以前、 という素数に関する以下の記事を書いたのを覚えていますか。
tsujimotter.hatenablog.com
この問題について、twitter で以下のような投稿をしたのです。
【29】「x^4+y^4+z^4 は x=y=z=p を除いて p で割り切れない」を満たす素数 p は 5, 29 だけ…らしい!オイラーが証明したらしいけれど、私はその証明を知らない。29才の頃からずっと気になっている命題 #私の大好きな素数たち
— tsujimotter (@tsujimotter) 2016年4月28日
すると、nishimura さんという方からお返事が。
@tsujimotter x^4+y^4+1≡0 (mod p) の解の個数N(p)を考えると
— nishimura (@icqk3) 2016年4月28日
4次曲線の種数は3以下なのでハッセヴェイユ境界によると
p+1-6√p ≦ N(p) ≦ p+1+6√p なので
pがある程度大きいとき N(p)>0 が言えると思います
なんと代数曲線の解の個数に問題を帰着して、解ける可能性があるというのです!!
家に帰ってから、テンションが上がるのを抑えて(抑えきれていないけど)計算してみると、たしかに証明できました!!!
うおおお!!!
というわけで、興奮しながらこの記事を書いています!
証明のヒント(というかほぼ答え)を教えてくださった nishimura さんに感謝です!本当にありがとうございます!
tsujimotter の 29 予想
そんな名前はついていないのですが(笑)わかりやすさのために名前をつけておきましょう。
このとき,以下が成り立つことが予想されます。
問題を整理しておくと,オイラーは が tsujimotter 素数であることを示していたそうです。その根拠は,以前の記事に書いた通り「数の辞典」の の項目に
つの 乗数の和は, でも でもわりきれない(ただし, と の場合を除く).[Euler]
と書いてあったことでした。実際にオイラーが示したかどうかは定かではありません*1。
問題は、この先の素数に tsujimotter 素数が存在するかどうかです。この先が存在しない、というのが「tsujimotter の 29 予想」です。私もちゃんと調べたわけではないので、オリジナルを主張するつもりはまったくありませんが、少なくともこの予想の証明を見たことはありませんでした。
証明の方針
さて、証明に挑みましょう。
元々の問題は、
に非自明な解( ではない解)が存在しない、ような の条件だったわけです。
方針としては、まず十分大きな を与えて、その より大きなすべての において、非自明な解を1つ以上持つことを示します。あとは、 以下の有限個の に対して、一つ一つ解を確認していくだけです。
前者の証明については、次のように代数曲線の言葉に翻訳することができます。
上の代数曲線は とした、非同次な形になっていることが気になるかもしれません。 に解があることがわかれば、 においても非自明な解は存在しますね。なお、上の形式は としているので、自明な解は取り除かれています。
さて、このように問題を整理すると、代数幾何の手法が使えます。具体的には、代数曲線の解の個数は、ハッセ・ヴェイユ境界によって上と下からおさえられます。
このステートメントは以下のウィキペディアからとってきたものです。
ウィキペディアによると
ハッセ・ヴェイユ境界は、元々はアンドレ・ヴェイユ(André Weil)が1949年に提唱したヴェイユ予想の結果である。この予想は1974にピエール・ドリーニュ(Pierre Deligne)より証明された。
とのこと。さすがにヴェイユ予想の証明はできないので、今回はこれが成り立つものとして考えます。
なお、今回は 次の代数曲線を考えているわけなので、種数 は 以下です。また、有限体としては位数 のものを考えます。すると、式 は以下のように書き換わります。
これが今回用いるハッセ・ヴェイユ境界です。下限を としたとき、 であるような を求めます。すると、 を満たします。ただし今回は、計算の都合上 であるような を求めます。この方が計算上、都合がいいからですが、このようにしても不都合はありません。
最後に、計算機によって境界以下の素数全てに対して、解の個数を実際に求めます。
証明
ハッセ・ヴェイユ境界 より、 の 上の解の個数 は、
によって下からおさえられる。
であるような の条件は
であるから、
が成り立つ。 より、
よって、
が成り立つ。
以上より、 において 、すなわち、 に、非自明な解が1つ以上存在する。
したがって、 に tsujimotter 素数は存在しない。
あとは、計算器によって の tsujimotter 素数が だけであることを示す。
の解の個数 | |
---|---|
(tsujimotter 素数) | |
(tsujimotter 素数) | |
以上より、tsujimotter 素数は の2つだけであることが示せた。
まとめ
私が 29 歳のときからずっと気になっていた「tsujimotter の29 予想」がついに解決しました!改めてヒントをくださった nishimura さんには感謝です。
元々は「数の事典」の記述からはじまったものですが、無事解決できて嬉しいです。今回の手法は「ハッセ・ヴェイユ境界」という「代数幾何的な手法」を用いたものでした。きっとオイラーにはできなかったと思います。もちろん他の手法により解決した可能性は否定はできないですが。
もちろん、文中で述べた通り、実際私のオリジナルである可能性は低いと思いますし、代数幾何をやっている方からしたら当たり前の結果かもしれません。しかしながら、この問題は(車輪の再発明であっても)自分自身で設定した問題であり、なおかつ解けるかどうか本当にはわからない状態でありながら(他の方の手を借りつつも)解くことができたのです。このようなことは、実は私にとって、(たぶん)初めての経験でした。その意味で、とてもとても感動しています。また、証明を通して、現代的な道具を使って、ここまで鮮やかに初等整数論の問題が解けることに感動を覚えました。これまでまともに勉強したことがなかったので、ちょっと勉強してみたいなと思いました。
「tsujimotter素数は という素数だけである」という事実は「4乗数3つの和」という問題設定からは、すぐにはわかるものではありません。だからこそ、不思議に思いますし、今まで以上に という数に愛着がわきました。
それでは、今日はこの辺で。
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*1:証拠がないのが気になりますが、これ自体はあまり疑ってはいません