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tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

163とドカベン素数

数学 素数 整数論 素数と2次体の整数論 イデアル類群・類数

4 で割って 1 あまる素数は,すべて2つの平方数の和でかける

という事実は,非常に有名なのでご存知の方も多いかと思います。私のブログでもたびたび取り上げてきました。フェルマーが発見したので,フェルマーの二平方定理(あるいは,二平方和の定理)という名前が付いています。
tsujimotter.hatenablog.com


私の大好きな定理の一つで,見かけによらず非常に奥が深い定理です。そのため,人に話したくてたまらないわけですが,他人に説明しようとすると1つ面倒な問題が発生します。

この「4 で割って 1 あまる素数」という言い回しが,長くて言いづらいのです。この手の説明をしているといちいち「4 で割って 1 あまる素数が・・・」と言わなければならず,とてもまどろっこしいわけです。

「奇数(2 で割って 1 あまる数)」のような名前がついていれば便利なのに・・・。


この問題に対し,鯵坂もっちょさん(アジマティクスの著者)という方が,画期的な解決策を思いつきました。以下のスライドをご覧ください。

www.slideshare.net

簡単に説明すると, 4 で割ったあまりを「春夏秋冬」に対応づけるのです。 4 で割って  1 あまる素数は 「夏素数」 と呼ぶことにします。


この方法を用いると,先の定理は以下のように簡潔に表せます。

夏素数は,すべて2つの平方数の和でかける

これなら「あれ?4で割っていくつあまるんだっけ?」と考えなくても済みますね。

便利。


さて今日は,もっちょさんの手法をさらに発展させて,163 で割ったあまりの法則について考えてみたいと思います。



ぜひ覚えたい 163 で割ったあまりの法則

 4 で割って  1 あまる素数  p

 p \equiv 1 \pmod{4}

のように表記すると,先ほどのフェルマーの二平方定理は

 p \equiv 1 \pmod{4} \; \; \Longrightarrow \;\; p = X^2 + Y^2

とかけます。


実は, 163 で割ったあまりについても,同様の形式でかける法則が存在します。

定理
 p を素数としたとき,以下が成り立つ。

 \begin{eqnarray} p \equiv 
 && 1, 4, 6, 9, 10, 14, 15, 16, 21, 22, 24, 25, 26, 33, 34, 35, 36, 38, \\
 && 39, 40, 41, 43, 46, 47, 49, 51, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 60, 61, \\
 && 62, 64, 65, 69, 71, 74,  77, 81, 83, 84, 85, 87, 88, 90, 91, 93, \\ 
 && 95, 96, 97, 100, 104, 111, 113, 115, 118, 119, 121, 126, 131, \\ 
 && 132, 133, 134, 135, 136, 140, 143, 144, 145, 146, 150, 151, \\
 && 152, 155, 156, 158, 160, 161 \pmod{163} \\
 \Longrightarrow  && \;\; p = X^2 + XY + 41Y^2 \end{eqnarray} \tag{1}

だいぶ左辺のあまりのパターンが増えて煩雑になりますが,たしかに同じ形でかけていますね。


たとえば, p = 653 としたとき,

 653 = 4\times 163 + 1

なので,

 653 \equiv 1 \pmod{163}

です。左辺の条件を満たしますね。つまり,

 p = X^2 + XY + 41Y^2

の形でかけるはずです。実際

 653 = (-1)^2 + (-1)\cdot 4 + 41\cdot 4^2

と表すことができます。


この定理の背景について,気になる人向けに紹介しておきます。
(難しいなと思ったらここだけ飛ばしてもらってかまいません。)

先の分解法則は,虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-163}) における素イデアルの分解法則から自然に導けます。

 163 は素数です。したがって, \mathbb{Q} 上の素数  p \mathbb{Q}(\sqrt{-163}) における素イデアル分解法則が,平方剰余を用いて,

 \displaystyle \left(\frac{-163}{p}\right) = 1 \;\; \Longrightarrow \;\; (p) = P_1 P_2

とかけます。

ここで, P_1, P_2 \mathbb{Q}(\sqrt{-163}) の整数環 \mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-163}}{2}\right] の相異なる素イデアルです。


一方, \mathbb{Q}(\sqrt{-163}) の整数環  \mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-163}}{2}\right] は類数が1,すなわち単項イデアル整域となります。

単項イデアル整域では,すべてのイデアルが単項イデアルになるのです。虚二次体において,類数が1となるのは,

 \mathbb{Q}(\sqrt{-1}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-2}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-3}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-7}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-11}),
 \mathbb{Q}(\sqrt{-19}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-43}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-67}), \; \mathbb{Q}(\sqrt{-163})

の9つだけです。これがベイカー・スタークの定理と呼ばれるものでした。 163 は類数が1となる最後の砦なのですね。


したがって, \mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-163}}{2}\right] は単項イデアルより,共役な単項イデアル

 \displaystyle \left(X + \frac{1+\sqrt{-163}}{2} Y\right), \; \left(X + \frac{1-\sqrt{-163}}{2} Y\right)

を用いて

 \displaystyle \left(\frac{-163}{p}\right) = 1 \;\; \Longrightarrow \;\; p =  \left(X + \frac{1+\sqrt{-163}}{2} Y\right) \left(X + \frac{1-\sqrt{-163}}{2} Y\right)

と書けます。


左辺に平方剰余の相互法則を適用すると

平方剰余の相互法則については,この記事の下の方に書いてあります
二次体の分解法則と平方剰余の相互法則 - tsujimotterのノートブック

 (-1)^{(163-1)/2} = -1 より,

 \displaystyle \left(\frac{-163}{p}\right) = \left(\frac{p}{163}\right)

よって,

 \displaystyle \left(\frac{p}{163}\right) = 1 \;\; \Longrightarrow \;\; p =  \left(X + \frac{1+\sqrt{-163}}{2} Y\right) \left(X + \frac{1-\sqrt{-163}}{2} Y\right)

が得られます。

ここで右辺は

 \displaystyle p =  \left(X + \frac{1+\sqrt{-163}}{2} Y\right) \left(X + \frac{1-\sqrt{-163}}{2} Y\right) = X^2 + XY + 41Y^2

ですから,結果的に

 \displaystyle \left(\frac{p}{163}\right) = 1 \;\; \Longrightarrow \;\; p = X^2 + XY + 41Y^2

が得られました。


左辺は, \bmod{163} の平方剰余,つまり  \bmod{163} において二乗して  p と合同となる剰余が存在する,という条件です。すなわち,

 X^2 \equiv p \pmod{163}

となる  X が存在するような  p \bmod{163} を考えれば良いわけです。このような  p を列挙すると,式  (1) の左辺の条件に一致します。


mod 163 を表現する

さて,この 163 で割ったあまりの法則に,もっちょさんの手法をいかにして適用するか。


春夏秋冬のようにわかりやすく,かつ,ラベリングと数字が順序良く対応付くように分類したいです。163 個の分類というのはなかなか多いですね。

「163」で検索していたら,ちょうどいいものを見つけました。


そう,みなさんご存知

ドカベン

です。

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アニメドカベンの全放送話数が 163 なのだそうです!これは都合がいいですね!!!
(ドカベン見たことないけど)


ドカベンの各話にはサブタイトルがついているので,これを「163 で割ったあまり」に割り当てることにしましょう。ドカベンの話数による素数の分類を 「ドカベン素数」 と呼ぶことにしたいと思います。


もっちょさんの春夏秋冬の方法では,あまりが  0 のものから始まっていますが,ドカベン素数は放送話数に合わせてあまり  1 から始めます。

たとえば,放送第1話のサブタイトルは「ドカベン太郎です!よろしく」なので, 163 で割ったあまりが  1 である素数を「ドカベン太郎です!よろしく素数」と呼ぶことにします。以下同様です。

 163 で割って  0 あまる素数(すなわち, p\equiv 163 \pmod{163})は第163話のサブタイトルから「最終回!ドカベン今日敗れる素数」とします。


このようにドカベン素数を定義すると,先に挙げた定理は次のように言い換えることができます。

定理(言い換え)
 p が以下の素数のとき, p= X^2 + XY + 41Y^2 とかける。

ドカベン太郎です!よろしく素数(第1話)
逃げろ逃げろ逃げまくれ!素数(第4話)
帰る家がなくなったぁ!素数(第6話)
山田!柔道部をやめろ素数(第9話)
男の涙は熱いのです!素数(第10話)
岩鬼キャプテン猛ダッシュ!素数(第14話)
おーよ!ピッチャーで四番ズラか?素数(第15話)
勇次君立て!ラストボールだ素数(第16話)
殿馬!花のワルツでかっとばせ素数(第21話)
同点か!ゲームセットか?!素数(第22話)
鷹丘野球部よ!いつまでも素数(第24話)
小さな巨人!里中くん素数(第25話)
山田!高校野球へ来い素数(第26話)
恐打雲竜!ドラゴンキルたい素数(第33話)
秘密投手?緒方くん素数(第34話)
甲子園かけたプレイボール!素数(第35話)
小さな巨人対大きな巨人素数(第36話)
思いはあこがれの甲子園へ素数(第38話)
大阪通天閣の阪田三吉や素数(第39話)
ああ友情に涙あり素数(第40話)
明訓ナイン甲子園へレッツゴー素数(第41話)
打った!始球式ホームラン素数(第43話)
準決勝!里中対土佐丸作戦素数(第46話)
危ない里中!足からすべれ素数(第47話)
延長10回!なるか明訓逆転劇素数(第49話)
決勝戦!幻のホームラン素数(第51話)
ああ栄光に涙あり素数(第53話)
大優勝花のパレードを追っかけろ素数(第54話)
男岩鬼の大放送素数(第55話)
明訓狂騒曲背番号5素数(第56話)
殿馬作曲秘打『白鳥の湖』素数(第57話)
微笑野球!三太郎登場素数(第58話)
ピンチ明訓!ピッチャー殿馬素数(第60話)
出た!DHアベックホーマー素数(第61話)
奇蹟!不知火驚異のカムバック素数(第62話)
激投不知火 ひるむな明訓素数(第64話)
山田準決勝への大アーチ素数(第65話)
前略!?土門の捕手はボクです素数(第69話)
遠いこの一点!本塁死守だ!素数(第71話)
走れ山田!ホームはそこだ!素数(第74話)
消えた?深紅の大優勝旗素数(第77話)
きのうの友はきょうの敵素数(第81話)
賀門さんが犯人!?脅迫電話素数(第83話)
センバツへ!関東大会開幕素数(第84話)
敵はスタンドにあり!?素数(第85話)
ゆらぐマウンド!くずれる里中素数(第87話)
暴投岩鬼のストライク!?素数(第88話)
『僕はだれだ』さまよう太郎素数(第90話)
危うし明訓!山田はいない素数(第91話)
太郎!空白の同点スリーラン素数(第93話)
殿馬!G線上のアリアずら素数(第95話)
逆転!フォアマン黒い閃光素数(第96話)
岩鬼代走!再演バックドロップ素数(第97話)
スイッチ投手!わび助登場素数(第100話)
センバツへ!それぞれの青春素数(第104話)
山田対「中」!二本足のカカシ素数(第111話)
起死回生!秘打回転木馬ズラ素数(第113話)
敬遠策!太郎怒りの一撃素数(第115話)
明訓・土佐丸!再度の決戦素数(第118話)
里中襲う!土佐丸野球素数(第119話)
山田!さとるボールを投げさせろ素数(第121話)
死神ボール!山田を襲う激痛素数(第126話)
男岩鬼!我が青春に悔いなし素数(第131話)
任侠野球道!南海権左なんよ素数(第132話)
見たか渚!ミットの謎素数(第133話)
明訓!傷だらけの春季大会素数(第134話)
予選開幕!打倒明訓の合言葉素数(第135話)
走れ里中!栄光のマウンドへ素数(第136話)
ネット裏!立ち上った小さな巨人素数(第140話)
不知火登板!殿馬復帰ずら素数(第143話)
山田封じ?ハエ・ボール!素数(第144話)
判定は?!灼熱のアクシデント素数(第145話)
翔んでる!秘打ハイジャック素数(第146話)
金縛り!?不動のスラッガー!素数(第150話)
谷津決勝ホーマー!ピンチ里中素数(第151話)
常勝明訓ついに破る!素数(第152話)
冥土の使者!武蔵坊素数(第155話)
消えた!明訓高校ナイン素数(第156話)
怪足B・T(ブルー・トレイン)学園!謎の鈍行プレイ素数(第158話)
弁慶起つ!予告投球の謎素数(第160話)
明訓!甲子園三連覇へ赤ランプ素数(第161話)

全81話が今回の法則に該当します。該当する素数を見るたびに,数々の名シーンを思い出すことでしょう。


最初の例に挙げた  p = 653

 653 \equiv 1 \pmod{163}

ですから,

ドカベン太郎です!よろしく素数

ですね。

なんというか,パワーワード感 がすごい。もう二度と忘れないような。


個人的に好きなドカベン素数をご紹介します。

 661 \equiv 9 \pmod {163}

山田!柔道部をやめろ素数(第9話)

ですから, p= X^2 + XY + 41Y^2 とかけます。実際

 661 = 1^2 + 1\cdot 4 + 41\cdot 4^2

が成り立ちます。


また, 647 \equiv 158 \pmod {163}

怪足B・T(ブルー・トレイン)学園!謎の鈍行プレイ素数(第158話)

ですから, p= X^2 + XY + 41Y^2 とかけますね。たしかに

 647 = 21^2 + 21\cdot 2 + 41\cdot 2^2

が成り立っています。


さらに, 457 \equiv 131 \pmod {163}

男岩鬼!我が青春に悔いなし素数(第131話)

なので, p= X^2 + XY + 41Y^2 とかけますね。もちろん

 457 = 8^2 + 8\cdot 3 + 41\cdot 3^2

となって,法則通りです。


この流れも好きです。

『僕はだれだ』さまよう太郎素数(第90話)
危うし明訓!山田はいない素数(第91話)
太郎!空白の同点スリーラン素数(第93話)

主人公の山田太郎が記憶喪失になってしまって試合に出られない!ピンチ!
しかし,93 話で記憶を取り戻し,起死回生の同点スリーラン!

という流れが見て取れますね。ドカベン見てないけど。

殿馬!G線上のアリアずら素数(第95話)
岩鬼代走!再演バックドロップ素数(第97話)

もなかなか味があって好きです。ドカベン見てないけど。


全163話のリストを見ていて気付いたのですが,主人公の山田太郎って,最初は野球部じゃないんですね。

実際,9 話で明らかに柔道やってますもん。

いったい何のアニメなんだ・・・。

おわりに

ドカベン素数,覚えていただけましたでしょうか。これで,163 で割ったあまりの法則はバッチリですね。


今回「163 で割ったあまり」に着目したわけですが,これには数学的な理由があります。背景の解説の際に,

 163 は類数が1となる最後の砦なのですね。

と書きましたが,163 という数は

「虚二次体の類数が 1 である最大の数」

という性質で特徴付けられます。解説の際にも,類数が 1 であることが効いていましたが,実際,今回紹介した面白い法則が「平方剰余を使って簡単にかけてしまう」のは,この 163 が最後なんですね。


だからこそ mod 163 の法則は覚えてもらいたい。


とはいえ今回紹介したドカベン素数を覚えられる方は,よっぽどドカベンが好きな方だけですよね。

「ドカベンの 163 話なんて覚えらんねえよ」というのが普通の反応かと思います。


そういう方も「163 という数は面白い数だ」ということはぜひ覚えて帰っていただきたいと思います。

みなさんに

「ドカベンという単語を聞いたら 163 を思い出す呪い」

をかけて,今日の記事を締めたいと思います。


それでは,今日はこの辺で。

参考リンク

ドカベンの放映リストはこちらから取得しました。まとめてくださった方に感謝。

http://www.kojiro-web.com/database/anime/anime-list.html

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虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-163}) の性質を使った面白い法則を紹介する記事です。
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