は、上記の動画にインスパイアされて行われたものなのだそうです。このことはプレプリントのアブストラクトにも書いてあります。

Inspired by the Numberphile video "The uncracked problem with 33"

もちろん、解決したのは100%著者本人の実力だと思うのですが、問題に取り組むきっかけを与えたのがYouTubeの動画だったなんて、なんともドラマティックな展開ですね。

プレプリントのタイトルも

"Cracking the problem with 33"

ですから、動画に対するリスペクトを感じますね。

tsujimotterのノートブックからも、何か未解決問題が解決したりしないかな・・・。


33歳最後の日

最後に、今回の話とtsujimotterとの関係について触れて終わりにしたいと思います。

実は、現在私は33歳です。33歳ということで、33にまつわる整数論的な性質を探していたのですが、あまりいいものが見つかりませんでした。

「何かいい性質はないかなぁ」と思いながら、去年の誕生日(つまり33歳になった日)にこんなツイートをしてみたのです。

すると「どねさん」という方から、こんなリプライが。

教えていただいたのは、まさに今回紹介した33の性質です。昨年5月の時点では、まだ解決されていなかったのですね!


33歳の誕生日に33についての面白い未解決問題を教えてもらって、しかもその問題は私が33歳の間に解決したというのです!

33という数に愛着が湧いてきます!


実は本日は、私が33である最後の日(つまり明日から34歳)です。

タイミングが良いことに、本日Twitterの私の周囲でも33の話が話題に上がりました。

この明日希さんのツイートで33の話を思い出し、せっかくだから33のうちにブログ記事にまとめてみようと思って、急いでこの記事を書いています。なんとか1時間前に書き終えました。

おかげさまで楽しい33歳を過ごすことができました。

34歳に向けて

明日からは34歳になるので、34にまつわる数の性質を探しています。「これだ」というものがある方は、ぜひコメントやTwitter等で教えてください。

ちなみに、 34 = 2 \times 17 ということで、先日はこんなものを作ってみました。
cookpad.com

17を素因数に持つ17年ぶりの年なので、せっかくだから正十七角形の作図問題にまつわるものを作ってみようと思ったのです。4月30日は「ガウスの誕生日」だったこともあって、実にちょうどいいタイミングでした。

久しぶりに、正十七角形の作図もやってみました。綺麗に描くのはなかなか難しいですね。


そうそう。正十七角形の作図に関心がある方は、ぜひ私の書いた「数理科学 ガウス特集」の記事を御覧ください。


ちゃっかり宣伝もできたところで、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。