ガウス和について勉強していくうちに、前回紹介した「平方剰余の相互法則の証明」の記事の内容に関して、誤解があることを発見しました。今回の記事は、その誤解についての 訂正記事 です。
私が誤解に気づいたきっかけは、以下のPDF記事でした。
アンドレ・ヴェイユ「円分 – 昔とこの頃」
http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~otsubo/article/cyclotomie.pdf(URLが変わりました↓)
cyclotomie.pdf - Google ドライブ
この記事において、次のような記述があり、その周辺を読んで何かおかしいと思ったのです。
6. 1818 年に Gauss は平方剰余の相互法則の第 6 の証明を出版した ([2 c]) — それもまた位数 2 の Gauss 和に基づいたものであるが, 厳密に代数数論的な観点から考察されている. ・・・(中略)・・・結局 Eisenstein が, 表現の差を除けばどれも Gauss の第 6 の証明とかわらないということを見てとった.
あれ?第Ⅵ証明って書いてありますよね。ガウス和の証明は第Ⅳ証明じゃなかったの??
結論から言ってしまうと、私が紹介したのは第Ⅳ証明ではなく第Ⅵ証明だった のです。
本記事の前半では、私の勘違いした部分について、順を追って説明したいと思います。後半では、本当の第Ⅳ証明についても紹介したいと思います。
前回の記事の修正
前回紹介したのは「ガウス和を使った証明」でしたが、本当の第Ⅳ証明も「ガウス和を使った証明」である点は同じです。
前回の記事では、第Ⅳ証明は「符号決定なしの証明」「符号決定ありの証明」の二種類あると説明し、その上で「符号決定なしの証明」だけを紹介しました。実は、「符号決定なしの証明」の方は第Ⅳ証明ではなかったのです。
そもそも、ガウスは第Ⅳ証明が発表された当時、「符号決定なしの証明」を公表していません。特に、符号決定なしの証明では、 における合同式を考える必要がありました。これは、代数的整数論を背景とした議論ですが、ガウスの当時は代数的整数論における道具は整備されていませんでした。ヴェイユの記事にもあるように、ガウスは における議論を「あからさまに拒んだ」とのことです。
こうした背景もあり「符号決定なしの証明」のアイデアを持ちつつも、「符号決定ありの証明」の方を公表したのだということです。というわけで、「符号決定ありの証明」の方が 本当の第Ⅳ証明 です。こちらの証明は、後半で紹介するように代数的整数論における議論は必要としません。ただ、符号決定の問題に4年の歳月を費やしたため、証明の公表自体は遅れてしまったようです。
第Ⅳ証明の公表後、ガウスは「符号決定なしの証明」の方も、十分当時の道具を使って正しく議論できるようにした上で公表しています。このようにして得られた平方剰余の相互法則の証明が 第Ⅵ証明 だということです。
ガウスの実際の議論について、より詳しく説明します。ガウスは、 上の議論を明示的には行わず、すべて の多項式として議論していました。その点について説明します。
ガウス和の定義を思い出すと
でした。ここで は1の原始 乗根、すなわち多項式
の根です。
上記のガウス和 を考える代わりに、ガウスは
を考えました。 に を代入すれば、 に一致します。
を代入するということは、言い方をかえると、 を「 で割ったあまりを考えること」と同じです。環論的にいうと環の同型
を考えることに相当します。
これならば、純粋に 係数多項式の問題として議論することができますね。
実際どのように議論するかについては、参考文献「平方剰余の相互法則 ガウスの全証明」の第Ⅵ章をご覧ください。
改めてまとめると、平方剰余の相互法則に関する「ガウス和の符号決定なしの証明」は、ガウスの第Ⅳ証明ではなかったということですね。正しくはガウスの第Ⅵ証明と呼ぶべきもので、より正確に言うと、第Ⅵ証明は「ガウス和の符号決定なしの証明」を の言葉に書き換えたものだったというわけです。
本当の第Ⅳ証明
今回の記事では、もう一つ「本当の第Ⅳ証明」についても紹介したいと思います。
第Ⅳ証明は「ガウス和の符号決定問題」の系として導かれるものですが、実際にどのように導かれるのかをかいつまんで紹介したいと思います。
ガウスは、ガウス和の「素数 」を「正の整数 」に一般化し、その上で符号決定問題を解決しました。一般化したガウス和 を次のように定義します:
とすると、前回定義した
に一致するのですが、ただちには分からないかと思います。 として確認してみましょう。
となりますが、 なので
となります。 の指数部分には
- が1回
- (これは法 5 の平方剰余ですね ) の 倍 が2回ずつ
それぞれ登場しています。
ここで、 に を代入すると得られる公式
を用いると
となり「平方非剰余の和の 倍(左辺)」は「0と平方剰余の和(右辺)」に一致します。
よって、
となり、式 が得られるというわけです。
次のページによると、一般化されたガウス和 は「有限版のテータ関数」だと思うことができるそうで、なかなか面白そうな対象ですね。
さて、このように一般化した上で、ガウスが得た定理は次のものです。
ここで、 とすれば、1番目と2番目の式が「素数 における符号決定問題(前々回の記事の定理1)」そのものになっていることが確認できるかと思います。
後の証明のために、1番目と2番目の式を合わせて次のように書き換えておきます:
この定理と、次の補題を用意して平方剰余の相互法則を証明します。
なお実際、上の符号決定問題を証明するのにも、上の補題は用いられます。補題と符号決定問題の証明については、今回は扱いません。(興味がある方は参考文献をご覧ください。)
準備ができましたので、相互法則の証明にいきましょう。
(以下、平方剰余の相互法則の証明)
補題の式 に を代入すると
となります。
前回の記事の補題を使うと は
となり、符号決定問題の式 に対して、 をそれぞれ代入すると
が得られます。
また、符号決定問題の式 に対して、 を代入すると
が得られます。
よって、式 に の計算結果をそれぞれ代入すると
が得られます。 の係数を比較すると
すなわち
が得られます。
ここで、右辺の の指数の部分を とおくと
なので
となります。 の指数は で考えれば良いから
より
です。したがって
が得られました。
一方
なので
が得られました。これは平方剰余の相互法則そのものです。
おわりに
今回の記事では、前回紹介した「ガウス和の符号決定なしの証明」は、実は第Ⅳ証明ではなかったということについて説明しました。本当は、第Ⅵ証明だったのですね。
「本物の第Ⅳ証明」は、第Ⅵ証明と同じガウス和を用いてはいるものの、実はまったく別の手法(ガウス和の符号決定問題を使った方法)だったというわけです。
本記事の後半では、本物の第Ⅳ証明の流れも紹介しました。証明の流れを実際考えてみるとわかりますが、この方法は符号が決まらないと全く役に立ちませんね。符号さえ決定されれば、あっという間に証明が終わってしまうので、符号決定がいかに強い命題かということがよくわかります。
今回の勉強を通して、第Ⅳ証明についての理解が深まりました。 として を対称的に扱ったまま議論証明していくので、非常に綺麗な証明でした。
個人的な話になりますが、私は近々35歳(半素数)の誕生日を迎えます。このタイミングで、半素数 が役に立つ証明に出会えて嬉しいです。第Ⅳ証明が好きになったかもしれません。
それでは今日はこの辺で。
参考文献
- 作者:倉田 令二朗
- 発売日: 1992/10/01
- メディア: 単行本