tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

続々々・12 = 3×4, 56 = 7×8

12 = 3×4, 56 = 7×8シリーズの第4弾。まさか続くと思っていませんでした。

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シリーズの記事は「12 = 3×4, 56 = 7×8」というタグでまとめていますので、よろしければご覧になってください。
tsujimotter.hatenablog.com

今日のテーマ

前回までの記事を公開したところ、二世さん(@m_2sei)から

「みうらさんの方法で4-4のパターンできましたよ」
という連絡が。*1

まさか、この先の問題が解けるとは思っていなかったので驚きです。許可をいただいてその解法を紹介したいと思います。


というわけで、今回の問題はこちらです。

正の整数  n, a n > a + 7 と、次の式を満たすとする:

 an^3 + (a+1)n^2 + (a+2)n + (a+3) = (a+4) (a+5) (a+6) (a+7) \tag{1}

このとき、 n, a の組を求めよ。


次数がだいぶ増えてきたので、いかにも難しそうですが、やってみましょう。







解法

基本的には、みうらさんによる3-3のパターン(左辺が3桁、右辺が3つ積のパターン)の解法の通りに進めていきます。
tsujimotter.hatenablog.com


まず  n > a+7 なので、正の整数  k を用いて  n = a + k と表すと  k > 7 となることがわかります。

その  k を用いて、式  (1) n = a + k を代入します。

 \begin{align} &a(a+k)^3 + (a+1)(a+k)^2 + (a+2)(a+k) + (a+3) \\ &= (a+4) (a+5) (a+6) (a+7) \end{align} \tag{2}

これで、変数は  a, k だけになりました。


さらに式  (2) の(左辺) -(右辺)を、関数  F_k(a) で表すことにします。

 \begin{align} F_k(a) := & a(a+k)^3 + (a+1)(a+k)^2 + (a+2)(a+k) + (a+3) \\ 
&- (a+4) (a+5) (a+6) (a+7) \end{align} \tag{3}

 F_k(a) = 0 となるような  a, k が元の問題の解を与えるというわけです。



ここで  k \geq 11 のとき、 F_k(a) は実際には正の値をとってしまう、という補題を示したいと思います。すなわち、この条件では解がないということです。

補題
 a, k を正の整数とする。 k \geq 11 のとき、 F_k(a) > 0 が成り立つ。

 \begin{align} F_k(a) &= a(a+k)^3 + (a+1)(a+k)^2 + (a+2)(a+k) + (a+3) - (a+4) (a+5) (a+6) (a+7) \\
&= (3k - 21)a^3 + (3k^2 + 2k - 177)a^2 + (k^3 + k^2 + 3k - 635)a + (k^2 + 2k - 837) \end{align}

ここで、 F_k(a) a についての 3次関数 になっていることに注意します(4次の項が消えた!)。

 k \geq 11 のとき、 F_k(a) の3次、2次、1次の項の係数はそれぞれ

 3k - 21 > 0
 3k^2 + 2k - 177 > 0
 k^3 + k^2 + 3k - 635 > 0

となることがわかります。したがって、 F_k(a) a > 0 のとき 単調増加 します。

ここで  k \geq 11 のとき、 a = 1 を計算すると

 \begin{align} F_k(1) &= (3k - 21) + (3k^2 + 2k - 177) + (k^3 + k^2 + 3k - 635) + (k^2 + 2k - 837) \\
&= k^3 + 5k^2 + 10k - 1670 \\
& \geq 1331 + 5\cdot 121 + 10\cdot 11 - 1670 \\
& = 376 \\
& > 0 \end{align}

となります。

したがって、 F_k(a) > 0 が言えました。(補題の証明終わり)





以上により、 k として考えるべき範囲は  7 < k < 11 のとき、すなわち

 k = 8, 9, 10

3通り を調べればよいでしょう。

 k = 8 のとき

 k=8 を代入すると

 F_8(a) = 3a^3 + 31a^2 - 35a - 757

となります。 a で微分すると

 F_8'(a) = 9a^2 + 62a - 35

であり、 F_8'(a) = 0 より

 \displaystyle a = \frac{-31\pm 2\sqrt{11\cdot 29}}{9}

 F_8(a) のグラフの極値となります。よって、 F_8(a)

 \displaystyle a > 5/9 > \frac{-31 + 2\sqrt{11\cdot 29}}{9}

の範囲で単調増加します。

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 F_8(0) < 0 より、 a > 5/9 の範囲で  F_8(a) の符号は正に転じるわけですが、実際

 F_8(4) = -209 < 0
 F_8(5) = 218 > 0

より、整数解を持ちません。

 k = 9 のとき

 k=9 を代入すると

 F_9(a) = 6a^3 + 84a^2 + 202a - 738

となります。 a の係数が正のため、 F_9(a) は単調増加します。

ここで

 F_9(1) = -446 < 0
 F_9(2) = 50 > 0

より、整数解を持ちません。


 k = 10 のとき

 k=10 を代入すると

 F_{10}(a) = 9a^3 + 143a^2 + 495a - 717

となります。 a の係数が正のため、 F_{10}(a) は単調増加します。

ここで

 F_{10}(1) = -70 < 0
 F_{10}(2) =917 > 0

より、整数解を持ちません。



以上から、すべての  k > 7 なる  k に対して、条件を満たす整数  a > 0 は存在しないことがわかります。

よって、式  (1) には条件を満たす整数解がないことが示されました。(終わり)

おわりに

無事に4-4の問題を解くことができました。

方法は基本的には3-3のときと同じでしたが、 F_k(a) = 0 の解が整数かどうかの判定については、3-3の方法と少し異なりました。今回使った方法であれば、 F_k(a) の次数は関係ないので、5-5以降の問題でもそのまま使えるかもしれません。


tsujimotterは正直なところ、4-4の問題が解けるものだとは思っていませんでした。だから、二世さんから「できた」と言われたときは心底驚きました。

私自身は2桁, 3桁の結果で満足してしまっていて、その先をやろうとは思いませんでした。これ以降の問題では4次方程式等の高次の多項式が出てくるのでできないだろうと、安直に考えてしまっていたわけです。ところが、実際にやってみたらできてしまったわけですね。

取り組んでもいないのに「できない」なんて簡単にいうもんじゃないと反省しました。私自身はこれまでも、自分で問題に取り組むことを面倒臭がり、安易に答えを求めたがる傾向がありました。今回の問題を通して、実際に取り組むということの重要性を実感しました。そういう経緯もあって、この問題はぜひ紹介したいなと思ったわけです。


これまで解決できた問題を整理すると、次の図のようになります。

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対角成分の問題は 2-2, 3-3, 4-4 まで解決することができましたが、この先も同様の方法で解決できるかもしれません。

気になるのは、3, 4行目の右側の部分ですね。これについてはまた異なる手法が必要になるのでしょうか。


また何か進んだら書きたいと思います。

それでは、今日はこの辺で。

*1:こちらが実際に送ってもらった解答です。

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