tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ガロア表現の基本的なところ(準備編)

明日、ガロア表現を使った記事を書きたいと思うのですが、その内容を理解するための準備編として、今日はガロア表現の基本的なところをまとめたいと思います。

注意:
「基本的なところ」と銘打っておきながら申し訳ないのですが、今回の内容は非常に難しい内容となっております。
tsujimotterがまさに勉強中の「理解の最前線」を書いている記事となっていますので、内容も誤り等含んでいる可能性があります。

そのため、勉強する際は、私の記述をうのみにしないようお願いします。

なお、今回の記事は以下の伊藤先生のPDF「コホモロジー論とモチーフ」
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/~tetsushi/files/hokudai200609.pdf

や、整数論サマースクール「l進ガロア表現とガロア変形の整数論」
http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ochiai/ss2009proceeding/ss2009proceeding.html

の内容を参考にしています。


ガロア表現とは、一言でいうなら「ガロア群の行列による表現」です。その言葉の意味するところについてまずはざっくりしたイメージを説明します。

あるベクトル空間  V を考えて、その元  v \in V がガロア群  G によって  v' に動かされるとします。

f:id:tsujimotter:20190915230907p:plain:w400

この  v から  v' への移動がもし「線形変換」によって表せるとき、つまり行列によって表せるとき、 G を行列そのものだと思うことができますね。これが要するにガロア表現です。

以下では、より詳しく説明していきたいと思います。

群の作用・群の表現

上で述べたガロア表現の説明は正確ではないので、より正確に議論するために、群の作用と群の表現について定義しましょう。

少しだけ一般的な状況を考えます。 E を環とし、 V E 上の加群(これを E-加群ともいいます)とします。

 E が「体」のときには、 V E-ベクトル空間( E を係数とするベクトル空間のこと)になりますので、ベクトル空間の係数の箇所を「環」としたものだと思ってもらえればと思います。

注:普通は環を  R R 加群を  M と置くところですが、後でこれをベクトル空間に読み替えたいので、整合性のために最初からこのような表記にしています。

群を  G としたとき、 G E-加群  V に作用するとは次のように定義されます。ただし、この節では  G有限群と仮定して考えます。

定義(群の環上の加群への作用)
 G を有限群, E を環, V E-加群とする.任意の  g \in G, \; x\in V に対して  g\cdot x \in V が定義され,次の  (1), (2), (3), (4) を満たすとき, G V作用するという.

 (1) 任意の  g, h \in G x \in V に対して, (gh)\cdot x = g\cdot (h\cdot x)
 (2) 単位元  e \in G と任意の  x \in V に対して, e\cdot x = x
 (3) 任意の  g \in G x, y \in V に対して, g\cdot (x + y) = g\cdot x + g\cdot y
 (4) 任意の  g \in G k \in E x \in V に対して, g\cdot (kx) = k(g\cdot x)

 G V には、本来なんの関係もありません。そこで、 G の元が  V の元にどのように影響を及ぼすのか(群の作用)を  g \cdot x という記号で表し、群の加群への作用が満たすべき性質を4つに分けて記述したのが上の定義というわけですね。


それでは、上の4つの性質がどのような条件になっているかを確認しましょう。

その前に、一つ記号を導入したいと思います。 x g を作用させたのが  g\cdot x なわけですが、その対応関係を写像

 \begin{align} \rho(g) \colon V &\longrightarrow V, \\ x &\longmapsto \rho(g)(x) := g\cdot x \end{align}

で表すことにしましょう。この写像  \rho(g) が一体どんな写像なのか、順を追って示します。

性質 (1), (2)

性質  (1), (2) \;\; \Longrightarrow \;\;  \rho(g) は全単射

(証明)

 x = e\cdot x = (g^{-1} g)\cdot x = g^{-1} \cdot (g\cdot x) = \rho(g^{-1})( \rho(g)(x) )

つまり、写像

 \rho(g)\colon x \mapsto \rho(g)(x)

に対して、逆写像

 \rho(g^{-1})\colon \rho(g)(x) \mapsto x

の存在が言える。

性質 (3)

性質  (1), (2), (3) \;\; \Longrightarrow \;\;  \rho(g) はアーベル群としての自己同型写像

(証明)

 \rho(g)(x + y) = g\cdot (x + y) = g\cdot x + g\cdot y = \rho(g)(x) + \rho(g)(y)

より、 \rho(g) はアーベル群としての群準同型。さらに、全単射なのでアーベル群としての自己同型が言える。

性質 (4)

性質  (1), (2), (3), (4) \;\; \Longrightarrow \;\;  \rho(g) E-加群としての自己同型写像

(証明)

 \rho(g)(kx) = g\cdot (kx) = k(g\cdot x) = k(\rho(g)(x) )

より、 \rho(g) E-加群としての準同型写像。さらに、全単射なので  E-加群としての自己同型が言える。


というわけで、結局、 (1), (2), (3), (4) より、 \rho(g) E-加群としての自己同型であることがわかりました。

すなわち、 V E-加群としての自己同型全体のなす群を  \operatorname{Aut}_E(V) としたとき、以下の写像が存在することが言えたわけです。

 \begin{align} \rho \colon G &\longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V), \\ g &\longmapsto \rho(g) \end{align}

ところで、この  \rho が群の準同型写像であることは性質  (1) から言えます。

 \rho(gh)(x) = (gh)\cdot x = g\cdot (h \cdot x) = \rho(g)(\rho(h)(x) ) = (\rho(g) \circ \rho(h) )(x)
より
 \rho(gh) = \rho(g)\circ \rho(h)

である。ここで、 \circ は群  \operatorname{Aut}_E(V) の演算であり、 \rho が群の演算を保つ。


結局、群の作用の性質  (1), (2), (3), (4) から、群の準同型

 \rho\colon G \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V)

の存在が言えたというわけですね。

これを持って、群の作用の定義とすることもあります。

定義(群の環上の加群への作用の言い換え)
 G を有限群, E を環, V E-加群とする.群の準同型写像

 \rho\colon G \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V)

が存在するとき, G V作用するという.

逆も言えるので、これまで示したのと逆に示していけば、最初の定義の4つの性質が導かれます。


なお、これまで  E を環としてきましたが、 E を体とすると、 V E-ベクトル空間となります。このとき、 \operatorname{Aut}_E(V) の元は、 V から  V への線形写像となります。

 V有限次ベクトル空間として、その次元を  n とし、基底  \{e_1, \ldots, e_n \} を固定します。すると、 V からの任意の線形写像  f は、よく知られているように基底の行き先によって定まります。

 \begin{pmatrix} f(e_1) \\ \vdots \\ f(e_n) \end{pmatrix} =  \begin{pmatrix} a_{11}e_1 + \cdots + a_{1n}e_n  \\ \vdots \\ a_{n1}e_1 + \cdots + a_{nn}e_n \end{pmatrix}

すなわち、線形写像  f はこれらの係数を並べた  n 次正方行列だと思うことができます。したがって、先ほどの群  G の作用は

 \rho\colon G \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V) \simeq \operatorname{GL}_n(E)

と思って良いというわけですね。

これによって、群  G の元を行列だと思うことができる、という最初の話の説明ができました。


ガロア表現の定義は、もうちょっとで完了します。

ガロア表現とは

ここから、群  G としてガロア群を考えます。ただし、ガロア表現においては、一般に無限次元の拡大におけるガロア群を考えます。

特に、 K を一般の体とし、 K の分離閉包  \overline{K} なる大きな体を考えます。 \overline{K} は、 K 上のすべての有限次ガロア拡大を含んでいるような、いわば親玉のような体です。 \overline{K}/K のガロア群を

 G_K := \operatorname{Gal}(\overline{K}/K)

と定義し、 G_K絶対ガロア群といいます。

ここで考えたいのは  G_K V への作用

 \rho\colon G_K \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V)

というわけですね。


 \overline{K}/K は無限次拡大のため  G_K は無限群になりますが、先ほどの群の作用の定義では有限群を仮定していました。無限群の場合は注意が必要になります。

有限次拡大  L/K のときには、一般にガロア対応

 \{ \, L/K\, の中間体 \, \}\;\; \longleftrightarrow \;\; \{ \, \operatorname{Gal}(L/K) \,の部分群 \, \}

が成り立ちますが、無限次の場合はそうではありません。

 G_K にクルル位相と呼ばれる位相を入れて、位相群としての構造を考えることで

 \{ \, \overline{K}/K\, の中間体 \, \}\;\; \longleftrightarrow \;\; \{ \, G_K \,部分群 \, \}
 \{ \, \overline{K}/K\, K 上有限次な中間体 \, \}\;\; \longleftrightarrow \;\; \{ \, G_K \,部分群 \, \}

というガロア対応が、無限次の場合においても成り立ってくれます。


無限次の表現においては、一般に位相群としての構造を保つこと、すなわち準同型写像  \rho連続性が要請されます。

対する  \operatorname{Aut}_E(V) の位相について考えますが、係数  E を体として、係数体によって異なる位相を入れることにします。係数体  E としては、典型的な例として以下の3つのみを考えることにします。

① 有限体  \mathbb{F}_{\ell}
② 複素数体  \mathbb{C}
 \ell 進体

ただし、 \ell は素数とします。 \ell 進体とは  \ell 進数体  \mathbb{Q}_{\ell} の有限次拡大体のことです。

①②のケースにおいては  \operatorname{Aut}_E(V)離散位相を入れ、③のケースにおいては  \operatorname{Aut}_E(V) \ell 進位相を入れることにします。

このようにしておくことで、ようやくガロア表現の定義ができます。

定義(ガロア表現)
 K を一般の体とし, K の絶対ガロア群を  G_K とする.また, E を有限体・複素数体・ \ell 進体( \ell は素数)のいずれかとして, V E 上の有限次ベクトル空間とする. G_K \operatorname{Aut}_E(V) には前述の通り位相を入れて位相群とする.

このとき,連続準同型写像

 \rho\colon G_K \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V)

 Kガロア表現という.また, V \rho表現空間という.


これにてガロア表現の定義が完了です。お疲れ様でした。


先ほど、係数体について①②③の場合わけがありましたが、それぞれ対応するガロア表現に以下の名前がついています。

定義(ガロア表現の名称)
 \rho \colon G_K \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V) をガロア表現とする。
 E が有限体  \mathbb{F}_{\ell} のとき、 \rho {}\bmod{\ell} 表現という。
 E が複素数体  \mathbb{C} のとき、 \rhoアルティン表現という。
 E \ell 進体のとき、 \rho \ell 進表現という。


それぞれ違いがあるわけですが、大きな違いは  \operatorname{Im}(\rho) です。①②のときは, \operatorname{Im}(\rho) は有限群になります。①②のときは  \operatorname{Aut}_E(V) に離散位相を入れました。両辺の位相の「整合性」みたいなものが影響しているみたいです。(tsujimotterは、これについては詳しく理解できていません。)

群の準同型定理によって、 G_K \longrightarrow \operatorname{Im}(\rho) は有限次拡大のガロア群  \operatorname{Gal}(L/K) を経由するので、 \rho は有限次拡大に対応するガロア表現になります。

③のときにはそうとは限りません。

フロベニウスの定義

ここからは  K を代数体とし、代数体特有の議論をしたいと思います。ここではフロベニウスという重要な登場人物が現れます。

 K の素点  v に対して、 v における  K の完備化  K_v を考え、 K 上の埋め込み  \overline{K} \hookrightarrow \overline{K_v} を一つ固定します。これにより絶対ガロア群の間の包含関係

 G_{K_v} \subset G_K \tag{*}

が得られます。この  G_{K_v} \subset G_K v における分解群といいます。ガロア表現

 \rho \colon G_K \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V)

に対して、 \rho の分解群への制限

 \rho|_{G_{K_v}}\colon G_{K_v} \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V)

が考えることができます。これは  K_v のガロア表現になっていますね。


 v を有限素点とし、剰余体を  \kappa(v) とおくと、重要な完全列

 1 \longrightarrow I_v \longrightarrow G_{K_v} \xrightarrow{(**)} G_{\kappa(v)} \longrightarrow 1

が得られます。この  I_v v における惰性群といいます。


 G_{\kappa(v)} は有限体の絶対ガロア群より、 \hat{\mathbb{Z}} と同型であることがわかります。さらに、 \kappa(v) の位数を  q_v と書くことにすると、絶対ガロア群は

 \operatorname{Frob}_v\colon x \longmapsto x^{1/q_v} \;\;\; (\forall x \in \overline{\kappa(v)})

によって位相的に生成されることがわかります。


したがって、 \operatorname{Frob}_v を上の  (**) によって  G_{K_v} によって引き戻したものは、「 I_v の違いを除けば」一意に定まります。すなわち、 f, f' \in G_{K_v} をそれぞれ  (**) によって  \operatorname{Frob_v} \in G_{\kappa(v)} にうつしたものは、 g \in I_v が存在して

 f' = gf

の関係にあります。この「 g 倍の部分を見なかったことにすれば」 f, f' は同一のものといえます。こういう状況を「 I_v の違いを除いて」と表現します。英語だと "up to  I_v" と言ったりします。この up to  I_v で定まる  G_{K_v} の元を(幾何的)フロベニウスといい、改めて  \operatorname{Frob}_v で表します。


なお、包含関係  (*) により、フロべニウスは  G_K の元でもある( \operatorname{Frob}_v \in G_K)とみなせることにも注意します。 G_K の元としてのフロべニウスも  \operatorname{Frob}_v と表記することにします。

ただし、ここにもフロべニウスの不定性が生じるポイントがあります。 K 上の埋め込み  \overline{K} \hookrightarrow \overline{K}_v を一つ固定していたことを思い出しましょう。埋め込みのとり方を変えれば、 G_{K_v} G_K への入り方が変わってしまい、結果としてフロべニウスは  G_K の元として異なるものになってしまいます。
(有限次拡大のときは、 v の上の素点  w のとり方によって、分解群が変わってしまうことがあったと思いますが、それと同じ話です。)

埋め込みのとり方によって  \operatorname{Frob}_v からうつる  G_K の元を  \operatorname{Frob}_v共役ということにします。このフロべニウスの共役については、次の命題が成り立つことにも注意します。この事実はあとで使いたいと思います。

命題(フロべニウスの共役)
 \operatorname{Frob}_v' \operatorname{Frob}_v の任意の共役とすると、 g \in G_K が存在して
 \operatorname{Frob}_v' = g^{-1}\operatorname{Frob}_v g

が成り立つ。


以上、フロべニウスの2通りの不定性について議論していましたが、ややこしいので改めてまとめたいと思います。

フロべニウスの不定性の整理
不定性の原因:
①埋め込み  \overline{K} \hookrightarrow \overline{K}_v を固定すると、 (**) \;\; G_{K_v} \subset G_K が得られる。
②完全列  1 \longrightarrow I_v \longrightarrow G_{K_v} \xrightarrow{(**)} G_{\kappa(v)} \longrightarrow 1

どのような不定性が生じるか:
①における埋め込みのとり方によって  (*) における入り方が異なり、フロべニウスは  G_K の元として 次のような不定性を持つ:

 \exists g \in G_K, \;\;\;\; \operatorname{Frob}_v' = g^{-1}\operatorname{Frob}_v g

②における  (**) の引き戻しによって、フロべニウスは  G_{K_v} の元として "up to  I_v" で定まる:

 \exists g \in I_v, \;\;\;\; \operatorname{Frob}_v'' = g\operatorname{Frob}_v

記事公開時点でのtsujimotterは、上記の不定性のうち②の方を①と同じものだと思い込んでいました。これについては、ありがたいことに@LT_shuさんという方からご指摘いただいて誤解を解くことができました。とはいえ、ややこしいことには変わりないと思いますので、丁寧にまとめてみました。

不定性②の (i):分岐・不分岐

次回の記事でも、有限素点  v に対して  \rho(\operatorname{Frob}_v) の行き先を調べることが重要になります。しかしながら、そもそも  v に対して  \operatorname{Frob}_v は一意に定まらない(不定性がある)というのは少々厄介ですね。

ここでは2つの不定性のうち、②の不定性についての考えたいと思います。


 \rho における惰性群  I_v の行き先を考えることにします。 I_v \subset G_{K_v} \subset G_K なので、 \rho(I_v) を考えることができます。

もし  \rho(I_v) = 1 のとき、任意の  g \in I_v に対して  g\operatorname{Frob}_v \rho による行き先を考えると

 \rho(g \operatorname{Frob}_v) = \rho(g)\rho(\operatorname{Frob}_v) = \rho(\operatorname{Frob}_v)

が成り立ちます。よって、 (**) の引き戻しとして  \operatorname{Frob}_v \in G_{K_v} をどのようにとったとしても、 \rho による  \operatorname{Frob}_v の行き先が一意に定まります。


以上を踏まえて、分岐・不分岐という概念を導入します。

定義(分岐・不分岐)
 \rho \colon G_K \longrightarrow \operatorname{Aut}_E(V) をガロア表現とする。 v K の有限素点とし、 I_v v の惰性群とする。

 \rho(I_v) = 1 が成り立つとき、 \rho v不分岐であるという。
逆に、 \rho(I_v) \neq 1 のとき、 \rho v分岐するという。

すなわち、 \rho v で不分岐である状況だけで議論を進めることができれば、②の不定性についての問題は生じないということになりますね。

不定性②の (ii):フロベニウスの  V^{I_v} への作用

上では、分岐する素点を避ければ不定性②についての問題は生じないということでした。しかし、分岐する素点をすべて避けるのは困難な場合があります。実際、次回考えるゼータ関数では、分岐する素点も含んだすべての有限素点を扱う必要があり、そういった意味でも分岐する素点に対しても考慮が必要です。

ここでは②の不定性について、もう一つの対策を考えてみましょう。今度は「作用する空間から  I_v の影響を除いてしまう」というものです。


フロベニウス  \operatorname{Frob}_v \in G_{K} について、ベクトル空間  V^{I_v} への作用について考えてみましょう。

 V の中で特に  I_v の作用について動かない元全体の集まり  V^{I_v} を次で定義します。

 V^{I_v} := \{ x \in V \mid \forall g \in I_v, \; g \cdot x = x \}


 \rho v で不分岐であるときは、任意の  g \in I_v, \; x \in V に対し

 g\cdot x = \rho(g)(x) = x

なので、 V^{I_v} V に一致しますね。

 \operatorname{Frob}_v V に自然に作用しますので、 V^{I_v} = V より  \operatorname{Frob}_v V^{I_v} にも自然に作用します。


また、 \rho v で分岐する場合についても、 \operatorname{Frob}_v V^{I_v} に自然に作用します。

注:
「tsujimotterはここの部分が示せませんでした」と書いたところ、いつもお世話になっている梅崎さんから証明の方法を教えていただきました。ありがとうございます。

自然に作用するということは、任意の  x \in V^{I_v} に対して  \operatorname{Frob}_v \cdot x \in V^{I_v} であることを言う必要があります。すなわち、任意の  g \in I_v に対して

 g\cdot (\operatorname{Frob}_v \cdot x) = \operatorname{Frob}_v \cdot x

が言えればよいことになります。ポイントは、 I_v G_{K_v} の正規部分群であることです。


 I_v G_{K_v} の正規部分群より、任意の  g \in I_v に対して

 \operatorname{Frob}_v^{-1} g \operatorname{Frob}_v \in I_v

が成り立ちます。よって任意の  x \in V^{I_v} に対して

 (\operatorname{Frob}_v^{-1} g \operatorname{Frob}_v) \cdot x = x

となります。両辺に  \operatorname{Frob}_v を作用させて

 (\operatorname{Frob}_v \operatorname{Frob}_v^{-1} g \operatorname{Frob}_v) \cdot x = \operatorname{Frob}_v \cdot x

ですが、 \operatorname{Frob}_v \operatorname{Frob}_v^{-1} = 1 より

 g \cdot (\operatorname{Frob}_v \cdot x) = \operatorname{Frob}_v \cdot x

がいえます。よって、 \operatorname{Frob}_v \cdot x \in V^{I_v} であることが示せました。

さらにいうと、上の証明により任意の  g \in I_v に対して

 (g\operatorname{Frob}_v) \cdot x = \operatorname{Frob}_v \cdot x

が成り立ちます。よって、 (**) の引き戻し  \operatorname{Frob}_v \in G_{K_v} をどのように選んでも、 V^{I_v} への作用は変わりません。すなわち、②の不定性を打ち消せることがわかりました。


 \operatorname{Frob}_v による  V^{I_v} への作用を  \rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) と表記することにしましょう。これは  V^{I_v} から  V^{I_v} への( E-)線形変換です。

「群の作用・群の表現」の節によれば、線形変換は基底を固定すれば行列で表せるのでした。 \rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) は正方行列で表せます。行列だと思うことができるのです。

不定性①:トレース・行列式・固有多項式

以上の議論によって、フロベニウス  \operatorname{Frob}_v \in G_{K} について、②の不定性にかかわらず  V^{I_v} への作用  \rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) は定まることがわかりました。

一方で、フロべニウスにはもう一つの不定性①がありました。これについての影響を考えたいと思います。


先ほどまでは  (*) の埋め込み  G_{K_v} \subset G_K を固定し、これによって  \operatorname{Frob}_v G_K の元とみなしていました。埋め込み  (*) を動かすことで  G_{K_v} G_K への入り方が変わりますが、これによって  G_K の元としてのフロべニウスのとり方が変わります。うつりあうフロべニウスたちのことをそれぞれ共役と呼ぶのでした。

また、フロベニウス  \operatorname{Frob}_v の任意の共役  \operatorname{Frob}_v' は、ある  g \in G_K が存在して

 \operatorname{Frob}_v' = g^{-1} \operatorname{Frob}_v g

と表せるのでした。この式に  \rho を適用すると

 \rho(\operatorname{Frob}_v') = \rho(g)^{-1} \rho(\operatorname{Frob}_v) \rho(g)

となりますが、これは行列の相似変換の形になっています。

行列  A の相似変換とは、正則行列  P(逆行列をもつ)を用いて
 A' = P^{-1}AP

と表すことができる変換のことでした。上の式も、まさにこの形になっています。


よくよく考えてみれば、 \rho の行き先を「行列」としてみるためには、基底を固定する必要がありました。基底を取り替えると、行列は相似変換されます。その意味でも、行列の相似変換に対して不変な量を考える必要があります


線形代数を思い出すと、トレース、行列式、固有多項式は相似変換において保存されるのでした。

参考:
dora.bk.tsukuba.ac.jp

なお、変数  \lambda の行列  A の固有多項式とは、 I を単位行列として

 \operatorname{det}(\lambda I - A)

と表せるものです。この式が  0 となるような  \lambda を求めると、 \lambda A の固有値になるのでした。

ここでは、変数を  T として

 \operatorname{det}(I - TA)

という形のものも固有多項式と呼ぶことにします。 \lambda = 1/T として、 T^n 倍すれば両者は一致しますね。

よって

 \operatorname{Tr}(\rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) )
 \operatorname{det}(\rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) )
 \operatorname{det}(I - T\rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) )

は、それぞれ  \rho(\operatorname{Frob}_v; V^{I_v}) に対する相似変換について不変な量となります。


したがって、これらの量は①の不定性を打ち消すことがわかりますので、有限素点  v に対して一意に定まる量であることがわかりました。

まとめ

今回は「ガロア表現の基本的なところ」と題して、主に次の3点を定義しました。

  • 群の作用・群の表現
  • ガロア表現
  • フロベニウスと関連する不変量

フロべニウスには2通りの不定性があったわけですが、どちらも最終的には打ち消すような不変量を得ることができました。

次回はこれらの準備をもとに「ガロア表現のゼータ関数」について考えたいと思います。