tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ベイカーの定理と類数1の虚二次体の決定

類数1の虚二次体 は完全に決定されていて,虚二次体を  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) として

 d = 1, 2, 3, 7, 11, 19, 43, 67, 163

9 つだけであることが知られています。これがベイカー・スタークの定理です。

今日はこの定理の「ベイカーによる証明」をご紹介したいと思います。


背景

先のベイカー・スタークの定理における 9 番目の  d = 163 については「類数1である最後の虚二次体」として有名ですね。
tsujimotter.hatenablog.com

類数が  1 である 9 つの虚二次体は,ガウスによって 1801 年に発見されていました。一方で,

「10 個目の類数1の虚二次体は存在するのか?」
(類数1の虚二次体の決定問題)

という問いは,長らく未解決でした。冒頭に述べた通り,この問題は 1966 年に「アラン・ベイカー」と「ハロルド・スターク」の2名によって独立に解決されました。

面白いことにベイカーとスタークの証明はお互い完全に独立で,まったく異なる手法によって解決しています。ベイカーは今回紹介する方法で,スタークは楕円モジュラー関数を用いた方法によって解決したのだそうです。


今日は,このアラン・ベイカー*1が主役です。


アラン・ベイカー (1939 - )

ところでベイカーといえば,超越数論における「ベイカーの定理」が有名です。

ベイカーの定理とは,以下のような定理です。

ベイカーの定理1(対数関数の一次形式の線形独立性)
 \alpha_1, \ldots, \alpha_n が 0 でない代数的数で  \displaystyle \log \alpha _{1}, \ldots, \log \alpha_{n} \mathbb{Q} 上一次独立ならば, \displaystyle \{1, \log \alpha _{1}, \ldots, \log \alpha _{n}\} \overline{\mathbb{Q}} 上一次独立である。


「類数1の決定問題」について知ったとき,私は「ベイカーはなんてすごい人なのだ!!」と思いました。

だって「超越数論」と「類数の決定問題」というまったく異なる問題を解いてしまったのですから。どんだけ守備範囲が広いのかと。


ところがです。面白いのはこれからです。


類数1の決定問題は,なんと「ベイカーの定理」を使って証明されたのです!!!

な、なんだってー!


このことは,Wikipediaにも書いてありました。

(2) 類数が 1 である虚2次体の決定
虚二次体  \displaystyle \mathbb{Q} ({\sqrt{-d}}) の類数が 1 である d は、1, 2, 3, 7, 11, 19, 43, 67, 163 の9個だけであるというガウスの予想は、ベイカーの定理(定理2)を用いることにより、1966年にベイカーにより証明された。この予想は、同年、スターク (H. M. Stark) によっても、ベイカーと独立で証明された。
(Wikipedia "ベイカーの定理" より引用)

「超越数論」を使って「類数1の虚二次体」が決定できるなんて驚きです。がぜん興味が湧いてきました。


というわけで,今日は「ベイカーの定理」を使って「類数1の決定問題」を解く方法について,その方針を簡単にご紹介したいと思います。

なかなか高度な内容で,厳密に紹介しようとすると私には難しいので,あくまで概要程度に留めた解説になります。その点はご容赦ください。


今回は,1975 年に出版されたベイカーの著書 "Transcendental number theory (超越数論)" の第5章 "Class Number of Imaginary Quadratic Fields (虚二次体の類数)" を参考にしています。

ちなみに,この本は「ベイカーの定理」をはじめとした「超越数論」の手法を使ったさまざまな応用(虚二次体の決定問題やディオファントス方程式など)を紹介している本です。


途中で,前回紹介したばかりの「ディリクレの類数公式」も使います。
tsujimotter.hatenablog.com

この記事の内容も使いますので,あらかじめ読んでおくとよいでしょう。

ベイカーの定理の別バージョン

先ほど『「ベイカーの定理」を使って「類数1の決定問題」を解く』と説明しましたが,正確には若干の語弊があります。

ベイカーの定理には,よく似た2つのバージョンがあって(どちらも超越数の判定に用いることができるものですが)「類数1の決定問題」には,もう一つのバージョンを用いるのです。

ベイカーの定理2(対数関数の一次形式の下界の評価)
 \alpha_1, \ldots, \alpha_n は 0 でない  l 次以下の代数的数で高さが  A 以下, \displaystyle \beta _{1}, \ldots, \beta_{n} を, l 次以下の代数的数で高さが  B(\geq 2) 以下とする。このとき,
 \displaystyle \Lambda = \beta _{1}\log \alpha _{1}+ \cdots + \beta _{n}\log \alpha _{n}

とおくと,

 \Lambda =0 または  \displaystyle |\Lambda |>B^{-C}

が成り立つ。

ここで, C は, n, l, A および,あらかじめ定められた各対数の値によって定まる計算可能な定数である。

どちらのベイカーの定理も,代数的独立性に関する定理です。こちらの方が不等式で下界を評価できる分,応用が利くのです。

「高さ」という耳慣れない用語が出てきましたので,補足しましょう。

代数的数  \alpha の高さとは, \alpha の最小多項式の係数の絶対値の最大値のことです。

たとえば,代数的数  \sqrt{2} + \sqrt{3} の最小多項式は  X^4 - 10X + 1 ですが,この高さは  \max\left\{|1|, \; |-10|, \; |1|\right\} = 10 となります。


類数の決定問題の証明では,以上の記述をそのまま使うのではなく,以下のように変形させて使います。Chapter 4 の Section 5 に載っています。

 \alpha_1, \ldots, \alpha_n は 0 でない  l(\geqq 4) 次以下の代数的数で高さが  A 以下とする。

ここでもし,絶対値が高々  B 以下となるような有理整数  \displaystyle b_{1}, \ldots, b_{n} が存在して, 0 < \delta \leqq 1 に対して以下が成り立つならば:

 \displaystyle 0 < |\beta _{1}\log \alpha _{1}+ \cdots + \beta _{n}\log \alpha _{n} | < e^{-\delta B}

与えられた対数値に応じて以下のように  B の上界が定まる:

 \displaystyle B < (4^{n^2} \delta^{-1} l^{2n} \log A)^{(2n+1)^2} \tag{1}

私の勘違いでなければ,この命題は「ベイカーの定理2」から導けるそうなのですが,両者の同値性については私には判断がつきませんでした。

証明の準備:L関数

ベイカーの「虚二次体の決定問題の証明」では,L 関数を用いて証明を行います。ここでは,2つの  L 関数を用意しておきます。

まず, -d < 0, \; k > 0 の2つの整数に対して,2つの指標:

  • 判別式  k の実二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{k}) に付随するクロネッカーの記号:  \chi(n) = \left(\frac{k}{n}\right)
  • 判別式  -d の虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) に付随するクロネッカーの記号:  \chi'(n) = \left(\frac{-d}{n}\right)

を考えます。ここで, k, d は互いに素としておきます。

これらの指標を用いて,次の2つの  L 関数を作ります。

 \displaystyle L(s, \chi) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s}
 \displaystyle L(s, \chi\chi') = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)\chi'(n)}{n^s}

以上2つの  L 関数を掛け合わせると,以下の式が得られます。

 \displaystyle L(s, \chi)L(s, \chi\chi') = \frac{1}{2}\sum_f \sum_{(x, y) \neq (0, 0)} \chi(f(x, y)) f(x, y)^{-s} \tag{2}

ここで, f は判別式が  -d となるような整係数の二次形式

 f(x, y) = ax^2 + bxy + cy^2

のことなのですが,これには少し説明が必要です。

まず,判別式が  -d であるような二次形式は無数に存在します。一方で「二次形式 f が表現できる素数の集合」によって,二次形式を有限個の「類」に分類できることが知られています。

二次形式  f f' に対して「 f f' が同じ素数を表現できる」という同値関係  f\sim f' を入れると,二次形式全体の群を同値類  \sim で割ることによって「二次形式の同値類群  C(-d)」を作ることができます。これが,二次体のイデアル類群  {\rm Cl}(K) と同型となります。

したがって,類数を考えることは二次形式の同値類を数えることと等価です。

二次形式の類については,この記事で詳しくまとめました:
tsujimotter.hatenablog.com

上記の和の記号は,判別式が  -d である二次形式の同値類群  C(-d) における「すべての類」から,それぞれ1つずつ代表元をとってくることを意味しています。

すなわち,類数が  h であれば, h 個の  f(x, y) が選ばれて,それを使って

 \displaystyle \sum_{(x, y) \neq (0, 0)} \chi(f(x, y)) f(x, y)^{-s}

を計算し,和をとるのです。

同じ類に属する二次形式は,同じ数を表現するので,上記の和は代表元の選び方によらないことに注意しましょう(well-defined)。


さて,式  (2) の右辺は次のように二つの和に分けることができます。

 \displaystyle L(s, \chi)L(s, \chi\chi') = \sum_f \sum_{x=1}^{\infty} \chi(ax^2)(ax^2)^{-s} + \sum_{f}\sum_{y=1}^{\infty} \sum_{x=-\infty}^{\infty} \chi(f)f^{-s}

最初の和の項は

 \displaystyle \zeta(2s)\prod_{p\mid k}(1-p^{-2s}) \sum_{f} \chi(a)a^{-s}

と表すことができます。二つ目の和の項は,次のような「フーリエ級数」によって展開できます。

 \displaystyle \sum_{f} \sum_{r=-\infty}^{\infty} A_r(s) e^{\frac{\pi i r b}{ka}}

 A_r(s) はフーリエ係数ですが,この定義は省略させてください。


以上の式において  s\to 1 の極限をとります。

まず, A_r(s) の極限値を以下の記号で表すことにします。

 \displaystyle \begin{align} A_0 &= \lim_{s\to 1} A_0(s) & \\  A_r &= A_r(1) & (r \neq 0) \end{align}

 r = 0 r \neq 0 で場合分けが必要であることに注意します。


すると,以下のように表すことができます。

 \displaystyle L(1, \chi)L(1, \chi\chi') = \frac{\pi^2}{6}\prod_{p\mid k}\left(1-\frac{1}{p^{2}}\right) \sum_{f} \frac{\chi(a)}{a} +  \sum_{f} \sum_{r=-\infty}^{\infty} A_r e^{\frac{\pi i r b}{ka}} \tag{3}


このとき  A_r の絶対値は,以下のように上から押さえられることがわかります。

 \displaystyle |A_r| \leq \frac{-2\pi}{\sqrt{d}} |r| e^{\frac{-\pi |r| \sqrt{d}}{ka}} \;\;\;\; (r\neq 0)

また, r = 0 のときは,以下のように値が定まります。

 \displaystyle A_0 = \frac{-2\pi}{k\sqrt{d}} \chi(a) \log p


以上で準備は終わりです。

証明:類数1の虚二次体の決定

ここまでに準備した道具を用いて,類数1の虚二次体は冒頭に挙げた9つのみであることを示しましょう。

前節の設定の通り,虚二次体を  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) とします。ここで, \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) の類数が  1 であると仮定します。

この仮定を満たす  d は,上にあげたもの以外に存在しないことを示せばいいのです。


ここで, d\equiv 3 \pmod{4} としておきます。すると仮定より,判別式が  -d の二次形式は

 \displaystyle x^2 + xy + \frac{1+d}{4}y^2

の同値類ただ1つとなります。


また, d と互いに素な  k (< d) を使って,実二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{k}) を考えます。このとき  \mathbb{Q}(\sqrt{k}) の類数が  1 となるように  k を選択します。


 (3) を再掲すると,2つの  L 関数の積は

 \displaystyle L(1, \chi)L(1, \chi\chi') = \frac{\pi^2}{6}\prod_{p\mid k}\left(1-\frac{1}{p^{2}}\right) \sum_{f} \frac{\chi(a)}{a} +  \sum_{f} \sum_{r=-\infty}^{\infty} A_r e^{\frac{\pi i r b}{ka}} \tag{3再掲}

で表せることがわかります。


仮定より,二次形式の類は  x^2 + xy + \frac{1+d}{4}y^2 の同値類だけなので

 \displaystyle L(1, \chi)L(1, \chi\chi') = \frac{\pi^2}{6}\prod_{p\mid k}\left(1-\frac{1}{p^{2}}\right) +  \sum_{r=-\infty}^{\infty} A_r e^{\frac{\pi i r}{k}} \tag{3'}

となります。


以下では,式  (3') の右辺を評価していきましょう。


右辺第1項は, k の約数の素因子の積なので,簡単に計算できます。後ほど, k に具体的な数をいれて計算します。


続いて右辺第2項について考えます。

まず, A_0 = 0 になることがわかります。また,右辺の2項目の和の絶対値は高々

 \displaystyle \frac{4\pi}{\sqrt{d}} \sum_{r=1}^{\infty} r\eta^r

で押さえられます。ここでは, \eta = e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{k}} としています。

 r に対する和をとると,その和は  \eta/(1-\eta)^2 に一致します。

また, \sqrt{d} > k であれば  \eta < 1/2 となりますので,以上の和は

 \displaystyle \frac{\eta}{(1-\eta)^2} < \frac{\eta}{(1-1/2)^2} = 4\eta

より,

 \displaystyle \sum_{r=-\infty}^{\infty} A_r e^{\frac{\pi i r}{k}} < \frac{4\pi}{\sqrt{d}} \sum_{r=1}^{\infty} r\eta^r < \frac{16\pi \eta}{\sqrt{d}} = \frac{16\pi}{\sqrt{d}} e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{k}} \tag{4}

という不等式で押さえられることになります。


 (3') 左辺の  L 関数についても考えていきます。ここでは,前回紹介したばかりの「ディリクレの類数公式」を使います。

類数  1 の実二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{k}) に対して

 \displaystyle L(1, \chi) = \frac{2\log \varepsilon}{\sqrt{k}} \tag{5}

が成り立ち,類数  h の虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-kd}) に対して

 \displaystyle L(1, \chi\chi') = \frac{h\pi}{\sqrt{kd}} \tag{6}

が成り立ちます。


ここから先は  k に具体的な数を入れて,さらに詳しく評価していきましょう。


まず, k = 21 とします。

実二次体は  \mathbb{Q}(\sqrt{21}) となり,この類数は設定通り  1 となります。 \mathbb{Q}(\sqrt{21}) の基本単数は, \varepsilon = \frac{5+\sqrt{21}}{2} となります。


これらの  k, \varepsilon を,式  (3'), (4), (5), (6) に代入して評価していきます。たとえば,式  (3') の右辺第1項については, k = 21 = 3\cdot 7 より

 \displaystyle \frac{\pi^2}{6} \left(1-\frac{1}{3^{2}}\right)\left(1-\frac{1}{7^{2}}\right) = \frac{64\pi^2}{21^2}

が得られます。

まとめると,

 \displaystyle \frac{2\log \varepsilon}{\sqrt{21}}  \cdot \frac{h\pi}{\sqrt{21d}} \;\; < \;\; \frac{64\pi^2}{21^2} +  \frac{16\pi}{\sqrt{d}} e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{21}}

という不等式が得られます。

両辺に  \frac{21\sqrt{d}}{2\pi} をかけて移項すると

 \displaystyle \left|h\log \varepsilon - \frac{32}{21}\pi\sqrt{d} \right| <  21\cdot 8\pi \cdot e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{21}}

が得られます。

ここで,十分大きな  d において,少なくとも  d > 10^{20} において

 \displaystyle 21\cdot 8\pi \cdot e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{21}} < e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{100} }

が成り立ちます。したがって,

 \displaystyle \left|h\log \varepsilon - \frac{32}{21}\pi\sqrt{d} \right| <  e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{100}} \tag{7}

が得られます。

以上の式を見ると, \pi = -2i \log i であることを用いて「ベイカーの定理2」の形に持っていきたくなります。ところが,このままではうまくいきません。

もうひと工夫が必要です。


 k = 33 として,新たに式  (3') を計算し直します。

このときの虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-33d}) の類数を  h',実二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{33}) 基本単数を  \varepsilon' とすると

 \displaystyle \left|h'\log \varepsilon' - \frac{80}{33}\pi\sqrt{d} \right| <  e^{-\frac{\pi \sqrt{d}}{100}} \tag{8}

が得られます。


 (7), (8) の2つの不等式を用いて, 35 \times (7) - 22 \times (8) を計算すると,

 \displaystyle \left| b\log \varepsilon + b' \log \varepsilon' \right| <  e^{-\delta B}

を得ます。

ここで, \delta^{-1} = 14\times 10^3 B = 140\sqrt{d} b = 35h b' = -22h' としています。


 b, b' は明らかに整数となりますので,

 \Lambda = b\log \varepsilon + b' \log \varepsilon'

と設定すると「ベイカーの定理2(を変形させたもの)」を適用することができます。


 (1) のパラメータを  n = 2 l = 4 A = 46 として, B の上界を評価すると

 \displaystyle  \begin{align} B &< (4^{n^2} \delta^{-1} l^{2n} \log A)^{(2n+1)^2} \\
 &= 10^{(4^4 \cdot 14 \times 10^3 \cdot 4^4 \cdot \log {46})^{5^2} \cdot} \\
 &= 10^{229.58\cdots} \end{align}

より, B < 10^{250} が得られます。

よって

 B = 140\sqrt{d} < 10^{250}

より, d < 10^{500} であることがわかります。


したがって,虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) の類数が  1 であるとすると, d < 10^{500} でなければならないことがわかりました。ここまでがベイカーの定理によってわかることです。


一方で,1934 年の Heilbronn と Linfoot によって,類数  1 10 番目の虚二次体があるとすれば, d > e^{1000000} であることが示されています。したがって,以上の条件を両立する虚二次体は存在しません。


以上により,類数  1 の虚二次体は,冒頭に挙げた  9 個だけであることが証明されました。


まとめ

今日はアラン・ベイカーによる「類数1の虚二次体の決定問題」の証明をご紹介しました。「超越数論」が類数の問題に使えるというのがとても面白かったですね。

私自身もこの例を知るまで「超越数論」は単に超越数を決定することしか使えないものと思い込んでいました。そのため,今回のような応用は本当に意外でした。またベイカーの定理のような上界や下界を与える定理の「強力さ」を実感しました。

数学においては,しばしばこんなことが言われます。「大きな定理」が証明されると(それがどんな定理であれ)その定理を用いて別の非自明な結果を導くことができる。今回の「ベイカーの定理」は,まさにそれを体現するようなケースといえるでしょう。

虚二次体の類数の証明に,実二次体を使うのも面白いですね。ディリクレの類数公式も出てきました。ベイカーの定理の形式に持っていくまでの過程が,本当にトリッキーで不等式の評価も凄まじかったですね。なんとかして証明してやろうという執念を感じました。

それでは,今日はこの辺で。

参考文献

第4章に2種類の「ベイカーの定理」が載っています。定理のステートメントは,こちらの記述を参考にしました。証明も載っています(上界・下界の具体的な与え方や類数への応用についてはこちらには載っていませんでした)。

ベイカーの著書です。直接関連するのは5章ですが,3章で「ベイカーの定理」について,4章で「上界を与える具体的な計算式について」載っています。

追記:2019/04/18

こちらのページの2018年の部誌に「3.類数 1 の虚二次体」という記事があります。この記事では、スタークによる楕円モジュラー関数を用いた証明が紹介されています。
資料室 - nada-mathclub ページ!


関連項目(類数1の虚2次体に関連するトピック)

tsujimotter.hatenablog.com

tsujimotter.hatenablog.com

*1:ちなみに,アラン・ベイカーは岩澤理論の研究者であるジョン・コーツの師匠です。コーツの有名な弟子として,フェルマーの最終定理を解決したアンドリュー・ワイルズがいます。したがって,ワイルズにとって,アラン・ベイカーは師匠の師匠にあたります。