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tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

1728とラマヌジャンと線形代数

 1728 といえば、ラマヌジャンの「タクシー数」のエピソードを思い出します。

 1729 = 1^3 + 12^3 = 9^3 + 10^3

 1729 という数に、ラマヌジャンが一瞬で「2通りの3乗数和の形で表せる最小の数」という意味を見出した、という話はよく知られていますね。


この式を導くポイントは、 1728 という数が  12^3 であることです。 10^3 = 1000 9^3 = 729 はなんとなく覚えている人が多いでしょうから、比較的自然に導くことができます。


さて今日は、この  1728 という数とラマヌジャンの「もう一つのつながり」を見せるエピソードをご紹介します。


アイゼンシュタイン級数

唐突ですが、私は  1008 という数も好きです。さっき行った薬局の会計が 1008 円だったのですが、それで思い出しました。


さて、この  1008 という数は、 1728 の構成要素になっているのです。それを理解する鍵は「アイゼンシュタイン級数」です。ちょっとアイゼンシュタイン級数のことをお話をしましょう。


アイゼンシュタイン級数とは、以下の式で表せる級数です。

 \displaystyle \sum_{m} \sum_{n} \frac{1}{(mz+n)^k}

 m, n (m, n) = (0, 0) を除くすべての整数の組みを渡ります。 k は偶数のパラメータで、 k \geq 4 のときに収束することが知られています。

この式の特徴は、何と言っても「保型形式」であることです。

保型形式とは、ざっくりいうと
 \begin{align} f(z + 1) &= f(z) \tag{1} \\
 f(-1/z) &= z^k f(z) \tag{2} \end{align}

という等式を満たし、 z\to i\infty で正則であるような複素関数です(正確に言うと  SL(2, \mathbb{Z}) の保型形式といいます)。

でも細かいことはいいんです。


アイゼンシュタイン級数が上記の式を満たすことは、比較的容易に確認できます。

 (2) k のことを「重さ」と呼んで、保型形式にとってとてもとても重要なパラメータです。パラメータ  k を持つアイゼンシュタイン級数は、ちょうど重さ  k の保型形式となっています。


アイゼンシュタイン級数は、保型形式の代表選手です。
もはや、こいつそのものが保型形式といっても良いくらいの代表選手です。その心はあとでわかります。


保型形式の一般論を2つご紹介しましょう、

1つめは「重さの法則」です。

「重さの法則」
重さ  k の保型形式を2つ持ってきて、足したり引いたりしてもその重さは変わりません。さらに、定数倍しても重さは変わりません。また、2つの保型形式を掛け算すると、結果の保型形式の重さはそれぞれの重さの和に一致します。
訂正 2017/01/25:「結果の保型形式の重さはそれぞれの重さの積に一致します」と記載していたところを
「結果の保型形式の重さはそれぞれの重さの和に一致します」と訂正しました。

これらの「重さの法則」は簡単に証明できますし、この法則を知っているだけでもいろいろ遊べます。あとでこれがキーになります。


一般の保型形式の持つ2つめの特徴は  q 展開」 をもつということです。 q 展開とは、その名の通り  q という文字を使った展開式です。 q = e^{2\pi i z} とおくと、保型形式は以下のように書くことができます。

 f(z) = a_0 + a_1 q + a_2 q^2 + a_3 q^3 + a_4 q^4 + \cdots

それぞれの係数を「フーリエ係数」と言って、保型形式の DNA みたいなものです。こうやって表してあげると、保型形式の情報がよくわかるのですね。計算もしやすい。

 a_0 になるもの、つまり  q^0 の係数が  0 になるものを 「カスプ形式」 と呼びます。いきなり  q^1 から始まるような保型形式のことです。


保型形式の一般論は、これでおしまい。


さて、ここでアイゼンシュタイン級数の  q 展開を求めてみましょう。結論から言うと、以下のようになります。

 \displaystyle 2\zeta(k) - \frac{4k\zeta(k)}{B_k}\sigma_{k-1}(1)q - \frac{4k\zeta(k)}{B_k}\sigma_{k-1}(2)q^2  - \frac{4k\zeta(k)}{B_k}\sigma_{k-1}(3)q^3  - \cdots

 \zeta(k) はリーマン・ゼータ関数、 B_k はベルヌーイ数、  \sigma_{k-1} は約数の  k-1 乗和関数です。なんでゼータが出てくるんだとか、いろいろ突っ込みどころはありますが、なかなか面白い形をしています。


ただ、このままではちょっと計算しづらそうですね。実は、全体を  2\zeta(k) で割ってあげるとずいぶんきれいになります。

 \displaystyle E_k(z) = 1 - \frac{2k}{B_k}\sigma_{k-1}(1)q - \frac{2k}{B_k}\sigma_{k-1}(2)q^2  - \frac{2k}{B_k}\sigma_{k-1}(3)q^3  - \cdots

これを正規化されたアイゼンシュタイン級数と呼んで、 E_{k}(z) と表しましょう。


具体例をあげると、

 E_4(z) = 1 + 240q + \cdots
 E_6(z) = 1 - 504q + \cdots

のようになります。


まず  q^0 の係数が  1 になっていますね。このほかにも、すべての係数がうまいこと有理数になっていることがわかります。

1008 とラマヌジャンデルタ

このように準備しておくと、ようやく冒頭の  1008 の話に戻ることができます。

 E_6 を2乗すると、重さの法則により重さ  12 の保型形式になるのですが、この  q^1 の係数が  -1008 になるのです。

 E_6(z) = 1 - 504q + \cdots

を2乗すると

 E_6^2(z) = (1 - 504q + \cdots)^2 = 1 - 1008q + \cdots

ですね。無限和ですが、かまわず小さい方の次数から展開すればいいのです。 q^0 の係数を  1 にしたことでずいぶん計算しやすくなりました。


さらに、 E_4^3 を計算しましょう。これも重さ  12 の保型形式です。

 E_4(z) = 1 + 240q + \cdots

より、

 E_4^3(z) = (1 + 240q + \cdots)^3 = 1 + 720q + \cdots

となります。


ここで、 E_4^3 から  E_6^2 を引きましょう。すると  q^0 の項が消えるはずです。やってみると

 \begin{align} E_4^3(z) - E_6^2(z) &=  (1 + 720q + \cdots) - (1 - 1008q + \cdots) \\
 & = 1728q + \cdots \end{align}

となりますね。これまた重さの法則より、この式も重さ  12 の保型形式です。 q^0 が消えているので、これは カスプ形式 ですね。

注目してもらいたいことは  q^1 の係数です。 1728 が現れていますね!お久しぶり!


これまた、 1728 で割っておくと  q^1 の係数がきれいになりますから、

 \displaystyle \Delta(z) = \frac{E_4^3 - E_6^2}{1728}\tag{3}

という式を定義したくなります。これが ラマヌジャンのデルタ です。ラマヌジャンが愛した数式の一つです。


有名な式ですし、いろんなところで出てくるので、好きな人も多いかもしれませんね。私もラマヌジャンのデルタが好きです。私のブログでは、たとえばこんなところで活躍しています。
tsujimotter.hatenablog.com


ラマヌジャンのデルタは式  (3) で定義されるわけですが、唐突に  1728 で割られるもんだから、初見ではなんのこっちゃわかりませんよね。でも、カスプ形式にするために  q^0 を消すために差し引きをし、かつ  q^1 の係数を整えるために  1728 で割ったのだといえば話は別です。そして、

 1728 = 720 - (-1008)

という式もわかりました。まさに  1008 1728 の構成要素だったわけです。

 1008 が好きな気持ちがわかっていただけました?

線形代数

ところで、 q^0 の係数を消して「カスプ形式」にしてどうすんの、って思いませんでした?

保型形式の「線形代数」を考えると、カスプ形式の重要性がよくわかります。


重さ  k の保型形式は、ベクトル空間をなします。足して引いて定数倍しても元の空間に戻ってくるからです。

また、重さ  k のカスプ形式は、上の空間の部分空間をなす、これまたベクトル空間です。面白いですね。


さて、この空間がどうなっているんだというのがポイントです。実は、カスプ形式の空間は  k=12 まで存在しないのです。 f(z) = 0 だけ。

たとえば、重さ  k < 12 アイゼンシュタイン級数をいかに足したり引いたりしても、 f(z) = 0 以外のカスプ形式は作れません。

なぜか?

それは、(非常に面白いことに)重さ  k <12 の( SL(2,\mathbb{Z}) の)保型形式の空間が  E_k の定数倍になってしまうからなんです。つまり、 q^0 の係数が等しい保型形式は、すべて一致してしまうんですね。だから、カスプ形式は作れない。


これが初めて崩れるのが、 k = 12 のときです。実際、

 E_4^3 - E_6^2

として、アイゼンシュタイン級数の定数倍ではない、線形独立な保型形式を作ることができました。

 12 = 6\times 2 = 4\times 3

という式が成り立つので、うまいこと重さが  12 の定数倍でない保型形式が構成できるんですね。


以上により、重さ  12 のカスプ形式の空間が、ラマヌジャンのデルタの定数倍の空間であることがわかります。また、重さ  12 の保型形式の空間は、 E_{12} \Delta を基底にもつベクトル空間です。


こうして、保型形式の世界から線形代数の世界へつながっていくのです。

面白いでしょう。

まとめ

ラマヌジャンのデルタに  1728 という数がでて、なんじゃこりゃと思ったのでした。

これはラマヌジャンのデルタが「初めてのカスプ形式」であり、係数を1に正規化したことによる名残であったわけです。なんというか  1728 という数は、しかたなくでてきちゃうんですね。かわいらしい。



それでは、今日はこの辺で。

追記

私の言いたかったことを、ものすごく簡潔に書いてくださっていたツイートを見つけたのでシェアします。

参考文献

楕円曲線と保型形式

楕円曲線と保型形式