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tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

6xx + xy + yy の形で表せる素数

数学 整数論 保型形式 二次形式

昨日の記事の続きで「二平方定理」について調べている中で,興味深い定理を発見しました。

今日は

「どんな形をした素数が, p = 6x^2+xy+y^2 の形に書けるか」

についてのお話をご紹介します。

前回までのおさらいと今回の目標

簡単におさらいすると,昨日の記事では,

 6n+1 型の素数は  p = x^2+3y^2 の形で表せる」

ことを示し,その前の記事では,

 4n+1 型の素数は  p = x^2+y^2 の形で表せる」

ことを示しました。


一般に,

 ax^2 + bxy + cy^2

の形で表される式のことを「二次形式」といいます。これまでの2つの記事では「特殊な二次形式」で表される素数  p の特徴について考えていたのでした。


この二次形式について, a = 6, b = 1, c = 1 のとき,つまり

 p = 6x^2 + xy + y^2

では,果たしてどうなるでしょうか,というのが今日のテーマです。


ちなみに,この形で表される素数  p は, 1000 以下では次の  26 個です。

 23, 59, 101, 167, 173, 211, 223, 271, 307, 317,
 347, 449, 463, 593, 599, 607, 691, 719, 809, 821,
 829, 853, 877, 883, 991, 997

最初の方だけ確認してみると,

 23 = 6\cdot 2^2 + 2\cdot (-1) + (-1)^2
 59 = 6\cdot 2^2 + 2\cdot (-7) + (-7)^2
 101 = 6\cdot 4^2 + 4\cdot (-5) + (-5)^2

となって,たしかに  6x^2 + xy + y^2 の形で表せていることがわかります。


(昨日までの話と)同様に考えるのであれば,この素数  p an + b の形で書けるかどうか,考えたくなりますね。しかしこれらの素数は,このような形で表すことが出来ないことが知られているそうです。


かといって,まったく法則がないかといえば,そうではありません。

その法則が実に面白いのです!!

保型形式と二次体

まず唐突に,保型形式と呼ばれる特徴を持つ,次の式を考えます。

 \displaystyle f = q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^n)(1-q^{23n}) = \sum_{n=1}^{\infty} a_n q^n

ここで  a_n は,左辺の積を展開したときに現れる  q^n の係数として定義されます。この  a_nフーリエ係数と呼びます。


このフーリエ係数を使うと,先ほどの素数の持つ特徴を,驚くほどきれいな法則として表すことが出来ます。


さぁ,その法則をご覧に入れましょう。

定理:
 23 を除く素数  p に対して,

 a_p = 2 \Longleftrightarrow p = 6x^2 + xy + y^2


なんということでしょう!!!
(驚いてください。笑)


なぜそんなことが起きるのか。「保型形式のフーリエ係数」と「二次形式」がいったいどうして関係があるのか,tsujimotter には検討もつきません。


参考文献によると,虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-23}) の整数環  \mathbb{Z}\left[ \frac{1+\sqrt{-23}}{2}\right] においては,上記にあげた素数  p

 \displaystyle \left(x\frac{1+\sqrt{-23}}{2} + y \right) \left(x\frac{1-\sqrt{-23}}{2} + y \right)

のように分解する,というのがキーのようです。

これを展開すると,

 \displaystyle \left(x\frac{1+\sqrt{-23}}{2} + y \right) \left(x\frac{1-\sqrt{-23}}{2} + y \right) = 6x^2 + xy + y^2

となって,目的の式が得られます。


問題は「二次体が与えられたときに,どのような  p が分解されるのか」という点ですが,これがまさに「類体論」と呼ばれる数学に深く関わってくるのだそうです。

面白そうな匂いがぷんぷんしますね!!

数式処理システムで確認する

とりあえず,上の定理が本当に成立しているかどうか,確認してみたいと思いました。

そのためには, f の式の展開が必要ですが,これがなかなか厄介です。展開するだけで大変なのに,最初に  a_p = 2 となるのが  p = 59 のときなので,少なくとも  59 回は積をとる必要があります。


というわけで,式の展開を自動化したいのですが,自分でプログラムを作るのも面倒です。

そこで,数式処理システムを使いましょう! Maxima の出番です!


実は,Maxima を使うのは,今回がはじめてです。
このためだけにインストールしました!

以前より,以下のブログを見ていつかは触ってみたいなと思っていました。まさかここまで実用的な理由が出来るとは思いませんでしたが。笑Maxima で綴る数学の旅


この Maxima を使うと,数式の展開が簡単に行えます。

たとえば,

 (1-q^n)(1-q^{23n})

を計算したいときは,

(%i1) expand( ((1-q^n)*(1-q^(23*n))) );

のように打ち込むと,

                             24 n    23 n    n
(%o1)                       q     - q     - q  + 1

と帰ってきます。

TeX 形式にすることも出来て,

(%i2) tex(%);
$$q^{24\,n}-q^{23\,n}-q^{n}+1$$
(%o2)                                false

と帰ってきます。これをブログに貼付けると,

 q^{24\,n}-q^{23\,n}-q^{n}+1

となります。ちゃんと展開できていますね。ってか便利ですね!!

ちなみに,"%" は直前に評価した結果を意味する記号です。


さて,本題の式を計算しましょう。

 \displaystyle q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^n)(1-q^{23n})

見るからにややこしいですね。

以下のように,

 \displaystyle q\prod_{k=1}^{n} (1-q^k)(1-q^{23k})

として, n = 100 まで計算しましょう。


まず,多項式を「昇べき順」に並べるように設定します。

powerdisp:true$

次に, \prod の中身を  a_n と定義します。

a[n]:=((1-q^n)*(1-q^(23*n)));

では,式を展開しましょう。まずは,ちょっと怖いので  n = 10 で。

tex( expand( q*product( a[k], k, 1, 10 ) ) );


計算結果はこうなります。

 q-q^2-q^3+q^6+q^8+\cdots

本当は,この先も項は続くのですが, n = 10 までしか計算していないので,正しいのはここまでです。


それで,ですね。
このまま一気に  100 までいきたいところなんですが・・・。

結論から述べると 無理 です。


どうやら, n を増やしていくと,爆発的に項の数が増えていくのですね。すると,それに伴って,展開にかかる時間も増えていくわけです。

tsujimotter の非力な Mac Book Air で試したところ, n = 20 が限界でした。

tex( expand( q*product( a[k], k, 1, 20 ) ) );

残念ながら,得られたのはここまででした。

 q-q^2-q^3+q^6+q^8-q^{13}-q^{16}+\cdots

 n = 23 にすら到達しない・・・。

結局・・・

というわけで,仕方ないので参考文献からコピーしてきます。

以下のようになるそうです。

f:id:tsujimotter:20150225002616p:plain

注目してほしいのは太字部分です。この太字は, p = 6x^2 + xy + y^2 となる素数に対応した項を表しています。

 p = 23 を除くと,すべての  p a_p = 2 となっていますね。逆に,その他の  n に対しては,すべて  a_n \neq 2 となっていることもわかります。

たしかに,上の定理は成り立っていました!

おわりに

いやー,実に興味をそそられるテーマでしたね!

この話の根底には「非可換類体論」と呼ばれる数学が関係しているそうです。今の tsujimotter には,まったく意味が分かりませんが,いつかはきっと理解したいなと強く思いました!

参考文献

以下の文献を発見して tsujimotter は本当に興奮しました。その思いをこの記事にぶつけてみました。

内容はこちらの文献に,完全に依存しています。間違いがあるとすれば,きっと私の理解不足です。。。

「平方数の和で表される素数について」
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/insei/proceeding/2010/ito.pdf

 

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