今日は整数論の面白概念の一つである フェルマー商 を紹介したいと思います。
まず、フェルマーの小定理という、合同式を考える上で大変有用な定理から話を始めます。
が成り立つ。
つまり、この定理は と互いに素な について、 が必ず で割り切れると言っているわけですね。
の剰余も十分面白いのですが、今回はさらに話を進めて の合同式を考えてみたいと思います。
これは、整数 を 進展開すると自然に出てくる発想です。
を
と表せたとしましょう。フェルマーの小定理により
ということなので、式 において であることがわかったことになります。
次に、 を代入した上で、式 で すると
となります。 についての情報が分かれば、 についてのより多くの情報を獲得したことになりますね。
このあとも同様に として を計算していけば、最終的に について完全に理解できたことになるわけです。その取っ掛かりとして の情報が欲しいわけです。
とはいえ、 の合同式は と比べると圧倒的に難しいので、何かしら手がかりが得られれば良しと考えましょう。
式 を言いかえると
ということになります。フェルマーの小定理により は で割り切れますので、両辺 で割ると
となります。
要するに式 の左辺の についての情報が知りたいというわけですね。この左辺のことを フェルマー商 と言います。
フェルマー商についての合同式を紹介したいというのが今日のテーマなのですが、結論に行く前にちょっと実験してみましょうか。
のときを考えてみましょう。太字の数がフェルマー商( )です。
この数に何か法則は見いだせるでしょうか。少なくとも、 のフェルマーの小定理のように、同じ数が出続けるというような法則はなさそうですね。
他の でも考えてみたいのですが、後の法則に関連して に固定して考えたいと思います。
少し本題とは外れますが、今回の話が テイラー展開 と 微分係数 の関係に似ていると思った方もいるかもしれません。
実際、関数 のテイラー展開を
のように表すと、 として が得られます。これは を取ったことになります。
また、 とると
となり、1次の係数 が出てくるわけですね。
というわけで、フェルマー商は微分係数にちょうど対応するような概念になっています。
アイゼンシュタインの発見した合同式
それでは、本題の合同式を紹介します。アイゼンシュタインが発見したフェルマー商の の合同式です。
ちょっと複雑に見えるかもしれませんが、右辺の和は
という形の和に を掛けたものになっています。
ここで
という形の和を調和数といいます。調和数を使うと、式 は
のように簡潔に表せますね。
式 の表し方でいうと
と見ることもできます。 の1次の係数が調和数によって表せるわけですね。
証明に行く前に、軽く実験してみましょう。 のときを考えます。 なので、 項の和を考えれば良いですね。
したがって
が得られます。最後の1つ前の合同式では であることを使いました。
そんなわけで、アイゼンシュタインの定理によって、 のフェルマー商が
と求まったわけですが、たしかにこれは左辺を素朴に計算した結果と一致していますね!面白いです!
証明
証明の方針としては、 を二項展開によって表すことです。二項展開
に対して、 を代入すると
が得られます。これを使うわけですね。
また、二項係数を考える上で、補助的に
- (ただし、)
- (ただし、)
という2つの合同式を使うことになります。これらを先に証明しておきましょう。
(1. の証明)
二項係数の定義より
と表せる。ここで、 であれば かつ より分母の素因子に は含まれない。
したがって、分子の は約分されないので、 は で割り切れる。
(2. の証明)
数学的帰納法により証明する。
のとき、 より成立。
(ただし )で成立すると仮定すると
より、 で成立。したがって、 において成立。
これで準備はできましたので、本題の定理を証明したいと思います。
ここで中間的な結果として、次が得られましたのでまとめておきましょう:
さらに計算を進めます。
したがって
が得られました。
おわりに
今回は、フェルマーの小定理から議論を進めて について考えるために、フェルマー商 を導入しました。
特に については、フェルマー商は
のように表せるということを示しました。
今回は の場合だけを考えましたが、軽く調べた感じだとそれ以外の についてもたくさん研究されているそうです。
en.wikipedia.org
冒頭で「 の法則を見つけたら に持ち上げたくなる」という話をしました。フェルマーの小定理の他にも、たとえばウィルソンの定理 からウィルソン商
なるものを考えることもあるそうです。
こういう の整数論って、一般的にまとまっていたりするんでしょうかね?
(ご存知の方がいましたら教えてください。)
最後に
であるような をヴィーフェリッヒ素数といいます。
言い換えると、 のフェルマー商
が で に合同ということですね。
このような素数 はとってもレアな存在で、現在までに の2つしか見つかっていません。
先ほどの定理でいうと
ということです。本当でしょうか?
実際
とのことですが、分子は で割り切れます!(確かに成り立っている!!)
また
となりますが、やはり分子は で割り切れます!
ところで、最初の の実験結果で
となっていたのが気になった方もいるかもしれません。
これは が成り立つ の組ということになりますが、このような を基数 の一般化ヴィーフェリッヒ素数というそうです。 は基数 の一般化ヴィーフェリッヒ素数ということですね。
そんな感じで色々と広がりがありそうなテーマですが、興味を持っていただけたら幸いです。
それでは今日はこの辺で!
参考文献
アイゼンシュタインの定理の証明については、こちらの回答を参考にさせていただきました。
math.stackexchange.com