tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

岩澤主予想

tsujimotterのノートブックでは,これまで2回にわたって,岩澤理論の3本柱のうちの2つ「岩澤類数公式」「p進L関数」を紹介してきました。

今日は,3本柱の最後1つである

「岩澤主予想」

について紹介したいと思います。

参考記事(こちらの記事の知識を前提とします)
tsujimotter.hatenablog.com
tsujimotter.hatenablog.com

岩澤主予想は「予想」と呼ばれていますが,既に証明された定理です。したがって,本来は「定理」と呼ぶべきものですが,一般には「岩澤主予想」という呼び名で定着されていますので,本記事でもその呼び方でいきたいと思います。英語だと "Iwasawa Main Conjecture" で,"IMC" と略されることもあります。

岩澤主予想は現在ではかなり一般化されていますが,本記事ではこれまでの記事と同様「イデアル類群の岩澤理論」の範疇に留めたいと思います。また,この記事では「円分  \newcommand{\zp}{\mathbb{Z}_p} \zp 拡大」における岩澤主予想に限定したお話となります。それでも結構難しいのですが,頑張ってついてきてもらえると嬉しいです。


今日の記事は以下の流れで進めます。

かなりの長文(2万3千字)となっていますが,よろしければお付き合いください。

0. 諸注意

この記事を書いているtsujimotterも,実のところまだ理解していないことだらけです。それでも今の時点の理解を記録しておきたくて本記事を書いています。誤りがあった場合はごめんなさい。

また本記事では,参考文献に挙げた本の知識を前提としている箇所もあり,いくつかの記号の定義や定理の説明が省略されています。興味を持ってくださった方は,ぜひ巻末の参考文献も合わせてご参照ください。

また,この記事を通して奇素数  p \geqq 3 を固定します,という定番の注意をしておきます。

円分  \zp 拡大の岩澤主予想を「円分岩澤主予想」と呼びます。省略して単に「岩澤主予想」と言ってしまうこともありますが、本記事内では基本的には円分岩澤主予想のことを指しているものと思ってください。

1. 岩澤主予想のこころ

定理の主張を述べる前に,一体どんな定理なのかをざっくりと説明するところから始めます。

参考資料として以下のスライドを紹介します。パラパラとでかまいませんので,まずはご一読ください.

スライドの説明を要約すると,だいたい以下のようになります:

「イデアル類群」と呼ばれる代数的に重要な対象があり,一方で「ゼータ関数」という解析的に定義された重要な対象があります。

これらの由来の異なる二つの対象が,実は「深く関係している」ことを主張するのが「岩澤主予想」です(スライド15枚目で説明しています)。

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「深く関係している」というのはどういう意味なのか。もう少し突っ込んだ話をしましょう。

一つ注意したいのは,イデアル類群もゼータ関数も,まったく由来の異なる対象だということです。したがって,直接的に二つの対象を等式で結ぶことできません。そこで,それぞれの形を少し変えて,元の性質を残しつつ相性のよい形にしてあげる必要があります。

岩澤理論の主要なアイデアは, \zp 拡大」 という無限に続く体のタワーを考えることでした。

 K = K_0 \subset K_1 \subset K_2 \subset K_3 \subset \cdots \subset K_n \subset \cdots

 \zp 拡大のそれぞれの階層  K_0, K_1, K_2, K_3, \cdots に対して「イデアル類群(の  p-部分)」  A_0, A_1, A_2, A_3, \cdots をとっていき, A_n の逆極限をとって  \newcommand{\cyc}{\mathrm{cyc}} \newcommand{\kinf}{K_\infty^{\cyc}} X_{\kinf} という加群を考えます。これが有限生成ねじれ  \Lambda_{\cyc} 加群という都合の良い加群となっており, X_{\kinf} がイデアル類群の代わりになる対象です。 X_{\kinf} を調べることで,各階層のイデアル類群の位数  \#A_n が得られてしまう,というのが「岩澤類数公式」でした。
tsujimotter.hatenablog.com

一方で「ゼータ関数」の負の整点の値  \zeta(-1), \zeta(-3), \zeta(-5), \cdots は,「クンマーの合同式」という関係式を持つなど  p 進的な性質を有しています。この性質に着目して,ゼータ関数の値を  p 進的に補完していくと,p進L関数  L_p(\psi) という性質のよい関数が得られるのでした。 L_p(\psi) は岩澤代数  \Lambda_{\cyc} の元となります。
tsujimotter.hatenablog.com

イデアル類群の変わりに  \Lambda_\cyc 加群  X_{\kinf} を考え,ゼータ関数の代わりに  \Lambda_\cyc の元である  L_p(\psi) を考えるのです。こうすることで両者を同じ土俵に置くことができ,等式で結ぶことができるようになります。

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岩澤主予想のイメージ

厳密にいえば上図の式は成り立ちませんので,もう少しだけ修正する必要がありますが,岩澤主予想の主張はおよそ以上の通りです。この等式によって,イデアル類群の性質をゼータ関数(p進L関数)を通して理解できるようになるというわけです。

2. K = Q(μp) としたときの円分岩澤主予想

以下では,前節の話を具体的に定式化していきましょう。分かりやすさを優先するために,まずは本来の円分岩澤主予想より限定された設定に対して定式化します。より一般の設定については,本記事の後半で再度定式化します。

ここから先は「岩澤類数公式」「p進L関数」の記事を前提として,話のレベルも一気に上がりますので,気合を入れてついてきてください。

 K = \mathbb{Q}(\mu_p) という円分体の上の「円分  \zp 拡大  \kinf/K」を考えます。この拡大が円分岩澤主予想の舞台となります。

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岩澤類数公式の記事を思い出してみましょう。 \kinf の最大不分岐アーベル pro- p 拡大を  L_{\infty}^{\cyc} / \kinf とすると,そのガロア群

 \newcommand{\gal}{\mathrm{Gal}} X_{\kinf} = \gal(L_{\infty}^{\cyc}/\kinf) \tag{1}

は,有限生成ねじれ  \Lambda_{\cyc} = \zp[[ \Gamma_{\cyc} ]] 加群となります。この  X_{\kinf} がイデアル類群側の主役です。

 \Lambda_\cyc 加群  X_{\kinf} における構造,特に  \lambda, \mu, \nu のパラメータがわかれば,岩澤類数公式によって, n 番目の拡大体  K_n^\cyc のイデアル類群(の  p 部分)  A_{K_{n}^{\cyc}} の大きさがわかるのでした。

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こんなイメージで,一旦  \kinf/K \zp タワーを建ててから,上から  K_n^{\cyc} を覗くことができるのです。

したがって, \Lambda_{\cyc} 加群  X_{\kinf} のパラメータ  \lambda, \mu を特定したいというモチベーションが出てきます。 X_{\kinf} は有限生成ねじれ  \Lambda_{\cyc} 加群なので, \Lambda_\cyc 加群の構造定理より,

 X_{\kinf} \sim{} \Lambda_{\cyc}/(f_1^{n_1}) \oplus \Lambda_{\cyc}/(f_2^{n_2}) \oplus \cdots \oplus \Lambda_{\cyc}/(f_r^{n_r}) \tag{2}

という擬同型が存在します。

前回は  \Lambda_\cyc \simeq \zp[[ T]] という同型から, \zp[[ T]] 加群としての構造定理を考えましたが, \Lambda_\cyc 加群でもこのように構造定理を考えることができます。

特性イデアルは, X_{\kinf} が有限生成ねじれ  \Lambda_\cyc のときに定義できて,この右辺の基底となる多項式  f_i を掛け合わせて

 \newcommand{\char}{\mathrm{char}} \char_{\Lambda_{\cyc}} (X_{\kinf}) = (f_1^{n_1} f_2^{n_2} \cdots f_r^{n_r}) \tag{3}

として得られます。これは  \Lambda_{\cyc} の単項イデアルとなります。

 f_i の次数を掛け合わせて得られる不変量が  \lambda, \mu でした。特に,Ferrero-Washington の定理によって, K/\mathbb{Q} がアーベル体の場合は  \mu = 0 であることがわかっているので,特性イデアルが分かれば  \lambda が特定できてしまいます。


実をいうと岩澤主予想は,  X_{\kinf} についてのもう少しだけ精密な情報を教えてくれます。類数公式では, \zp 拡大のガロア群   \Gamma_{\cyc} = \gal(\kinf/K) の作用だけを考えていました。 K \mathbb{Q} 上のアーベル拡大体なので, \mathbb{Q} 上の拡大として考えることができます。ガロア群は

 \begin{align} \gal(\kinf/\mathbb{Q}) &= \gal(\kinf/K) \times \gal(K/\mathbb{Q}) \\ &= \Gamma_{\cyc} \times \Delta \end{align} \tag{4}

となるため, \Gamma_{\cyc} だけでなく  \Delta = \gal(K/\mathbb{Q}) の作用も考えることにするのです。

ここで,ガロア群の作用を指標により考えるため,円分指標  \kappa_{\cyc} \colon \Gamma_{\cyc} \to \zp,タイヒミュラー指標  \omega \colon \Delta \to (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times を固定します。また, \Delta は巡回群より, \Delta の指標  \Delta \to (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times \omega^i と書くことができます  (0 \leqq i \leqq p-2)。したがって, \Delta の指標による直和分解によって

 \displaystyle X_{\kinf} = \bigoplus_{i=0}^{p-2} X_{\kinf}^{\omega^i} \tag{5}

と書けることになります。

 X_{\kinf}^{\omega^i} \Lambda_{\cyc, \omega^i} = \Lambda_{\cyc} 加群であり,有限生成ねじれ  \Lambda_\cyc 加群です。 X_{\kinf}^{\omega^i} についての  \Lambda_{\cyc} 加群としての不変量  \lambda_i, \mu_i, \nu_i が得られれば,より精密な類数公式を得ることができます。 \Delta = \gal(K/\mathbb{Q}) についての作用も含めて考えるというのがポイントです。


さて円分岩澤主予想は, \displaystyle X_{\kinf}^{\omega^i} の特性イデアルが,p進L関数を使って表すことができるということを主張します。

定理1(円分岩澤主予想)
任意の奇数  3\leqq i \leqq p-2 に対して,以下の等式が成り立つ:

 \displaystyle \char_{\Lambda_{\cyc}} X_{\kinf}^{\omega^{i}}  = \left( L_p (\omega^{1-i}) \right) \tag{6}

ただし,上式は  \Lambda_{\cyc} のイデアルとしての等式である.

 \omega \colon \Delta \to (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times \to \zp^\times として捉えると, \omega を法  p のディリクレ指標とみなすことができます。したがって, \omega^{1-i} をディリクレ指標とするp進L関数を考えることができます。p進L関数  L_p(\omega^{1-i}) \Lambda_{\cyc} の元なので,右辺は  L_p(\omega^{1-i}) の生成する  \Lambda_{\cyc} の単項イデアルとなります。これが,左辺の特性イデアル(これも単項イデアル)と一致するというわけですね。

円分岩澤主予想は  X_{\kinf}^{\omega^{i}} i奇数のときだけを考えているので,では「 i偶数のときはどうなるのか?」と気になるかもしれません。 2 \leqq i \leqq p-3 なる偶数において, X_{\kinf}^{\omega^{i}} = 0 となるだろう,という予想があります。これが Vandiver予想 です。Vandiver予想は数値計算によって確かめられていて, p < 12,000,000 の範囲で成り立つことが知られていますが,未だに証明はされていません。

3. 岩澤主予想によってわかること

さて,岩澤主予想のステートメントの説明をしてきましたが,このままだとわかったようなわからないような感じですよね。

ここでは,円分岩澤主予想の応用として得られる定理をいくつか紹介したいと思います。まずは,次の定理です。

定理2
 K = \mathbb{Q}(\mu_p) とする. 3 \leqq i \leqq p-2 をみたす任意の奇数  i に対して,
 \# A_{K}^{\omega^i} = \# (\zp / L(0, \omega^{-i})) \tag{7}

が成り立つ.

 K = \mathbb{Q}(\mu_p) のイデアル類群  A_K^{\omega^i} の位数が,L関数の値によって書くことができるというもので,深い定理です。

重要な定理なので証明をしましょう。といいつつ,私も少し自信がないのですが,理解できた範囲で書いてみたいと思います。誤りがあるかもしれませんので,正確な内容を知りたい方は「数論2」の定理10.37の証明と関連する項目を読んでください。

(証明の概略)
簡単に表記するため  X = X_{K_{\infty}^{\cyc}} とおき,また  \Lambda = \Lambda_{\cyc} = \zp[[\Gamma_{\cyc}]] \simeq \zp[[T]] とおく. X^{\omega^i} \Lambda 加群とみて,構造定理を用いて
 X^{\omega^i} \sim{} \Lambda/(f_1^{n_1}) \oplus \cdots \oplus \Lambda/(f_r^{n_r})

とかける.擬同型の定義より

 0 \longrightarrow \mathrm{Ker}\, \Phi \longrightarrow X^{\omega^i} \xrightarrow{\; \Phi \;} \Lambda/(f_1^{n_1}) \oplus \cdots \oplus \Lambda/(f_r^{n_r}) \longrightarrow \mathrm{Coker}\, \Phi \longrightarrow 0

なる完全列が存在する.

 \gamma \Gamma の生成元とすると,

 X^{\omega^i} / (\gamma - 1) X^{\omega^i} \xrightarrow{\; \sim{} \;}  A_{K}^{\omega^i}

であり,また「 i が奇数のとき, X^{\omega^i} は有限生成自由  \zp 加群」という事実から, \Phi は単射となる.よって, \mathrm{Ker}\, \Phi = 0

したがって,次のような完全系列の可換図式が存在する:

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まず,真ん中の行の  (\gamma - 1), T, T_c という準同型であるが,左から「 (\gamma - 1) 倍写像」「 T 倍写像」「 T 倍写像によって  \mathrm{Coker}\, \Phi の上に誘導される写像」である.

また,一番左の縦の列の系列は

 X^{\omega^i} \xrightarrow{\gamma - 1} X^{\omega^i} \longrightarrow X^{\omega^i} / (\gamma - 1)X^{\omega^i} \simeq A_K^{\omega^i}

より得られる.真ん中の縦の列の系列は少しややこしい. \Lambda/(f_i) に着目して考えればわかるかもしれない.

 \Lambda/(f_i) \xrightarrow{\; T \;} \Lambda/(f_i)

の余核は, \Lambda/(f_i) \Lambda/(f_i) T 倍で割った群になるから, T = 0 として考えれば,

 \Lambda/(f_i) \xrightarrow{\; T \;} \Lambda/(f_i) \longrightarrow \zp/(f_i(0)) \longrightarrow 0

が成り立つことがわかる.この直和をとればいい.

そして,一番右の縦の列の系列は

 0 \longrightarrow \mathrm{Ker}\, T_c \longrightarrow \mathrm{Coker}\, \Phi \longrightarrow \mathrm{Coker}\, \Phi \longrightarrow \mathrm{Coker}\, T_c \longrightarrow 0

となる.擬同型の定義から \mathrm{Coker}\, \Phi は有限より,四項関係式から

 \# \mathrm{Ker}\, T_c = \# \mathrm{Coker}\, T_c

が成り立つ.

以上を踏まえて,蛇の補題より,以下の緑色の完全系列が得られる:

f:id:tsujimotter:20171130203811p:plain:w400

よって,

 0 \longrightarrow \mathrm{Ker}\, T_c \xrightarrow{\delta} A_{K}^{\omega^i} \longrightarrow \zp/(f_1(0)^{n_1}) \oplus \cdots \oplus \zp/(f_r(0)^{n_r}) \longrightarrow \mathrm{Coker}\, T_c \longrightarrow 0

が成り立つ.したがって,四項関係式から

 \begin{align} \# A_{K}^{\omega^i} &= \# \left(\zp/(f_1(0)^{n_1}) \oplus \cdots \oplus \zp/(f_r(0)^{n_r}) \right) \\ 
 &= \# \left(\zp/(f_1(0)^{n_1}\cdots f_r(0)^{n_r}) \right) \end{align}

が得られる.

ここで 円分岩澤主予想(定理1) より,

 \mathrm{char}_{\Lambda} (X^{\omega^i}) = (f_1^{n_1} \cdots f_r^{n_r}) = (L_p(\omega^{1-i}))

が成り立つ.したがって,

 \begin{align} \# A_{K}^{\omega^i} &= \# \left(\zp/(f_1(0)^{n_1}\cdots f_r(0)^{n_r}) \right) \\
&= \# \left(\zp/\mathbf{1}(L_p(\omega^{1-i}) \right) \\
&= \# \left(\zp/L(0, \omega^{-i}) \right) \end{align}

が成り立つ.ここで,p進L関数の補間性質  \mathbf{1}(L_p(\omega^{1-i}) ) = L(0, \omega^{-i}) を使った.

以上で目的の式が示された.

結構長かったですね。蛇の補題が便利だなと感じました。また,岩澤主予想が肝心なところで使われることが分かったかと思います。

さて,上の定理から エルブラン・リベの定理 もただちに導くことができます。

系3(エルブラン・リベ)
 K = \mathbb{Q}(\mu_p) とする. 3 \leqq i \leqq p-2 をみたす任意の奇数  i に対して,次は同値である:
(1)  A_{K}^{\omega^i} \neq 0
(2)  i\equiv 1-r \pmod{p-1} をみたす正の整数  r > 0 に対して, \zeta(1-r) の分子が  p で割り切れる

(証明の概略)
 \begin{align} L(0, \omega^{-i}) = \mathbf{1}(L_p(\omega^{1-i}) ) &= \mathbf{1}(L_p(\omega^{r}) ) \\
&\equiv \zeta(1-r) \pmod{p} \end{align}

と,定理2より同値性が言える.


また,定理2は以下のように言い換えることができます。こちらの方がエルブラン・リベよりも深い定理になります。

系4
 K = \mathbb{Q}(\mu_p) とする. 3 \leqq i \leqq p-2 をみたす任意の奇数  i に対し, \newcommand{\ord}{\mathrm{ord}} b_i = \ord_p \, L(0, \omega^{-i}) としたとき,
 \# A_{K}^{\omega^i} = p^{b_i} \tag{8}

が成り立つ.

(系4の証明)
 a p と互いに素な有理数とし  ap^k \in \zp としたとき, \zp のイデアル  ap^k \zp p^k\zp に一致する.したがって, b_i = \ord_p L(0, \omega^{-i}) として
 \zp / L(0, \omega^{-i}) = \zp / p^{b_i} \zp \simeq \mathbb{Z}/p^{b_i} \mathbb{Z}

となる.したがって,位数をとると定理2より系4が導かれる.


エルブラン・リベの定理(系3)は,

 p \mid \# A_K^{\omega^i} \; \Longleftrightarrow \; p \mid L(0, \omega^{-i}) \tag{9}

と主張しています。すなわち「 p がイデアル類群の位数を少なくとも1回割る」ということがわかります。

一方,系4はより深い情報をもっていて,

 \# A_K^{\omega^i} = p^k \;  \Longleftrightarrow \; p^k \mid\mid L(0, \omega^{-i}) \tag{10}

のようにイデアル類群(の  p 部分)の位数を( \Delta の作用付きで),L関数によって完全に特定できるというわけです。すごいですね。


個々の階のようすを個別に調べるのではなく,それらをすべて含んだ  \zp 拡大という非常に大きなタワーを建設することで,そのタワーの個々の階のようすが詳細にわかってしまう,というのが岩澤理論の面白いところかと思います。

補遺:
MathPowerというイベントで「岩澤主予想によって,イデアル類群の構造を完全に特定できる」という旨の発言をしてしまったのですが,厳密に言えば誤りです。岩澤主予想によってわかるのは,あくまで特性イデアルの情報であり,特性イデアルからわかるのは構造定理に関する「位数」の情報です。たとえば構造定理の基底が平方因子を持つかどうかといった情報はわかりません。

イデアル類群の構造をより深く理解するために,特性イデアルの代わりに「Fittingイデアル」を用いた「岩澤主予想の精密化」も知られているそうです。この辺りも理解できたら楽しそうですね。


4. より一般の円分岩澤主予想

先ほどは  K = \mathbb{Q}(\mu_p) として限定的な円分岩澤主予想を論じましたが,ここでは落合先生の本に載っているような,より一般的な場合の定式化を考えましょう。

 (N, p) = 1 なる自然数  N に対して,導手が  Np^e e = 0 または  e = 1)のディリクレ指標  \psi を考えます。この指標の  \mathrm{Ker}\, (\omega \psi^{-1}) に対応する  \mathbb{Q} 上の有限次アーベル拡大体を  K_{\omega \psi^{-1}} とします。この体  K_{\omega \psi^{-1}} 上の円分  \zp 拡大  K_{\omega \psi^{-1}, \infty}^{\cyc} / K_{\omega \psi^{-1}} を考えるのです。

先ほどの例では,導手が  p のディリクレ指標  \omega^{i} を考えていたことに注意。

拡大のようすを図に表すと以下のようになります。

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このような拡大に対して, \Lambda_{\cyc, \psi} 加群  X_{K_{\omega \psi^{-1}, \infty}^{\cyc}} を考えます。定式化のために  \eta 商を定義します。

 M \Delta_{Np} = \gal(\mathbb{Q}(\mu_{Np})/\mathbb{Q} ) の作用を持つ  \zp 加群, \eta \Delta_{Np} の指標とする.
ここで, M_{\eta} = M \otimes_{\zp[ \Delta_{Np} ]} \zp[\eta]  M \eta 商とよぶ.

 M_{\eta} \Delta_{Np} \eta で作用するような, M の最大商加群である.また,自然に  \zp[\eta] 加群の構造をとる.

以上の準備のもと,円分岩澤主予想が以下の通り得られます:

定理5(  (-) 版円分岩澤主予想)
 (N, p) = 1 なる自然数  N,導手が  Np^e e = 0 または  e = 1)で  \psi(-1) = 1 であるディリクレ指標  \psi を考える. K_{\omega \psi^{-1}} \omega \psi^{-1} の核に対応する  \mathbb{Q} 上の有限次アーベル拡大とする.このとき,
 \displaystyle \char_{\cyc, \psi}\left( X_{K_{ \omega \psi^{-1}, \infty }^{\cyc} } \right)_{\omega \psi^{-1}} = \begin{cases} (L_p(\psi) ) & (\psi \neq \mathbf{1}) \\ (\gamma - \kappa_{\cyc}(\gamma) )(L_p(\psi) ) & (\psi = \mathbf{1}) \end{cases} \tag{11}

が成り立つ.

この定理5が,定理1の一般化となっていることを示しましょう。

 \psi(-1) = 1 となる指標を偶指標といいますが,もし  N = 1 として  1 \leqq i \leqq p-2 なる奇数  i に対して  \psi = \omega^{1-i} とすると, \omega^{1-i} は偶指標となり定理5の条件を満たします(逆に  i が偶数だと奇指標になってしまいます)。

また, i = 1 とすると  \omega^{1-1} = \mathbf{1} となり, \psi = \mathbf{1} の条件となってしまうので,ここでは  i \neq 1 とします。

すると, 3 \leqq i \leqq p-2 なる奇数に対して,定理1の結果を導くことができます。 \psi = \omega^{1-i} をそのまま代入すると, K_{\omega \omega^{i-1}} = \mathbb{Q}(\mu_p) となります。したがって,

 \displaystyle \char_{\cyc, \omega^{1-i}}\left( X_{\mathbb{Q}(\mu_p)_{\infty }^{\cyc} } \right)_{\omega^i} = (L_p(\omega^{1-i}) )

が得られます。 i が奇数のとき

 \displaystyle \left( X_{\mathbb{Q}(\mu_p)_{\infty }^{\cyc} } \right)_{\omega^i} = X_{\mathbb{Q}(\mu_p)_{\infty }^{\cyc}}^{\omega^i}

となるため

 \displaystyle \char_{\cyc, \omega^{1-i}} \; X_{\mathbb{Q}(\mu_p)_{\infty }^{\cyc}}^{\omega^i} = (L_p(\omega^{1-i}) )

となって,定理5は定理1を含むことが示されました。

定理1は「導手  p のディリクレ指標」に対する円分岩澤主予想だったわけですが,定理5の方は,これを一般化した「導手  Np^e のディリクレ指標」に対する円分岩澤主予想となっているわけですね。

定理1のほうが「数論2」で紹介されていた岩澤主予想で,定理5は「落合先生の本」で紹介されているものです。2つの本の記述がまるで異なるので,本当に同じものをさしているのか不安だったのですが,対応関係がとれたことで安心できました。一方の本で理解したことを別の本の記述に翻訳して理解できるようになり,まさにロゼッタストーンを手に入れたという気持ちです。


以上は「 (-) 版の円分岩澤主予想」と呼ばれるものです。実は, (-) 版の対にあたる「 (+) 版の円分岩澤主予想」もありますので,紹介しておきましょう。

 (-) 版では  \newcommand{\xminus}{X_{K_{\omega \psi^{-1}, \infty}^{\cyc}} } \xminus が主役でしたが, (+) 版では  \newcommand{\xplus}{\mathfrak{X}_{K_{\psi, \infty}^{\cyc}} } \xplus という新しい加群を考えます。

岩澤類数公式の記事で言及したように, \xminus はイデアル類群に対応する群です。類体論から

 A_{K_{\omega \psi^{-1}, n}^{\cyc}} \simeq \gal(L_{\omega \psi^{-1}, n}^{\cyc}/K_{\omega \psi^{-1}, n}^{\cyc}) \tag{12}

とかける( L_{\omega \psi^{-1}, n}^{\cyc}/K_{\omega \psi^{-1}, n}^{\cyc} は「最大不分岐アーベルpro- p拡大」)ので,右辺の逆極限をとって  \xminus が定義されるのでした。

一方, \xplus では「 p の外不分岐な最大アーベルpro- p拡大  M_{\psi, \infty}^{\cyc}/K_{\psi, \infty}^{\cyc}」を考えます。「 p の外不分岐」とは, p の上にある  K_{\psi, \infty}^{\cyc} 上の素点では分岐は許すが,それ以外の素点では不分岐であるような拡大のことです。このような拡大の中で最大のものを考えます。最大不分岐拡大の類似と思ってもらえればオーケーです。そして,この拡大は不分岐アーベルpro- p拡大よりも大きくなります。このような拡大のガロア群をとって,

 \xplus = \gal(M_{\psi, \infty}^{\cyc}/K_{\psi, \infty}^{\cyc}) \tag{13}

が定義されます。

 \xminus と異なり, \xplus は有限生成ねじれ  \Lambda_{\cyc, \psi} 加群ではない,というのが注意点です。したがって,このままでは特性イデアルが定義できませんが, \psi が偶指標ということから  (\xplus)_{\psi} がねじれ  \Lambda_{\cyc, \psi} 加群となります。

このほか記号の説明は省略しますが(詳細は落合先生の上巻を参照),以下が成り立ちます。

定理6(  (+) 版円分岩澤主予想)
 (N, p) = 1 なる自然数  N,導手が  Np^e e = 0 または  e = 1)で  \psi(-1) = 1 であるディリクレ指標  \psi を考える. K_{\psi} \psi の核に対応する  \mathbb{Q} 上の有限次アーベル拡大とする.このとき,
 \displaystyle \char_{\cyc, \psi} \left(\left( \xplus \right)_{\psi}\right)^{\bullet} \otimes \kappa_{\cyc} = \begin{cases} (L_p(\psi) ) & (\psi \neq \mathbf{1}) \\ (\gamma - \kappa_{\cyc}(\gamma) )(L_p(\psi) ) & (\psi = \mathbf{1}) \end{cases} \tag{14}

が成り立つ.

以上の2つが円分岩澤主予想の定式化となります。

5. 岩澤主予想の証明の方針

さて,ここで気になってくるのが円分岩澤主予想の証明方法だと思います。ここでは,証明の方針だけ紹介したいと思います。

方針を述べるにあたって,まずは  (-) 版 (+) 版 の関係について述べておく必要があります。詳細は述べませんが, \kinf 上の「クンマー・ペアリング」を考えることで, (-) 版 (+) 版 が同値であることが示せます。したがって,どちらか一方を証明すれば良いのです。

また,岩澤主予想はどちらも「 \Lambda_{\cyc} のイデアル」における等号を示すことになります。記法を省略して簡単に書くと

 \char(X)_\psi = (L_p(\psi))

という形の式でした。したがって,

 \char(X)_\psi \subset (L_p(\psi))
 \char(X)_\psi \supset (L_p(\psi))

という2つの包含関係を示す必要があります。

ところがです。「解析的類数公式の原理」という定理があって, \gal(K/\mathbb{Q}) のすべての指標  \psi に対して,上記の包含のいずれか一方が成り立つことを証明できれば,もう一方の包含関係が自動的に示されてしまうのです。

以上から「 (-) 版 (+) 版 のいずれか」そして「イデアルの包含関係のどちらか一方(ただし,すべての指標に対して)」を示せば十分であることがわかります。とても面白いですね。


さて,このように話を整理した上で,岩澤主予想の証明の方法には大きく 2通り の方法が知られています。

一つが,モジュラー的な方法です。これは,Mazur と Wiles によって編み出された方法で,モジュラー形式を経由して証明する方法です。

そう,あの Wiles です。

もともと,エルブラン・リベの定理の「リベによる証明」が,モジュラー形式を経由した証明法でした。Mazur-Wiles はリベの方法を一般化し,岩澤主予想を証明できるレベルまで洗練させたのです。
モジュラー的な方法では, (-) 版の岩澤主予想が得られます。この場合は, \char(X)_\psi \subset (L_p(\psi)) の包含関係が得られます。

もう一つが,オイラー・システム(Euler system)を用いた方法 です。オイラー・システムは Kolyvagin によって発見されましたが,オイラー・システムを用いた岩澤主予想の証明は Rubin によってなされました。

Rubin は Iwasawa 2017 でも講演されていました。

オイラー・システムは,よい条件を持った円分体の単数の元のなす数列のことです。この数列の性質を使ってイデアル類群の大きさをコントロールし,包含関係を示すことができるのです。
オイラー・システムを用いた証明によって, (+) 版の岩澤主予想が得られます。この場合は(面白いことに)逆向きの包含  \char(\mathfrak{X})_\psi \supset (L_p(\psi)) が得られることになります。

6. 歴史的な経緯について

最後に,歴史的な経緯と関連する研究について補足したいと思います。

まず岩澤主予想は,岩澤理論の創始者である岩澤健吉先生の論文(1964年)によって定式化されました。

その後,Mazur-Wilesの論文(1984年)によって  p \neq 2 かつ  p \psi の位数( = [K_\psi \colon \mathbb{Q}] )を割らないというケースにおいて解決されました。その後,Wiles自身によって条件が外され,さらに一般的なケースにおいて岩澤主予想が証明されました(1990年)。本記事では「 \mathbb{Q} 上のアーベル拡大」についてしか考慮していませんが,Wilesの論文では「総実代数体のアーベル拡大」へと一般化されています。この論文では「肥田理論」が用いられているそうです。

ところで,今回紹介したものは「イデアル類群の岩澤主予想」で,左辺にはイデアル類群を考えるものでした。イデアル類群ではない場合の岩澤理論というものも考えられています。

たとえば,Mazurによって「楕円曲線の(GL(2)の)岩澤理論」が定式化されました。楕円曲線の岩澤理論では,イデアル類群の代わりに「セルマー群」が,p進L関数の代わりに「Hasse-Weil L関数のp進L関数」が考えられます。

さらに,近年ではより一般的な岩澤理論も考えられています。こうした岩澤理論においても「基本予想ABC」という予想群があって,そのうち「基本予想C」として岩澤主予想に相当する予想が定式化されます。

ちなみに,楕円曲線の岩澤主予想についてはRohlich-Rubin, Rohlich-Kato, Skinner-Urbanらの研究によって解決されています。しかしながら,より一般的な岩澤理論においては未解決のものも多いそうです。

Kato はあの加藤和也先生です!

以上の通り、岩澤理論は古典的な「イデアル類群の岩澤理論」を超えて広がりを見せており,その多くのケースにおいては岩澤主予想は未解決です。こうした事情もあって「岩澤主予想」と「定理」ではなく「予想」と名が付いて呼ばれているのだろうと(私は)考えています。

余談ですが,楕円曲線の岩澤主予想の証明がなかなか面白いので補足させてください。

楕円曲線の岩澤主予想は,楕円曲線が「虚数乗法を持つ」か「虚数乗法を持たない」かで場合分けされるのですが,虚数乗法を持つケースにおいては,Rohlich-Rubinによって解決されています。そこで,虚数乗法を持たないケースを考えます。

実は,楕円曲線の岩澤主予想においては,解析的類数公式の原理が使えません。したがって,包含関係の両側を示す必要があります。

Rohlich-Katoの方法が,オイラー・システムに基づく方法で  "\supset" の包含関係を示しています。一方で,Skinner-Urbanの方法はモジュラー的な方法で  "\subset" の包含関係を示すことができます。かくして,両側の包含が示され、虚数乗法を持たないケースが解決します。

要するに,楕円曲線の岩澤主予想においては,岩澤主予想の証明が2通りあったことが本質的に重要だったというわけです。面白いですね。

7. おわりに

以上で,岩澤理論の三本柱である「岩澤類数公式」「p進L関数」「岩澤主予想」を紹介することができました。

去年の今頃に「数学カフェ」というイベントの忘年会がありまして,そこで2017年の目標を述べる機会がありました。そのときに私が述べた目標は「Iwasawa2017 に向けて岩澤理論を理解したい」だったのです。個人的な印象としては,目標はある程度達成できたのではないかと思っています。

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当初はなかなか難しいだろうと思っていたのですが,朝に早起きして勉強する「朝岩澤理論」を実行したり,プレゼンの回数を意図的に減らしてインプットに専念したおかげで,それなりのレベルで理解できるようになったと思います。今日のブログ記事は,一年間の成果発表のつもりで書きました。


しかしながら,まだまだ課題は残っています。

一つは,まだ細部をきちんと理解できていないことです。定義を理解しきれていないところもありますし,この記事でもそうでしたが証明もところどころ飛ばしています。また,「モジュラー的な方法」や「オイラー・システムを用いた方法」による岩澤主予想の証明もきちんと追いかけて,tsujimotterのノートブックで解説できるようになりたいと思っています。

もう一つは,私の説明に関してです。あくまで私の個人的な意見ですが「人にわかりやすく解説できてはじめて理解できたといえる」と思っています。ここまで3本ほど岩澤理論の記事を書いていましたが,まだまだ人に伝えられるレベルにありません。自分が理解した範囲をとりあえずまとめた程度にとどまっています。人にわかりやすく伝えるためには,私自身のさらなる理解が必要と考えています。

来年も引き続き岩澤理論を勉強していきたいと思います。もっと高いレベルの理解を目指して。


ところで,数学セミナーという雑誌の1月号(12/12発売)では「岩澤理論」の特集が組まれるらしいのです。なんてこった。

数学セミナー2018年11月号|日本評論社
の次号予告参照。

このニュースを知って,本記事はこの特集が発売される前に書き上げたいと思うようになりました。なぜなら,この特集を読んだ後では,私の理解が更新され,見え方が変わってしまっていると予想されるからです。発売された後で,全然理解していなかったことが明らかになるかもしれません。それはそれで恥ずかしいのですが,それでも今の時点での理解をブログに残しておきたかったのです。きっと書き換えたくなると思うけど,それでいいのだと思っています。


というわけで,長々と発表会に付き合ってくださってありがとうございます。本記事がきっかけで岩澤理論に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

それでは,今日はこの辺で。

参考文献

本記事は,以下の2つの本を主に参考にしながら書きました。

岩澤理論とその展望(上) (岩波数学叢書)

岩澤理論とその展望(上) (岩波数学叢書)

数論 II――岩澤理論と保型形式 (岩波オンデマンドブックス)

数論 II――岩澤理論と保型形式 (岩波オンデマンドブックス)

  • 作者: 黒川信重,栗原将人,斎藤毅
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/02/10
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
  • この商品を含むブログを見る

以下の本も私の理解の役に立ちました。

https://www.meirinkanshoten.com/products/detail/407647